ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組まれている企業の担当者に、現場でのSMM活動の実際についてお聞きするインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】。

 
こんにちは、SMMLabの藤田です。今回は、世界100カ国以上で展開する世界的なブランド、「フィリップス」のWEBマーケティング領域を総括されている「カントリーインターネットマネージャー」高橋 淑恵氏に、グローバルブランドにおけるソーシャルメディア戦略についてお聞きしています。後編では、「フィリップス」社におけるソーシャルメディアマーケティングの位置づけや、社内外での多角的な施策によるソーシャル化の取り組みついてお聞きしました。
 
前編はこちら
http://smmlab.jp/?p=5027

ソーシャルメディアはマスメディアに取って代わるものではない

 

――「ソーシャルメディアマーケティング」は、部門・部署によってその活用目的が違ってくるため、予算を担う部門・部署が主管することが多いと思います。製品ごとの縦割り組織だとその辺りはどうなっていますか?
高橋:マーケティングの予算は全て製品ごとなので、基本的にはソーシャルメディアにかける予算も他のメディアと合わせてマーケティング・マネージャーの裁量となっています。しかし、製品を横断した「フィリップス」ブランド全体としての施策に関しては、どうしても振り分けられない部分があるので、橋渡し的に私が予算を持つ場合もあります。
 
 
――ソーシャルメディアとそれ以外のメディア、広告との使い分けは?
 
高橋:それも製品の特性や過去の実績等によって、マーケティング・マネージャーが決めています。テレビCMを活用するのが得意な人、雑誌出稿が上手い人など、マーケティング・マネージャーもそれぞれですので、他のチームの施策や運用結果を共有して、マーケティングプランの最適化を手伝うのも私の役割のひとつです。
 
 
――ソーシャルメディアへの取り組みを始めて、マーケティングプランに変化はありましたか?
 
高橋:ソーシャルメディアが、テレビCMの代わりになるのではないかと考えられることが多いのかもしれませんが、私はあまりそうは思っていなくて、むしろ共存していくべきものだと思っています。完全にテレビCMを無くしても同じ事が出来るかと言ったらそうではないと思いますので、「テレビCMと同じ事は出来ないメディアなのだ」ということを事前に知る事が必要でした。2010年の企画当初から1年半ぐらいは、周りがどんなことをやっているかしっかり見ようということと、個人でソーシャルメディアを活用してみて何に使えるかを考えてみるということが担当者のミッションでした。
 
そうした中で、「やはりネットより店頭を重視したい」というマーケティング担当者も出てきましたが、ソーシャルメディアによるメリットが大きいであろう製品に関しては、その意義を理解してもらってマーケティングプランに取り入れてもらいました。
 
 
――広告予算の削減などによって、「ソーシャルメディア」への期待が大きくなりがちな中、本質的な理解にすごく時間をかけられたということですね?
 
高橋:はい、実際にソーシャルメディアの運用を開始してからは間もないのですが、それまでには1年以上の時間をかけてきました。最初は弊社でもソーシャルメディアを使えば費用がかからないと思っていた人が多く居ましたので、「実際はお金も手間も凄くかかる、楽ではないメディアである」ということを理解してもらう為にはこれだけの準備期間が必要でした。
 
 

ソーシャルメディアはコミュニケーション・ツールのうちの一つでしかない

 
――ソーシャルメディアはマーケティング全体においてどのような位置づけですか?
 
高橋:結局、ソーシャルメディアはコミュニケーション・ツールのうちの一つでしかないので、マーケティング・マネージャーはむしろ、テレビや雑誌、店頭にどうやって繋げていくかという包括的なプランニングにものすごく時間をかけています。その為にはソーシャルメディアそれぞれの概念・特徴からその活用範囲などを解説したガイドブックや、イントラビデオ、オンラインミーティングなどのトレーニング・メニューなど、ものすごく細かいスキームが用意されています。インターネットマネージャーである私は、こうしたスキームを元に、各担当者の施策を検証しています。
 

 
ソーシャルメディアの活用は経験やセンスなど、個人のポテンシャルによるところが大きくなりがちですが、こうしたスキームを確立することで、組織的な運営を目指しています。大げさに言えば、このスキームを完璧に実施すれば、誰でも明日から私と同じ仕事が出来るはずです(笑)。
 
 
――日頃のソーシャルメディア運用で気をつけていることはありますか?
 
高橋:長年培ってきたブランドイメージを傷つける可能性があるなど、会社をあげての対応を必要とするようなトラブルに関しては、対応マニュアルのようなものを用意していますが、日常の運用の中では想定外のことも多く、対応はその都度慎重に検討しています。Facebookも実名制だからといって、炎上などの危険性がないわけではないので、常に危機感は持っていますね。例えば、書き込みに対して「返信がない」といって怒る方もいらっしゃって、それもリスクになるうるわけですから、アンテナは敏感にしておきたいと思っています。
 
 
――「カントリーインターネットマネージャー」というお立場で感じる、ソーシャルメディアマーケティングの難しさとは?
 
