新型コロナウイルス感染症の影響により、我々の生活は大きく変化し、企業のマーケティングのあり方も変わろうとしています。
その中でも、市場規模が急拡大しているEC市場では様々な変化が起きており、その大きなマーケティング施策の1つである「デジタル広告」を取り巻く環境の変化は劇的なものがあります。
アライドアーキテクツではこうした状況をふまえ、デジタルマーケティング領域におけるコロナ前後の変化や、EC事業者が今後求められる広告プロモーションについて、Facebook社、LINE社をゲストにお迎えしてディスカッションを行うセミナーを実施しました。
今回はこのセミナーのレポートを前後編の2回に分けてお届けします。
後半ではこれからのデジタル広告に求められることについて、Facebook社、LINE社それぞれのプラットフォームが抱く今後の展望を交えながらお話いただきました。
セミナーレポート前編の記事はこちら:
Facebook・LINEが語る、アフターコロナの世の中で求められる「EC企業のSNS活用」とは?【EC×デジマ談義#3 セミナーレポート・前編】
モデレーター
・株式会社シンクロ 代表取締役CEO 西井 敏恭氏
パネリスト(五十音順)
・Facebook Japan株式会社 パートナーマネージメントチームリード 濱田 雅章氏
・LINE株式会社 マーケティングソリューションカンパニー 広告事業本部 マーケットグロース事業部 チャネルアライアンス第3チーム 水谷 拓樹氏
LINE公式アカウントの友だちという資産をフル活用し、施策効果を高めるサービスを提供|LINE株式会社
西井氏:実は今日は従来のデジタル広告についてのお話がたくさん出てくるかと思ったのですが、まさかのお二方ともあまり広告のお話をされませんでした(笑)。
ただ、そもそも「広告」メディアとしての価値を高めていくためには、ユーザーに支持されるメディアであることが必要ですし、企業が使いやすいメディアであることが大切です。その点でいうと、LINEにしてもFacebook、Instagramにしてもそこに対する努力を大変されていると感じました。
こうしたことも踏まえながら、最後に「今後のデジタル広告に求められること」についてお話をお聞きしたいと思います。まずは、水谷さんからお願いします。
水谷氏:はい。LINEとしてもちろんディスプレイ広告において他の媒体さんに負けないように頑張っていかなくてはいけないと思っています。一方でやはり、LINEの資産というのはLINE公式アカウントとその先にいる友だち、そしてそれを繋ぐメッセージ配信機能やAPIだと考えています。そのためにも、LINE公式アカウントを中心としながらプロダクトの力を高めていくことに注力しており、その1つがこの2月末にリリースした機能である「クロスターゲティング機能」です。
西井氏:こちらはどういった機能になるのでしょうか?
水谷氏:LINEの提供サービスには大きくディスプレイ広告とLINE公式アカウント、販促のソリューションがありますが、今までは別プロダクトとして存在しており、それぞれのデータを横断的に使うような施策の実施が難しい状況でした。しかしクロスターゲティング機能によって、「LINE公式アカウントでこの行動をした人にこの広告を配信したい」、などプロダクト間をまたいでデータを活用した施策が実施できるようになりました。
水谷氏:例えばEC企業の場合、購入が完了したお客様にLINEで友だちになってもらい、その後LINE公式アカウント上で実施できるアンケートなどを通して、ユーザーのより詳細な情報を集めていきます。
こうしたLINE公式アカウント上のデータと企業がもっているユーザーの購買履歴や動向などのデータを連携させると、より精度の高いデータを作ることができます。そして、このデータを類似拡張して広告を配信することで、効率的に新しいお客様の集客に繋げることも可能になるのです。
西井氏:以前は外部のDMPなどを連携し、かなりコストをかけなければできなかった施策が、LINE単体で実施できるようになったんですね。
水谷氏:はい。実際に、CPF(友だち追加)広告にて、クロスターゲティング機能を活用した場合と、してない場合を比較したところ、活用した方がクリック単価が2分の1以下だったという結果も出ています。もちろんこれは、アカウントの運用状況にもよってくると思いますので絶対良いと断定できませんが、LINE公式アカウントという資産を有効活用していくという点では大きな施策の1つだと考えています。
水谷氏:そして、クロスターゲティングで実現できることは今後も拡充していきたいと考えています。
例えば各プロダクトを横断してユーザーがどのように動いているのかをさらに精緻に分析し、コンバージョンに到るまでのユーザー行動を様々な視点から見れるようにしたいです。
またもう少し中長期的な話では、このデータにユーザーの位置情報などを追加し、データ自体をもっとリッチなものにしていきたいと考えています。
ただ広告を出しましょう、パフォーマンスをあげましょうという話だけではなく、クライアント企業が持っているLINE公式アカウントという資産を活用し、マーケティング施策の効果を高めていきましょうという提案に、今後はより力を入れていきたいです。
西井氏:ありがとうございます。LINEさん自体がデータ活用をしやすい状況を作ることに注力されているのがわかりました、我々マーケターは今後、こうしたデータをどう施策に活かすのかを考えていくことが重要になってきますね。
※SMMLab編集部追記:LINE社の今後の重要施策の一つ、これからのアプリ市場を変えていくと注目されている「LINEミニアプリ」についてはこちらの記事で解説しています。
【LINEミニアプリの一般企業受付開始!】これから注目したい、スーパーアプリとは?
