Allbirdsインタビュー記事OGP

「ビジネスの力で気候変動を逆転する」
ファッションが気候変動に与える影響に向き合い、環境に優しいサスティナブルなビジネスモデルを追求するライフスタイルブランド「Allbirds」
2020年1月の日本上陸以降、順調に成長を続ける同ブランドが、どのように支持を集めファンをつくってきたのか。
今回はAllbirds合同会社のMarketing Directorである蓑輪 光浩氏にお話をうかがいました。

ビジネスの力で気候変動を逆転するーAllbirdsの挑戦

ーまずは御社の事業内容について教えてください。

我々Allbirdsは「より良いものをより良い方法で」というミッションのもと、気候変動をビジネスの力で逆転するという目標を掲げ、シューズ、アパレル、下着など衣食住の衣の部分をご提案するライフスタイルブランドです。

例えば、世界では年間200億足くらいの靴が作られ、捨てられているなど、ファッションが気候変動に与える影響は大きいです。我々はこうした問題に向き合い、できるだけ環境に対する負荷が低い作り方で長持ちする製品などを作り、少しでも温室効果ガスの排出を食い止めたいと思っています。

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Allbirds合同会社 Marketing Director 蓑輪 光浩氏
1997年NIKE JAPAN入社。ワールドカップ、箱根駅伝、NIKEiDをはじめとしたマーケティングに携わる。2008年にNIKE EUROPE赴任。2011年よりユニクロにて、錦織圭らトップアスリート契約、PR広告戦略、商品開発に携わる。2016年よりレッドブルに入社しフィールド・マーケティングを統括。2018年にビル&メリンダ・ゲイツ財団 プロジェクトマネージャー就任。2019年より現職。

ー具体的にはどのような取り組みをされているのでしょう?

例えば商品の無駄なデザインを削ぎ落とすことも一つです。また、パッケージの統一化、eコマースで配送するときにダンボールの包装箱を利用しないなど、極力無駄をなくしていくことを心がけてビジネスを行っています。

加えて、我々の店舗ではご希望がない限り紙のレシートを発行していません。紙のレシートの代わりにEメールでお送りしているんです。それによってお客様のメールアドレスを教えていただくこともできますので、お買い上げいただいた商品に何かあったときにすぐこちらからご連絡ができる、新商品のご紹介などもできるというメリットもあります。

このように、大きな軸では、なるべく環境の負荷を減らした商品作りや素材の開発を行う一方で、お客様へ提供するサービスなど面においても小さな配慮を積み重ね、気候変動に対してアプローチしていけたらいいなと思っています。

ーありがとうございます。現在蓑輪様はどういったお立場でいらっしゃるのでしょうか?

僕はマーケティングの責任者をやっています。業務内容としては、Instagramアカウントの運用、コピーやグラフィックなどお客様の目に触れるコミュニケーションの設計や、日本におけるブランドの戦略設計があります。
我々は、全部で400人くらいの会社ですので、決して大きい組織ではありませんが、だからこそ責任も多く任される範囲の大きさも感じています。

外資系企業であるAllbirdsの日本進出成功を支えた「相互理解と尊敬」

ーAllbirdsはアメリカ発のブランドですが、全体のマーケティング施策やメッセージなどは日本独自のものなのでしょうか?

ローカルの施策策定においては非常に柔軟性と自由度は高いと思います。その一つの理由に会社の風土としてみんな素直で優しいからという点があります。

我々が取り組んでいる気候変動の問題やSDGsはまだ達成できていない問題です。誰も答えを導き出せていないからこそ今こんな状況になっているとも言えます。この認識を我々の会社の社員がそれぞれ持ち、その答えを探しに行くためにビジネスをしていると考えているので、多様な意見や立場に対する許容性が高いんです。そのうえで、アメリカ人は日本人のことはわからないし、日本人だってアメリカ人のことはわからないという前提でいますので、大きなグローバルの方針をローカルに受け入れやすい形にブレンドすることができています。

