新型コロナウイルスの影響により、生活者の環境・行動には様々な変化が生まれています。
企業にとっても、新規顧客との接点が限定されている状況下において、事業を継続していく上で「LTV向上」は今まで以上に大きな鍵となっています。そして、そのための「CRM施策」はこれから更に重要性を増していくことでしょう。
アライドアーキテクツでは、そんなコロナ禍でより重要になる「これからのCRM」とは?をテーマに、オンラインセミナーを実施。エーザイ、カゴメ、NTTドコモという各業界の大手3社をお迎えし、シンクロ西井氏をモデレーターにディスカッションが行われました。
今回はこのセミナーのレポートを前後編の2回に分けてお届けします。
前半では各社にとって、CRM施策がどのような意義をもつのかをお話いただきました。
モデレーター
・株式会社シンクロ 代表取締役CEO 西井 敏恭氏
パネリスト(五十音順)
・エーザイ株式会社 コンシューマーhhc事業部トラスト本部 ライフタイムパートナー部マネージャー 佐藤 友昭氏
・株式会社NTTドコモ コンシューマビジネス推進部サービス戦略担当課長/シニアプロフェッショナル 長谷川 誠氏
・カゴメ株式会社 マーケティング本部 食品企画部 商品企画グループ主任 原 浩晃氏
今、CRMへの関心が高まっているのはなぜか?
西井氏:本日は、前回ご好評だったEC×デジマ談義の2回目ということで、コロナ禍でより重要となるであろう「これからのCRM」とは?をテーマに議論していきたいと思います。
私は今回モデレーターを務めます、株式会社シンクロの西井と申します。現在は色々な企業さんのお手伝いをさせいただきながら、私自身もオイシックス・ラ・大地という会社でマーケティング業務にあたっています。どうぞよろしくお願いします。
では、ご登壇のみなさまに自己紹介をお願いしたいと思います。まずは佐藤さん、お願いします。
佐藤氏:エーザイ株式会社の佐藤と申します。私は2011年の新卒入社で、最初はコンビニチャネルでの営業からスタートしました。弊社コンシューマーhhc事業部は「チョコラBB」など、いわゆる肌荒れ、口内炎の症状緩和を効能にもつ一般用医薬品をメインに販売していますが、実は2010年から健康食品(サプリメント)の事業も展開しています。2015年より、ダイレクト通販事業の部署に異動し、現在はそちらの全体統括などを行なっております。本日はよろしくお願いします。
西井氏:有り難うございます。では次に、長谷川さんよろしくお願いします。
長谷川氏:株式会社NTTドコモの長谷川と申します。本日はよろしくお願いします。
ドコモというと通信事業のイメージが強いと思いますが、実はその他にも様々な事業を行っています。その中に、電子書籍サービスのdマガジンや、動画配信サービスのdTVといったものがあり、私が所属している部署では、それら20種類あるサービスを全て束ねたdマーケットの全体戦略と、ポータルサイトの運用を行なっています。このdマーケットのポータルサイトは、現在1000万MAUを突破し、順調にその数を伸ばしています。我々はこのMAUを伸ばすためのUIの磨き込み・集客強化等の施策を、CRMを駆使して行なっておりますので、本日はその辺りをお話できればなと思っております。
西井氏:有り難うございます。では最後に原さんよろしくお願いします。
原氏:カゴメ株式会社の原でございます。本日は宜しくお願いいたします。私は2002年に入社し、新規の販売チャネル開拓を行う営業を11年経験しました。そこから昨年10月まで7年は通販事業部に在籍しておりました。通販事業の業務は大きく分けて7つの業務領域に分けられますが、商品開発を除く6つの業務領域に従事してきました。現在は食品企画部にて、店販流通の商品開発に携わっています。弊社の通販事業で扱う商品のメインターゲットは60代となりますので、CRM施策もオフラインのものがメインになります。本日はそのあたりを中心にお話できればと思います。
(右上)株式会社NTTドコモ コンシューマビジネス推進部サービス戦略担当課長/シニアプロフェッショナル 長谷川 誠氏
(左下)カゴメ株式会社 マーケティング本部 食品企画部 商品企画グループ主任 原 浩晃氏
(右下)エーザイ株式会社 コンシューマーhhc事業部トラスト本部 ライフタイムパートナー部マネージャー 佐藤 友昭氏