ユーザー・広告主の双方に有益な体験の提供を実現するプラットフォームに|Facebook Japan株式会社
西井氏:続いて濱田さん、よろしくお願いします。
濱田氏:はい。私からは、これからのデジタル広告に求められることについて3点お話したいと思います。
1つ目は先ほども申し上げたとおり「パーソナライゼーション」です。商品やブランドを発見してもらうところからファンになってもらうまで全ての段階において、これが大切だと思います。そのためにも、きちんと人ベースで生活者の行動をトラッキングし、その生活者の行動や心理を把握することが重要です。Facebookは実名ベースでアカウントを作っていますので、そこに対してはかなり強みを発揮できるのではないかと思っています。
また、昨今はcookie制限やアプリのIDFAの利用制限など、生活者のインターネット上での行動トラッキングにまつわる課題も山積しています。そこに関しても弊社では、いかにcookieやIDFAを介さずにトラッキングしていくか、様々な対策を講じています。こうした変化に対応しながら、適切な広告を適切な人に届けていくことが今後ますます重要だと考えます。
西井氏:2つ目はなんでしょうか?
濱田氏:2つ目は弊社では「BranDR」と呼んでいますが、今後デジタル広告の大きな流れとしてブランディングとダイレクトの垣根がどんどんなくなっていくだろうと予測しています。例えばInstagramで言えば、企業からの広告も、フィードのオーガニック投稿も、ライブ配信も利用者にとっては、自分に提供されているコンテンツや体験であることには違いありません。
大切なのはこうしたそれぞれのコミュニケーションについて、全体感をもって利用者のブランド体験を作り、ブランドのファンになってもらうことです。そのためには、広告出稿時にも、今までのようにダイレクトとブランディングで別々のKPIだけを持つのではなく、例えば「ダイレクト広告におけるブランディング効果」など、両者を同時にみることができるKPIの設定も必要だと思います。
西井氏:ありがとうございます。
濱田氏:そして3つ目はクリエイティブ力(りょく)です。特に我々のプラットフォームだとこれは重要だと考えています。現在、運用型広告は、機械学習や最適化機能がどんどん優秀になっており、運用ノウハウで他社と差分をつけていくことが難しくなっています。そのため、他社との成果の違いを出していくためにはクリエイティブの量と質の確保が必要となります。
この量と質を両立させるためには、やはりテストを繰り返していくことが重要です。マーケティング担当者の主観的な判断による質の良し悪しだけではなく、テストを繰り返し、データによって定量的にクリエイティブの良し悪しを判断していくことが大切だと思っています。
濱田氏:こうした状況の変化を見据えつつ、我々は日々、利用者・広告主双方に価値のあるプラットフォームであるために、プロダクトの改善・開発を進めています。
なかでも今後注力していきたい領域の1つが「ライブコマース」や「ライブ配信」などのライブコンテンツです。
例えば、現在アメリカでは、IGTVに広告を入れていくテストを実施しています。また、一部の国ではライブ配信において、「Badges」といういわゆる投げ銭システムの提供も開始しています。こうした機能が本格的に日本で提供を開始されれば、ライバーさんやクリエーターさんにInstagramライブをより活用していただけるようになり、ビジネスプラットフォームとしても非常に面白くなってくると思っています。
濱田氏:そして、ライブショッピングの機能も、一部の国と地域にてテストを始めています。こちらはライブ配信を閲覧している利用者が、画面にでているポップアップからそのまま商品を購入することが可能な機能です。この機能によって、利用者の購買体験をより高めることができると期待しています。
企業にとっても、利用者とのエンゲージメントを高めるブランディングと、購買を促すダイレクトの部分を同時に実施していくことができるというメリットがあります。日本でのサービス提供開始時期は未定ですが、ぜひご注目いただければと思います。
※SMMLab編集部追記:Facebookの今後についてはこちらも必見です!
