ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組まれている企業の担当者に、現場でのSMM活動の実際についてお聞きする
インタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】
今回は実購買につながるFacebookキャンペーンの成功ポイントを
ハーゲンダッツ ジャパン株式会社のソーシャルメディア担当者にお聞きしました。
月に1度以上という頻度で新商品をリリースするハーゲンダッツ ジャパン株式会社は、そのプロモーションに、TVCMや交通広告といったマスメディアと、オウンドメディア内のファンコミュニティ、そしてFacebook、Twitter、LINEといったソーシャルメディアを統合的に活用しています。
中でも33万人のファンを擁するFacebookページでは、日々の運用でのエンゲージメント醸成に加え、参加体験機会としてキャンペーンを実施し、実購買にも大きく影響するなどの成果をあげています。
https://www.facebook.com/HaagenDazsJP
今回は、このFacebookページの運営をはじめ、WEBでのマーケティング施策全般を担当しているハーゲンダッツ ジャパン株式会社 マーケティング本部 コミュニケーショングループの續(つづき) 怜子氏に、ハーゲンダッツのソーシャルメディア活用戦略についてお話を聞きました。
複数のソーシャルアカウント運用はメディア特性とユーザー層で使い分ける
―― ハーゲンダッツでは現在、Facebook、Twitter、LINEのソーシャルアカウントを運用されていますが、使い分けはどのようにしているのですか?
それぞれのプラットフォームの特性によって用途を分けているほか、ユーザーさんのタイプによって投稿の内容も変えるようにしています。
LINEは特に若年層、10代にリーチするための媒体として使っていますね。PUSHでのアプローチが出来るので、ソーシャルメディアの中では比較的マス媒体に近い使い方かもしれません。
Twitterは拡散力があるので、新商品の情報やキャンペーンの告知を積極的に発信しています。
FacebookはSNSの中では一番公式ブランドページに近い運用をしています。やはりユーザーさんが実名登録であるということと、写真を中心にイメージを訴求しやすいということで、よりブランド訴求を意識して運用しています。
―― FacebookとTwitterだと反応してくれるユーザーに違いはありますか?
デモグラフィック的にはあまり差は感じませんが、マインドは少し違うと考えています。Facebookは実名だからかまじめなコメントも多く、Twitterは面白いモノ、流行りモノがリツイートされやすい印象です。
例えば、7月に期間限定で発売したショコラミントは、Facebook上での言及数は通常と比べてもそこまで多くありませんでしたが、Twitterでは、チョコミントというハーゲンダッツにこれまでありそうでなかったフレーバーが発売という話題性の高さからツイートが拡散していったようです。
ユーザーを知るためのソーシャルリスニングにはコンテンツのヒントもあり
―― ソーシャルメディアでの反応や評判はチェックしてるのですか?
ブランドと新商品については、Twitterを対象に定期的にソーシャルリスニングを実施しています。「ハーゲンダッツ」というブランドに関しては、普段はあまり変化がないので、トラブルに繋がるような変化はないかという異変感知の視点ですが、新商品に関しては発売日前は言及数、発売後は感想がどのようなキーワードで語られているかを観察しています。
得られたデータはマーケティング本部全体で共有するほか、商品担当者にもフィードバックしています。
先日は、商品担当者と一緒に、「レモンジンジャーフロートを炭酸水に入れると美味しかった」という書き込みをヒントに、実際に試してみて写真を撮り、それを投稿したりもしました。
―― Facebookページの画像もご自身で撮影されているんですか?
公式の画像素材の他に自分で撮ったりすることもありますが、最近はファンの方が美味しそうな写真を投稿してくれるので、そちらを紹介させていただくことも増えてきました。
高エンゲージメントのポイントは共感されやすいファンからの投稿
―― 確かにファンから画像や投稿がとても多いですね。これはファンが自発的に投稿されているのですか?
ありものの画像素材だけだと同じ写真ばかりになってしまうなぁと思っていた時に、ファンの写真でとても綺麗なものがあったので紹介させていただいたところ、すごく反応が良かったんです。目線が近い人の写真や書き込みは共感されやすいのかもしれません。そこで、「感想を教えてください」というように投稿を促してみたり、ファンの写真を積極的に紹介するようにしてみたところ、ファンからの投稿が増えてきて、ファンコミュニティのような使われ方が出来てきていると感じています。
http://www.beluga2010.jp/page/1uay16gKP
―― エンゲージメントの高い運用をされていますが、定量的な評価はどうされていますか?
KPIとしては一般的ですが、ファン数とエンゲージメント数を設定しています。現在ファン数は33万人ですが、Facebookユーザーの中の潜在的なファンはまだ居ると思っていますし、広告効率の推移を見てもまだファンになっていただける方がいるようなので、ファン獲得をKPIにおいています。ただ、ページの「いいね!」を集めることだけが目的ではないので、コミュニケーションの頻度や質を測るためにエンゲージメントという視点のKPIも合わせて見ています。
食べたい気持ちにさせるSNSでのコミュニケーション
―― そもそもソーシャルメディアを活用し始めたはなぜですか?
