SaaSプロダクトを通じて総計200社を超えるD2C企業を支援してきたアライドアーキテクツ株式会社 取締役 CPOの村岡弥真人と、ECカート・物流・マーケティングなど各分野におけるD2C支援企業との対談を通じて、成長するD2C企業のフレームワークを解き明かしていく本連載企画。
第二回目のゲストは、物流やCRMの領域でD2C企業を支援するスタークス株式会社 取締役の大塚真吾氏です。10年以上に渡り累計1,000社以上の単品リピート通販企業を支援してきた大塚氏は、ここ数年の「D2C」の潮流をどう捉えているのでしょうか。また、その中で成長する企業にどのような共通項を見出しているのでしょうか。
単なる一過性のトレンドとしてではなく、生活者に長く愛されリピートされるD2Cブランドは何が違うのか、その本質に迫ります。
ここ数年の「D2C」の変化とは?
アライドアーキテクツ 村岡:まずはスタークスの事業概要を教えていただけますか。
スタークス 大塚氏:スタークスは2012年の創業時から一貫して単品リピート通販企業、D2C企業の支援のみを行ってきた会社です。化粧品、食品、健康食品などの単品リピート通販企業を累計1,000社以上支援してきました。
私たちの特徴は、通販における新規顧客獲得支援ではなく、顧客からご注文いただいた後のフルフィルメントやCRM領域における支援に特化していることです。
現在は、クラウド型発送代行サービス 「クラウドロジ」 、カートシステムと連携し定期顧客向けにLINEでCRM施策やカスタマーサポート業務ができるD2C向けLINE拡張ツール 「リピートライン」 を提供しています。
村岡:この10年で単品リピート通販・D2Cを取り巻く環境にはどのような変化がありましたか。
大塚氏:私は2008年からこの業界にいますが、2010年頃から「定期縛り(※)」と呼ばれるモデルが登場しました。その後、定期縛りにアフィリエイト広告を掛け合わせて急成長する単品リピート通販企業が増え、その時代が長く続きました。
※定期縛り:定価よりも割安な価格で商品を提供する代わりに、顧客に一定期間の購入を約束させるモデルのこと
ところがその流れがこの1~2年で大きく変化しており、最近はアフィリエイトや定期縛りに頼ることなく売上を伸ばす企業が徐々に増えてきたと感じています。背景には、定期縛りやアフィリエイトに関する規制の強化もありますが、従来のように広告に大きな投資をしなくても、ブランドの力でオーガニックやSNSを通じて顧客を獲得し、リピートされる企業が出始めています。もちろん、売上規模を伸ばしていくには広告への投資を強化するのは必須ですが、広告比率の低さにびっくりするケースがあります。
村岡:従来の単品通販モデルと言えば、新規顧客獲得のために多額の広告投資をし、その中から一回目、二回目と更新いただける顧客をどれくらい作れるかの予測を立て、売上収益をマネージしていくやり方が一般的でしたよね。
ところが、ここ最近は広告投資に頼るのではなく、ブランドの力で顧客を獲得し愛される企業が増えているというのは大変興味深いトレンドだと思います。その背景にはどのような市場の変化があるとお考えですか。
大塚氏:2010年代中盤までは商品のコンセプトやポジショニングで売れていた商品でも、2010年代中盤以降は競争が激化し、何を出してもすぐにマネされてしまうような状況になってきました。商品そのものでの差別化が難しいため、いかに多額の予算を広告投資に振れるか、商品を早く展開できるかの勝負になっていたと思います。
一方で、最近目立ち始めている企業は、従来のやり方で真っ向勝負するのではなく、本質的に強いプロダクトを持ち、自分たちのやり方で顧客と向き合っている企業だと感じています。市場が飽和状態になる中では、もはや商品のコンセプトやポジショニングだけで勝つことは難しいんだと感じています。
村岡:市場が飽和し、生活者としてもさまざまな商品を見飽きていることも背景にありそうですね。従来のようなブランドや商品の作り方では生活者の心に響かず、今までの基準にはなかったものが求められるようになってきたのかもしれません。
私は、2013年頃からずっと単品リピート通販企業様向けに新規顧客獲得広告支援をしてきましたが、当時はアドテクが絶頂期で、Facebook広告を最適化すればある程度再現性高く商品が売れるような時代でした。
そこから潮目が変わってきたのが2016年頃と感じています。世の中のデジタル化が一気に進み情報量も急拡大、デジタル広告も飽和状態になり、単にLPを作って広告を精度高く運用するだけでは新規顧客数を伸ばすことが難しくなってきました。