ー確かに同じ商品であっても国によって刺さる訴求ポイントは違いますよね。

違いますよね。大手日系企業も、アメリカでは日本では見ないようなコミュニケーションを取っていますし、逆に日本に上陸した欧米のブランドが本国のコミュニケーションをそのまま日本で展開してうまくいかないというケースも散見されます。

もちろん、大きな全体の方針をもつことは大切ですが、バックグラウンドの違う地域でブランドを展開するためには、グローバルのもっているマーケティングやビジネスの戦略、組織をうまく使いながら、いかにその地域のものを上手にミックスしていくのかが大事だと思います。

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取材は、Allbirds丸の内店で行われた。

ーその通りですね。

ただ、Allbirdsでマーケティングを任されるようになった当初は、私はブランドに対する理解や知識は多くありませんし、初めからこのように主張できていたわけではありません。時間をかけて色々な施策や会議を行う中で信頼を勝ち得て、日本とグローバルとの理解をシンクロさせ、今のよいバランスができているというのは事実です。

ー日本とアメリカで発信するマーケティングメッセージについて違いや違和感などはなかったのでしょうか?

アメリカ本社のAllbirdsの掲げるメッセージについては最初からすごくしっくり来ていました。お互いにシンクロしている部分もありましたし、学びも多く、日本の固定概念とはまた違った感じもしたので、本当に尊敬している気持ちを持つことができています。

一方で本国の方も日本を尊敬してくれたと思います。それは、日本には独自のクラフトマンシップや豊かなお客様の美意識、丁寧さがあることを認識しているからです。Allbirdは自然を大切にするブランドですが、日本は豊かな自然と調和しながら生きてきた国なので、そういった面に対するリスペクトをすごく感じました。
このお互いの尊重しあう感じがとてもよかったと思います。

ー相性が良かったんですね。

相性は良かったと思います。
また、Allbirdsの創業者の1人であるジョーイ・ズウィリンジャーは、サスティナブルやマテリアルの研究を以前していて、実は日本の商社さんや素材メーカーさんとの商談のために頻繁に来日していたんです。そうやって何度も日本を訪れると、いわゆる観光地の他にも、ローカルなお店に立ち寄ったり、普通の観光客なら触れないような日本文化についても触れる機会がでてきますよね。だからジョーイは、日本について深く理解してくれたと思います。これもプラスに作用しています。

日本進出直後に発生したパンデミック。Allbirdsはピンチの中でどうチャンスを見出したのか

ー日本展開当初のマーケティング施策について教えてください。

いくつか軸になることは考えていましたが、やっぱり当たるか当たらないかわからないので最初はすごくドキドキしていました。
外資企業が日本に進出する際は、どれだけ冒険できるか、アクセルを踏めるかというのが大事だと思いますが、幸いにもAllbirdsの場合はローカルに対する寛容性があったので、「こういうフォーマットで全部やってください」と押し付けられるものはありませんでした。そのため本国と自由にお話しながら進めて、そのなかでもPRは大事にしていました。

ーPRを大切になさってきたのはなぜでしょうか?

もちろん自分達からも、商品の良さだったり快適さだったりは発信します。しかしやはり第三者の人が言ったほうが波及力も強く、その発信者の方のコミュニティとの連携もでき、商品に対する信頼性も上がると思っています。またマーケティング予算が限られているということもありましたので、PRをすごく大切にしましたね。

ーインフルエンサーの方の起用はいかがですか?

フォロワーの数をお金で買うというのは人間を数値化しているような感じがして、少し抵抗感があります。もちろんインフルエンサーと言われるような方にお仕事をお願いをしたこともあります。ご来店いただいてしっかり理解したり共感していただいたうえで、ご自身の言葉で発信してもらうことに価値を感じています。

ーUGC、いわゆるソーシャル上の一般の方の投稿だったり発信の活用はしていますか?

