キャンペーンでインセンティブを消費者に提供したいが、少額配布ではコストが見合わない、付与までのタイムラグでユーザーの熱量が冷める、自社ポイントでは使い道が限定的、海外インフルエンサーへの送金が煩雑――。こうした課題を抱える企業は少なくありません。

今、世界では、次世代インターネット「Web3」の中核技術であるブロックチェーンを活用した新しいデジタル通貨「ステーブルコイン」が急成長しています。特定の企業やプラットフォームに依存せず、分散型ネットワークで管理されるWeb3の特性により、ステーブルコインは法定通貨と連動しながら、国境を越えた即時送金や透明性の高い取引を実現。年間決済量は約600兆円(2025年9月時点)に達し、すでに主要国際カードブランドの合計を超えていますが、日本国内では、その認知度・普及度ともにまだ限定的です。

このステーブルコインは、マーケティングの現場をどう変えていくのでしょうか?

今回は、2025年10月に日本初のステーブルコインを発行したJPYC株式会社の代表取締役 岡部 典孝氏(以下 岡部氏)をゲストに迎え、ステーブルコインの基礎知識から、次世代のインセンティブ設計や顧客体験の可能性まで、具体例を交えながら詳しく解説していただきました。

デジタルマーケティングの新しい選択肢を模索している方や、グローバル展開ファンエコノミー構築に関心のある方は、ぜひ最後までお読みいただき、参考にしていただければ幸いです。

※本記事は2025年12月19日にアライドアーキテクツ株式会社主催で開催されたセミナー「ステーブルコイン JPYC × マーケティングの未来 ー2026年、顧客体験を変える “新しい価値交換” のカタチ」の内容を編集したものです。

2025年、日本初のステーブルコイン発行ライセンスを取得した
JPYC株式会社 代表取締役 岡部氏

ステーブルコインとは? ー 実は世界で49兆円規模の流通量

ステーブルコインという言葉をご存じでしょうか。メディアでも報道されるようになってきましたが、実際に使ったことがある人はまだ少数です。しかし世界では今、想像以上の勢いでステーブルコインが普及しています。

ステーブルコインとは、法定通貨(ドルや円など)と1対1で価値が連動するデジタル通貨のことです。世界の流通量は現在約49兆円に達しており、そのうち99%がドルのステーブルコインです。今後は円をはじめ、様々な国のステーブルコインが登場しようとしています。

特筆すべきは、その取引量です。1日あたりの取引額は約21兆円。流通量が49兆円であるため、大体2〜3日に1回転するほど、非常に流通性の高いお金と言えます。

年間の決済量に換算すると約600兆円。これは日本のGDPに匹敵する規模であり、すでに主要国際カードブランドの合計取引量を超え、まもなく銀行の送金量をも超えようとしています

この市場は急成長を続けており、2019年時点ではわずか600億円規模だった市場が、現在49兆円に成長し、2030年には最も成長が見込まれるシナリオで650兆円規模まで拡大すると予測されています。わずか5年で約800倍という、驚異的な成長スピードです。

日本では2025年8月、JPYC株式会社が国内初となる日本円ステーブルコイン発行認可を取得し、同年10月27日に日本初のステーブルコイン「JPYC」の発行を開始、大きな注目を浴びています。

国家レベルのインパクトを持つステーブルコイン市場。
世界流通額49兆円、取引量は主要国際カードブランドを超える。

ステーブルコインで変わるマーケティング施策

それでは、ステーブルコインの浸透によって、マーケティングの現場にはどのような変化をもたらすのでしょうか。まずは従来のインセンティブ施策が抱えていた代表的な4つの課題と、ステーブルコイン(JPYC)を用いたその解決策を見ていきましょう。

課題1:少額配布したいのに、コストが見合わない

1円~100円といった少額を配りたくても、システム手数料や事務コストが高すぎて実現できない。全員配布したいが、予算的に「抽選」にせざるを得ない――これが従来の課題でした。

JPYCの場合、簡単なプログラムを書けば、例えば10円を1,000人に配るという施策が実現できます。1,000人かけて10円なら1万円用意すれば、配布手数料を入れても少額で済みます。少額を配るキャンペーンが格段にやりやすくなります。

課題2:付与までのタイムラグで、熱量が冷める

キャンペーン参加後、ポイント付与まで数日から数週間かかる。ユーザーは「もらった実感」を得られない――これも大きな課題でした。

JPYCであれば、ブロックチェーン技術により、応募要件を満たした瞬間に数秒から数分で付与が完了します。従来のポイントシステムでは、中央サーバーでの処理や事務手続きが必要でしたが、ステーブルコインは銀行やプラットフォーマーを介さず直接送金できるため、即座にユーザーのウォレットに届きます。

実際に、クエストをクリアしたらその場でJPYCがもらえる仕組みや、街を回遊するスタンプラリーでJPYCを獲得し、それを地元のお寺などに寄付できるといったサービスもすでに登場しています。

