なぜ、「カード会員誌」はみんな似てしまうのか!?【「オウンドメディア」の話をしよう(4)】
*本記事は「日経BPコンサルティングスタッフルーム」からの寄稿を、SMMLabが一部編集してご紹介しています。
 

前回(第3回:忙しいビジネスパーソンの「弱み」を攻めろ!?)は、オウンドメディアにおける「媒体コンセプト」の作り方をご紹介しました。しかし、世の中には、既に決められた媒体コンセプトで走らせてはいるけれど、いまひとつ読者からの反応が弱く、特集や連載など、誌面のリニューアルで何とか強化したい、という媒体がたくさんあります。むしろ、そうした媒体の方が多数派でしょう。ちなみに、弊社の調査によると、オウンドメディア担当者の悩みワースト3は、「企画が難しい」「反響がない」「効果が検証しにくい」。お客様に振り向いてもらうのは、それほど難しいのです。今回は、企画の具体的な作り方をご紹介しながら、オウンドメディアの編集についてお話します(全5回)。
 


 
なぜ、「カード会員誌」はみんな似てしまうのか!?【「オウンドメディア」の話をしよう(4)】
 
ある日、クレジットカード会社のZ社から受けたご相談は、発行するゴールドカード会員誌のリニューアルについてでした。数多くのカード会社からカード会員誌が発行されているけれど、どれもよく似た内容なので、誌面をリニューアルし、競合する媒体と差別化したい。同時に、読者の閲読率を向上させたい、というのがご依頼の趣旨です。
 
確かに、カード会員誌は、どれもよく似ています。巻頭特集は、たいてい美しい写真を使った海外旅行の記事。それから小特集、コラムや連載、インタビューなどがあって、巻末には通販ページ。多くのカード会員誌が、長年にわたってこうした構成を採用してきました。ただ、それにはちゃんと理由があるのです。
 
 

“収益ツール”でもあるカード会員誌

 
1つには、カードユーザーが実際にカードを利用するシーンで、海外旅行のウェイトがかなり高いこと。この数年、ネット通販をはじめ、日常生活でカード決済をするシーンが増え、利用頻度という点では、相対的に海外旅行の比率は下がっています。しかし、海外旅行は1回の旅でかなりの額を使うことから、利用金額の大きさでは、まだまだ有力な利用シーンであるといいます。もちろん、海外旅行特集はきれいな誌面が作りやすく、コンテンツとして魅力的だということもあります。
 
一方、巻末の通販ページは、カード会社にとっては重要な収益源です。自社のカードを使ってもらいますので、カードの利用促進になりますし、通販会社が誌面を買い切っている場合には、広告掲載料、販売手数料といった収入が期待できます。つまりカード会員誌は、顧客へのサービスツールであると同時に、収益ツールでもあるのです。
 
そもそも、カード会員誌の発行目的は、多くの人が複数枚は持っているカードの中から、自社のカードをメインカードにしてもらうことと、なるべく多くの場面でカードを使ってもらうこと。すなわち、“ブランドロイヤルティの向上”と“利用促進”の2つです。海外旅行と通販の組み合わせは、その目的にマッチさせやすいコンテンツだったのです。
 
ですから、リニューアルに当たっては、定番の枠組みをいったん解体し、媒体コンセプトから新たに構築するのがベターなのですが、Z社のご希望は、巻頭特集の海外旅行と巻末の通販は踏襲したい、とのことでした。つまり媒体の構成要素はそのままにして、リニューアルを実現したいというわけです。
 
なぜ、「カード会員誌」はみんな似てしまうのか!?【「オウンドメディア」の話をしよう(4)】
実は、カード会員誌がよく似て見えるのは、各誌とも特集のコンテンツに海外旅行を採用しているから、ということだけが理由ではありません。海外旅行の記事の作り方そのものにも原因があるのです。カード会員誌の海外旅行特集は、基本的にエリアガイドです。お客様がその土地を訪れた際に、見ておくべき風景、泊まりたいホテル、行きたいレストラン、お勧めの買い物などを、きれいな写真とともに紹介していきます。万人向けのガイドブックと同じく、読者の価値観を意識した“角度”は、あまり付けられていません。タイトルも、「魅惑のタヒチを旅する」といった、エッジの立っていない、漫然としたものになりがち。ガイドのテーマを多少絞り込んでも、「フィレンツェ美食紀行」といった感じでしょうか。
 
