昨今、社会・経済をはじめ様々な変化が起き、企業が生活者へ発信するメッセージや日々のコミュニケーションもその変化への対応が求められています。こうしたニューノーマル時代に企業は生活者とどう向き合うべきなのか?

今回はネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーション本部 デジタルマーケティング部の中通 康太氏にお話いただきました。

※本記事は2021年10月1日(金)にアライドアーキテクツ株式会社が開催したセミナー「デジタル販促×SNS最前線#4 withコロナ時代の2021年にリテール・メーカーが挑戦するSNSを活用したデジタル販促戦略とは?」の内容を編集したものです。

生活者のインサイトに寄り添い、ブランド・ECサイトへ送客

ーまずは中通様の自己紹介をお願いします。

ネスレ日本株式会社の中通と申します。
我々ネスレ日本は、コーヒーの「ネスカフェ」やチョコレートの「キットカット」をはじめ、調理食品、栄養補助食品、ペットフードなど、様々な製品・ブランドを取り扱っており、それぞれのブランドが売上の責任を負い、マーケティングやプロモーションを行なっています。
その中で、私はひとつのブランドには属さず、横断的な役割をもつ「マーケティング&コミュニケーション本部デジタルマーケティング部」という組織で日々デジタルを活用した施策、運用をしています。

ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーション本部 デジタルマーケティング部 中通 康太氏
通販企業にてECのコミュニケーション領域全般(4マス&Digital広告/CRM・DDM/SNS/Webサイト&App設計~機能開発企画/コンテンツ開発・運営etc)を主に経験。
その後、テーマパーク運営会社に移りグローバルプロジェクトリーダーとして活動する傍ら、CRM&Owned Media責任者として戦略設計、推進を中心に活動。
2021年5月より現職。デジタル活用によるOwned Media集客全般とDX推進を担当。

ー具体的にどのような業務やミッションを担っているのでしょうか?

我々が運用している「ネスレアミューズ」というWEBサイトは大きく3つのカテゴリに分けることができます。
1つ目は各ブランドのWEBページ、2つ目はECサイト、そしてこの2つのカテゴリのWEBサイトのハブの役割も担うコミュニケーションページです。各ブランドのページやECサイトはそれぞれの部署が独立して運用しており、我々のマーケティング&コミュニケーション本部では、このユーザーコミュニケーション領域のページの運用を行ない、各ブランドでは実施しにくい、横断組織だからできるプロモーションを行なっています。

ー各ブランドサイトやECサイトとネスレアミューズとでは、コミュニケーションにどのような違いがあるのでしょうか?

各ブランドでは、例えば新商品がでたら新商品についての認知拡大を目的にサイトやSNSを運用しています。しかしコミュニケーションページでは、少し製品や個別ブランドからは離れますが、消費者に近いコンテンツのページ運用を行なっており、いわば、商品より消費者の生活興味に近いようなコンテンツの発信を行なっています。

ーコミュニケーションページの運用目的について教えてください

コミュニケーションページは各ブランドページやECサイトへの送客を最大化することを主目的としています。ブランドページは、各ブランドやプロダクトを認知、理解していただくために運用しており、コミュニケーションページからブランドページへ送客することによって、お客様に各ブランドや商品への理解を深めていただくことができます。またECサイトへはシンプルにそこでコンバージョンさせることを目的として送客施策を行なっています。
コミュニケーションページではユーザーに近いコミュニケーションを行なっているので、再来訪のリピート率を高めたり、会員の獲得、エントリーページとして直帰率の低減効果なども得ており、それがそう客数への貢献につながっています。

ーブランドページやECへの送客のために、具体的にはどのような手法をとられているのでしょうか?