高橋:担当者によって「ソーシャルメディア」に対する「温度感」が違うことですね。一番困るのは「ソーシャルメディア」に魅力を感じていないけれど、会社がやれと言っているから仕方なくやる、というパターン。ソーシャルメディアの施策は、コミュニケーションの現場が本気でやりたいと思わなければ絶対に上手くいかないと思うので、そうした部分をコントロールしていくことに難しさを感じます。
 
 

「インターナル・コミュニケーション」でソーシャルエンタープライズを目指す

 
――現在はコンシューマーライフスタイル部門のみでの取り組みですが、これを他部門にも広げていく予定はおありですか?
 
高橋:他の2部門(ヘルスケア、ライティング)は主にB to Bになりますので、活用方法が少し異なると考えています。ブランディングや広告といったアプローチよりは、ソーシャルCRM的な取り組みが必要だと思っていますが、製品の特性や業界の慣例などで「情報」の開示が難しいところがあり、オープンに共有する事で機能するソーシャルCRMをそのまま活用するのは無理があると感じています。また、既に顧客の顔が見える営業施策が十分な効果を上げているため、ソーシャルメディアの必要性が低いというのが現状ですので、無理のない導入方法を検討している段階です。
 
その他では現在、「人事部」がソーシャルメディアの活用に積極的な姿勢を見せています。企業ホームページと並列して、もうひとつの情報発信の場として使ってみてはどうだろう?という案が出ていますが、私は慎重に進めるべきだと考えています。
 
この就職難の時代、学生や転職希望者は様々なタッチポイントで企業にアプローチしようとしており、ソーシャルメディアは間違いなくそのひとつです。一方で、ソーシャルメディアを採用に利用することは、どの企業様もまだ試行錯誤中なのではないかと思います。
 
双方向のコミュニケーションが出来るソーシャルメディアの特性を生かして、企業のニーズと求職者が求める事の相互理解が深まれば、それはとても素晴らしい使い方ですが、同時に企業の採用体制や姿勢などが明らかになるため、気を付けるべき点も数多くあります。知らないうちに近づく距離感が逆効果を生まぬよう、最善の活用法を現在検討中です。
 

 
企業ブランド全体としては「Unknown Heroes」というサイトをソーシャルメディアの取り組みと合わせて開始しました。このサイトには目的が二つあって、一つはもちろん、お客様に「フィリップス」を知っていただくためのブランディングなんですが、もう一つは「インターナル・コミュニケーション」なんです。弊社は、事業部ごと、製品ごとに縦割りの組織になっている為、同じ社内でも他部門他製品に関する取り組みが分かりづらい状況なんですね。それぞれの仕事を互いに知る事によって、社員がより会社を理解し、「フィリップスブランド」に対する愛着を深めることに繋げたいと考えています。
 
 
――事業やブランド、製品に対する愛情を育み、会社に対するコミットメントを高める。ソーシャルエンタープライズを目指す取り組みなんですね。
 
高橋:弊社では毎年「Employee Engagement Survey」という、社員が会社のことをどう思っているかという調査を全世界一斉に実施しています。この調査で「会社に対する社員のエンゲージメント」を高めることが、マネジメント層のミッションのひとつとなっています。「Unknown Heroes」のような情報サイトで、社員がフィリップスについての理解を高め、自分たちの会社に誇りを感じるようになるなど、「インターナル・コミュニケーション」に役立てればうれしいですね。
 
 
――「インターナル・コミュニケーション」を強化する取り組みは他にもされていますか?
 
高橋:2009年位からイントラの発展系のような社内SNSを立ち上げていますが、そこでは製品や部門、国を越えた社内コミュニケーションが生まれています。
 
「フィリップス」の社員は、世界100カ国以上で、製品ごとの組織で業務にあたっていますので、こうした「インターナル・コミュニケーション」は、会社のビジョン、指針、戦略などの共通理解・共有に非常に役立っていると思います。
 
また、ソーシャルメディアでのコミュニケーションによって、お客様との距離がグッと近くなった分、ブランドには一貫したアイデンティティーが必要とされていますので、社内の意識共有による“ぶれない”ブランド作りは、ソーシャル時代の企業にとって大切な活動だと感じています。
 
 
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高橋 淑恵 氏 プロフィール
株式会社フィリップス エレクトロニクス ジャパン
カントリーインターネットマネージャー
略歴
米国企業日本法人を経て2006年株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパン入社。電気
シェーバーやヘッドフォンのマーケティングマネージャーに就いたのち、2010年より現職。
■関連リンク
公式企業サイト http://www.philips.co.jp
フィリップスブランドサイト http://www.philips.co.jp/uh
シェーバーフェイスブックページ http://www.facebook.com/PhilipsSelfExpression.jp
ソニッケアーフェイスブックページ http://www.facebook.com/sonicarejapan
 
 
インタビュアー :藤田 和重(アライドアーキテクツ株式会社 SMMLab)
 
 
■参考リンク
モニプラファンアプリ http://fan-app.monipla.jp/
 
 
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