中国EC市場で大きな影響力を持つネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」。中国への越境ECに取り組む日本企業は、「ワンホン」をどのように活用するべきなのか。中国SNS最大手のWeibo(ウェイボー)の王高飛CEOをはじめ、日中のマーケティング業界のキーマンが一堂に会し、「ワンホン」の可能性をテーマに講演やディスカッションを行いました。業界内外から注目を集めたマーケティングイベント「Internet Celebrity Summit 2016」をレポートします。

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「ワンホン」をテーマとしたマーケティングイベント

10月28日、ソーシャル・メディア・マーケティング支援を行うアライドアーキテクツと、中国のデジタルマーケティング支援大手のIMS新媒体商業集団が共同で、中国ECにおける「網紅(ワンホン)」の可能性をテーマとしたイベント「Internet Celebrity Summit 2016」をウェスティンホテル東京で開催しました。
「ワンホン」とは「Internet Celebrity」の意味で、中国におけるインターネット・インフルエンサーを表す通称。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で数万〜100万人以上のフォロワーを抱える「ワンホン」は、中国の消費のトレンドを生み出す存在として急速に影響力を強めています。
イベントでは、中国最大のSNS「Weibo」の王高飛CEOや、IMS社の李檬CEOらが、「ワンホン」を活用したインフルエンサー・マーケティングの現状と将来性を解説。また、「ワンホン」を活用して成果を上げているコーセーの事業責任者らによるパネルディスカッションや、日中の人気インフルエンサーによる対談、「ワンホン」によるライブ配信の実演など、盛りだくさんの内容でした。

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当日のイベントプログラム。日中のインフルエンサー・マーケティングのキーマンが一堂に会し、トークセッションやデモンストレーションを行った


 
当日は中国から約100人が来日したほか、会場には中国進出を検討する日本企業の関係者ら約200人が参集。「ワンホン」について本格的に取り上げた国内初のイベントとあって、業界内外から注目を集めました。
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当日は300人以上は参加した


 

「ワンホン」は中国市場攻略の鍵になる アライドアーキテクツ代表・中村壮秀がネットインフルエンサーの可能性を解説

イベントの冒頭、アライドアーキテクツ代表の中村が登壇し、中国における「ワンホン」の影響力について事例を交えて解説しました。

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「ワンホン」の影響力を解説するアライドアーキクツ・中村(代表)


 
中国で強い影響力を持つ「ワンホン」である「Papi醤」のSNSの広告枠が、約3億7000万円で落札されたことや、化粧品メーカーのメイベリンが「ワンホン」を動画に起用し、口紅を2時間で1万本以上販売した事例も紹介。「ワンホン」の活用が進んでいる韓国では、現代百貨店が「ワンホン」を毎月店頭に招いて中国人観光客の売り上げを倍増させたり、シャンプーブランド「呂」が「ワンホン」をモニターに起用して売り上げを飛躍的に伸ばしたりと、いくつもの成功事例が出てきていることも説明しました。
 
中国人観光客の増加に伴い、中国の消費者の日本製品に対する関心が高まっていることに触れ、「これから日本と中国の距離は、もっと近づいていく。日中の架け橋になるのが『ワンホン』だと思う」と話し、「ワンホン」が越境ECに果たす役割に期待を示しました。
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日本から中国への越境ECの市場規模は年々拡大。「ワンホン」は日本の企業と中国の消費者をつなぐ

データ参照元: 平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 平成 27 年5月 経済産業省

インフルエンサー育成企画「VstarProject」に期待 中国最大のSNS「Weibo」・王高飛CEOが講演に登壇

続いて、中国最大のSNS「Weibo」の王高飛CEOが基調講演を行いました。王CEOが日本で講演を行うことは稀で、貴重な機会だったため、参加者は熱心に耳を傾けていました。