課題3:自社ポイントは使い道が限定的

「また同じお店で使ってね」では、新規顧客の動機づけになりにくい。「囲い込まれる感じが嫌」という層も多い――自社ポイントの限界も指摘されていました。

一方、JPYCは特定の店舗やサービスに縛られず、グローバルに世界中で使える共通ポイントのような使い方ができます。自社ポイントのように「ここでしか使えない」という制約がなく、受け取った人が自由に活用できる点が大きなメリットです。

さらに、従来の国際送金では高額な手数料と時間がかかりましたが、ステーブルコインであれば国内送金と同じように、低コストで即時に海外へ送金できます。ブロックチェーン技術により、世界中どこでも変わらないコストで送ることが可能になりました。

課題4:海外インフルエンサーへの報酬が煩雑

グローバル展開やインバウンド施策で、海外のインフルエンサーに報酬を支払いたい。しかし国際送金では高額な手数料(数千円〜)がかかり、着金まで数日かかる上、銀行口座情報のやり取りも煩雑――少額のPR報酬を送るには現実的ではありませんでした。

JPYCであれば、ブロックチェーン技術により、国内送金と同じように低コストで即時に海外へ送金できます。世界中どこでも変わらないコストで送ることができるため、例えば海外在住のマイクロインフルエンサーに数千円の報酬を送る、といった施策も気軽に実施できるようになります。相手がウォレットアドレスさえ持っていれば、銀行口座情報を聞く必要もなく、数分で送金が完了します。

さらに広がる活用の可能性

課題解決だけでなく、新しい施策も生まれています。

【ファンエコノミー】

現在の投げ銭システムでは、プラットフォーマーに7割程度もの手数料を取られてしまいます。これは法律上、投げ銭サービスを提供するには資金移動業のライセンスが必要なためです。

しかしJPYCの場合、JPYCの送金や決済含めた移転においてJPYC社が手数料をとっているわけではないため、JPYCを投げるだけであれば企業側がライセンスを取得する必要がなく、自由なファンエコノミーを構築できる可能性があります。つまり、これまでライセンスのハードルで諦めていた投げ銭施策が、実現しやすくなりました。
実際に、あるインフルエンサーが音声配信に登壇してくれた人に5円分のJPYCを配る施策を実施しました。少額ではあるものの、ファンからすれば「一緒に会話ができた上にご褒美ももらえた」と、満足感を得ることができます。

【店舗・飲食】

大きく3つのメリットがあります。

まず、手数料が引かれずにすぐ売上になるという点です。従来のクレジットカード決済では3〜5%の手数料が発生し、入金も遅い場合は1ヶ月後になることもありました。JPYC決済であれば、その手数料負担がなくなります。また、JPYCを現金に数日かからずすぐに償還できるため、資金効率がこれまでと比べ物にならないほど早く実現可能です。

次に、浮いた原資をキャンペーンに活用できるという点です。手数料削減で浮いた分を使って、商品プレゼントなどの還元施策が考えられます。

さらに、JPYC決済を受け付けること自体が集客になるという側面もあります。実際にコーヒーショップや京都の観光施設などで、すでにJPYC決済が導入されていますが、「新しい決済手段が使えるようになった」ということ自体が話題になり、拡散効果が生まれているといいます。

【決済代行会社】

店舗に決済システムを提供する決済代行会社(ペイメントサービスプロバイダー)にとっても、大きなメリットがあります。

従来、決済代行会社は店舗から受け取る決済手数料の一部をVISAやMastercardなどの国際ブランドや関連事業者に支払う必要がありました。しかしJPYCはカード決済ネットワークを介さないため、こうした手数料が発生せず、従来よりも高い粗利構造を実現できます。

この原資を活用して、JPYC決済をした顧客に還元するキャンペーンを、決済代行会社主導で設計することも可能になります。

その結果、店舗・顧客・決済代行会社の三者すべてにメリットがある仕組みが実現します。

【EC・通販】

EC・通販の領域では、将来的にAIエージェントが購買活動に参入する可能性が期待されています。

ステーブルコインを使うと、AIエージェントが商品を探すだけでなく、実際にお財布を持って決済するところまで自動化できます。クレジットカードでは不正防止のため2段階認証で人の確認が必要ですし、銀行振り込みもアプリを人が操作しなければなりません。ステーブルコインであれば、人の介在なしに完全自動で取引が完結する世界が実現します。消費者は「欲しいもの」を伝えるだけで、AIが最適な商品を探し、価格を比較し、購入まで完了してくれる――そんな未来が、すぐそこまで来ています。

このように、ステーブルコインはマーケティングの様々なシーンで、これまでの「できなかった」を「できる」に変える可能性を秘めています。

具体的な活用例とツール連携

ステーブルコインをマーケティングに活用する際、どのようなツールや仕組みが利用できるのでしょうか。具体的な事例とともに見ていきましょう。

echoes × JPYC:Xキャンペーンで即時配布が可能に

アライドアーキテクツ社が提供するXキャンペーン支援ツール「echoes」は、国内で初めてステーブルコイン「JPYC」をキャンペーンインセンティブとして活用できる新機能を提供しています。

