昨今、SNS広告において、利用ユーザーのコンテキストに合わせた広告クリエイティブの重要性が増してきています!ユーザー自身が制作した写真や動画を広告に活用する、「UGA(User Generated Ads)」は、ぜひチェックしておいていただきたい広告手法です。

 
そこで、今回はこの「UGA(User Generated Ads)」の成功事例として、YouTuber制作動画を活用したFacebook広告にいち早くチャレンジし、大きな成果を上げた、スマートフォン向けファンタジーRPGアプリ「幻獣契約クリプトラクト」の担当者に、「UGA(User Generated Ads)」設計のポイントを聞いてみました。
 

 
Facebookの動画広告は、静止画に比べて平均2倍以上広告素材認知効果が高いことが分かっていますが、態度変容効果という点では、広告素材の質が結果を大きく左右します。
参考:株式会社 カンター・ジャパン調査
http://kantar.jp/whatsnew/final_FB%20knowledge%20share%207.pdf
 
Facebookに限らず、デジタルにおける動画広告は、オーディエンスが見るか見ないかを選択できるので、ニュースフィードやタイムラインで埋もれず視聴してもらうには、動画素材に工夫が必要です。SNS上ではどんな動画広告なら目に留まり、再生され、記憶に残るのでしょうか?
 
今回は、印象的かつ効果的なFacebook動画広告を目指す新たな試みとして、YouTuberによるUGCを活用して大きな成果を上げた、ソーシャルゲームの広告プロモーションについて、担当者である株式会社バンク・オブ・イノベーション プロモーション統括本部の五十嵐 規裕さんにお話を聞きました。
 

株式会社バンク・オブ・イノベーション プロモーション統括本部 五十嵐 規裕氏

 
 

SNS広告ではアドネットワーク以上に広告素材の質が成果に影響する

 
―― 株式会社バンク・オブ・イノベーションでは、ソーシャルゲームの広告出稿において、これまでどのような戦略をとっていたのですか?
ソーシャルゲーム業界では一般的に、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)から逆算して一定期間で100%回収できるCPI(Cost Per Install)を設定し、アドネットワークやSNSに広告を出稿しています。ですので、当社でも各媒体ごとに予め目標とするCPIを想定し、各媒体ごとのCPIを目指して出稿調整をしています。
アドネットワークでは、ゲームメディアに特化するなど、配信面を指定して出稿しますが、SNS、特にFacebookは細かいターゲティングが出来る上、良質なユーザーが多くLTVが高いので、目標とするCPIを上げて配信しています。
 
―― 新しく広告プロモーションを開始する際の予算配分はどのように検討されるのですか?
過去の回収率の実績などを参考にして、ターゲットとなるユーザーが利用しているであろうメディアを中心に、初期の予算配分をします。あとは広告運用していく中で、LTVとCPIを見ながら収益が最大化するように予算配分を変えていきます。
 
―― アドネットワークとSNSでは広告素材を変えていらっしゃいますか?
クリエイティブは、重複もありますが、数パターン作り、それぞれの媒体特性に合わせて設定しています。
Twitterは若いユーザーが多く、「2ちゃんねる」で盛り上がっているようなキーワードに関連したバナーが、良くリツイートされたりして効果が高いのですが、Facebookは美麗な幻獣やかわいいキャラクターを配置したものや、スマートフォンアプリであることが分かるようなクリエイティブが効果をあげています。
 
 
 

広告に最適化した動画素材の調達課題にYouTuber制作動画という光明

 
 
―― 昨年からは動画広告が盛り上がっていますが、実際に配信してみた所感はいかがでしたか?
当初、広告用の動画素材を用意するのが難しく、弊社だけでなく各社課題に感じていたのではないでしょうか。アプリをリリースする際に制作する、1分程度のプロモーション動画を、30秒とか15秒に編集して広告素材に利用していました。
また、動画広告自体も黎明期で配信ボリュームがあまり出なかったこともあって、広告素材に最適化した動画を制作するコストを考えると、検討し辛い施策でした。
 
