D2C企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント、「D2C最前線(※)」。

シリーズ三回目となる今回は、「パーソナライズ」D2Cブランドとして日本のTOPを走る株式会社Sparty、POST COFFEE株式会社、トリコ株式会社の3社が登壇し、ディスカッションが行われました。

顧客毎にパーソナライズされた商品を届けることで顧客満足を高めるモデルは、究極の「顧客起点」を体現している一方で、課題や要望を診断するロジックや商品体験の設計から、パーソナライズのメリットを伝えるマーケティングメッセージの発信まで、極めて難しい領域でもあると言えます。

「パーソナライズ」プロダクトを展開する3社が描く成長戦略とは?マーケティングで大切にしていることは?ディスカッションで各登壇者から語られたポイントをご紹介します。

※イベント:D2C最前線とは?
株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催するセミナーイベント。2020年7月9日にシリーズ第三回目となる「D2C最前線 #3」がWeb上でのライブ配信形式で実施された。
D2C最前線 #3イベントサイト

「パーソナライズD2Cの成長戦略と設計とは?」
パネリスト(五十音順)
・株式会社Sparty 上原 涼子氏 
・POST COFFEE株式会社 代表取締役 CEO 下村 領氏 
・トリコ株式会社 CEO 藤井 香那氏 

モデレーター
・株式会社ポーラ・オルビスホールディングス コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸 裕一郎氏

「ありすぎて選べない」をパーソナライズで解決

ポーラ・オルビスホールディングスでコーポレートベンチャーキャピタルを担当するモデレーターの岸氏は、まず各登壇者に「パーソナライズのプロダクトを展開する背景」について問いかけました。

株式会社Sparty 上原氏(以下、上原氏):2018年5月からパーソナライズシャンプーブランド「MEDULLA(メデュラ)」を展開している。これまでは大量生産社会で「いかに効率的に良いものを届けるか」が求められていたが、現代は「たくさんいいものがあるけれど選べない」状態。シャンプーも現在1万種類くらいあると言われており、多くの方が「何を選べばよいか分からない」課題がある。MEDULLAは、一人一人にカスタマイズしたシャンプーを届けることで、それらの課題の解決を目指している。

日本初のパーソナライズシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」。約3万通りの組み合わせから、顧客毎に1本1本カスタマイズしたシャンプーとリペアを提供している。2018年5月に販売を開始し、会員数はすでに14万人以上(2020年5月時点)。2020年5月からはパーソナライズスキンケアブランド「HOTARU PERSONALIZED(ホタル パーソナライズド)」も展開している。

POST COFFEE株式会社 下村氏(以下、下村氏):お客様の好みに合わせたコーヒーをサブスク型で毎月届けるサービス「PostCoffee(ポストコーヒー)」を展開している。もともとはデザインとシステム開発の会社を15年経営し、並行してスタートアップに参画し資金調達から売却までを経験した。またこれも並行して富ヶ谷にコーヒー屋をオープンし、自分もバリスタとして店頭に立って3年ほどたつが、その中で「お店に来るお客様は自分の好みが分かっていない」「必ずバリスタのおすすめを選ぶ傾向にある」ことが分かった。その経験が現在のサービス提供に繋がっている。

パーソナライズされたコーヒーが毎月ポストに届くサービス「PostCoffee(ポストコーヒー)」。世界15カ国、30種の最高品質のスペシャリティーコーヒーを厳選し、10の質問に対する顧客の回答に応じて約15万通りからその人に合ったコーヒーをカスタマイズして自宅に届けている。2020年の2月に正式版ローンチから3カ月で、コーヒー診断を受けた人数は5万人を突破している(2020年5月時点)。

トリコ株式会社 藤井氏(以下、藤井氏):パーソナライズスキンケアブランド「FUJIMI(フジミ)」において、サプリメントとフェイスマスクを提供している。もともと美容メディアをやっているときに、友人から「どんなものを買えばいいか」尋ねられることが多く、多くの人が数多くの商品から自分に合うものを選択できない悩みがあることに気付いた。さまざまな美容商品の中でも、サプリメントはまだまだいかがわしいイメージも強く今後改善の余地が大きいのではないか、この領域で圧倒的な商品を生み出せれば大きく成長できるのではないかと考えて市場選定した。