まずは送客を作るための元となる、コミュニケーションページへの集客施策を行なっています。例えば、SEO対策にもなるコンテンツの作成や、ネスレ会員という会員組織に登録いただいている方へのメール配信も実施しています。
さらに、Twitterで「ネスレアミューズ」という名前のアカウントを運用するなど、各種手法を駆使して集客につなげています。コミュニケーションページに来訪したユーザーは、そうではないユーザーと比べてその後の購買額が上昇するという社内データもあります。そのため、コミュニケーションページからの送客というのは非常に重要な活動だと認識しております。

メディアの選択で重要なのは「目的を明確」にすること

ーネスレアミューズのTwitterアカウントはどのようにご活用されているのでしょうか?

Twitterでは、ネスレ商品の紹介はもちろん、ネスレアミューズのコンテンツを紹介してサイトへの導線作りなどを行なっています。また投票機能の活用や、ユーザーのツイートの引用リツイートを行い、ユーザーとの積極的なコミュニケーションにも力を入れています。

ーキャンペーンも実施されていますね。

はい。Twitterでも馴染みのある「フォロー&RTキャンペーン」は定期的に実施しています。Twitterも各ブランドごとにアカウントを運用していますが、「キットカット」や「ネスカフェ」のように知名度が高くフォロワーもたくさんいる、というアカウントだけではありません。いろんなブランドの商品紹介や販促施策として、ネスレアミューズのアカウントを利用してキャンペーンを行っています。

ーキャンペーンの主な目的はどこに設定していますか?

まずはインプレッションを重視しています。もちろん、インプレッションには広告も有効だとは認識していますが、色々な事情から広告をうつことができないケースやブランドもあり、そうした場合のプロモーションにもネスレアミューズのTwitterアカウントを利用しています。同時に、いろんな見方にもよりますが、実はこういったキャンペーンがインプレッション獲得効率としては非常に良かったりします。
また、一つのアカウントで様々なブランドのキャンペーンをおおよそ同じようなスキームで実施しているので、リソースの負担を下げる効果もあります。

ーハッシュタグなども社内で考えていらっしゃるんですか?

はい。キャンペーンの企画は原則そのブランドの担当が考えており、そうした彼らが伝えたい内容や企画にそったハッシュタグを考えています。

ー数あるSNSの中でTwitterを選ばれたのはなぜでしょうか?

私、個人的には常に戦略的に物事を考えていくことがとても重要だと考えており、それがTwitterであれ、その他のSNSや広告やSEO対策であれ、どんな施策も施策ありきで考えるのではなく、「目的は何か?」、もっと言えば「課題は何か?」から始めるべきだと考えています。今回はそれに則った結果として、一番適していると判断したのがTwitterであったということです。

ーTwitterのどういった点が目的と合致したのでしょう?

Twitterは拡散性に優れたメディアです。インプレッションの獲得や、商品やブランドの認知拡大を目的とする場合、Twitterの持つ拡散力は大いに有効です。
確かにInstagramはそのユーザー数や話題性は魅力的ではありますが、現時点でネスレアミューズはアカウントを開設していません。目的が不明確なまま、流行っているからという理由が先にきてInstagramアカウントを持つと、いざアカウントを作った後に何をすればよいかわからなくなりますし、結果が本当に良かったのか悪かったのか判断できないからです。
流行っているという事実もターゲット次第では一つの検討材料としては非常に重要なことですが、目的を明確にし、それを達成するために何をするべきか、それをするには何を使うと最も良いのか、という視点でメディアを選定し、目的にあったメディアとKPIを設定していくべきなのではないでしょうか。

消費行動の変化を経て大切にしたいのは、商品をよく理解してもらうこと

ーこの2年、生活者の心理や行動は大きく変化してきました。中通様ご自身、具体的にどのような変化を感じていらっしゃいますか?

例えば昨年の2月でいうと「レシピ」という単語のGoogleでの検索数がそれまでと比較して1.5倍の水準にあがりました。我々は食品を扱っている会社ですので、この変化は注目すべき変化です。さらに、我々はネスレアミューズのなかで「ネスレバランスレシピ」というレシピコンテンツを運用していますが、昨年の2月、3月ごろには「お子様と一緒に作れる」レシピの需要が高まりました。2〜3年前は「時短」というキーワードが注目されていましたが、昨今は在宅時間が増えたことに伴い、料理が単なる家事の一つという存在から、在宅時間を有意義に過ごすためのイベントであると感じる人が増え、「料理」の価値に変化が生じました。それに伴って必要なレシピの需要にも変化があったのだと思います。

ーこの変化に対してはどのような施策を行いましたか?

