国内最大級の専門カンファレンス【モバイル&ソーシャルWEEK2012】 1日目の内容をレポートします。


マーケティングに携わる経営層や担当部署の責任者、そしてソーシャルメディアやスマートデバイス向けサービスの開発者、モバイルとソーシャルの提供事業者など、デジタルマーケティング業界のキーパーソンが一堂に会して行われた国内最大級の専門カンファレンス「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」。
今回は2012年7月24日~26日の3日間にかけて行われたカンファレンスの内容を、数回に分けてレポートします。前回に続く第二回目は、第一日目に開催された専門セッションの中からSMM Labが参加した5つのセッション内容をご紹介します。
 

セッション1:「BigDataの実践と課題 ~O2O、そしてその先へ」
楽天 執行役員 楽天技術研究所所長 兼 開発アーキテクチャ部部長 兼 ビッグデータ部副部長 森正弥氏



今年の2月に新設された、楽天ビッグデータ部の副部長である森氏が、同社の実践するビッグデータ活用と、今後の課題について語りました。

 

楽天が実践するビッグデータ活用



楽天では今年の2月にビッグデータ部を新設。それ以外にもグループコアサービス部や楽天技術研究所などで、非構造ビッグデータのインタラクティブな活用や、プラットフォーム構築に挑んでいると説明します。
楽天は現在、楽天市場、楽天トラベル、楽天レシピ、楽天証券…その他全部で50を超える事業を展開しており、その全てから、会員属性、ログイン履歴、購入履歴、アンケート、カード情報、ポイント、クーポンなどのデータを着々とデータベースに蓄積していると言います。そしてそのデータをショッピングにおけるパーソナライズや、レコメンデーション、リターゲティングなどに積極活用しているそうです。
実際に、掲示するバナーを、手動運用からデータに基づく自動運用に切り替えたところ(バナーのパーソナライズ対応)、コンバージョンレートが1%改善したり、またレコメンデーションエンジンが売上げに占めるインパクトは非常に大きいと説明します。
 

実空間情報の統合で情報爆発はさらに加速



そして、今後のビッグデータ活用について次のように説明しました。「商品検索やバーコード、QRコード等を用いたインターネットでの購買を誘導する試みが拡大している。またそれにあわせてO2Oの流れも加速しており、アメリカでは実店舗の差別化を目的として、実空間からネットへの誘導を行うサービスが増えている。そして、この『実空間情報』を統合していくことにより、2003年頃から進んでいるこの情報爆発(ビッグデータ化)は、さらに加速していくだろう」
最後に、今後これを支えるシステム基盤と、解析できる人材(エンジニアやアナリスト)の育成が急務であると語りました。
 

セッション2:「ストーリーをつむぐスターバックスのSocial&CRM」
スターバックスコーヒージャパン マーケティング本部

Web/CRMグループ マネージャー 長見明氏



スターバックスコーヒージャパン マーケティング本部の長見氏により、同社が実際に開催したキャンペーン事例と、同社の実践するCRMについて紹介されました。

 

発売初日に予想の3倍を売り上げた限定フラペチーノ



同社が2012年4月18日~6月5日に期間限定発売した「チョコレートクッキークランブルフラペチーノ with ホワイトチョコレートプディング」は、通常のフラペチーノより100円も高い590円という強気の値段で販売したにもかかわらず初日に予想の3倍を売り上げるなど、非常に成功した商品だったそうです。そしてその成功の裏には、この商品の発売日前日より開始した「Celebrate My Style Magazine」というキャンペーンの存在があったと言います。
本キャンペーンでは、発売日前日に「Summer Collection 2012 フラペチーノ meets fashion」と題し、フラペチーノをテーマにファッションブランドRon Hermanとコラボレーションしたイベントが実施されました。長見氏は、「本イベントはカスタマイズしやすくなったフラペチーノを自己表現のアイテムとして取り入れてほしいとの想いを込めたものだった」と言います。