素敵な写真をポストしていただいた方には、個別に連絡して、AllbirdsのSNSに使わせていただいた例もあります。
もともとAllbirdsは西海岸に住むtech系の方たちが愛用してくださっていたということもあり、日本においてもそうした職業の方々に興味を持っていただいていました。中にはアメリカ出張に行くとお土産で商品を買い求めていただく方もいたんです。
日本に出店した当初は、そういった人たちがお店に来てくださり、積極的に「日本に進出しました」とか「こんな商品なんですよ」ということを発信してくれて、一番初めの波を作っていただいたというのはあります。

ー一方、日本に展開した2020年1月はその直後に新型コロナウイルス感染症の拡大がありました。変化や影響も大きかったのではないですか?

はい。本当に色々なことが変化して、今まで思っていたことがいかに絵に描いた餅だったのかという現実とのギャップは強く感じました。

実はAllbirdsにとっては初めてのことなのですが、日本進出においてはリアルな店舗を先行して出店し、そのあとでeコマースを展開したんです。

ーなぜ店舗が先行だったのでしょう?

いくつか理由はあるのですが、ひとつは日本のショッピング環境とアメリカのショッピング環境には大きな違いがあったということがあります。アメリカの場合、国土が広いので、eコマースが主流であるのに対して、日本は街へのアクセスがしやすく、どこにでもABCマートやユニクロだったりH&MやZARAなどお店が充実していますよね。だからeコマースを利用して購入するよりも、みんな直接店舗に行って見て、触って体験して、特に靴なんて履いてみて買うかどうかを決める、という文化があると思います。こうした文化をジョーイも理解していたので、まず日本はリアルな店舗から進出しようという形になりました。

ーここでも、うまくローカライズしているんですね。

はい。eコマースのローンチは3月31日だったのですが、ちょうどその頃新型コロナウイルス感染症の拡大が本格化し、eコマースが開いたのとほぼ同時に店舗を数ヶ月クローズしなければいけませんでした。こちらとしては、リアル店舗が開き、eコマースもオープンして、いよいよこれから波に乗って行くぞという時に、考えていた両軸のうちの1つがダメになってしまったので残念であった部分はありました。

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Allbirdsのeコマースサイト

ー出鼻をくじかれた部分もあったのではないのでしょうか?

そうですね。ただ、この状況だからできたことやメリットもあります。

ー具体的にはどんな点なのでしょう?

例えば、お店を開けられずに発生した時間で、お店のスタッフにはデジタルやカスタマーセンターのチームをサポートしてもらったり、トレーニングの時間を持ってもらうことができました。それによって商品やブランドに対する理解もより深くなったと思います。

また、世界的にがロックダウン状態となり、リモートワーク化が加速していたので、今まで日本からだとなかなか出席することが難しかった本社のミーティングもオンライン化が進み、日本から参加することができるようになりました。
みんなの物理的な距離が離れてしまったからこそ、対面ではできないけど情報の共有の量とスピードはあがって、その点は良かったと思います。

ー普通は店舗が閉じてしまうと、店舗で働くスタッフの人たちも不安になってしまいますが、そこでうまく店舗の方たちを巻き込むようなことをされたんですね。

Allbirdsには会社として「地球に優しくしよう」というモットーがあり、地球に優しくするためには人に優しくしなくちゃいけないという精神があります。実際にアメリカでロックダウンになった際も、まず店舗のスタッフを含め従業員の雇用を守ろうという姿勢は強く、もちろん日本でもそこは一番大切だと考えていました。
特に我々の店舗はオープンしたばかりですし、最初にお店を立ち上げた仲間の絆というのはとても強いものです。まずお店の人たちの雇用を守らなくてはいけないという意識はありましたね。

ーお客様に対するアプローチやコミュニケーションは変化しましたか?

お客さんに対してのアプローチは、おそらく他の企業さんと変わらないと思います。お店を開けられるようになっても、ソーシャルディスタンスの遵守や消毒の徹底は行い、混雑時にはお店を予約制にしたり、営業時間の変更をまめにソーシャルメディアにアップするなど、当たり前のことを当たり前にやるように心がけていました。

ーその他に、このコロナ禍があったから取り組まれた施策やコミュニケーションなどはありますか?

