D2C企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント、「D2C最前線」シリーズ。

シリーズ二回目となる今回は、現在急成長しているD2CブランドであるMEDERI、MiL、Linc’wellの3社を招き、「D2C的ブランド立ち上げ」をテーマにディスカッションを行いました。今回はその内容を前編・後編の2回に分けてレポートします!

ディスカッションの前半では、事業立ち上げの経緯、ブランドのストーリー作りや競合優位性の持たせ方、立ち上げ時に具体的にどんな点を重視したのかなど、D2Cベンチャー企業ならではの工夫ポイントがたっぷりと語られました。

※イベント:D2C最前線とは?
株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催するセミナーイベント。2020年2月の第一回開催に続き、2020年5月27日にシリーズ第二回目となる「D2C最前線 #2」がWeb上でのライブ配信形式で実施された。
D2C最前線 #2イベントサイト

「成長D2C企業が語るD2C的ブランド立ち上げとは?」
パネリスト(五十音順)
・MEDERI株式会社 代表取締役CEO 坂梨 亜里咲氏 
・株式会社MiL 代表取締役社長 CEO 杉岡 侑也氏 
・株式会社Linc’well COO 氷熊 大輝氏 

モデレーター
・W ventures株式会社 代表パートナー 東 明宏氏

MEDERI:ウーマンウェルネスブランド「Ubu」の確立へ

-東氏:今日は成長D2C企業3社をゲストにお迎えし、「D2C的ブランド立ち上げ」をテーマにお話を伺っていきます。まずは皆さんの会社の事業内容と、立ち上げの経緯を教えていただけますか?MEDERIの坂梨さんからお願いします。

坂梨氏:こんにちは、MEDERI(メデリ)の坂梨です。私は前職で「4MEEE」という女性向けメディアの代表をしておりましたが、2019年にその任期を満了し、同年にMEDERI株式会社を立ち上げました。現在は、事業の第一ステップとして、女性向けウェルネスブランド「Ubu(ウブ)」のブランド名にて、将来子供を望む女性へ向けたサプリメントを提供しております。

MEDERIを立ち上げた背景には、私自身の4年にわたる不妊治療の経験と、その経験を通じて生まれた後悔があります。結婚を機に受けたチェックをもとに、自分が妊娠しにくい身体であると知り、それからたくさんの時間とお金をかけて不妊治療を継続してきました。「もっと早く自分の体質に気が付ければ」という後悔のもと、自分自身に向き合い、女性のライフスタイルについて考え続けてきたのです。

私たちMEDERIは「自分の可能性を自覚し、自由に生きる女性で溢れる社会へ」をビジョンに掲げ、事業を展開しています。MEDERIの事業を通じて、「女性が人生の中で選べる選択肢」を増やしたいという想いがあります。

私たちは、現在の日本には社会としても、女性の人生としてもジレンマが生じている状態だと考えています。一つは、日本の人口が減り、女性も労働力として働くことが必要不可欠な一方で、女性の社会進出が進むほど少子化が進むというジレンマです。短期的に女性で労働力を補ったとしても、少子化が進むことで長期的には逆効果になるとも考えられます。

もう一つは、女性の人生として、自分のキャリアを優先するほど、子供を産むことが難しくなるジレンマです。子供が欲しいと思った時に、子供を持てる身体ではなくなっている可能性があります。

女性の「妊よう力(妊娠し、出産できる能力)」には年齢による変化があり、妊よう力が高いと言われる20代前半から34歳までは、ちょうど女性自身がキャリアを積み上げる時期に重なっています。妊よう力には個人差もありますので、自分自身の妊よう力に気が付くことができれば、人生の選択肢を拡げることに繋がっていきます。

私たちが実現したいのは、MEDERIを通じて、女性が妊よう力を正しく理解し、自分自身と向き合うことでその力を最大化できる選択肢を提供することです。それにより、社会を、そして女性が自らの人生を豊かにしていけると考えています。

私たちがチャレンジしているのはFemTech(フェムテック)と呼ばれる市場です。「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を意味しており、女性特有の課題をテクノロジーで解決するものです。

女性のヘルスケア分野での悩みには、大きく分けて、月経、性行為、妊娠、更年期の4分野がありますが、私たちはその中で「妊娠に関する悩み」に寄り添っていきたいと考えています。

現在発売しているのは、子供を望む女性に必要な栄養素を厳選したサプリメントと、妊娠・出産にまつわる知識が得られるUbu BOOK、一緒に未来を考えるUbu CARD(コーチングカード)を毎月お届けする「Ubu BOX」です。