 

読まれる誌面のコツは、[サプライズ]と[共感]

 
20年以上も編集者を続けてきての個人的な実感なのですが、読まれるコンテンツ、売れるコンテンツの条件は、読者に[サプライズ]や[共感]を呼び起こすコンテンツであることです。読者に、「へぇ~、そうなんだ!」「知らなかった!」、あるいは「なるほどねぇ」「それいいな」と思ってもらえるようなコンテンツ。これは、ビジネス誌、ライフスタイル誌、あるいは女性誌、趣味誌、等々、雑誌のジャンルを超えてある程度共通して言えることです。テレビやラジオ、あるいはWebやブログなど、他のメディアでも同様でしょう。
 
そして、[サプライズ]や[共感]をもたらす企画は、読者の価値観、関心、ライフスタイル、等々、読者の視点がなければ作れません。Z社の場合、読者のボリュームゾーンは、中高年の男性です。つまりは、中高年男性の“ココロに刺さる”海外旅行特集──それが目指すべきリニューアルの方向性でした。
 
例によって、チームでしつこくブレストを重ね、いくつものプランを検討した結果、私たちがご提案したのは、行き先のエリアを主語に海外旅行特集を作るのではなく、読者のライフシーンや旅行に出る動機を軸に、海外旅行特集を組み立てる、というものでした。
 
その結果、リニューアル創刊号の特集は、
 
「妻をねぎらう記念日旅行」
 
特集の意図を分かっていただくために、タイトル脇には次のような巻頭言を添えました。
 
突然ですが、あなたは奥様を大切にしていますか?
「もちろん」と胸を張る人、「ぐっ」と返答に詰まる人・・・
かまいません、人生も夫婦も色々ですから。
でも、「もちろん」と即答した人ですら、内心「でもなあ」と
一拍の間があくことが多いのではないでしょうか。
「いつか」「そのうち」と楽しげな夢を口に出しながら、
これまで果たせなかった約束の数々。
この際ですから、とっておきの日のお祝いに、
「負い目の貯金」を一掃してしまいましょう。
きっと奥様に喜んでいただける記念日旅行を、
本誌が知恵を絞って考えてみました。
 
いかがですか、思い当たるフシがある方も多いのではないでしょうか。このリニューアルの結果、読者カードの返りは5倍以上になりました。ちなみに、前回に引き続き、今回の事例でも「家族への負い目」がキーになっていますが、これはリニューアル創刊号だけですので、念のため。テーマは、「孫とはしゃぐ旅」「やっぱり印象派が好き」「夫婦の冒険」「初めての大リーグ観戦」「親孝行旅行」etc、ライフシーンや旅の目的に沿って多彩に広がっていきました。
 
 
次回は、企業の“顔”をどう見せていくかについて、お話します。
 
 
 


 
ソーシャルメディアが成熟期を迎え、企業のマーケティングでは今後、より「コンテンツ」が重視されるようになると考えられます。
そこでSMMLabでは、日経BP社の各種メディア編集部出身者を中心に運営されているコンテンツメディア『日経BPコンサルティング スタッフルーム』から、コンテンツマーケティングに関する有益な記事をピックアップしてご紹介することにいたしました。コンテンツ制作のプロによる専門性の高い情報を、ぜひご参考ください。
 
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日経BPコンサルティングは、企業のコミュニケーション活動をサポートする会社です。「調査・分析力」と「編集力」をクルマの両輪とし、それぞれ<お客様を知る><お客様に伝える>ことのプロフェショナルたちが、クライアント企業のために幅広い活動を展開しています。
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日経BPコンサルティングスタッフルーム
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日経BPコンサルティング公式サイト
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<ライター紹介>
能勢 剛氏能勢 剛
日経BPコンサルティング 取締役・企画出版本部長
「日経トレンディ」「日経おとなのOFF」など、市販3誌の編集長を経て現職。
趣味は、自転車、カヌー、パラグライダーなど、乗れるものは何でも。好物は、ウイスキー、ワイン、日本酒、ビール、紹興酒など、アルコールの入っているものなら何でも。
 



オウンドメディアのソーシャル化やコンテンツ戦略など、
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