中国最大のSNS「Weibo」の王高飛CEO


 
王CEOは、Weiboの月間アクティブユーザー数が今年6月時点で8億人に達したことに言及し、「『Weibo』は『ワンホン』が活躍する最も有力なプラットフォームになっている」と強調しました。Weiboのユーザーは8〜30歳が中心で、トレンドへの感度が高いことなどに触れた上で、「WeiboはTwitterとFacebookを足したような存在と言える」と話すなど、中国におけるWeiboの影響力に自信を示しました。
さらに、アライドアーキテクツとIMSが共同で立ち上げたインフルエンサー育成企画「Vstar Project(ブイスタープロジェクト)」にも言及。「インフルエンサーにとって素晴らしい時代が訪れた。インフルエンサーの活躍を支援する『Vstar Project』に、多くの企業が参加してほしい」と呼びかけました。
王CEOは最後に、「日本のインフルエンサーは中国でも活躍してほしい」と激励したほか、「来場した皆様にとって、本日のイベントが(「ワンホン」を活用する)良いきっかけであってほしい」と話し、講演を締めくくりました。
 

「ワンホン」は「アリババ」になる可能性を秘めている インフルエンサー・マーケティング支援を行うIMS社の李檬CEOが講演

続いて登壇したのは、「Weibo」上のインフルエンサー・マーケティング・プラットフォーム「WEIQ(ウェイキュー)」を提供しているIMS社の李檬CEO。「ワンホン」の関連市場の現状や将来性について解説しました。

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IMS新媒体商業集団の李檬CEO


 

ワンホン関連市場は約9000億円

李檬CEOは、スマートフォンやSNSの発達によって「ワンホン」という新しい職業が生まれ、多くの企業が「ワンホン」をマーケティングに活用したり、関連産業に投資したりしていることを説明。「ワンホン」関連の市場規模は580億元(約9000億円)に達していることを紹介しました。

「ワンホン」関連の市場規模は年間580億元(約9000億円)

「ワンホン」関連の市場規模は年間580億元(約9000億円)


 
李CEOは日本の企業による「ワンホン」の活用事例も紹介。天猫国際に出店している日本のマタニティーウェア・メーカーが、インフルエンサー・マーケティングを行うことで売り上げを伸ばした方法を解説したほか、神奈川県内の化粧品メーカーが、170万人のフォロワーを抱える「ワンホン」を自社に招き、製品を体験した上で感想を投稿してもらった活用事例も紹介。その化粧品メーカーが中国での認知拡大に成功したことを挙げ、「多額の広告費をかけられない企業でも、『ワンホン』を活用すれば中国で知名度を高められる」と説明しました。
 
インフルエンサー・マーケティングを行うことで売り上げを伸ばした事例を紹介した

インフルエンサー・マーケティングを行うことで売り上げを伸ばした事例を紹介した

今後3年で市場は3倍以上

李CEOは、中国における「ワンホン」の活躍の場は、広告や生放送、ECなどの分野で、さらに拡大するとの見通しを示した上で、「ワンホン」のトレーニングなども含む関連産業の市場規模は今後3年間で2000億元(約3兆2000億円)に拡大するとの予測を披露しました。
さらに、多額の収入を得る「ワンホン」が登場していることに触れ、「今後10年で、タレントなどが『ワンホン』の役割を担い、『ワンホン』もタレントになっていく」と予想。「ワンホン」の将来性について、「15年前、アリババがこれほど大きく成長すると予想した人は少なかった。『ワンホン』の将来性を過小評価することは、15年前のアリババを見くびるようなもの」と、独特の言い回しで「ワンホン」活用の重要性を訴えかけました。
「ワンホン」を活用する際は、IMS社が提供しているインフルエンサー・マーケティング・プラットフォーム「WEIQ」などを利用することで、「ワンホン」のフォロワーの購買行動を分析することが可能となり、それをビッグデータとしてマーケティングに生かせることも説明しました。
 

人気のSNS動画を作る秘訣とは 日中のトップインフルエンサーが語った

続いて、日中のトップインフルエンサー2人が「人気動画を作る秘訣」をテーマに対談しました。登壇したのは、中国の大学生、マーク・マリックさんと、日本でユーチューバーとして活躍中のバイリンガール・ちかさん。2人は動画制作の経験をもとにSNSで拡散されやすい動画の特徴などを語りました。モデレーターはSMMLabの編集長、アライドアーキテクツ・藤田和重が務めました。

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左からアライドアーキテクツ(SMMLab)/藤田、バイリンガール・ちか氏、マーク・マリック氏