従来のキャンペーンでは、ポイント付与まで数日から数週間かかり、ユーザーは「もらった実感」を得られませんでした。しかしJPYCであれば、ブロックチェーン技術により、当選者への報酬を数秒から数分で付与可能になります。

さらに、インセンティブの金額を1円単位で設定できるため、キャンペーン予算の最適化を実現できます。物理的な賞品配送も不要になり、運用コストを大幅に削減できる点も大きなメリットです。

※条件によっては実施できない場合がございます。詳しくはアライドアーキテクツ社へお問い合わせください。

フォロー&リポストから、多様なキャンペーンパターンへ

岡部氏は、「フォロー&リポストキャンペーンをぜひやってほしい」と語ります。

従来は、配布の手間やコストの問題から少人数に高額を当てる形式が主流でした。しかしJPYCであれば、プログラムによる一括配布が簡単にできるため、多人数に少額を配ることが可能になります。

岡部氏は「何万人規模のキャンペーンも将来的に実現できれば、非常にコストパフォーマンスが良い」と言います。例えば、従来の「1万円を1名様」よりも「500円を20名様」の方が当選確率が高く、ユーザーの実際の行動を促しやすいのです。さらに、参加してくれた人に感謝を伝えるために少額を全員に配布し、その中からとくに良い提案をした人には商品をプレゼントするといった2段階の施策も可能になります。

キャンペーンパターンとしては、その他にも以下のような展開が可能です。

  • フォロー&リポスト:爆発的拡散を狙い、新規リーチを最大化
  • ハッシュタグ引用:ユーザーの生の声を創出し、UGCを生み出す
  • アンケート回答:インセンティブを対価に、深いユーザーニーズや属性を収集
  • アプリ/会員登録:直接的な登録・利用を促し、長期的な関係性を構築

2026年、AIエージェント経済圏の到来

ステーブルコインが普及した先には、どのような未来が待っているのでしょうか。岡部氏が語る、数年後の経済圏の姿を見ていきましょう。

人間中心の1300兆円の外側に、AIが動かす新たな経済圏が生まれる

岡部氏は、「間違いなくAIの経済圏が大規模に成長する」と予測します。

これまでは人と人が取引をしてきましたが、現在は人とコンピューターが取引するようになっています。そして今後は、人間中心で動いている1300兆円のお金の外側で、AIの世界でステーブルコインが大量に取引される時代が来ると語ります。それが500兆円規模なのか1000兆円規模なのかは未知数ですが、極めて大きな取引社会が誕生すると予測しています。

国境を超えた自動為替交換が実現する

技術面でも、大きな進化が期待されています。

例えば、アメリカから来た旅行者がUSDC(ドルステーブルコイン)で支払いたい一方、日本側はJPYCや日本円で受け取りたいというケース。この時、裏側で人が介在することなく自動で通貨交換が行われ、レートも非常に低コストで変換してくれる――そんな世界がステーブルコインであれば実現します。

ウォレット普及は、インターネット以上のスピード

ステーブルコインを使うための基盤となるウォレットも、急速に普及しています。

現在、月間アクティブウォレットは5500万に達しており、実はインターネットよりも早いペースで広がっています。岡部氏は「あと数年で数億ウォレットアドレスまでいく」と予測しています。

ステーブルコインとAI、そしてウォレットの普及――これらが組み合わさることで、2026年以降、マーケティングの在り方は大きく変わろうとしています。

社会のジレンマを突破する ー ステーブルコインが切り拓く未来

世界で49兆円規模に成長し、年間600兆円もの取引が行われているステーブルコイン。日本では法整備が世界に先駆けて行われたにもかかわらず、文化の違いから普及に時間差が生まれていました。しかし2025年10月、JPYCが日本初のステーブルコインを発行したことで、ようやく日本でもステーブルコインを活用したマーケティングが本格的に始まろうとしています。

少額インセンティブの即時配布、ファンエコノミーの構築、決済手数料の削減、AIエージェントによる自動決済、国境を超えた報酬送金――これまで「やりたくてもできなかった」施策が、次々と実現可能になっていきます。

JPYCのミッションは「社会のジレンマを突破する」です。岡部氏は最後に、「皆さんがJPYCを使ってどんどんイノベーションを起こしていただければ、我々にとってこんな嬉しいことはありません」と語りました。

ウェブサイトでECの波に乗れた企業と乗れなかった企業で差がついたように、AIエージェント経済圏でも同じことが起きる可能性があります。2026年以降のマーケティングを見据え、今からステーブルコインという選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。

本セミナーのアーカイブ動画は、こちらからご覧いただけます。

【ステーブルコイン(JPYC)×マーケティングの未来】
2026年、顧客体験を変える “新しい価値交換” のカタチ
~海外で急成長する次世代インセンティブ、日本上陸~

より詳しい解説や、ここでは紹介しきれなかった事例についても触れられていますので、ぜひご視聴ください!