コミュニティ作りには力を入れてきました。

Allbirdsではこの11月からランニングコミュニティをオープンしています。これも実はコロナ禍の間1年半かけて準備していたものなのです。

僕はもともとNIKEにいたので、スポーツブランドに対するバックグラウンドがありますが、全ての店舗のスタッフたちがスポーツに対して理解が深いわけではなりません。一方でAllbirdsはランニングシューズも展開していますので、スタッフにそのあたりをきちんと理解して接客してもらうためには、まず彼ら彼女らが楽しんでやる気になってくれることが必要不可欠だと考えました。

そこで、ランニングのコミュニティを絶対作りたいと思い、コロナ中にランニングのアンバサダーとして福内櫻子さんとコンタクトをとって、まずはクローズドな環境でスタッフとランニングを楽しむ取り組みをしていました。それからだんだんスタッフがお友達とか恋人なんかをコミュニティに呼ぶようになって、オペレーションもうまくまわるようになり、ランニングのコミュニティの基礎を作ってきたんです。

Sakura Dashers
Allbirdsのランニングコミュニティ「Sakura Dashers」。オフラインのランニングイベントのほか、ランニングを充実させる豆知識などのコンテンツを発信するオンラインコミュニティ「Strava」も運営している。

ーお客様を集めてコミュニティを作るのではなく、まずは自分たちで周りを巻き込みながら土台を作っていったんですね。

はい。またこうしたフィジカルなコミュニティと並行して、せっかくコロナ禍で時間がある時なのだからと、店舗のスタッフの子達の自主的な提案で環境問題などについて学ぶオンライン勉強会も行われました。

ーどういった勉強会なのでしょうか?

例えばエシカル協会の方や、元パタゴニアの方とか、クリーンエナジーに取り組んでいる方とか、環境問題に近い人にお願いをしてオンラインでプレゼンをしてもらったり、質問に答えてもらったりするものです。

そしてこの勉強会も、数を重ねるうちに、スタッフの周りの友達や恋人など、環境問題に興味のある周りの人たちを巻き込み、ひとつのコミュニティのようになりました。

ー自発的にこうした取り組みを行うのは素敵ですね。

僕はやはりお客様と直接接するお店のスタッフはすごく重要な存在だと思っています。それは、eコマースで買うことができる商品をあえて店舗に足を運んで買うお客様は、お客様自身が何かしら経験を持って帰りたいとか、情報を得たいとか、商品を見て触ったりも含めて、店舗に体験価値を求めていると思うからです。

ランニングコミュニティや、勉強会はこの体験価値の提供に大きく貢献するものですし、このコロナ禍のタイミングだからこそしっかりと土台を作ることできたのだと考えています。

コミュニケーションやサービスの基本には常に「お客様目線」を

ーeコマースの顧客サービスやコミュニケーションでは、どのような取り組みをされていますか?

お客様が利用しやすいを基本として、30日間無料の返品交換を実施したり、返品の際はすぐに宅配業者さんに引き取りにいっていただくようにしています。また、交換の場合、お客様が商品を返品する前、交換連絡をいただいた時点ですぐに新しい商品を送るようにしているんです。

ー交換される商品を受け取る前に送ってしまうのはすごいですね。

せっかく商品が欲しいと思って買っていただき手元に届いたのに、サイズが合わなかったなどの理由で、またそこから1週間も商品の到着を待つのは誰だってがっかりしてしまいますよね。これを解消したいと思ってこうした対応をしているんです。
そうすると、「まだ返す前なのに新しい商品が届きました!」とか「返したと同時に新しいものが届きました!」と感激していただき、さらにそれをSNSなどで投稿してくれることもあるのでとても有り難いと思います。

ーポジティブなクチコミも広がりますね。その他eコマースを運営する上で工夫されている点などはありますか?

