全世界5, 500万ユーザーを突破、急成長のアプリ『LINE』を展開するNHN Japan株式会社 舛田淳氏に、その大ヒットの裏側にある同社のマーケティング戦略についてお聞きしました。


サービス開始からわずか1年強で全世界5, 500万ユーザーを突破、破竹の勢いで成長を続ける『LINE』。
今回は、そのLINEの全世界におけるマーケティングを一手に担う、NHN Japan株式会社 事業戦略室 室長の舛田淳氏に、同社が実践するソーシャルメディア時代のマーケティング戦略について詳しくお聞きしてきました。
LINEの世界的な大ヒットの背景には、同社の突き抜けたサービス内容だけでなく、同社が展開する緻密なユーザーマーケティング戦略がありました。
多くのユーザーに支持されるコミュニケーションプラットフォーム『LINE』急成長の裏側とは?
 

中東から火がつき、無料通話・スタンプを機に全世界的に人気に。最初は「自然増」だった。

 
-サービス開始から驚異的なスピードでユーザー数を伸ばしているLINE。サービスそのものの素晴らしさもさることながら、ここまでユーザー数を急速に伸ばしたマーケティングの巧妙さも驚くべきところだと感じており、今日はそのあたりのお話をお聞かせください。まず、全世界で最初にブレイクしたきっかけが中東だったそうですね?
はい。LINEは2011年6月23日、現在の特徴である「無料通話」や「スタンプ」機能がない状態でサービスを公開しました。サービス公開当初、日本で徐々にユーザー数が自然増加してきて、まずは日本からという考えでした。
ところが、2011年8月頃から突然アラビア語のメールがカスタマーサービス宛に大量に届くようになったのです。当初スパムかとも思ったのですが(笑)、自動翻訳をかけてみるとどうやら、ユーザーからのメールらしいことが分かりました。並行してアプリの世界ランキングを見るツールを使ってみると、なぜかサウジアラビアでランキング1位になっており、それをきっかけにまたたく間にカタール、クウェート、UAE等中東のありとあらゆる国でランキング1位になっていました。
正直、私たちとしても「この現象は何だろう?」という感じでした。いろいろな仮説はありますが、今でも最初に中東でブレイクした決定的な要因は分かりません。でも、この中東での盛り上がりをきっかけに、「LINEはやはり日本だけでなく、世界で通用するアプリなんじゃないか?」という想いになり、当初展開していた日本語版と英語版に加え、中国語版や韓国語版等の展開も開始しました。
そして、次のステップとなったのが、2011年10月にスタートした「無料通話」と「スタンプ」機能です。この機能をリリースしたことで、それまであまり成長が見られなかった東アジアで、急激にユーザー数が増え始めました。シンガポールからスタートし、またたく間にマカオ、香港、マレーシア、インドネシア等で普及し始め、1日で60万ダウンロードを頂くまでになっていました。この時点ではまだ海外ではまったく広告を打っていない状態です。この状況を受け、社内では「LINE=グローバルアプリ」という意識が高まってきました。
 

全世界での積極展開を前に、App Storeからアプリが消える事態に!そこで採ったのがソーシャルメディアマーケティングという手法。



そしてまさにそんな時に、App StoreからLINEのアプリが消えてしまうという事態が起こったのです。これは、次の日にはすぐに東アジアの新聞やニュースメディア、テック系のブログで紹介され、多くの方から「LINEに何か問題があったのではないか」と言われることになりました。
そして、この誤解を解決するために実践したのが、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションです。今で言う「アクティブサポート」と「ユーザーとの絆作り=エンゲージメント」を実践、なぜこのような事態になったのか、そしてアプリがいつ復旧するのかも含めて、世界にいる利用ユーザーの一人ひとりにコミュニケーションを取らせていただく手法を採りました。
FacebookやTwitterでは、何かしらネガティブな話題が出た場合に、多くの情報は「尾ひれ」がついて正しく伝わっていないのではないかと思うのです。この時は、本当に全てのマーケティングの人的リソースをソーシャルメディアに投入し、まさに”人力”で、一人ひとりのTwitterやブログへのコメントを付けていましたね。
 
