タブレットの「ミンティア」、栄養サポート食品の「1本満足バー」、サプリメントの「ディアナチュラ」、ベビーフードや粉ミルクの「和光堂」、フリーズドライ食品の「アマノフーズ」、シニア向け介護食品の「バランス献立」など多数の有名ブランドを展開する食品メーカー、アサヒグループ食品株式会社の公式TikTokアカウントが注目されています。

2022年5月に立ち上げてわずか4か月程度にも関わらず、複数の投稿が10万回以上の再生数を記録。もっとも伸びた投稿は広告をかけずにオーガニックで100万回以上再生され、今も拡散され続けています。

TikTokアカウントの運用スタートにまだまだ躊躇する企業も多い中、同社はなぜこのような挑戦をし、さらにユーザーから受け入れられるコンテンツ制作を継続できているのでしょうか。

今回は、同社のTikTokアカウント立ち上げを企画し、運用をしている長期戦略推進室 担当副部長の畠 徳望博(はた ともひろ)氏と、人事総務部 広報グループの中谷 駿介(なかたに しゅんすけ)氏にインタビュー。

パートナー企業として同アカウントの運用を支援しているアライドアーキテクツ株式会社 田中亮との対談にて、なぜTikTokなのか、立ち上げ時にどう社内を説得したか、100万回再生した投稿はいかにして生まれたのかなど、TikTokへの挑戦の裏側をたっぷりと語っていただきました。

アサヒグループ食品ブランドを横断するSNSアカウント立ち上げを企画

アライドアーキテクツ(以下アライド)/田中:
2022年5月にアサヒグループ食品のTikTokを立ち上げてから約4か月、順調に推移していますね。一つの投稿は100万回以上も再生されており、運用を支援する僕も嬉しい限りです。

今日は、TikTokアカウント立ち上げからバズった投稿が生まれた背景までを一緒に振り返っていきたいと思います。

まずは、今回御社がTikTokアカウント立ち上げに至った経緯を教えていただけますか?

広報グループ/中谷氏:
弊社は、アサヒグループで食品事業を担う企業として、アサヒフードアンドヘルスケア、アマノフーズ、和光堂、アサヒカルピスウェルネスがひとつになってスタートした会社です。

「ミンティア」、「1本満足バー」、「アマノフーズ」、「ディアナチュラ」、「和光堂」、「バランス献立」など、老若男女様々な年代の方々にご活用いただける、幅広い商品を展開しています。

これまで、それぞれのプロダクトブランドを中心にお客様とのコミュニケーションを行ってきましたが、アサヒグループ食品トータルとしての横断的なコミュニケーションが十分にできていないという課題がありました。

アサヒグループ食品株式会社 企画本部 人事総務部 広報グループ 中谷 駿介氏

長期戦略推進室/畠氏:
それぞれの会社の企業文化・風土をお互い理解し合い、アサヒグループ食品という一つの会社にまとまるフェーズも過ぎ、会社全体としての取組みを強化すべきフェーズに入ったと思っています。

これからは、それぞれのブランドが各々発信やコミュニケーションを行うだけでなく、アサヒグループ食品として各ブランド同士をお客様基点でつなぐことで、新たな体験価値をお客様に提供できるのではないか…その一つの手段として、公式SNSアカウントの立ち上げを考えたのです。

それぞれのブランドにはすでに公式SNSアカウントがありましたが、今回は各ブランドを横断する会社全体の公式アカウントを、私が所属する長期戦略推進室 DXチームと中谷が所属する広報グループで立ち上げることにしました。

アサヒグループ食品株式会社 企画本部 長期戦略推進室 担当副部長 畠 徳望博(はた ともひろ)氏

アライド/田中:
アサヒグループ食品さんには、ベビーからシニアまで本当にたくさんの商品ラインナップがありますよね。たしかに、「ミンティア」と「アマノフーズ」が同じ会社で作られていることを知らない方も多いかもしれません。ブランドを横断したSNSアカウントが一つあることで、今まではなかなか紹介できなかった商品を知ってもらえる機会も作れますね。

しかし、なぜその手段が「SNSアカウントの立ち上げ」だったのでしょうか?また、畠さんと中谷さんのどちらからスタートした話なんですか?