我々はShopifyを使っているんですが、ワンストップだし、シームレスなところがとても良いと思っています。

例えば大きい企業さんだと、お店の発注システムはA、eコマースにはBを使って、などそれぞれシステムが分かれていることも多く、このインターフェイスじゃないとここのデータを繋ぐことができません、といった状況に陥りがちです。
これは、お客様に快適な迅速な購買体験をお届けする上ですごくもったいないことだと思います。
Shopifyを利用することでお客様の情報も配送のステータスも在庫の状況も全てをワンストップで見て、そのお客様に寄り添ったサービスをお届けできる点で素晴らしいと思います。

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ーeコマースだけではなく実店舗もそこに加わるとさらに複雑化しますよね。

そうですね。店舗とeコマースの売上を奪い合ってしまうのを避けたいという話を聞いたことがありますが、僕はそれは実に会社の都合でありナンセンスだと思うんです。

お客様にとっては、A店舗で買おうがeコマースで買おうがそのブランドの商品を手にとっているという事実は変わりません。

実際我々は、実店舗に来店されて試着したお客様が「荷物が多いから家に帰ってオンラインで買います」とおっしゃれば、店舗でも注文できますよと、店舗でオンラインオーダーをして商品をご自宅に届くようにしています。また、eコマースで購入いただいたお客様が店舗に商品を返品することもあります。

ーお客様目線が大切なんですね。

はい。僕が以前ユニクロに勤務していた頃、柳井社長はよく「これはお客様都合じゃなくて会社都合でしょ!」とおっしゃっていました。この言葉から多くを学ぶことはとても多く、会社の事情を押し付けるのではなく、お客様の立場に立ってどうすべきかを考えるようにしています。

ーeコマース、実店舗共にお客様が求める方を利用していただきたいということですが、実店舗とeコマースそれぞれに役割の違いはあるのでしょうか?

eコマースはデジタル上で無限に商品を見せられる一方、やはり店舗は壁の面積やマーチャンダイズできる商品数にも制限があります。ですので、一部の商品は店舗で1足だけ見せて在庫はECで管理するといったこともしています。

また、商品の詳しい情報やブランドのコンセプトの訴求はソーシャルメディアをはじめとしたデジタルメディアを媒介した方がよりたくさんの情報を深く知っていただくことができるので、そこにきちんと情報を用意しながら、お客様に調べに来てもらえるようなコミュニケーションを実施しています。

Allbirds Japanの公式Instagramアカウントの投稿の1つ。商品の紹介と共に、Allbirdsと同じようにサスティナブルな取り組みをしている人を紹介するなど、より深くブランドのコンセプトを理解してもらえるような発信も行なっている。

ー店舗でできるコミュニケーションとeコマースやデジタル上で伝えられること、その違いをきちんと区別されているんですね。

はい。その他にも、我々は年に一回サステナブルレポートというものを出しています。これは、ブランドの歴史やプロダクトの情報に加えて、今後温室効果ガスの排出をどう減らそうとしているのか、どうカーボンオフセットしているのか、社員の男女比など、少しアカデミックな内容も含まれるものです。

こうした読み物は、もちろん公式WEBサイトにPDFでアップはしていますが、やはり紙で手にとって読む方が、より喜んでいただき、深い理解に繋げていただけると思いますので、実際に冊子を作り、店舗にいらした方にお渡しするようにしています。

特に丸の内店では、ビジネス層でそうしたことに興味関心が強いお客様も多くいらっしゃいますので、「勉強になります」といった嬉しいお声もちょうだいしています。
やはり、お客様にとって何が一番喜んでいただけるかの視点、が一番ですね。

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同社のWEBサイトにPDFとしてアップされているサスティナブルレポートの一部。実際にこれを冊子にして店舗で配っている。なお、紙はFSC認証済みのものを使用するなど徹底ぶりがみられる。

マーケティングはアートとサイエンスのバランスが重要

ーありがとうございます。その他取り組まれているマーケティング施策や集客施策にはどのようなことがありますか?

デジタル広告は、それぞれプラットフォームごとに施策の向き不向きがあります。そのため、ファネルの戦略にのっとり、認知獲得からコンバージョンまでそれぞれの目的に応じたメディア選びを行なって広告を運用しています。また、ラジオの番組提供もしているんですよ。

ーラジオはかなりアナログなイメージがあるので意外です!