肌診断から処方するカスタマイズサプリ「FUJIMI」。約20問の肌診断の結果に基づき、カスタマイズ処方されたサプリメントを提供している。2019年3月に販売を開始し、すでに約50万人が肌診断を完了。2020年2月からは、肌診断のデータをもとに日本初のカスタマイズフェイスマスクも展開している。

商品の製造、個人の好みの見極め…パーソナライズ商品を生み出す苦労とは

次に岸氏は「以前より、大企業からもパーソナライズの商品を提供したいという話はあった。しかしながら、実際にそれを実行しサービスとして提供するのはかなりハードルが高いことなのではないか?」と尋ね、各登壇者はパーソナライズプロダクト提供の実現までに苦労した点を語りました。

藤井氏:OEMで商品を製造してくれる先を見つけるのが大変だった。もともと別業界にいたため、前提となる業界の知識もなかった。まずは業界のOEM大手3社と会い、「経済ロット」「原価」「製造期間」の3つの概算を把握するところから始めた。最初に話を持っていったときは、「パーソナライズ商品を作りたいというお客様はいるが最終的に商品化までこぎつけた人はいない」という反応だった。

でも、業界大手からの見積もりをもとに、より精度の高い企画書や商品計画を提案できるようになるに連れ、振り向いてくれるOEM先が増えてきた。最終的に現在のOEM先を決定するまでに数十社と会い、綿密に事業計画を立てて条件が合うところを選んだ。スタートアップにとっては、より精度の高い事業計画を立てられるか、それによりサステナブルな成長を見込めるかが肝。机上で考えているのではなく、とにかくOEM先に会いに行くのが先決だ。

下村氏:もともとコーヒー屋をやっているときに「パーソナライズコーヒーのサブスク」の事業を考えつき、半年ほど構想期間にあてた。実際に開発を開始してからは約1カ月でベータ版をリリース、街にあるロースター屋で焙煎機を借り、テストとしてユーザーの反応を見る試みを1年間ほど続けた。

その結果を踏まえて自社で焙煎機を購入、今年の2月に正式版をローンチして今に至っている。自社で商品を製造しているため、その点についてはパーソナライズならではのやりにくさはない。ただし、コーヒーは嗜好品であり、高いものを選べば必ずそのお客様にフィットするというわけでもないため、どのようにパーソナライズさせていくかの科学の部分が難しいと感じている。現在は、コーヒーの味ではなく、お客様のライフスタイルを科学し、それに合わせてパーソナライズしたコーヒーを届けている。

上原氏:パーソナライズ商品の場合は、「商品の品質が自分にぴったり合って当たり前」という前提があるため、「お客様からの期待を外さない」ための商品のスピーディーなチューニングが重要だ。商品製造元であるサティス製薬との定期的なミーティングを欠かさず、スピーディーに商品や製造プロセスを改善することが、お客様のLTVにもダイレクトに響くという実感を持っている。

(左上)株式会社ポーラ・オルビスホールディングス コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸 裕一郎氏
(左下)株式会社Sparty 上原 涼子氏 
(右上)トリコ株式会社 CEO 藤井 香那氏
(右下)POST COFFEE株式会社 代表取締役 CEO 下村 領氏

「わたしだけの商品」と満足してもらうために、顧客体験の設計を工夫

パーソナライズ商品を使い続けてもらうためには、顧客が「自分にあったサービス」であると納得してくれるかがポイントです。各社は、それぞれがどんなことを大切に顧客体験を設計しているのでしょうか?