モデレーターの藤田は、英会話動画を投稿しているバイリンガール・ちかさんに「楽しく英語を学べる動画を作るコツは?」と質問。バイリンガール・ちかさんは、「視聴者が、英語を友達から教わっているような感覚を抱くように、フォロワーとの親近感を大切にしている」と説明しました。
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バイリンガール・ちか氏。会社員だった2011年、英会話を楽しく学べる動画をYouTubeに投稿して人気に。現在はユーチューバーとして、さまざまな企業とのタイアップ動画も投稿している。チャンネル登録数は60万人以上


続いて、「中国で人気動画を作るポイント」をマーク・マリックさんに質問。マーク・マリックさんは、次のように答えました。
「多くのユーザーは、ユーモアのある動画を求めている。仕事や学校から帰宅して疲れているときに、説教くさい動画は見たくない。科学技術のような難しい内容も、あまり好まれないと思う。日常生活から少し離れた題材に、ユーモアを加えて動画を作れば中国で人気が出るはず」
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マーク・マリックさん。2016年1月に投稿した「さまざまな国籍の人が英語を話す形態模写」の動画が中国で爆発的な人気を呼んだ。その後も動画を投稿し、約10カ月で150万人以上のフォロワーを獲得。現在は大学3年生で、プロの「ワンホン」を目指している


 
企業がタイアップ動画を作る際の注意点として、バイリンガール・ちかさんは、「インフルエンサーの個性を重視すべき」と指摘。その理由を次のように説明しました。
「テレビCMのように企業側のメッセージを一方的に伝える動画は視聴者から嫌われる。フォロワーは、インフルエンサーのキャラクターやリアルな姿に好意を持っているのだから、それぞれのインフルエンサーの個性を生かさないと、動画を見てもらえない」
バイリンガール・ちかさんの意見にマーク・マリックさんも同調。藤田氏は、「タイアップを依頼する企業は、インフルエンサーと良好なパートナーシップを組むことが大事だと、二人の話からよくわかった」と感想を述べ、対談を締めくくりました。
 

コーセー、セレブ対象のクチコミ戦略で成果 日中のマーケティングのキーマンがディスカッション

続いて、「中国越境&インバウンドマーケティングにおけるワンホン活用の重要性」と題して、日中のインフルエンサー・マーケティングのキーマン5人によるパネルディスカッションを実施。パネラーは、Weiboのインターナショナル事業のトップを務める新浪微博国際の蘇珍妮氏、Weiboに出資している新浪公司の謝寧氏、IMSの李檬CEO、コーセー・国際事業部長の小林正典取締役、電通の山本暁野シニアアカウントマネージャーの5人。モデレーターはアライドアーキテクツの中村壮秀が務めました。

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左から中村、蘇珍妮氏、謝寧氏、李檬氏、山本暁野氏、小林正典氏


 
コーセーの小林正典取締役は、スキンケアブランド「コスメデコルテ」のマーケティングのために2011年から中国の富裕層向けに商品説明会などを行い、クチコミの拡散に取り組んできたことを説明。同製品の売り上げが伸びていることなどを挙げ、中華圏でのクチコミマーケティングの重要性を実感していると話しました。
自社に合ったインフルエンサーを探すコツを問われると、小林取締役は、「インフルエンサー探しは宝くじのようなものだと思う。狙って当てられるものではないが、買わないと当たらない。いろいろなインフルエンサーを起用し、どの動画がヒットするのか探っていくことも大切だと思う」と、実体験に即した感想を述べました。
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コーセー・国際事業部長の小林正典取締役


 

<その他の主なテーマと回答>

【質問】中国の消費者にとって「購買の決め手」はなにか?
「決め手はクチコミと利便性。SNSで商品のクチコミを収集し、利便性の高いオンラインショップで買い物をする消費者が増えている」(蘇珍妮氏)
「中国の消費者を購買力で分類すると、5〜6のレイヤーがある。顧客のターゲットや自社のポジショニングを明確化することが必要」(IMS・李檬氏)
 