長期戦略推進室/畠氏:
私からです。私は長期戦略推進室でDX推進を担当しており、デジタルを活用してどう会社をより良くしていくか、お客様との良質なコミュニケーションを通して、良い顧客体験をいかに提供できるかをミッションにしています。

ただ、「DX推進」とはいえ、ぶっちゃけデジタルはあくまで目的を達成するための「手段」であって。今回もSNSアカウント立ち上げありきで考えていたわけではありません。

今は生活が多様化し、お客様を一律で捉えていくのが難しい時代です。マスマーケティングが効きにくくなり、従来の物売りだけではなく、商品・サービスを通じてお客様にどのような体験価値を提供できるかが企業存続のカギだと思っています。

今回の「アサヒグループ食品としてのコーポレートブランディングやお客様とのコミュニケーションの高度化」という課題に対しても、モノ起点ではなくコト起点で伝えていきたい。そのためには、一方的に企業の言いたいことを伝えるやり方ではなく、お客様と共に体験を紡ぎ、共感を醸成していけるSNSという場が最適だと考えました。

アサヒグループ食品株式会社が提供する商品の一例。ベビーからシニアまで幅広い層に向けて、「おいしさ+α」の価値を提供する商品を展開している。

SNSアカウント立ち上げの後発だからこそ、TikTokにチャレンジ

アライドアーキテクツ(以下アライド)/田中:
SNS立ち上げに当たってアライドにご相談をいただいた当初、御社ではTwitterとInstagramの立ち上げを想定していましたよね。

僕たちとしてはTwitterとInstagramに加え、TikTokの立ち上げを提案したわけですが、最終的に御社がTwitterとTikTokの2つを選んだ理由は何だったのでしょうか?

アライドアーキテクツ株式会社 ソリューションカンパニー ファン共創事業部 田中亮

広報グループ/中谷氏:
Twitterに関しては、その「利用者数の多さ」と「お客様との共感や会話を大切にしたい」という観点から、早い段階から立ち上げることを決めていました。
一方で、TikTokに関しては、田中さんからご提案いただいて初めて選択肢に挙がったのが正直なところです。

弊社は「今さら会社公式SNSを始める」という立場だと思っていまして。SNSの後発企業として、フォロワーがゼロの状態からどこまで多くの人に情報を届けられるかを考えた際に、フォロワーが少なくてもコンテンツ次第で爆発的に多くの方に見ていただけるアルゴリズム、動画と音楽で感覚的に見せられる特性や、SNSとしての将来性を踏まえ、TikTokを選択することにしました。

2022年5月にスタートしたアサヒグループ食品の公式TikTokアカウント(@asahigf_jp)。「#助かったよアサヒグループ食品」を共通ハッシュタグに置いて運用している。

長期戦略推進室/畠氏:
今まで他の企業さんがやられてきたようなコミュニケーションだけを実施してもどうしても埋もれてしまいます。そこで企業として安定的な運用・拡散力が期待できるTwitterを立ち上げるのと同時に、他の企業さんがまだあまり取り組んでいないからこそ、TikTokにもチャレンジしたいと考えました。

また、音声付き動画のTikTokだからこそ、アサヒグループ食品の「美味しいだけじゃない、生活クオリティをアップする商品体験価値」を伝えやすい面もあるのかな、と。

何より、今回公式SNSアカウントを立ち上げる前に、まずは田中さんがご自身のアカウントで弊社商品の投稿をしてくれ、その投稿が50万回も再生されている様子を見て、とても可能性を感じたんです。

アライド/田中:
TikTokはフォロワー数が少なくても、コンテンツが良ければ10万回再生、100万回再生も目指せるのが面白いですよね。僕も当時はフォロワーがあまりいなかったのですが、御社商品で投稿したところ50万回再生され、御社商品とTikTokの相性の良さを感じました。

@ryo_suteasi ちょっと会社行くの楽しみになる #お弁当 #弁当男子 #アサヒグループ食品 #助かったよアサヒグループ食品 #アマノフーズ #vlog #誰かに話したい ♬ 接吻 – Original Love
アライド田中個人のTikTokアカウントにて、持参したお弁当と、会社のデスクの引き出しにたくさんストックしたアマノフーズのお味噌汁を楽しむ様子を「弁当革命」として紹介。多くのいいねやコメントが付き、動画は50万回再生を記録した。

TikTokらしさを失わずに、社内基準もクリアできるコンテンツのあり方を模索

アライド/田中:
とは言え、まだ取り組んでいる企業が少ないTikTok公式アカウントを始めるのは、社内の説得も大変だったのではないですか?