-なぜそのように一人ひとりにコメントをつける「アクティブサポート」の活動をされたのですか?
LINEだけでなく、LINEを生み出したNAVER Japanという会社そのものスタンスとして、「アクティブサポート」や「絆作り」を大切にしていることが背景にあります。
当初NAVERというブランドを日本で浸透させようという時に、いきなりCM等の純広で成功するイメージが全くわかなかったのです。もちろんCMを出すお金がないわけではなかったのですが、その当時、もうすでに日本のユーザーは「検索」には飽きており、GoogleとYahooで十分という空気がありましたし、そんなときに「純広」を出しても意味がないだろう、と。まずは一人ひとりにNAVERというブランドやサービスを分かっていただくことが大切なのではないかと考えました。
そして、ユーザーにブランドやサービスを分かって頂く時に、いきなり「ブランドです」という顔をして出て行っても伝わりません。そこで私たちが採った手法が、「ブランドを体現している人」をフロントに用意し、その担当がソーシャルメディアでユーザーと会話することでブランドを理解していただこうという手法です。
これはある意味で「昔からの選挙戦略」と似ているなと思っています。つまり、「何人と直接握手できるか」ということなんですね。そして、よく選挙の時期になると、駅前で「辻立ち」といわれるずっと演説している人がいると思いますが、あれも実は「何かやっている人がいる」という意味で、とても意味のあることだと思っています。
私たちに置き換えれば、握手はユーザーの皆様の中に入っていってのアクティブサポートです。B into Cですね。そして辻立ちは、Twitterなどのソーシャルメディアでブランドやサービスに関する情報を毎日繰り返し配信することです。サービスに関してユーザーから色々なご意見を頂いた際にも、そのご意見を我々が反映できたなら、1ヵ月後でもいいし2ヵ月後でもいいから、その方に「頂いた意見を反映しました」と御礼を言いましょうということをやっていました。
私たちのブランドの温度感はまさにここにあります。そしてLINEでも同じような手法でブランドを浸透させ、そして時にユーザーの誤解を解くようにコミュニケーションをとりました。さらに、LINEに関しては、それを日本だけでなく、海外にも広げたということなのです。現在も、主力国である台湾などでは個別のFacebookページやTwitterアカウントをもち、運用を実践しています。
 
CMで一気に人気が爆発!その裏にも緻密な戦略が存在。
 
-なるほど。アプリ人気の裏側にはソーシャルメディアを活用したかなり緻密なブランディング戦略があったのですね。ところで、LINEというと、日本国内で放送された「ベッキー」のCMがかなり印象的でしたが、これはどのような戦略の下実施されたのでしょうか?
10月の無料通話・スタンプ機能のリリースによりユーザー数が世界的に急増したことを受けて、「これは世界的に通用するいいサービスだ」という確信を持ちました。そして、LINEのプラットフォーム構想に着手し始めたのもこの時期です。それであれば、一刻も早く仕掛けたほうがいいだろう、タイミングとしてCMの打ち所はここだろうとの判断に至り、1ヶ月程度でCMを完成させました。
なぜここでCMという手法を取ったのか?それは、このようなアプリのサービスは機能がいいことももちろん大切ですが、「友達皆が使っている状態を急速に作ってあげること」が大切と考えたためです。例えば「アプリを開けば毎回友達が追加されている」というような、良い体験をユーザーにどれだけさせてあげられるかが大事だろうと思いました。
そしてそのポイントとなるのが「友達の招待機能」です。この頃から招待機能が使われる機会が飛躍的に増えていたのですが、もともとユーザーから「自分はいいサービスだと思っているけれども、友達にLINEを紹介するときに、なんて言って説明したらよいか分からない」というご意見を多数頂いていたのですね。「無料通話」と「スタンプ」機能リリース以降は、「無料通話ができるアプリがあるんだよ」「変なスタンプを使えるんだよ」ということで、ある程度クチコミしていただきやすい状態ができていて、ユーザー数も増加していました。
そこで、次のステップとして選択したのがCMだったのです。あのCMによって「あのベッキーのCMのアプリだよ」と紹介してもらいやすくなりました。正味1ヶ月程しかテレビに流していませんが、今でも流れてると思っている方もいるくらい、皆さんに「ベッキーの」とおっしゃって頂いているので、非常に良かったと思っています。
ですので、あのCMは元々、新規ユーザーを獲得するためだけに打ったものではないんです。もともとのユーザーがクチコミしやすくなること、これが目的だったのですよ。
CMに取り組んだのはあれが初めての経験でしたが、正直このCMプロジェクトの絶大な効果は期待以上でした。今まで取り組んできたオンラインマーケティングと比較しても、CM利用は圧倒的な費用対効果の良さでしたね。
 