そこで私たちが着目したのがクリエイティブです。当時、世の中の大半が「宣材写真にオファーとロゴを掲載したクリエイティブ」でデジタル広告を出稿しており、まだこの領域はあまり科学されていませんでした。
広告を見る人により反応してもらえるクリエイティブは何かを考え、辿りついた一つの仮説がUGC(User Generated Contents)の活用です。他の人が生活の中で商品を使っている様子を見ることで、その商品をより自分ごと化してもらえるのではないかと考えました。そこで、オファーもロゴも入れずに「単にスマホで撮影しただけの商品写真」をクリエイティブとして出稿してみたところ、広告のCPAがそれまでの半分くらいになったのです。この経験から、従来のやり方に囚われることなく、今の生活者にいかに自分ごと化してもらえる伝え方ができるかが重要だと感じました。
成功するD2C企業の共通項①:その投資は「顧客にとって本当に必要なことか?」
村岡:先ほど、「成長している企業は自分たちのやり方で顧客に向き合っている」というお話がありましたが、具体的にはどのようなことを指しているのでしょうか?
大塚氏:一つは、顧客の体験価値を高めることに重点を置いていることです。
例えば、従来通販企業では、コールセンターを持ち電話で顧客応対をするのが当たり前でした。しかし、現在コールセンターのコストは上昇する傾向にあり、通販企業にとって負担が大きいものとなりつつあります。そのような中で、徐々に「全ての応対を電話でする必要はないのでは?」と気づき始めた企業が、LINEやチャットボットによる顧客応対に切り替え始めています。顧客への「テックタッチ」を増やして全体的なコストや人的負担を減らす代わりに、LINEなどを通じて1対1の丁寧なコミュニケーションをする「ハイタッチ」に投資しているのです。
村岡:従来の常識に縛られることなく、顧客が本当に必要としているところに人とお金を投資する判断をしているということですね。
大塚氏:はい。そのような企業は、顧客応対のことを「カスタマーサポート」ではなく「カスタマーサクセス」と呼んでいることも印象的です。テックタッチを増やして人手が空いた分、コンシェルジュのように一人一人にあわせて本当に丁寧にLINEでコミュニケーションしたりしているのですよ。
また、以前はコールセンターに顧客の解約を抑止する機能を持たせることもありましたが、最近は「強い解約の抑止は、顧客体験の毀損(きそん)になるからしない」という企業も登場しています。解約を抑止するのではなく、むしろ顧客がLINEなどを通じていつでも自由にカスタマー担当にアクセスし、定期商品の配達をストップや再開ができるようにし、顧客の体験価値を高めることに重点を置いているのです。
村岡:従来コストをかけていた部分への投資を減らす分、ブランド作りや商品作り、顧客との本当に必要なコミュニケーションに還元する企業が増えているということですね。
私たちアライドアーキテクツが提供するUGC活用ツール「Letro」のお客様に、D2Cコスメブランドを展開するDINETTE株式会社があります。以前同社のCEO尾崎美紀氏にインタビューした際に、「同社はブランド立ち上げ時に、とにかく原価度外視で良いものを作ることに重点を置いた」というお話を聞きました。従来の通販企業の商品作りの考え方としては、まずは原価率があり、そこに広告費などの必要経費や廃棄率などを加味し、その中で全てが収まるようにするという常識があったと思います。でもDINETTEさんの場合は、まずは良いものを作るために惜しみなく初期投資を行い、普通なら広告費に投資する分をプロダクト開発に回したそうです。また、購入後もお客様がブランドから離れていかないように、社長の尾崎氏自身も手を動かしながら、SNSを通じたコミュニケーションを欠かさずに行っているそうです。
このようなお話を聞いていると、やはり成長する企業は「顧客にとって本当に必要なものは何か?」の本質にたどり着いており、そこに必要な投資を行う経営判断ができる状態にあるのだと感じます。
DINETTE社 CEO 尾崎美紀氏へのインタビュー記事はこちら
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D2Cは原価度外視の初期投資がカギ。DINETTE尾崎氏が語る新しいコスメブランドの形とは?