J-WAVEで平日朝に放送されている別所哲也さんの「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」という番組の中で「Allbirds MORNING INSIGHT」というコーナーのスポンサーをしています。
このコーナーでは毎回Allbirdsが気になる方や応援したい方を時々ゲストに呼びし、別所さんとお話をしてもらうんです。

その会話ではゲストの方の事業の話から生い立ちまで、その人の人となりが伝わる内容を引き出されます。そして、喋り方、言葉の言い回し、とっさの答え方など、ごまかしの聞かないその人のリアルな魅力をありのままお伝えすることができます。我々のブランドの魅力を伝えてくれる人のその魅力を理解していただくことでAllbirdsを支持してくださる人たちのコミュニティを広げているという役割があります。

ー施策の効果を数値化する、という点ではラジオは難しい部分もありますよね。

そうですね。ラジオによって商品が売れているのかとか、コンバージョンがどうなのかと具体的な数値を問われると厳しい部分もあります。しかし、僕はマーケティングはアートとサイエンスのミックスだと考えているんです。
もちろん、調査の結果やフォロワー数だったりお客さんの態度変容を数値化したデータなどを見ないわけではありません。ただ、それを全てそのまま信じずに、それは参照なんだという気持ちで見ています。

ー顧客の心理や行動には数値化できない部分がある、ということですね。

はい。マーケティングのアートの部分、お客様の感情をどうやって揺さぶるのか、どうやってブランドを好きになってもらうかなどということは、やはり数字では測れないですし、測れなくてもやはりすごく重要な部分であると考えています。これをきちんと頭にとめおき、商品の展開からコピーグラフィック、店舗でのサービスやさきほどのサスティナブルレポートを作ったりなど、お客様に喜んでいただける施策に取り組んでいくことが大事だと思います。

ーさきほどお話になった返品の前に代わりの商品が届く、といった配慮もそうですよね。確かに、そうした小さな気遣いやコミュニケーションは大切ですが、そこから好きになってもらったかというのは数字では測りにくいかもしれません。

そうなんですよね。だからそのアート側とサイエンス側はうまいバランスをとっていくのが大事ですし、そういうことができる人が僕は優秀なマーケターなのかなと思っています。そしてそのためには、自分から積極的にお客様のインサイトを知る努力をしなくてはいけませんし、自分がお客様の好むライフスタイルに近いものだったり共感できるものを持つことも大切だと考えています。

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ー具体的にお客様のインサイトを探しに行くために心がけてらっしゃることや取り組んでいらっしゃることはありますか?

色々あります。例えば今日のようにインタビューのお話をいただいた時は絶対に受けるようにしています。それは色々なことをお話すると僕自身のインプットにもつながるからです。
また、サスティナブルについての理解という点では、やはり欧米の方が日本よりまだ先行していますので、向こうの文献を調べたりなるべく英語のポッドキャストを聞いたりして情報のキャッチアップを行うようにしています。

とはいえ僕たちのお客様は日本の方なので、週に1〜2回、店舗に足を運んでスタッフと会話を持つようにもしています。

ー店舗ではどんなことを話されるんですか?

最近はどんなお客様が多い?といったことを話します。
例えば、「日経新聞にAllbirdsが紹介されてから日経新聞の読者層に見えるお客様が多いですよ」といった情報や、そう言った方々がAllbirdsの靴の中でも比較的スポーティーに見えない真っ黒で靴底が黒い靴をよくみていますという話をもらえます。
そうすると、じゃあボーナスの時期にはそうしたビジネス層をターゲットとして黒い靴の広告を作ってみようかな、という施策へのヒントにつながるんです。やはり日々パソコンの画面を見ているだけじゃわからない、生の声を拾いに行くのは大切ですよね。

ランニングのコミュニティでも、同様です。お店のスタッフたちと一緒に走りながらリラックスして会話をすると、彼女たちが日々接しているお客様についての色々な話が聞けるので、ヒントや気づきを得ることができます。