-あの「ベッキーのCM」による既存ユーザーからのクチコミが、さらに急速にユーザー数が拡大するきっかけとなったのですね。では、なぜ「ベッキーのCM」は、そこまで人々の記憶に残るものになったのでしょう?
CMで伝えるメッセージが絞られていたことが良かったのだと思います。
言いたいことはたくさんあったのですが、15秒という短い時間の中で目を留めてもらうためには、やはりインパクトが大切であり、そのためには感情を伝えるCMであること、そしてそれ以外の情報は極力なくすことが大切だと考えました。ですので、当初LINEは「コミュニケーションアプリ」という言い方をしていたのですが、実はCMの時から「無料通話メッセージアプリ」という言い方に変えたのです。
実際にCMを作る際は、「どういう人が無料通話だと喜ぶのだろうか?そしてそれはどのようなシチュエーションなのだろうか?」を徹底的に考えましたね。そこで出てきたのが、「女性が朝まで泣きながら親友と電話で話しても無料」というストーリーでした。当初からLINEのヘビーユーザーは女性だったので、まずモデルは女性に決めていました。そして、モデルとして選んだベッキーは、普段あまりネガティブなところを見せる方ではないので、そのベッキーが泣いていたらインパクトがあるだろう、と。
あのCMでは、「ベッキーが親友に相談しながら泣いている」ということと、「無料通話アプリLINE」ということ以外は何も言っていません。NAVERというロゴですら、皆さんどこにあるか分からないくらいだったと思います。「出さないといけない」と言われたので端の方につけたんですが、最初はそれもいらないと思っていました。「シンプル」が重要だったんです。
 
-大成功したCMなのに、1カ月ほどでやめてしまったのはなぜですか?CMをそのまま流し続ければ、さらにもっと急速にユーザー数が拡大するという仮説はなかったのでしょうか?
それは少し考え方が違いまして、私たちは「ダラダラCMを流す」から効果が悪かったり、コストが多額になると思っていたのです。やるからには1点集中で流したほうが良いのではないかと。
 
これからはソーシャルメディアマーケティングは必須の取り組み事項
 
-LINEが実践したマーケティングを俯瞰的に見てみると、最初突き抜けたサービスを作って、アクティブサポートやユーザーサポートを通じてファン作りやサービスの改善をどんどんやって、あたたまったところでCMをやって。ソーシャルメディアを単なる拡散ツールに使うのではなく、リスニングやファンを巻き込んでいくために使っている点、またCMが最大限効果を発揮するよう綿密に準備した点などが、非常に他の企業の参考になるのではと思います。一方で、こういうやり方は、やりたくてもなかなか難しくもありますよね。舛田さんから何か他の企業の方へのアドバイスはありますか?
まず一つ言えることは、いきなりCMを流すのは危険であり、タイミングが大切ということです。私たちは、CMはゼロベースで商品やサービスを認知させるものではないと考えています。やはり、土台ができていて、その人たちがいるからこそ、CMの意味があるのではないかと。ソーシャルメディアが普及している今だからこそ、マーケティング戦略の中にそれをしっかりと活かすべきです。
CMを作るときによく社内のメンバーで言っていたのですが、これからは、CMなどの「空中戦」をやるときには、ソーシャルメディアの「地上戦」がパッケージじゃないとダメなんだ、と。お金がかかる「空中戦」は絶対的にリーチが取れる手法ではあるので、その効果を逃さずリーチを意味のあるものにするためには、「地上戦」が重要なのです。そしてその地上戦は、屋外でやるイベントでもない、今まで実施されていた「インフルエンサー」に働きかけることでもない、今は確実にFacebookやTwitter等のソーシャルメディアだと思います。
私たちは、何かやるときには、もはやソーシャルの「地上戦」は必ず付いて回るものだと考えています。それも、ものすごく泥臭くやるのが一番よいのでは、と。ただ、ずっとコンスタントに泥臭いのはしんどいですけどね(笑)。
<後半へ続く>
前半では、急成長のLINEが実践したマーケティング手法について詳しくお伺いしました。後半では、そのマーケティングにより集まった5, 500万人のユーザーをベースとして、これからLINEがどのような世界を描いていくのか、そして企業によるLINEマーケティング活用の未来についてお伺いしました。後半も、お楽しみに!
後半記事:企業のLINEマーケティングはどうなる?!そして「LINE」がこれから目指す世界とは? NHN Japan株式会社 舛田淳氏に聞く【キーパーソンインタビュー】(2/2)
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プロフィール
舛田淳氏
NHN Japan 株式会社
執行役員 Chief Strategy&Marketing Officer
ウェブサービス本部 事業戦略室 室長
『LINE』:http://line.naver.jp/ja/
インタビュアー:藤田 和重(アライドアーキテクツ株式会社 SMM Lab)
文:小川 裕子(同上)
 
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