西井氏:有難うございます。では、ディスカッションに移る前に、今回なぜCRMをテーマにしたのかを少しお話したいなと思います。まず第一に、現在CRMに関する相談が増えているというのが、私の実感としてあります。これはおそらく、デジタルマーケティングでは広告施策から取り組む企業さんが多く、これまでCRM領域にあまり手をつけてなかった企業さんからの相談が増えてきているからではないかと理解しています。
さらに、新型コロナウイルスの影響もあると思います。例えば、この新型コロナウイルスの世界的流行が与えた広告宣伝費への影響を調べたアンケートでは、約6割の企業が昨年の同時期と比較してこの4月の広告宣伝費が減少していると回答しています。また、減少した企業のうち実に3割の企業が、全ての広告活動を停止したと答えています。
西井氏:広告媒体さんからも、広告の出稿状況は良くないという話を多く聞きます。逆に、今広告を出稿している企業さんはCPCがかなり安く出せている状況で、その点からも広告出稿を控えている企業さんが多い印象です。このあたりみなさんいかがでしょうか?
佐藤氏:そうですね。弊社も全社的にみると広告費は減っています。特に弊社の場合、除菌スプレーなど現在通常時よりも需要が高まっている商品もあり、これらの商品の広告出稿を控えている影響もあります。一方で通販事業に関しては、ダイレクトにお客さんに商品をお届けできるという点で、需要は非常に高まっており、広告費は拡大傾向にあります。
西井氏:ありがとうございます。長谷川さんはいかがですか?
長谷川氏:弊社も減らしています。まず弊社では全社の方針で、社会的責任として通信を途切らせてはいけないというものがあります。もちろんドコモショップの営業時間短縮に伴うWEB相談窓口のご案内などのテレビCMは行っています。一方で、新規顧客獲得系の広告などは、今はその時期ではないという雰囲気があります。そういった意味で全体として広告出稿は減っていますね。
西井氏:なるほど。原さんはいかがですか?
原氏:企業全体では多少減少しており、特に食育イベントなどオフライン施策の中止が影響しています。ただ通販事業に限ると少し増加しているという状況です。その背景としては、生活者の健康意識の高まりと、巣篭もり生活によるメディア接触機会の増加により、獲得効率が改善しているためだと考えています。一方で、先行き不安など影響もあり定期顧客の離脱が増えている印象です。なので結果的に広告投資効果(ROAS)は悪化傾向であり、まさにCRM施策の重要性を感じている状況です。
西井氏:なるほど。もちろん業種によって違いはあると思いますが、やはりこうした状況の中で広告出稿費を減らしている会社さんは多いのかなと思います。また、原さんがおっしゃったように、顧客の意識変化によって、CRMの重要性を感じている企業さんも多いのかもしれません。本日もたくさんの方にセミナーにご参加いただいていますし、CRM施策の関心が高まっているということで、今回はCRMをテーマに議論をしていきたいと思います。
事業成長に伴い、CRM施策の優先度が上昇
西井氏:では早速最初のテーマです。1つ目は「CRMはより重要になった?CRMへの向き合い方」。まずこのCRMの重要性についてみなさんがどう考えているのか、今後のCRMに対する向き合い方をどう捉えているのかという話をお聞きしたいと思います。最初に佐藤さん、お願いします。
佐藤氏:はい。弊社の場合、CRMに対する捉え方がこの5年で変化しましたので、過去と現在の変化について話したいと思います。まず、私が通販事業に異動した2015年、弊社事業部内では、商品と一緒にお送りする同梱物を指してCRMと呼んでいました。そして、このCRM施策については、そもそもお客様に読んでもらえないのでは?という意識が強く、CRM不要論がありました。実際に、何種類か同梱物を作ったこともあったのですが、あまり効果が見えなかったという背景もあります。
また、ちょうど2015年は、売上実績が低迷した時期でもありました。そのため、第一優先が新規獲得施策になっており、その次に物流の改善、基幹システムの改善などの施策が優先され、CRMは優先順位的には末端にある状態でした。そこからこの5年をかけて少しずつCRMの重要性を理解し、意識を変えてきたところです。
西井氏:意識の変化はなぜ起きたのでしょうか?