「お子様と一緒に作れる」レシピの拡充を実施しました。「レシピ」の検索数が増えたとからと言って、なんでもいいからレシピコンテンツを増やすのではなく、どうして増えたのか、その中身を分析し、お客様がついてきてくれるコンテンツの提供を行うことが大切だと考えています。

ー生活者のインサイトをきちんと理解することが大切なんですね。

その通りです。ごく当たり前のことですが、インサイトにあったコンテンツを充実させることでその人のサイトへの満足度が高まり、再訪率もあげることができます。それがメディアパワーを強くすることに繋がります。
同じ様に、「おうち」というキーワードの検索数も増えたことが分かりました。実際、ネスレアミューズの中にある「Nestle fun picks」という記事コンテンツページの中でも、「おうち」というキーワードがある記事は人気が高くなっています。そのため記事を作る時もこうしたキーワードをとらえた記事を積極的に公開するようにしています。

また、「おうち」というキーワードに関しては、SHARPさんとコラボという形でご協力いただき、共同キャンペーンを実施しました。このキャンペーンは、8週間にわたり毎週キャンペーンページで出題されるクイズに回答してキャンペーンに応募するというシンプルなものです。
しかし、「おうち需要」に対する生活者の高い興味関心というインサイトをとらえ、キャンペーンの景品を、それぞれの企業がもつ自宅で使える商品に設定することで高い関心を持っていただき、来訪数、参加者数共に、とても結果の優れたキャンペーンとなりました。

ー共同で行うことでキャンペーンとしての幅も出ますよね。

そうですね。SHARPさんはSHARPさんとして会員組織をお持ちですので、当初はお互いから相互送客しましょうという発想からキャンペーンを計画し始めました。しかし、これがうまく作用した要因は、お互いの顧客が「おうち時間を充実して過ごしたい」という共通のインサイトを持っていて、それに我々がキャンペーンを通してしっかり応えられたからだと考えています。

ーありがとうございます。こうした生活者の新しい生活習慣や消費行動の変化を経て、今後の企業のマーケティングはどうなっていくと思いますか?

ここ数年、生活者の在宅時間が増え、さらには生活習慣まで変わり、マスだけではなくデジタルを含めたメディアの接触時間もかなり増加しています。それだけ生活者は日々多くの情報と接触しているのです。

こうした状況下においては、消費行動においても、生活者はたくさんの情報のなかから、これまで以上に日々商品やサービスについて様々な情報を取得し、どういった生活を過ごしていこうか、どんな生活が自分は好きなのか、延いては本当に必要な商品は何なのかを考える機会が増えてきているのではないでしょうか。そのため今後は、企業は自分たちが提供する商品やサービスの本質を明確にして伝えていくことがより大切になってくると思います。商品やサービスについて、ただ消費するだけのものではなく、それらが持つ価値を伝え、理解してもらうことで、生活者の方が購入を検討する際に「これが欲しい」と感じていただけると考えています。

ーより深いコミュニケーションが求められるんですね。

はい。例えばTwitterでは、これまで我々はインプレッションを重視してきましたが、今後はよりエンゲージメントを高めることにも積極的に取り組んでいきたいと思っています。Twitterという媒体の特性上、発信する情報がある程度マス寄りな情報になることは仕方ない面はあります。しかし、それを踏まえたうえで、自分たちが伝えたいことだけを一方的に発信するのではなく、ユーザーの心理をきちんと仮説立てし、生活者が望んでいることと自分たちの商品やサービスの本質を結びつける情報を提供するといったことにチャレンジしてみようと考えています。
私たちはFMCGの業界ではありますが、「ネスレはこういう会社なんだ」と理解していただくことで、商品選択の際に自分たちのブランドの商品を選んでもらえる状況を作っていけるとベストだと思っています。