広報グループ/中谷氏:
前例のないことにチャレンジするハードルはありました。TikTokならではのメリットや世界観、独自のルールを理解してもらうのはやはり大変です。

アカウントを開始した後も、一つ一つの投稿の表現内容を決めるプロセスは苦労の連続でした。

弊社には、表現が問題ないか、誤認に当たらないかなどを審査する機関があり、商品や広告、販促物などを作る際には必ずそのチェックを通すルールがあります。

ただ、TikTokで目指す投稿は、既存の審査項目に基づきチェックされてきた商品・広告・販促とは異なる性質を持つものです。表示審査の担当者と何度も話をしながら、会社として守るべきコンプライアンス遵守の観点と、TikTokユーザーに受け入れてもらえるコンテンツの在り方のバランスが保てる運用方法を模索してきました。

長期戦略推進室/畠氏:
組織として、このTikTok運用をどう判断して継続していくのかという組み立てには、大きな熱量を割きました。

TikTokユーザーの気持ちに寄り添った投稿をしたい側と、企業として炎上してしまうリスクを第一に考慮する側の双方が納得できないと、お互い疲弊してしまい、運用を長くスムーズに続けることができません。アカウントは開設したらおしまいではなく、そこからが始まりですからね。

アライド/田中:
当初は投稿案にもたくさん修正が入りましたが、今は徐々にそれも少なくなってきたように思います。

広報グループ/中谷氏:
そうですね。実践を通じて徐々に社内の理解が進んできましたし、私たちもTikTokユーザーに受け入れられやすいコンテンツと、会社として守るべきラインのバランスの取り方をつかめてきたように思います。

長期戦略推進室/畠氏:
TikTokはあくまでお客様が楽しみに来ている場所であって、我々メーカーが「こう伝えたい」というエゴを押し付けてはなりません。

もちろん、会社として守るべきことはありますが、ブレーキを踏みすぎ守りすぎてしまうと途端につまらなくなってしまいますよね。そのような投稿をやりすぎてしまうのも、逆に企業としてのリスクになると思います。また、再生回数を伸ばすことだけを考えた不誠実な投稿も企業としてやってはいけないと思っています。

我々がTikTokを運用する目的は、あくまで「お客様の気持ちが少しでもプラスに動くコンテンツ」を届けて、お客様と共に体験を紡ぎ、共感を醸成すること。そこは運用する上で、これからも一番大切にしていきたいです。

100万回以上再生された投稿も誕生。ユーザーからの反響に社内も歓喜

アライド/田中:
試行錯誤しながらアカウントを立ち上げて4か月が経過し、中には100万回以上再生される投稿が生まれるなど、手ごたえが感じられるようになってきました。今、率直にどのような感想をお持ちですか?

広報グループ/中谷氏:
とても嬉しく思っています。

アマノフーズ「海老天とじ丼の素」を紹介する投稿では、お客様から「こんな商品あったんだ」といった驚きのコメントをたくさんいただきました。見た目のインパクトや、絶妙な音楽のチョイスもあいまって再生数が100万回以上にまで伸びて、多くの方にこの動画を通じて、商品の魅力を届けることができました。

@asahigf_jp この商品、見たことある?#アマノフーズ #助かったよアサヒグループ食品 #海老天とじ丼の素 #アサヒグループ食品 #フリーズドライ#海老天#エビ天 #簡単レシピ ♬ magic! – Little Glee Monster
アサヒグループ食品のTikTok公式アカウントでもっとも再生数が伸びている投稿(2022年8月末時点)。

アライド/田中:
和光堂ベビーフードを紹介した動画も約20万回再生され、「私もこれにお世話になった!」といったコメントをたくさんいただきましたね。まるで「企業側の人なんじゃないか」というくらい、商品のことを伝えてくれていたり。コメント欄がコミュニティのように使われるのもTikTokの特徴だと思います。

長期戦略推進室/畠氏:
これからベビーフードを使おうとされている方の背中を押していただけるようなコメントをたくさんいただけて有難かったです。これをきっかけに、忙しい子育ての日々の負担を少しでも軽減していただき、頑張りすぎない育児をサポートできたら嬉しいですね。

@asahigf_jp 簡単離乳食で、お子様との大切な時間が少しでも増えますように #和光堂 #助かったよアサヒグループ食品 #アサヒグループ食品 #誰かに話したい #離乳食 #ベビーフード #赤ちゃんのいる暮らし ♬ Surges – Orangestar (feat. 夏背 & ルワン)
和光堂ベビーフードを紹介する動画には200件近くのコメントが寄せられた。(2022年8月末時点)