佐藤氏:これには、運やタイミングもありました。弊社では、2015年から生活習慣領域の商品シリーズの展開を始め、このシリーズが好評で新規獲得が順調に進み、実績が伸びました。このタイミングで、新規獲得用の広告予算の一部をCRMの構築に回しまして、CRMが不要なのか再度確認することができました。施策がうまくいき、実績が伸びたので、現在はCRM施策の優先順位があがり、施策幅も広げていこうという意識になっています。
西井氏:有難うございます。ちなみにこの5年間は、事業の大きさの以外で何か変化を感じることはありますか?
佐藤氏:弊社の場合、デジタルシフトという観点で言うと、新規施策はまだ取り組めているのですが、CRMはオフラインに特化している状況があります。この課題解決のため、広告以外の新しい施策への取り組みや、CRM領域のデジタルシフトの必要性は感じています。
西井氏:カゴメさんはいかがでしょうか?
原氏:我々がCRMの重要性を考えるようになったのは2017年頃です。その頃まで、弊社の通販事業は順調に成長していました。ただ同時期、今後もその成長を続けられるのかという点で様々なリスクを感じていました。
まず、物流費や商品原価の値上がりによるコストの上昇があります。そして、我々のこだわりである国産原料の確保が難しくなったこと。さらに、商品生産コスト上昇に伴う広告費の削減もありました。また新規獲得広告の効率が悪化したことに加え、お客様に配送料の一部負担をお願いすることにしたために、この時期一気に定期離脱が増加していました。
原氏:こうしたリスクがある状況下で業務の優先順位をつけるべく、我々は4象限に分けて施策の優先度を整理しました。
まず重要度と緊急度ともに高いのは、事業成長と利益に直結する獲得効率の改善と事業コストの削減です。また「国産原料の確保」も緊急度が高い施策でした。ただこれは商品が売れる見通しがないと原料が余りますので重要度は少し下がる認識でした。さらに緊急度は少し下がりますが、重要度が高いと感じていたのは、既存商品を機能性表示化し、バリューアップしていく施策や、新規商品開発など中長期視点で取り組む施策です。では、CRM施策はどこにあったのかというと、エーザイさんと同様に、この時我々には重要性については考えながらも、まだ優先順位が低い施策という認識でした。
西井氏:CRM施策の優先度が上がってきたのは具体的にはどういった背景からでしょうか?
原氏:新規の獲得効率の更なる悪化が予測されたことです。事業の今後の成長のためには、新規獲得依存ではなく、これまであまり着手してこなかったCRM、LTVアップが重要だと考えるようになりました。時期としては、2018年ごろです。そこからCRM施策は、年々緊急性も伴うものになり、現在は重要性・緊急性ともに高い施策になっています。
認知から定着・ファン化まで。CRMはマーケティングそのもの
西井氏:続いてドコモさんはいかがでしょうか?
長谷川氏:はい。CRM施策自体は、我々は2014年頃から継続して取り組んでいます。今日はその取り組みについて大まかにまとめた図をもってきました。
長谷川氏:まず、左側にあるのはダブルファネルで、新規ユーザー獲得から、リピート促進とファン化までをどうつなげるのかを考えたものです。
そして、右側はdマーケットなりのロイヤルユーザー育成のステップと、その施策例です。育成の第一段階は、未認知の人たちをポータルに誘導し、コンテンツに触れてもらうことです。そこから、1ストア、どこかのサービスの利用を促します。次に、複数のサービスの利用促進。そして利用を定着化させ、ファンになってもらい、dマーケットの各種サービスについて発信してもらえる状態にもっていきたいと考えています。
西井氏:ロイヤルユーザー育成施策の目的はどうお考えですか?