【日本でも提供開始!】無料でECが作れる「Facebook ショップ」の基本機能とは?
広告・オーガニックの垣根を超えて顧客の最適な体験を作っていくために
西井氏:ここからはセミナーをご視聴の方からいただいた質問にお答えしていきたいと思います。
まず、このコロナ禍でECの売上は上がっていますが、そうではない企業もあります。ECに取り組む企業の中でも明暗が分かれたポイントは何だと思いますか?
水谷氏:コロナ禍においては、とにかく顧客からの問い合わせが多い一方で、それに対応するリソースが不足しているという話を多く聞きました。しかし、もともとLINEをご活用いただいている企業は、新型コロナウイルス感染症の拡大以前から電話での問い合わせをLINEでの対応に移行できていたところが多く、オペレーションが円滑に回って問い合わせに対応ができ、売り上げが落ち込まなかったとも聞いています。
コロナ前から、意識的に問い合わせ対応などをデジタルにシフトできていた企業はそこにうまく対応できたのではないでしょうか。
西井氏:なるほど。濱田さんはいかがですか?
濱田氏:私は、コロナによってデジタル化やオンライン化の流れが生まれたというわけではなく、もともとあったものが早まっただけという認識をもっています。その点では、このコロナ禍で何か特別な取り組みをしたというより、購買体験のパーソナライズ化やオムニチャネル化など、EC事業者として抑えるところを前々からきちんと取り組まれていた企業はよかったのではないかと思います。
西井氏:ありがとうございます。確かに以前からそこに対して対策をしており、ある程度準備ができていたか否かによって、同じ業種や業態でも大きく差がでたのかもしれませんね。
そして、デジタルシフトでブランド選択を乗り換えるといった現象も発生しているという話がありましたが、逆にリアルからデジタルに顧客をつなげて成功しているコミュニケーション事例はありますか?という質問もいただいています。
水谷氏:LINE公式アカウントのブロック率はリアルな店舗でユーザーと繋がっているアカウントの方が低いという結果があります。
ユーザーも店舗やブランドを知った上で友だち追加をしていますし、もっと言えばその店舗のスタッフと会話をしたことがあるというユーザーもいるかもしれません。このようなエンゲージが高い状態で友だちになっているLINE公式アカウントはブロックされにくく、関係性も深いと思うので、そこがひとつLINEの顕著な特徴だと思っています。
西井氏:ブロック率は分かりやすくて良い指標ですね。ブロックをしているという時点で、コミュニケーションの問題や元々の関係性の質に問題があると気づくことができそうです。
水谷氏:はい。そういった意味でも、実店舗もECもどちらもお持ちの企業には、オンラインでの集客とともに、店舗にいらしたお客様に対してLINEの友だち追加を促すようなアプローチをすることをおすすめしています。これはアカウントの充実につながっていく取り組みだと思います。
西井氏:ありがとうございます。濱田さんいかがですか?
濱田氏:そうですね。個人的な体験としては、私の住んでいるシンガポールでは店舗で商品を見て、購入はオンラインに促す形をとる企業がどんどん増えている印象です。もし実店舗を持たれている企業ならば、必ずしも実店舗で購入させるのではなくて、店舗で発見した商品をそこからどう検索させるか、どこで購入してもらう形がよいのかなど、着地点を想像しながら顧客の購買体験を考えて行くのは有効だと思います。
西井氏:実店舗とECとで売り上げを取り合っているという話も多く聞きますが、顧客中心に考えてどういった導線が1番ベストなのかその購買体験を設計していくのは大切かもしれませんね。
濱田氏:はい。その結果、実店舗をブランドのエンゲージメントを高めるためのショールーム的なものに位置付け、購入や獲得のところは全部オンラインに促す方法をとる企業も、徐々に増えている印象です。
西井氏:ありがとうございます。本日はFacebook Japan株式会社の濱田さん、LINE株式会社の水谷さんをお迎えし、アフターコロナにおけるEC事業者がとるべき広告施策についてお話をお聞きしましたコロナ禍を経て、世の中のオンライン化が進み今後ますますEC業界は成長していくと考えられます。
その中で今後は「広告」「オーガニック」を分けて考えるのではなく、顧客と接点を持ちどう関係性を深めていくのかについて、総合的に考え施策設計していくことが大切なのではないでしょうか。そして、顧客との接点を維持できるメディアであるという意味では、SNSはこうした施策実施に対して大きな役割を果たしていくのかもしれません。
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