アライド/田中:
このような伸びる投稿をきっかけにたくさんの方がTikTokアカウントのプロフィールページを見に来てくれて、他の商品を知るきっかけを作れているのではないかと思います。

広報グループ/中谷氏:
そうですね。中には「これってアサヒグループ食品の商品なのか!」といったコメントを頂くこともあり、私たちが目指している「コーポレートブランドの強化」にも貢献できているのではと感じています。

また、社内からの見え方も変わってきており、少しずつですが社内から「これをTikTokで取り上げてくれないか」という話も貰えるようになってきました。

長期戦略推進室/畠氏:
営業の商談の場でも、お取引先様に「アサヒグループ食品はTikTok公式をやっているんだ」と伝えてくれたりしています。関係者だけで盛り上がっているのではなく、徐々に会社全体にこの取り組みが浸透してきたことがとても嬉しいです。

前例のないチャレンジを楽しむ。購買につながるアクションにも期待

アライド/田中:
最後に、これからお二人がTikTokを通じてやってみたいことや、意気込みをお聞かせください。

広報グループ/中谷氏:
より多くの方にアサヒグループ食品を知っていただき、好きになってもらえるように、これからも投稿内容は磨き続けていきたいです。

また、今後は何らかの購買につながるアクションにもつながったら良いなと考えています。例えば、TikTok投稿をきっかけに、商品の情報をインターネットで検索してくれたり、店頭に足を運んでくれたり。そんなアクションの起点となるような投稿を、TikTokで作っていきたいです。

長期戦略推進室/畠氏:
会社として予算や人的リソースを投じてやる以上、フォロワー数やエンゲージメント数などはきちんと見ていかないといけません。その一方で、新しいことをやるときにいきなり目に見える成果だけを追い求めてしまうと、本来やりたいことがやれなくなってしまったり、目標も形骸化してしまったりするリスクもあるなと思っています。

まずは「お客様の気持ちをプラスに動かす」を追及すること、そのためには我々自身が楽しんでいきたいです。

長期戦略推進室、広報グループ、そしてパートナーであるアライドさんが一体となって熱量をもって運用していけば、お客様の共感を醸成し、社内からも「TikTokはなくてはならない存在だよね」という評価につながると信じています。

アライド/田中:
運用のパートナーを決めるオリエンテーションの時も、「一緒にやっていて楽しい」が基準の一つだとおっしゃっていたのが印象的でした。今、僕たち自身もすごく楽しみながら支援させていただいています。

広報グループ/中谷氏:
田中さんたちにはいつも僕たちがやりたいことを理解してもらって、同じチームの一員としていろんなアイデアをいただいていて、感謝しています。特に、田中さんたち自身が個人アカウントを運用していて、そこで得ている最新の知見やトレンドを弊社の運用にフィードバックしてくれているのが心強いです。「TikTokのお手本を背中で見せてくれている」、そんな感覚ですね。

長期戦略推進室/畠氏:
それと、私にはもう一つ野望がありまして(笑)。このTikTokの取り組みを通じて、業界内問わず「アサヒグループ食品が何か面白いことやっているぞ」と思っていただいたり、TikTokアカウントを運用されている企業の方から、「アサヒグループ食品のTikTokすごいな!運用している広報担当者、すげえな!」と思ってもらえる将来を創っていきたいんです。

私はあくまでも公式SNSアカウントの立ち上げを広報グループと一緒に実施したまでで、日々運用を一生懸命やっているのは中谷君をはじめとした広報のメンバーです。この取り組みがお客様や社内から評価されて、担当者にスポットライトが当たってほしい。そうすれば、担当としてさらにモチベーションも上がりますし、さらなるプラスのサイクルが生まれますよね。

広報という立場上「無理な冒険はできない」という面もあると思いますが、お客様ファーストを意識しながら、どんどんチャレンジしてもらいたいですね。

広報グループ/中谷氏:
実は今、社内の新たな取り組みを発表する大きなプレゼンの場に、このTikTokをはじめとしたコーポレートブランドコミュニケーションへの挑戦がノミネートされているんです。これからも、お客様に「#助かったよアサヒグループ食品」と言っていただけるように、走り切りたいと思っています。

アライド/田中:
僕たちも、御社と一緒にこれからもどんどん新たなチャレンジをしていきたいと思います。今回はお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!