上原氏:「スマホの中の美容室」を目指している。購入の際、お客様にWeb上で9つの質問に答えていただくが、美容室でカウンセリングしながら髪質の悩みを話してもらうイメージで設計している。また、シャンプーに使われている成分は、化粧品の成分と比較してあまり一般的に認知されていないため、購入時にスタイリストから各お客様へ処方箋カードを同梱し、「なぜこの成分が良いのか」や、「なぜこの処方にしたのか?」を分かりやすくお伝えするようにしている。

さらに、何度も使い続けてもらうためにはフィードバックをもとに、その時に合ったものをきちんと提供していくことも大切だ。パーマをかけたらパーマの持ちが良いものを、季節的にベタつくから頭皮のケアもできるものを、などお客様の要望はその都度変わっていく。美容室のスタイリストと都度相談するように、ウェブサイトでのフィードバック機能、LINEのチャット、電話、サロンでの無料体験などを通じて都度納得しながら、楽しんで使ってもらえるように工夫している。商品のマッチ度や満足度、継続度を定期的に計測して改善に活かしている。

藤井氏:弊社が提供しているカスタマイズサプリメントもフェイスマスクも、いずれもまずはお客様に「肌診断」を受けていただき、その結果をもとに商品を提供している。従来から百貨店のコスメカウンターなどで肌診断は行われていたが、肌診断はとてもリッチなのに、お勧めされる商品は既存の「乾燥肌、敏感肌、普通肌」の商品の中から組み合わせを提案されるだけ。肌診断からプロダクトへの流れがスムーズな顧客体験にはなっていないと感じていた。「FUJIMI」でこだわっているのは、診断結果からきちんと「あなただけの商品」に繋げるプロセス。すでに50万人の肌診断データベースを蓄積しており、サプリメントとフェイスマスクを組み合わせて最適な提案ができる体制を整えている。

また、CRM施策でもさまざまな工夫を行っている。定期購入のお客様だけにお送りしている「お肌のチェックシート」もその一つだ。このチェックシートに記入しLINEで送ることで、かなりリッチなフィードバックを受けることができる。ウェブサービスでも、より「人感」を出してコミュニケーションを行うことで、ロイヤリティを高めていただけるのではないか。「商品が合わない」と感じたお客様にも、丁寧なコミュニケーションから別処方への変更を提案することで、LTVの向上にもつながる。

「FUJIMI」が定期購入の顧客に同封している「お肌のチェックシート」。記入の上、写真にとってLINEで送ると、専任のコンシェルジュから、各個人にあわせたリッチなフィードバックが届く。

下村氏:まずは「9杯分で1,480円」のミニマムプランを選んでいただくようにしている。そこで気に入ってもらえれば毎月のボリュームを増やしたり、届くタイミングを月に2回に変えるなどのカスタマイズができる。最初は少し足りないくらいの量をお届けすることで、「来月も届いたらいいな」に繋げている。また、毎回「好き」「嫌い」「苦手」の3段階でワンタップで商品のフィードバックを送れるようにしており、その結果を次のコーヒーのお届けに活かしている。

UGC、リアル店舗等…力を入れているマーケティング施策とは

新規顧客獲得のために各社はどんな工夫を行っているのでしょうか?

下村氏:弊社はまだ商品をリリースして数か月のため、プロダクトマーケットフィットを探る目的も含めて「UGC」を中心としたコミュニケーションを行っている。具体的には、インスタグラムでのUGC発生を狙い、写真を撮りたくなる環境の構築に注力している。モニター施策を実施、現在は商品を無料でお送りし受け取っていただいた方の70%以上がインスタグラムに写真を投稿してくれている。「必ず写真を撮ってください」とお願いするのではなく、「Post Coffeeをぜひ体験してください」というコミュニケーションの取り方だ。

商品を無料で送るモニターのリストアップの精度を高めることがポイントであると感じている。現在は、キャンプやインテリアに興味を持っているユーザーの方を中心にモニターを依頼している。そのユーザーの方の界隈で「Post Coffee」が流行っている感を出すことが狙いだ。それにより、そのカテゴリのメディアでの取材につながることもある。

Instagram上には、「Post Coffee」に関するさまざまなUGCが投稿されている。

美容は身体の悩みでありUGCを投稿しにくい面があるかもしれないが、コーヒーは「シェアする楽しみがある」と感じている。もともとベータ版を提供していた時から、多くのユーザーがコーヒーの淹れ方やレシピなど、「自分がコーヒーを楽しんでいること」の発信をしていることに気が付いた。現在は、コーヒー診断の結果をTwitterで気軽にシェアできる環境も用意している。