イベントレポートURL:http://www.starbucks.co.jp/mystyle/eventreport/
同イベントをUstream公開するほか、発売日当日にはサイトをフラペチーノ仕様に変更、ブログを更新するほか、FacebookやTwitterでお知らせするなど、発売に向けて周到に準備をしたそうです。その結果、発売当日にTwitterのトレンドキーワードに「フラペチーノ」がランクインしたり、Yahooの「話題なう!」に取り上げられるなど、ソーシャルメディア上でも非常に話題が拡散、2時間くらいの間、日本における「バズワード」にできたと言います。
 

「フラペチーノ」にストーリーを



ではなぜそのような盛り上がりを演出することができたのでしょうか?長見氏は、このキャンペーン成功の裏には、いくつかのポイントがあったと説明します。
・分かりやすい商品と長い商品名
ポスターやサイトを見れば、新しいフラペチーノがどんなものなのか分かりやすかった一方で、商品名が非常に長く「言えないこと」が逆にソーシャルメディアでの話題にされやすかったのでは。
・TVパブリシティ
見たいものしか見ない、聞きたいことしか聞かない消費者を振り向かせるためには、企業が語るのではなく、インフルエンサーに語ってもらうことが大切。そして現時点で最大のインフルエンサーはテレビである。今回はタイミングよくテレビに取り上げてもらうことが功を奏した。
・ファッションイベント実施による商品の「ストーリー化」
ファッションイベントを実施することで、フラペチーノに「おしゃれでセンスがよい」というイメージをプラスすることができた。これが無ければ、ただの普通の甘いドリンクで終わっていたかもしれない。
そして、全てに共通するポイントとして、商品にもキャンペーンにも「ストーリー」があることが大切だと語りました。
 

スターバックスが実践するCRM



また、同社の実践するCRMについても紹介されました。そのキーポイントとして以下のような点が挙げられました。
・値引きに頼らない
同社では、値引きに頼るのではなく、「お客様のコーヒー体験を豊かにする」ことで顧客の生涯価値最大化を追求している。お客様のコーヒー体験を豊かに=Coffee Seminar、フードペアリング(コーヒーと食品の食べ合わせ)の提案等
・レコメンデーション
同社では、データに基づき顧客嗜好に合わせたレコメンデーションは行っていない。むしろ、「予想通りのお勧めでは面白くない。ランダムに提案することで驚きを演出する」ことを大切にしている。
・提案はタイミングが大事
とはいえ、レコメンデーションのタイミングもランダムでよい、というわけではない。顧客の好みが変化したとき、職番環境が変化したとき、生活環境が変化したときなどに合わせてタイミングよく提案することで、顧客に驚きを提供でき、そこに物語が生まれてくる。
スターバックスでは、Digitalの取り組みも全てそれを通じた「接客」であるとし、お客様と物語を紡ぐことを大切にしているそうです。
 
セッション3:「「接客」のソーシャルメディア活用
~顧客をより深く知るための新しい窓口~」

東急ハンズ ITコマース部 EC企画課 ディレクター 緒方恵氏

東急ハンズ ITコマース部の緒方氏は、同社がソーシャルメディアを運営するにあたり大切にしている点について、具体例を交えながら紹介しました。

 
東急ハンズがソーシャルメディア運営で心がけていること


積極的なTwitter活用やFacebook、mixiページ運用で知られる東急ハンズは、ソーシャルメディアを「接客の窓口」の一つと捉えて日々の運用を実施していると言います。
その際、具体的には以下のような点を大切にしているそうです。
・できる限り毎日決まった時間にお決まりのツイートをする
・コメントにはできる限り返信する
・反応が多い時こそ、「反応していない」人のことを考える
・ポストの内容が偏らないようにする
・コミュニケーションのルールは店頭での接客と同じ
・企業アカウントは少しのことではヘコまないこと
・+1 interest(プラスワンインタレスト)を提供する 等
また、具体例として7月3日にFacebookページに投稿した「プッチンプリン」の話題について紹介しました。
この投稿では、プッチンプリンの新しい食べ方として「凍らせて食べる」ことを提案。「+1 interest」「思わず誰かに話したくなる」を提案した結果、3, 000を超えるいいね!、合計300を超えるコメントとシェアが付いたそうです。
URL:https://www.facebook.com/TokyuHandsInc
 