ソーシャルメディアでしか接触できないユーザーさんがいるので、その方たちにリーチする必要があった、ということでしょうか。
弊社ではコミュニケーションのターゲットペルソナとして、ある20代の働く女性を設定しているのですが、近年このペルソナのメディア接触時間においてスマートフォンが増えていることが分かりました。
そこで、彼女たちがスマホに触れている時間の一部に入っていきたいと考えたのですが、PCと比べてスマホではSNSで過ごす時間が長いので、そこに自然に入っていこうとするなら、やはりSNSの公式アカウントを運用するべきだということになりました。
ですから、現在WEBを活用した施策としては、バナー広告などは行わず、SNSに重点をおいています。
基本的にはまずビジネスゴールを実現する企画があって、その企画の効果を最大化出来るメディアを選択しています。
各媒体がどのくらいの方にリーチして、どれだけ購買されているかという広告調査を、施策評価に利用しているのですが、TVCMとソーシャルメディアでは効果の特性が違うと感じています。
テレビのリーチはまだまだ広いのですが、リーチ出来ない方も出てきています。一方、ソーシャルメディアは興味関心のある方にマッチしたリーチが出来ると思います。
ですから、興味のある人が集まってくださっているソーシャルメディアでキャンペーンを実施すると、買う可能性の高い方の後押しが出来ていると感じます。単純に広告を見るだけより「参加する」という行動があることで、購買意欲に影響しているのではないでしょうか。
当選者だけでなく参加者にも「買いたい」と思わせるキャンペーン設計とは
―― ソーシャルメディアでのマーケティングは購買に結びつかないといわれることがありますが、Facebookでのキャンペーンでも購買に結びついているという実例があるのですね。
※現在は終了しています。
今年の6月、リニューアルしたクリスピーサンドのモニターキャンペーンを、Facebookで実施しましたが、その後の調査では、このキャンペーンに参加した方は、参加していない方に比べて、月一回以上購買する割合が5倍ぐらい多くなっているということが分かりました。
それまでもソーシャルメディアでキャンペーンを実施すると、そのキャンペーンに接触した方はそうでない方に比べて購買率が高いというデータは出ていたのですが、新商品でのキャンペーンがほとんどだったため、事前の購買率データを取ることが出来ず、純粋なキャンペーン効果が分かりませんでした。
その点、クリスピーサンドはリニューアル商品だったため、事前事後のデータを取得して比較することで、ソーシャルメディアでのキャンペーンが購買率に影響しているということが検証でき、貴重な成果を得られました。
―― このキャンペーンは、商品引き換えクーポンをインセンティブに設定することで、店舗へ誘導するO2O企画だったわけですが、実際に商品を手にした人以外にも、買いたい!と思わせることが出来たポイントはありますか?
新商品のプロモーションは、まず知ってもらって覚えていただいた上で、店頭で実際の商品を見つけていただくことが必要です。
店頭で見つけてもらいやすくするためには、陳列や商品パッケージの工夫などがあると思いますが、知ってもらって覚えてもらうという点では、以前トレインチャンネル(電車内のデジタルサイネージ)に、商品メインの動画を配信したところ、電車を降りたあとに帰宅途中に商品を購入している方が、増えたのではないかと思われるデータがありました。
商品の特性を説明するのには動画が一番早いですし、印象にも残ります。また、食した時のサクッとした音やとろみといったシズル感は、動画でしか伝わりませんので、商品動画は購買に直接作用するのではないかという仮説から、キャンペーン参加時にCM動画を見ていただいたことは効果があったと思います。
※図はキャンペーン当選者の店舗での商品引き換え手順説明図
課題は親近感とプレミアム感のバランス〜日常の消費現場に非日常の演出を
―― 續さんが、ソーシャルメディアを担当していて良かったと思うことはありますか?
ソーシャルメディアではユーザーさんからの反応が早く、また、反応している方々の顔が見えるコミュニケーションが出来るので、より手応えを感じることが出来るようになりました。こちらの期待する反応が返ってきた時は嬉しいですし、予想と反した反応があった時でも基本的に弊社の商品に興味を持ってくださっている方からの反応なので、「そういうものなのか」という気付きがあります。
―― 今後、ハーゲンダッツとしてどのようにソーシャルメディアを活用いくか、目指している姿などはありますか?
ソーシャルメディアに限りませんが、ハーゲンダッツは買って帰って自宅という「日常」で消費される商品であっても、食べる時の「非日常」を演出したいと思っています。
SNSというのはお客様に近づくことができる、親近感を感じてもらえるのが良さですが、ハーゲンダッツのプレミアム感や非日常への憧れといった神秘的なところは残していきたいと思っています。この親近感とプレミアム感のバランスを上手くとって、ファンの方々との関係を理想的な距離感にするのが目標ですね。
また、企業からのメッセージが届きづらい時代になっているので、ファンの方がそのほかの方にオススメしてくださる、そしてそんな有機的なつながりが連鎖していくような施策にも取り組んでいきたいと考えています。
<インタビュー後記>
續さんは今、「SNSは嘘が付けないので、自分が自社商品が好きかどうかも伝わってしまうと思いますが、そうした点も含めてユーザーの方に正直に向きあえている気がする」そうです。こうした續さんの誠実な向き合い方が伝わっているからこそ、ファンはFacebookページにもコミュニティとしての居心地の良さを感じているのではないかと思いました。
續 怜子氏 プロフィール
ハーゲンダッツ ジャパン株式会社
マーケティング本部
コミュニケーショングループ
ハーゲンダッツ ジャパン
http://www.haagen-dazs.co.jp/
ハーゲンダッツFacebookページ
https://www.facebook.com/HaagenDazsJP
インタビュアー:渡辺 健太
(アライドアーキテクツ株式会社 ソーシャルメディアマーケティング事業第二本部)
■参考リンク:Facebookキャンペーンアプリ「モニプラ for Facebook」
https://www.aainc.co.jp/service/monipla
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