成功するD2C企業の共通項②:顧客コミュニケーションは「ユーザーファーストか?」
大塚氏:また、成長している企業では「ユーザーファースト」が徹底されていると感じますね。
例えば、我々が支援している物流の領域において最近伸びている企業の特徴として、顧客によって同梱物の内容を細やかに分けているところが多いことが挙げられます。本当にしょっちゅう中身が変わるのですよ。ですから、サービスを提供している我々もついていくのが結構大変で(笑)。従来の単品リピート通販企業では、ずっと同じパンフレットやチラシを入れていることも多かったので、その点は大きな違いだと思います。
また、LINEによるCRMの支援をしている中でも、「アップセル率やクロスセル率を上げたい」ではなく「UIやUXを良くしたい」という要望をいただきます。お客様がわざわざマイページに行かなくても、LINEなどで定期配達日や商品の内容を気軽に入れ替えられるようにしたい、などのリクエストが来るのです。
村岡:「お客様に継続させる」「効率的に継続率を上げる」のではなく、「どうしたらお客様が継続したくなるのか」という視点が強いということですね。継続率を高めるやり方や考え方が変わってきているとも言えるでしょうか。
大塚氏:そうですね。老舗の単品リピート通販企業も、もちろんユーザー視点がとても強いことに変わりはありません。しかし、電話や手紙などのオフラインによるコミュニケーションがメインでしたので、コミュニケーション量に限界があるのです。最近の企業はSNSやITを駆使することで、顧客との圧倒的なコミュニケーション量を確保していると思います。それにより、結果的に顧客が必要な時に必要なコミュニケーションを取ることができる、ユーザーファーストを実現しているのではないでしょうか。
スタークスが描く、D2Cのこれから
村岡:最後に、改めて大塚さんが考える「D2C」の定義とは何でしょうか?
大塚氏:顧客の悩みに対して、ダイレクトマーケティングを使ってしっかりフォローし、商品とサービスで顧客の生活を変えていきたいという本質は、今も昔も変わりません。
その中で「最近伸びているD2Cは今までと何が違うのか」と言えば、従来のやり方に囚われないビジネスモデル、顧客とのコミュニケーション量の圧倒的な多さと距離感の近さ、そしてすぐにはマネできないプロダクト+サービス作りだと考えます。
村岡:スタークス社としては、これからのD2C支援において、どのような展望をお持ちですか?
大塚氏:従来、単品リピート通販の企業は新規顧客獲得に予算を寄せる傾向にありましたが、この1年で明らかにCRMや物流などの、顧客が一度購入した後の工程の改善に力を入れる企業が増えています。
「新規顧客獲得コストが上昇傾向にあるため、できるだけLTVを伸ばしたい」、「新型コロナの影響でリモートワークが増えているため、顧客購入後の工程をよりIT化せざるを得ない」という背景もあります。
しかし、そうした外的要因だけでなく、そもそも通販ビジネスを伸ばすに当たって、新規顧客獲得だけでなくカスタマーサポートや物流・フルフィルメントなど、顧客が一度購入した後の工程が非常に重要だという本質に気が付いた企業が増えているということだと思います。
新規顧客獲得がデジタルによって最適化される一方で、顧客が商品を購入した後の工程はまだまだアナログで労働集約的な業務が多く、コストがかさんでいる状況です。ここをデジタル化することで、より顧客の動きを見える化し、より適切なCRMを実現できるようにしたいです。
また、我々は創業以来ずっと単品リピート通販企業の支援に特化してきましたので、業務への理解は高いと自負しています。単なる労働集約型の請負ベンダーでもないし、ITツールだけを提供する会社でもない。きちんと通販の現場を理解した上で、必要なデジタル化を支援することで、顧客事業の拡大に貢献していきたいですね。
村岡:私たちも「人手をかける必要のない業務はテクノロジーで代替し、それで手が空いた分をお客様とのコミュニケーションやブランド・商品開発などに投資できる環境づくりに貢献したい」という想いでSaaSプロダクトを提供しています。これからもお互いにサービスを磨いて、D2C企業成長の一端を担っていきましょう。本日はありがとうございました!
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