 
 
 
 
 
 
 
大小さまざまな「接客」窓口を用意し、問い合わせのハードルを下げる


現在運用しているソーシャルメディアは、Twitter、Facebookページ、mixiページの3種類。Twitterは、目的別で以下3アカウントを運用しているそうです。
・@TokyuHands=ヒト(東急ハンズ公式アカウント。東急ハンズのヒトは元気、頼りがいがある、親近感がわく等のイメージ付け)
・@HintMarket=コト(東急ハンズ広報アカウント。東急ハンズのイベント等、コトを紹介)
・@HandsNet=モノ(東急ハンズネット通販で扱う商品の中から面白いモノを紹介)
これらソーシャルメディアアカウントの運用により問い合わせのハードルが下がり、以前はあえて問い合わせはしてこなかった人からも多くの問い合わせが入るようになったと言います。そして、その大半は「東急ハンズに○○って商品は売ってますか?」というもの。
これに対応するものとして、Twitter、WEB版の「コレカモnet」というサイトを立ち上げたそうです。これはユーザーからの「○○って商品は売ってますか?」にシステムが自動リプライ、そしてユーザー同士が解決し合えるというもの。さらに、7月24日には「facebook de コレカモ net」をリリース。「友達のfacebook上での投稿を、検索・分析し、その投稿にふさわしい商品を選出、その場で該当商品の取り扱い店舗と在庫状況を見る事ができるアプリ」とのことです。
 
東急ハンズが考える「SNSにおける重要指標」
 
東急ハンズでは、アクセス数やコンバージョン率等のKPIを特に設定していないそうですが、「+1 interest」の発信を提供できているかの確認のため、
・新規反応ユーザー数(初めてリプライをくれたユーザー数)
・商品カテゴリーにおける反応数の検証
等を実施しているとのこと。
企業アカウントを運用する際は、つい「発信」だけに注力しがちですが、東急ハンズでは「発信と対話は両輪である」と考えているそうです。発信することで「リーチ」をいかに広げるかを考える前に、まず目の前の一人一人に全力で向き合うこと。目の前の一人が振り向かなければバイラルすることはない、そして目の前の一人を振り向かせることができれば自然とバイラルしていくと言います。
 
お客様とより深くかかわり、愛されるために
 
そして最後に、講演のまとめとして以下のような点が大切と語りました。
・ありがとうございます、いらっしゃいませ、申し訳ございませんの精神
・愛されるコミュニケーションは、継続こそ力
・店頭、電話、メール、SNS 対応方法も、寄せていただける声の重要性も同じ
・社内コミュニケーションの循環、活性化
東急ハンズにとってソーシャルメディアとは、「お客様とより深く関わるための窓口がウェブ上にも存在しているということ」。
 
 
セッション4:「スマートフォン利用実態と企業のソーシャルメディア活用法
~最新調査結果から読み解く」
日経BPコンサルティング コンサルティング本部
ビジネスコンサルティング部長 堀 純一郎氏


「スマートフォンの国内普及率は18%。昨年の前回調査9.5%からほぼ倍増している。」

日経BPコンサルティング社の堀氏は、今年で13年目、18回目となる定点調査「携帯電話・スマートフォン“個人利用”実態調査2012」から、急増しているスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の利用状況を中心に、いくつかの興味深い結果データを紹介しました。

 

 

今回、全回答者4, 400人のうち1, 152人がスマートフォンを持っていると回答、所有率は26.2%でしたが、人口統計や携帯電話の普及率などを考慮し、国内のスマホ普及率は18.0%と推計されました。9.5%だった昨年の調査と比較すると、普及率はほぼ2倍となっており、スマホユーザーが急激に増えている感覚を裏付ける結果が出ました。

 