他にもさまざまな「UGCを投稿したくなる工夫」をしている。商品に同梱する冊子を毎月変えており、冊子の中にUGCを掲載する取り組みもその一つだ。掲載されたユーザーの方から「私の写真が掲載されました!」という新たなUGCが投稿され、また冊子を見た方からも「私も写真を投稿してみようかな」というモチベーションアップにつながっていると感じる。

また、毎月ボックスの中におまけをつけ、発送回数により届く内容を変えている。配送ボックスもUGCをもとに毎月のように改善して新しいものを届けている。ちょっとした驚きがUGCの発生につながる

毎月変わる新しい冊子、商品BOX、おまけなど「ちょっとした驚き」がUGCの発生につながっている。

上原氏:オンラインに加えて、リアルの接点を大切にしている。現在は有楽町の丸井1階にフラッグシップショップを構えており、無料のヘアカウンセリングや頭皮診断、ギフトラッピング体験など、店舗ならではのサービスを提供している。「香りを嗅ぐ」のも店舗だからこその体験だ。

また、現在500を超える美容室と提携し、MEDULLAをサロン店内で販売していただいている。「パーソナライズシャンプー」に関する研修を受けた認定スタイリストが、お客様への対面カウンセリングを通して「体験型販売」をし、最終的にはお客様自身がサロンでウェブから申し込む仕組みだ。

このようなリアルの接点を通じて購入いただいたお客様はLTVが長いことが分かっている。

(左)MEDULLAフラッグシップストア 有楽町丸井
(右)提携美容室にて、認定スタイリストを通じてMEDULLAの体験型販売を実施(イメージ写真)

「パーソナライズD2C」3社が描く、今後の成長戦略

最後に岸氏は、各登壇者に今後の成長戦略について問いかけました。

下村氏:Post Coffeeで扱っているコーヒーは、コーヒーのヘビーユーザーに刺さる大変品質の良いスペシャリティーコーヒーだ。これからはもっと日本国内でコーヒーのリテラシーが上がる施策を打っていきたい。そして、この市場においては他のコーヒー屋でコーヒーを買う理由がなくなるくらい商品の質やUXを向上させて、「コーヒーを買うならPost Coffee」の状態を作っていきたい。

そのために、現在ネイティブアプリの開発も行っている。また、「オンライン接客」などを通じてお客様とコミュニケーションを取る場も作っていきたい。今は新型コロナの影響で店舗を開けられていないが、実際に弊社の店舗に来店し接客を受けていただいたお客様は熱狂的なファンになっていただけることがデータからも分かっている。アフターコロナにおいてもオンラインを通じて同じ仕組みが再現できないか検討中だ。

上原氏:現在は単体でパーソナライズシャンプーやスキンケアのブランドを展開しているが、今後はパーソナライズ領域でより統合されたブランドを目指している。自社で商材を横に広げていくほか、他社との連携も含めて「パーソナライズを基軸としたビューティーテックカンパニー」としてのポジションを確立させていきたい。

藤井氏:肌診断をもとに提案できる商品を「FUJIMI」ブランドの中で増やしていきたい。現在展開しているサプリメントとフェイスマスクは、当初想定よりもクロスセル率が高い結果が出ている。商品のラインナップを増やすことでブランド力を高め、1商品あたりのCPAも下げていきたい。

 

以上、「パーソナライズ」D2Cブランドを招いて行われたイベント「D2C最前線」のサマリーをお届けしました。商品製造から購入時の顧客体験、購入後のコミュニケーションまで、全ての設計を顧客起点で行うパーソナライズのモデルには、情報や選択肢が溢れる現代に自社商品を選び使い続けてもらうためのたくさんのヒントが詰まっていました。既存の商品やビジネスモデルありきで考えるのではなく、顧客からの期待値や要望に常にアンテナを張り、それに合わせて変化していくことが、これからのマーケティングでもっとも大切なことなのかもしれません。