ーどこにヒントがあるかわからないから、常にアンテナをはってらっしゃるんですね。

はい。僕はNIKEに勤めていた時に店舗で働いていたことがありました。もちろん当時の自分が若くて企画が甘い、話す相手が違うなど今思うと反省しなくてはいけない点もいくつかあるんですが、当時は「こうしたらいいのに!」「どうしてマーケティングの人が聞いてくれないんだろう」と思っていたんです。

だから、自分がマーケティングの責任者という立場になった今、そういったことはなるべくなくそうと思っていて、店舗の人たちともしっかりと話をして、彼らが自発的に取り組みたいと思ったものについては、できる限り全力でサポートするようにしています。もし、そうやって接していった若いスタッフが社会経験を積んで行ってから思い出して実行してくれたらすごく嬉しいですね。

2022年、企業は生活者に何を伝えるべきか

ーAllbirdsの今後の展開や展望についてお聞かせください。

多くの方にAllbirdsの魅力を理解していただき、そのシンプルさや履き心地の追求、お求め安い価格にするといった努力をこれからも続けていき、ビジネスの力で気候変動を逆転させたいと思っています。

僕は日本が大好きで、その文化や自然と調和した暮らしというものに魅力を感じています。一方Allbirdsはアメリカの良さ、チャリティ精神やダイナミズムを持っています。これからはこうした双方の良いところが融合し、日本の人の中にも意識の変化だったりそういったものが起きてくれればいいなと思っています。

ファッションが与える地球環境へのインパクトはやはり大きいですし、もっと無駄を省ける余地はたくさんあります。こうした課題に対してAllbirdsとして努力していることに気づいてもらい、徐々に社会が変化して、自分の子供や孫の世代まで美しい地球や日本を残したい。実は丸の内に第二店舗目を出店した理由にはこの目的達成のためというのもあるんです。

ーそうなんですね。

一号店がある原宿はファッションと若者文化の街です。我々が直面している地球規模の課題への解決は、世代を超えてみんなが一丸となる大きなムーブメントが必要だと思ってます。

そのため丸の内だったり、霞ヶ関だったり、大人世代がいる場所に乗り込んでいき、Allbirdsを知ってもらいながら、若者と大人世代の両軸から変化できるといい社会になるんじゃないかと考えています。もちろん交通の利便性やよい場所があったというシンプルな理由もありますが、原宿とはまた違ったお客様の層に対してアプローチしたいという意図があったんです。

ーありがとうございます。もうすぐ2021年も終わります。最後に2022年、日本のマーケティングはどうなっていくかの見通しや蓑輪様のお考えをお聞かせください。

日本については、来年はとても挑戦の多い、試される1年になると思っています。

ただ、コロナ禍で閉ざされた世界になってしまいましたが、悲観的になる必要はないと思います。

難しい時代だからこそ、人への思いやりだったり、地球への思いやりを忘れないことが大切だと思います。気候変動は待ったなしです。空気は世界と繋がってます。地球での生活ができなくなれば、ビジネスもできなくなります。

日本をはじめ世界中で、このサステナブルな世の中を作り上げていこうというムーブメントは加速されていくと思います。インターネットが興隆してきた21世紀初頭に、雰囲気が似ていると感じています。この大きな課題に向かって、どんどんイノベーションが起きていくと思ってますし、起きないといけないです。

生活者の意識も、自分たちが支持する企業やブランド商品がどう貢献するのか、そういった視点をより強くもつようになるのではないでしょうか。すでに就職活動をしているような若い世代の多くは、サステナブルな世の中の必要性を気がついています。

そのため企業は、社会的なメッセージや会社の価値、社会にどんな貢献を与える企業活動を行うかといった点を、今以上に強く伝えていく必要があります。企業のこうした思いや姿勢を生活者に理解してもらうことで、より支持される企業やブランドになっていく、2022年はそうしたふるまいがより求められる1年になるのではないでしょうか。