長谷川氏:我々がこうした取り組みを重視するのは、サービスのクロスユースを通してLTVをあげる目的があります。LTV向上への意識はずっと持っているものなので、今回の新型コロナウイルスの影響で芽生えたというより、重要性がより増したイメージです。
西井氏:訪問してからファンになるまでのこの育成ステップ全体がCRMだというイメージになるのでしょうか?
長谷川氏:はい。CRM≒マーケティングという感覚が近いかなと思います。
西井氏:もう広告はマーケティングじゃないと。
長谷川氏:いえ、広告施策をはじめ、新規ユーザーの訪問促すところも含めてCRMだと思っています。認知獲得から定着し、発信してもらえるところまで全てがマーケティングであり、CRMであるという捉え方です。一番広い意味で「CRM」を定義しているのかなと思います。
西井氏:なるほど。佐藤さんはいかがですか?
佐藤氏:我々もCRMの定義では長谷川さんのおっしゃる通りだと思います。また、健康食品としてどうマネタイズしていくかという点では、購入を継続してもらえる関係構築が重要だと考えています。現在は、そのための「ファン化施策」をどう進めていくのか、少しずつチャレンジしているところです。
西井氏:有難うございます。原さんはいかがでしょうか?
原氏:領域でいうとお二方の言う通り、訪問してからその後まで全てを含むと認識しています。そして、この範囲でCRM施策を行うには、優良見込み顧客を探すこと、ターゲット視点でコミュニケーションを構築すること、効果を測定してPDCAを回すこと、この3つが重要なポイントになると思っています。
長谷川氏:原さんがおっしゃるCRMで重要なポイントは、我々がCRM施策で重要だと考えていることにとても近いです。
長谷川氏:我々の場合は20種類のサービスを束ねていますので、クロスユースしてくれるユーザーをロイヤルユーザーと定義し、施策のゴールに置いています。CRM施策ではまず、こうしたゴールをきちんと定義することが大切です。
また、そのための導線設計やクロスユース促進を目的としたコンテンツやコンテキストの拡充も重要です。さらにクロスユースを促進するにはユーザーを分解し、適切なターゲットに適切なコミュニケーションを出し分けなくてはいけません。そして施策のPDCAを回していくため、最適な中間指標を設定していく必要があります。
最適なCRM施策のカギを握るセグメンテーションとは?
西井氏:ちなみに、「ユーザーを分解して最適なコミュニケーションの出し分けを行なっている」とのことなのですが、みなさんどのようにユーザーの行動をセグメントしているのでしょうか?
長谷川氏:我々は20個あるサービスの利用データを横断して把握し、その状態でセグメントしています。例えば、お客さまごとのサービスの利用状況や、カゴ落ちしたことがあるか否かなどもわかります。こうしたデータを活用し、お客様のサービス利用状態に合わせたコミュニケーションで、クロスユース促進や休眠顧客の掘り起こしを実施しています。
西井氏:原さんはいかがですか?
原氏:我々の事業はリピート通販で、単品の定期購入による売上が約8割を占めています。そのため行動セグメントも、定期購入を継続しているのかやめたのか、ここをひたすら追いかけています。定期購入のお客様がいかに続けてくれるかということにフォーカスし、やめた理由や、続けられない理由などを聞いていくことに注力しています。
西井氏:やめた理由はどのように把握していますか?
原氏:コールセンターでは常に傾聴しています。また弊社の場合、やめた時に聞くというより、続けている時に何か懸念や不安がないかということをしっかりヒアリングすることを大切にしています。
西井氏:佐藤さんはいかがですか?
佐藤氏:原さんのお話と似てきますが、当社もリピートの売上がほぼ全体を占めるので、やはりどう続けてもらうかなというところに終始しています。ただもちろん複数商品を扱っておりますので、クロスユースの促進はしていきたいと思っており、今年は基幹システムのリプレイスを行い、クロスユース促進を含めた施策をMAで構築できるようにする予定です。
このお話の続きは、後編をご覧ください!
効果的なCRM施策を生み出すカギは顧客理解を深めること。エーザイ・カゴメ・ドコモに聞くCRM戦略【EC×デジマ談義#2/セミナーレポート 後編】