今現在特定のパートナーがいて、妊娠準備をこれからする方、あるいは現在妊娠中の方を対象にしております。今年の秋前にはチェックキットを発売し、自分自身の体の状態を把握いただいた上で、サプリメント定期的にお届けできるようにする予定です。

また、今年の4月からは、医師、助産師、管理栄養士などの専門家が監修した妊娠・出産にまつわる情報を発信するWEBメディア「Ubu+」もスタートしました。専門家監修・執筆の記事、著名人インタビューを中心にコンテンツを構成し、20~30代女性がこれから直面するはじめてのライフイベントに寄り添うメディアです。

メディアで接点を持ち、プロダクトを知っていただき、そこから親になる選択肢を取った方向けのコミュニティスクールを運営する、その3つの軸を通じて、今後ウーマンウェルネスブランド「Ubu」を確立してきたいと考えています。

MiL:「子供×食」を起点に、ライフスタイルの変化に寄り添うブランドを目指す

-東氏:ありがとうございます。MiLの杉岡さんは、食分野のD2C事業を行っていらっしゃいますが、どのような経緯で事業を立ち上げられたのですか?

杉岡氏:株式会社MiL(ミル)の杉岡です。

私たちは、「ヘルシーでエシカルな世界を作っていく」ために、2018年に株式会社MiLを創業しました。「自分らしい人生を食から実現する」をミッション、「世界を代表する食ブランドになる」をビジョンに掲げ、現在はその第一ステップとして、子供の成長にあわせてパーソナライズしたベビーフードをサブスクリプション形式で提供するサービスを展開しています。

私たちの体は「自分たちが食べたもの」で出来上がっています。食べるもの、その選択全てが未来、社会に繋がっていると、私たちは考えています。この写真は、自分と自分の妻の体にペイントしてもらったアートです。自分の体の中を野菜で表現したこのアートは世界の多くの国でも取り上げられ、注目をいただきました。

私たちの事業ドメインである食の産業は全体で680兆円、車の産業180兆円と比べても4倍ほどの規模がありますが、この分野はテクノロジーによってこれから大きく変わっていくと考えています。

例えばモビリティ産業、PCハードウェア産業など、20年前と比較してメジャープレーヤーが大きく変わっている分野がありますが、その中で伸びてきた企業の中心にはテクノロジーがあったと思います。

私たちは、食の分野にも、今後同じくテクノロジーを通じて産業革命が確実に起こると考えています。従来は、消費者に関するデータを一番持っていたのは小売店であり、スーパーマーケットや百貨店が力を持っていました。

しかし、これからはメーカー自身がデータを持つ時代です。食をDirect to Consumerでウェブ、eコマースを通じて売るというだけの話ではなく、今後は、世界観の構築から物づくり、顧客への接点や小売全体までを捉えた「製造小売産業そのもの」の大きな構造変革が起きるのではないでしょうか。

食産業の中でも、私たちが現在取り組んでいるのは、家食用のベビーフードです。子供の成長にあわせてパーソナライズされたベビーフード「the kindest(カインデスト)」を、サブスクリプション形式で毎月お届けしています。「サブスク×ベビーフード」の分野に取り組んだのは弊社が日本初です。

こちらのサービスをリリースしてから1年で178,800食以上売り上げ(2020年3月時点)、ECでは日本で断トツ一番大きなブランドに成長しました。

現在は、「子供×投資」分野におけるベビーフードというニッチな分野にフォーカスしていますが、ここでまずはブランドを確立し、その後子供が生まれたとき、病気した時などの「ライフスタイルの変化」を起点に、縦に横に、弊社の取り組む領域を広げていきたいと考えています。

Linc’well:テクノロジーを通じて、ヘルスケアのプラットフォーマーへ

-東氏:ありがとうございます。次に、ヘルスケア領域でチャレンジされているLinc’wellの氷熊さんお願いします。

氷熊氏:こんにちは。株式会社Linc’well(リンクウェル)の氷熊です。私はもともと新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、ヘルスケアのプロジェクトを中心に、製薬企業や医療機器メーカーなどの幅広いプロジェクトをサポートしておりました。

その中で、日本のヘルスケアが真の意味で変わり、UXを抜本的に良くするためには、まずクリニックなどの現場が変わらないといけないという問題意識を持ち、2019年10月よりLinc’wellに入社しました。