―― 動画を使った広告を出せるようになったのはいいが、広告に最適化した素材の調達に課題感があったところに、今回の「YouTuber制作動画を活用する」という企画がマッチして、すぐに利用イメージが湧いたという感じですね。
そうですね。もともとYouTuberのゲーム実況は経験上、PR手法として効果的なのは分かっていたので、広告素材にしたらLTV向上に効果が出るのではないかと想定しました。やはり、動画ならゲームの魅力を視覚的に表現できますし、さらにそれがYouTuberのゲーム実況のようなプレイ画面を見せる動画なら、ゲーム内容を理解した上でダウンロードしてプレイしてもらえるので、きっと継続率が高くなるだろうという仮説があって採用しました。
 
―― ソーシャルゲーム業界は「ROAS(Return On Advertising Spend)=広告費用対効果」にシビアな印象がありますが、過去に実績のない、新しい広告施策を採用するのは難しかったのではないですか?
確かにソーシャルゲーム業界はROASに厳しいので、実績がない新しい施策は数字的な判断が出来ないため、会社によって対応が分かれると思います。弊社は挑戦的な施策にも積極的に取り組む方針なので、新しい可能性に賭けてチャレンジしてみようということになりました。
 

 
 

YouTuberの個性を活かしたユーザー視点の動画が広告配信でも共感を得る

 
―― 今回、YouTuberに広告動画の制作を依頼する上で一番注意した点はなんですか?
YouTuberにゲームユーザーの視点で動画を制作してもらうということは、コントロール出来ない部分が多いということだと事前に分かっていたので、いかに良いコンテンツを作ってもらうかは結構苦労しました。
こちらからは、本格ファンタジーRPGである「幻獣契約クリプトラクト」の訴求ポイントとして、「豪華声優によるフルボイス」「かわいいキャラクター」「かっこいいバトルシーン」の三点だけを明確にお伝えして、あとはYouTuberが面白いと感じたところを自由に表現してもらいました。
 
―― YouTuberが制作した動画は広告用に編集したり加工したのですか?
実況動画というと普通は結構長さのあるものなんですが、それをこちらで編集してしまっては、YouTuberに素材提供してもらうだけで、普通の広告動画と変わらなくなってしまいます。
YouTuberには、「字幕実況」が得意な人、「ゆっくり実況」が得意な人というように、プレイや編集のスタイルに個性があり、そのスタイルが好きなファンが付いています。ですから、それぞれの個性を活かして欲しいと思い、キャスティングしたYouTuberごとに、「この方にはこの切り口で」と指定して依頼し、初めから30秒のWeb CMとして完結するように作ってもらいました。
 
―― 今回はどのような動画を何本ぐらい制作されたのですか?
10名のYouTuberにキャラクター訴求、バトル訴求、ゆっくり実況の3パターンで分けて依頼し、10本の動画広告素材を制作しました。それをFacebook広告として配信し、検証しながら効果の高いものに出稿を寄せていくという運用をしました。
 
―― 動画素材の違いで効果に差はありましたか?
Facebook広告の特徴として、関連度スコアの高いものはCPCが低下し、インプレッションが増え、広告費用対効果が高くなります。ゲーム広告の関連度スコアは、平均的に6から7と言われていますが、今回最も効果のあった動画は9〜10という高スコアで、広告にも関わらず「いいね!」が沢山付きました。
結果として、静止画を使ったFacebookバナー広告に比べて、クリック率(CTR)1.5倍、インストール率(CVR)2.4倍と、想定以上の高成果となりました。インストール単価(CPI)に至っては、1700円前後と課題感があったのに対し、82%削減の約300円という成果を上げており、正直驚きました。制作費込みで見ても、おそらく500~600円ぐらいじゃないかと思います。
また、このデータは出稿開始後約1ヶ月のものですが、出稿開始から3ヶ月が経っても通常のバナー広告より高い効果が出ているので、クリエイティブ自体の寿命が長いと感じています。
 