スマホの男女別利用率は、平均だと男性が30%、女性が22.3%となっていますが、年代別で見ると、男性は15-19歳が44%、女性は25-29歳が37.5%、20-24歳が36.5%と、10代男性と20代女性の利用率が高くなっています。

 

OSシェアはAndroidが57.4%、iPhoneが29.3%でしたが、女性のiPhoneユーザーが増加しているようです。

 

「ゲーム」分野の拡大と「買物」系分野が堅調。ケータイ・スマートフォン流通マネーの市場規模


ケータイ・スマートフォンを使って、何にいくらくらい使っているのか? 流通マネーの市場規模を推定したデータでは、前回調査(2011年6月)に比べ、「ゲーム」分野が514億から810億と大きく拡大しており、ソーシャルゲームのコンテンツパワーを証明しました。また、「オンラインショッピング」「ネットオークション」といった買物分野も堅調に推移しており、今後「おサイフケータイ」に変わる決済システムとして、NFC(近距離無線通信)の活用が増えてくると、実社会でのショッピング分野の市場も拡大するのではと期待されています。

 

堀氏はこうしたデータから、今後モバイル重視のマーケティングでは、「O2O」、「リアル連携」、「マルチチャネルの常識化」といったキーワードが注目だと語りました。

 
 

セッション5:「ニッセンにおけるビッグデータ活用の実際
~VOCを活かした次世代型のCRM~」
ニッセン マーケティング本部CRM推進部 ソーシャルメディアチーム
セクションマネージャー 柿丸 繁 氏

 

従来より顧客データベースを積極的に活用し、Eコマースを展開しているニッセンの柿丸氏は、自社の持つ顧客データベースやVOC(Voice of the Customer=顧客の声)と、ソーシャルメディアから取得するソーシャルグラフデータを融合したビッグデータの活用構想と、中長期的な関係構築を目指すソーシャルCRMの取り組みを紹介しました。

 

 

ビッグデータ活用のための基盤構築と活用推進

 

ニッセンでは、自社コマースサイト「ニッセンOnline」のユーザー2, 500万人の75%が、なんらかのSNSを活用していることから、そのIDと自社の会員ID(ニッセンID)を紐付けることで、ソーシャルグラフデータを連携し、顧客データベースのリッチ化を目指しています。取得したソーシャルグラフデータはセンシティブな情報を削除し、「頻出単語」や「人となり変数」を加味し、テキストマイニングで属性化。柿丸氏は、このリアルタイム性の高い属性情報によって、顧客のライフステージや生活イベントを、よりタイムリーに把握することが可能になるため、従来は対応出来なかったタイミングでの販促アクションが取れると言います。

 

また、50万ユーザーを有する自社SNS「ハピテラ」に蓄積する購入者のクチコミデータと、ソーシャルによって「見える化」された自社の評判、WEBクローリングによるソーシャルデータを統合。データマイニングによって評価指標項目に分類し深堀、共起分析などと組み合わせることで、従来では認知出来なかった問題点の気付きや改善法を得ることが出来るとしています。

 

ソーシャルCRMを活用した中長期的関係の構築

 

Twitter、Facebookをはじめ、6つのアカウントを開設している外部ソーシャルメディアは、顧客や見込み顧客のロイヤリティを高め、中長期的なLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の向上を目指して運用されています。コミュニケーションとしては徹底的な対話戦略をとり、ソーシャルメディア上のコンテクストに合わせた呼びかけで意図的にVOCの量を増やしているのだとか。また、2012年4月からはTwitterでのアクティブサポートもスタート、流出顧客の呼び戻しや潜在不満の解消などにも対応。事業品質の向上にも繋がっています。

 

さらにニッチユーザーをターゲットとする「スマイルファクトリー」では、外部SNSのプラットフォームを活用することで、実現が容易になった「消費者主導型商品開発」にも取り組み始めているそうです。

 

以上のような取り組みの推進について柿丸氏は、「社内組織を横断した戦略統合が必要なため、全体設計が重要。絶対に部分最適化をせず、担当する組織の孤立した活動にしないことが大切。」と締め括りました。

 
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