弊社は「テクノロジーを通じて医療を一歩前へ」をミッションとし、スマートクリニック「CLINIC FOR(クリニックフォア)」をプロデュースしています。また、オンライン診療の事業や、クリニック開発のメディカルブランドのD2C事業も展開しております。

私たちが行っている第一の事業は、IT武装したスマートクリニック「CLINIC FOR」です。クリニックをより便利で身近なところにすることを目指しています。

従来のクリニックには、夜間はやっておらず仕事が終わってから受診できない、週末もやっていない、待ち時間が長い…など、特に働いている世代にとって大きな課題が存在しています。

また、テクノロジーが入っておらず、オンライン予約ができない、オンライン診療もできない、検査結果すらネットで確認できないのが現状です。「電子カルテ」ですら、全体の約35%程にしか入っていないと言われています。

そこで私たちは、開業される医師の方・クリニックをプロデュースするという形で、2018年より、週末も含めて毎日診療、オンライン予約可能、待ち時間の短縮、テクノロジー導入による効率化(院内オペレーションや事前問診など)を実現したクリニック「CLINIC FOR」の第一号店舗を田町より開始しました。現在は、都内に我々がプロデュースしているスマートクリニックが4つあります。

キャッシュレス、ウェブによる問診、オンライン診療から薬剤を配送するなど、UXには徹底的にこだわっています。その結果、一般的にクリニックには高齢者の来院が多い一方で、現在弊社のクリニックに来院される方の8割以上は働く世代となっており、この世代へのインフラとして機能し始めています。

ただし、健康という観点で考えると、「実際に症状が出て、クリニックに行く」もっと手前からケアが必要ですし、皆さんもさまざまなアクションを起こしていらっしゃいますよね。

それが「悩み」や「予防」と言われる非医療分野です。私たちは、それら非医療分野についても、医療分野の提供者と同じ主体が、データをもとに様々なサービスを提供していくことに価値があるのではないかと考えています。

例えば、弊社が最近着手し始めた自宅での治療のための「オンライン診療」や、ホームケア(予防)を前提にした「メディカルブランド」がそれに当たります。今後は、プライマリ・ケアクリニックチェーンをテコに、ヘルスケアプラットフォーマーを目指したいと考えています。

今回はオンラインミーティングツールを使用し、リモートセミナーの形で実施された

エモいストーリーの裏に、緻密な戦略あり。ブランド立ち上げ時に重視したポイントとは?

-東氏:次に、皆さんが事業を立ち上げる際に、「ブランドづくり」の観点で何を重要視していたのかを教えていただけますか?

杉岡氏:事業として成り立たせる以上、私たちのこの事業がどれだけ競合優位性があるものになるかを、立ち上げ当初は最も重視していました。何か新しいものを作っていくには、ほぼ競合優位性がゼロのところから作っていかなければなりませんよね。

それが「0→1」の面白いところであり、難しいところでもあると思っています。私たちのいったい「どの1点」が、誰にとって競合優位性になり得るのか。その点をめちゃくちゃ考えていたと思います。

弊社には、アスリートの為末大さんや長友祐都さんからも出資をしていただいていますが、彼らのように仲間が多く、自社のアセットと親和性のある方に入っていただいたのも、最短で競合優位性を作るための方法の一つでした。

また、私たちが選んだ「ベビーフード」という分野は、市場規模としては400億円程度であり、大手企業が新規事業として立ち上げるにはあまりにも小さい規模なんですよね。

その中の「ヘルシー志向」というとさらに対象はニッチになります。ニッチ市場の中のさらにニッチなターゲットに大手企業が何億円もかけて参入するかというとそれは考えにくい、一方で食品を作るのは大変なのでスタートアップも参入しにくい。

このように、仲間選び、投資家選び、そしてブランドのターゲット選びも、いかに最短で自分たちの事業アセットに競合優位性を持たせられるかの重要な要素ではないでしょうか。

株式会社MiLの投資家には為末大さんや長友祐都さんなどの著名人も含まれている

-東氏:なるほど。有名人に語ってもらうのも一つの競合優位性の持たせ方とのことでしたが、自社商品を有名人に語ってもらう根本となる自社ブランドの「ストーリー」や「世界観」はどのように出来上がってきたのでしょうか?