―― 一番効果の高かった動画素材というのはどのようなものですか?
D’s Projectさんという女性YouTuberが制作したもので、本人が顔出しで、ガチャを引きながらキャラクターが登場する度に楽しそうにリアクションをしている、いわゆる「ガチャ動画」です。「ガチャ動画」自体が実況動画の人気ジャンルだということもありますが、実況者が女性で、顔が見えていて、本当に楽しそうにプレイしているというところが、Facebookで共感されたポイントかもしれません。また、Facebookのタイムラインでは、動画は無音で再生されることが多いので、字幕の使い方の巧さというのも重要ですね。
 

https://www.youtube.com/watch?v=ET5sjYQcKXk
※冒頭のダイジェスト部分をFacebook広告に利用
 
 
さらに今回は、30秒の広告用動画と一緒に通常の実況動画も制作してもらい、ご自身のチャンネルで公開してもらいました。YouTuberにとって、チャンネル登録者を増やすことはとても重要なので、視聴者に受け入れられないものは作りたくないという制作者心理が働き、UGCの自浄作用に繋がったと思います。
 
 
 

低CPIを実現するSNS動画広告クリエイティブ制作のポイントとは?

 
―― お話を聞いていると今回の施策成功のポイントは、YouTuberの心理や生態を五十嵐さんがよく理解していて、それを信頼して作品を預けたというのが、成功の秘訣だったんじゃないかと感じます。
ゲーム業界では今や、実況動画はかなりプロモーション効果が高いコンテンツとして、定番施策にもなっていますので、ノウハウが溜まっていたというのは確かにあります。
また、お陰様で「幻獣契約クリプトラクト」は、自然にプレイ動画を投稿してくださるYouTuberがかなりいるので、そういった方や投稿された動画を観察して、再生数や人気の要因を分析していた知見が、今回かなり役に立ったと思います。
いずれにせよ、「ガチャ動画」や「ゆっくり実況」のような、流行っていて人気があるとは分かっていても、広告ではあまりやらない演出が、「YouTuberならでは」の良さとして効果を発揮しました。
つまり、Facebookに限らず、インストール単価(CPI)を下げる SNS動画広告のクリエイティブ制作のポイントは、「ユーザーをいかに楽しませるか?」にフォーカスした内容に、「ガチャ動画+女性+笑顔」の要素をうまく盛り込み、広告でも共感してもらえる動画に仕上げること、なのではないでしょうか。
ゲーマー、ユーザー、YouTuberといった、オーディエンスみんなの気持ちを上手く汲みとって企画に活かしたことが、今回の成功に繋がったのだと思います。
 
―― 今後、Facebook以外の広告媒体や他のタイトルでも、YouTuber制作動画を広告出稿に活用したいと思われますか?
今回の結果を検証すると、他の媒体やアプリタイトルでも、効果的である可能性は高いと感じていますので、今後はTwitterやアドネットワークでも、YouTuber制作動画で広告出稿してみたいと考えています。色々なパターンを試してみることが、施策手法を確立して成功する近道だと思うので、人を変えたり、構成を変えたりしながら、もっと他にもユーザーが楽しめる切り口はないか、探してみたいですね。
 
 
 
<インタビュー後記>
YouTuberによる広告動画制作は、一つ間違えると「ステマ」感が出てしまう危険があります。しかし、BOIの五十嵐さんは、YouTuberの制作者心理をしっかりと理解したうえで、彼らのクリエイターとしての感性を信頼し、ユーザー視点を尊重したコンテンツ制作に取り組んでいました。それは広告配信において、消費者に嫌われないようにするのではなく、「広告でも楽しませたい」という積極果敢な姿勢であり、過去の数字にとらわれず、未来の可能性に投資するチャレンジが、「UGA(User Generated Ads)」という新たな局面を切り開きました。広告であっても共感されるコンテンツには多数の「いいね!」集まる、これこそがSNS広告の真骨頂だということが、驚異的なデータによって証明されたように感じたインタビューでした。
 
 
五十嵐 規裕氏  プロフィール
株式会社バンク・オブ・イノベーション
プロモーション統括本部
株式会社バンク・オブ・イノベーション
http://www.boi.jp/
「幻獣契約クリプトラクト」公式サイト
https://cryptract.jp/
 
 
インタビュアー:藤田 和重
(アライドアーキテクツ株式会社 ソーシャルメディアマーケティングラボ編集長)
■参考リンク:ニュースリリース
「YouTuber(ユーチューバー)を活用したSNS動画広告サービスを提供開始」
http://www.aainc.co.jp/news-release/2015/01046.html
 


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