【質問】Weiboでは、どのようなコンテンツが人気になりやすいか?
「フォーマットは動画とライブ配信が人気。動画は説得力があり、嘘がつけない。生身の人間が、何かを実際に体験し、リアルな感想や感情を伝えると人気になりやすい。堅苦しい動画はウケが悪い」(蘇珍妮氏)

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新浪微博国際の蘇珍妮氏


「流行を敏感にとらえ、『消費者が何を求めているか』を理解してコンテンツを作るべき。企業の言いたいことを優先してはいけいけない。SNSのコンテンツ消費は娯楽化しており、理性的ではない動画が人気になることもある」(IMS・李檬氏)
「インフルエンサーの特徴や作風をよく理解することが重要。投稿後は動画がどのように拡散され、ユーザーから評価されたかを分析するとともに、インフルエンサーだけに頼らず、多面的なマーケティングを行うことが必要だ」(電通・山本暁野氏)
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電通・山本暁野氏


 
【質問】なぜ中国では「ワンホン」に投資が集まっているのか?
「個人が強い影響力を持つ時代になり、『ワンホン』が投資対象になった。多くのフォロワーを抱えている『ワンホン』には高い価値がある。影響力があれば自ら商品やサービスを作ることもできる。ワンホンの価値は今後、広がっていく」(新浪公司・謝寧氏)
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新浪公司・謝寧氏


 
パネルディスカッションの最中、IMSの李檬CEOは、「日本には素晴らしい伝統や文化、製品がある。それを中国に売っていく方法を確立できれば、日本の企業は成功できるはず」と話し、日本企業による中国進出に期待感をにじませました。
パネルディスカッションの最後に中村より「中国市場はSNSやスマートフォンの普及に伴い大きな変化が起きている。日本の企業は、この変化をパワーに変えることができるはず」と話し、パネルディスカッションを締めくくりました。
 

日本人「ワンホン」の育成条件とは 「吉田正樹事務所」の吉田正樹社長が解説

第1部の最後は、ユーチューバーが多く在籍するタレント事務所「吉田正樹事務所」の吉田正樹社長が、日中のインターネット・エンターテインメントコンテンツに必要な要素などを解説しました。吉田氏は、SNS動画の豊富な制作実績を踏まえ、成功する動画インフルエンサーの条件について、次の2点を挙げました。
(1)個性
多くの説明を必要とせず、ユーザーが直感的に理解できるキャラクターを持っていること。個性や価値観が明確で、動画によって何を表現したいかというサインが明確である必要がある。
(2)コミュニケーション力
インターネット動画は、映画やテレビと比べてユーザーとの距離が圧倒的に近い。そのため、ユーザーが求めるものへの対応力、スピード感が求められる。動画のプロデュースやコンテンツの演出を行う専門家と連携しながら、動画に落とし込んでいくことが重要。

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吉田正樹社長。フジテレビで番組制作に携わった後、「吉田正樹事務所」を設立して代表に就任。芸能プロダクション「ワタナベエンターテインメント」の会長も務めている。


吉田氏は、日本人の「ワンホン」を育てるアプローチとして、「すでに日本で人気のタレントがインフルエンサーとして活動する」「現時点では知名度は低いが、インターネットの力を使って有名になる」の2つのパターンがあると指摘。前者のインフルエンサー候補として同事務所の俳優、志尊淳さんを紹介し、後者のインフルエンサー候補として、中国語をネイティブのように話す樋口亜希さんを紹介しました。吉田社長は、「説明不要の個性を持った人材が、SNSを活用してダイレクトにユーザーとつながることで、有名で影響力があるポジションを作っていくことが成功の鍵になる」と講演をまとめ、降壇しました。
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志尊淳さん(中央)と樋口亜希さん(右)


 
以上で「Internet Celebrity Summit 2016」の第1部が終了。日中のマーケティングのキーマンによる講演やトークセッションは、「ワンホン」の可能性や活用方法を学ぶ貴重な機会となりました。
続く第2部では、日中の人気インフルエンサーがトークセッションやデモンステレーションを行い、人気動画の作り方やインフルエンサー・マーケティングのポイントを解説。企業が「ワンホン」を選ぶ際のポイントなど、より実務的な内容も語られました。<後編に続く>
 
記事構成・執筆:渡部 和章
ライトプロ株式会社
 


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