杉岡氏:私は日々の積み重ねの中からブランドの世界観が生まれると考えています。例えば今私がとてもいいことを言っていたとしても、私のことを元々知らない限りは、それは聞いている皆さんにとって一過性のものですよね。

同じように有名人が何か言ってくれて、それによってこのブランドがとてもすごいものに見えるとしたとしても、それも瞬間風速であり、一過性のものだと思うんです。

私はブランドは時間をかけて、結果として作られていくものだと考えています。何回このブランドや商品のことを思い出してもらえるか、何通りでブランドのことを説明できるか、共感できるポイントがあるか、その複雑性でブランドが出来上がっていくのではないでしょうか。

ですので、ブランドの世界観を作る、ストーリーを語るというよりは、まずは事業として3年、5年続けられるかを重視してきました。ストーリーの中身よりも、ストーリーを伝える事業構造作りに注力してきた、とも言い換えられます。

-東氏:D2Cのブランド立ち上げというと、「ブランドのストーリー作り」を重視する印象がありますが、杉岡さんは、何よりも「ブランドとしての事業構造作り」に注力してきたということですね。大変興味深い話をありがとうございます。

一方で、坂梨さんは、自身の経験も踏まえて深く刺さるブランドメッセージを打ち出していらっしゃいますが、どのようなことを重視しながらブランド立ち上げをしてきたのですか?

坂梨氏:立ち上げ初期に考えていたのは、20代前半のまだ妊娠・出産に対する意識があまりない潜在層の方に、一刻も早く妊よう力の知識を付けてほしい、ご自身の妊よう力を知っていただきたいということでした。

ただし、こうした潜在層にいきなりアプローチすることは難しいですし、何よりコツコツと信頼関係を気付いていくこと、歴史を積み重ねることが大切だと思ったため、まずは、すでにパートナーがいて妊娠準備をこれからする顕在層、明確層を重視しようと考えるようになりました。

私が前職のメディアを作った時に感じたのが、誰よりも早くメディアを開始したという「先行者メリット」とそれを「継続すること」の大切さです。今回の事業立ち上げの際も、一刻も早く購買意欲がある明確層向けのサプリメント「Ubu」を立ち上げることに注力しました。今後はここから潜在層や準潜在層にアプローチしていきたいと考えています。

現在は、自分自身の経験がターゲット向けのアプローチにドンピシャではまるため、自分自身が前に出てブランドストーリーを話しています。そうすることで「MEDERI=妊よう力」のポジショニングを取ることを目指しています。

フェムテックの領域は今年になってから大変注目されており、おかげさまでメディアから弊社への取材もたくさんいただいています。広告費をかけずに認知してもらうことも指標の一つとして置いています。

MEDERIのコーポレートサイトには多数のメディア掲載情報が並んでいる
画像引用:MEDERI コーポレートサイト

-東氏:ありがとうございます。氷熊さんはいかがでしょうか?「ブランドづくり」の観点で何を重視してこられましたか?

氷熊氏:私たちのD2Cブランドは悩みにアプローチするものであり、コンプレックス商材の一つだと思います。

世の中にはそのような商材がたくさんありますが、私たちがその中で大切にしているのは、コンプレックス商材っぽくないブランド、デザインで商品を提供し、治療やケアを身近にすることです。

さらに中身をみるとしっかりとした医師が一緒に開発していることで安心感を提供できるのでは、そのような世界観やプロダクトが市場から求められているのではと仮説を立てました。

立ち上げ時に意識するのは「プロダクトマーケットフィット」、つまり顧客の満足する最適なプロダクトを最適な市場に提供することですが、本当にそれがあるかどうかは、実際にやってみないと分からないこともありますよね。

ですので、私たちはクラウドファンディングに出してみて、実際に私たちのストーリーにどれだけ支援してくださる方が集まるのかにトライしてみました。

メディカルブランド「Sui+」をMakuakeで先行発売
画像引用:メディカルブランド「Sui+」クラウドファンディング|Makuake

クラウドファンディングを通じて支援いただいた方にインタビューすることもできますので、私たちとの持つ仮説とユーザーの受け取り方が本当に合っているかを確認するようにしました。「ブランドづくり」を行う際、まずは考えすぎずにやってみる、直接消費者の方とコミュニケーションしてみるのも大事だと思います。

※ディスカッションの後半では、各社によるクラウドファンディングの経験、どのように生活者の声を聴いているか、事業立ち上げから拡大フェースに移行する際の注意点などが語られました。

後編はこちら:急成長D2CベンチャーMEDERI、MiL、Linc’wellが描く、「大企業に負けない」D2Cブランド拡大戦略【D2C最前線#2 イベントレポート・後編】