SMMLabでは、マスメディアの代表であるテレビが、今後ソーシャルメディアとどのように影響しあうのか、企業のマーケティング活動をどう変えていくのかに注目し、「ソーシャルテレビ推進会議」の公式サイト「ソーシャルテレビラボ」からの寄稿記事をご紹介しています。
ソーシャルテレビラボ
http://socialtv-lab.org


 

日本テレビという名のベンチャー企業〜JoinTV カンファレンスに行ってみた〜

 
16日は日本テレビのJoinTVカンファレンスというイベントに行ってきた。13時開始18時終了という午後いっぱい使う催しで、日本テレビの本気を予感させられた。それにJoinTVは登場以来、その面白さを追ってきている。3月6日のiConで初お目見えした際には、データ放送でスマートTVを具現化する発想の面白さに感心して写真付きで長々と記事を書いている。(http://sakaiosamu.com/2012/0314080053/
さらに、5月末の”スマートTVサミットでのJoinTVの今後のビジョンの発表にはこれまた輪をかけて驚いて記事を書いた。(http://sakaiosamu.com/2012/0528080044/)JoinTVがネット関連部署のゲリラ的実験ではなく、局として会社として本気で取り組むプロジェクトだとわかったからだ。今日のカンファレンスは、つまりその続きにあたるのだろうと受けとめた。ただ5月の時とは違い、自分たちがイベントを主催しての発表だという点が大きくちがう。なんだかちょいと、ワクワクしたよ。
催しの構成はプログラムを見てもらえばわかる通り、LINEのNHN Japan、mixi、Facebook、Twitterという、代表的なソーシャルメディア企業それぞれの方が登壇し、各サービスとテレビとの関連について語った。その時点で十分カンファレンスとして面白いのだけど、やはり聞きたいのは16時からの日本テレビ自身による”ソーシャルと連動した3つの新展開の発表”、とやらだ。当然ながらJoinTVでまた新しい計画があるんだろう。なんだろうね、ワクワク。
ところで、ぼくは仕事上で少しだけせっぱつまったことがあってドタバタとMacを開いたり閉じたり席を立って隅っこで電話したりしてたのだけど、慌ただしく過ごしつつ、会場でずっと「えーっと、うんと、なんか変だな」と感じていた。”変”というか、奇妙な感覚にとらわれていたというか。でも不快なわけではない。
うーんうーんと考え込むうちに、ハタと気づいた。この空間のこの空気は、老舗テレビ局っぽくないぞ!ぜんぜん!どっちかというと、ネット系のベンチャー企業(ただし上場済みのある程度の規模の)みたいなんだわ、このにおいは!
ここで突如画面が暗転してセピア調になったかの如く、昔へ時間を巻き戻してみると。
ぼくは20年前、中堅広告代理店のコピーライターとして日本テレビの仕事をしていた。ちょうど巨人戦の視聴率が下り坂にはっきりなった頃で、20%を切ったぞ何とかしなきゃ、ってことになっていた。いま思えば20%切ったぐらい、いいじゃないか、という感じだが当時の日本テレビにとっては一大事だったのだ。
巨人戦の担当として新たに着任したプロデューサーに、ぼくは企画書を持っていき、「お父さんのチャンネル権を取り戻させてあげましょう!」と、頑固オヤジ代表の星一徹がちゃぶ台をひっくり返して「巨人を観ずに、めしが食えるか。」というコピーを提案した。二つ返事で採用になりたまたまとれた夕刊ラテ面10段のスペースで展開した。スポーツマスコミの間ではちょっと話題になった。東京コピーライターズクラブ、略称TCC新人賞をとってぼくは念願がかなった。
そんな勲章をくれた日本テレビなので、当時の雰囲気はよーく憶えている。そして、当時の日本テレビは体育会系な空気だった。
いやもちろん、ぼくがスポーツ中継の仕事をしたから特別そう記憶しているのだとは言える。また、テレビ局は意外にも全体的に体育会系な気風なのだ。比較するとTBSは文化系っぽかったかなとか、フジテレビは軟派かもねとかのちがいはありつつ、基本的には体育会系。これはCM制作会社もそうで、映像系は体育会系になる傾向がある。チームワークで仕事するからかな?
そんな中でも日本テレビは典型的体育会系な空気を放っていた。もちろんそれは良くも悪くもであり、だからダメだったというつもりはない。とにかく体育会系。まあ昭和の企業はみんな多かれ少なかれ体育会系だったと言えなくもないかな。
いまはもう体育会系ではないだろう。でもJoinTVカンファレンスで感じた空気は、体育会系の要素はまったくない。微塵もない。そして漂うベンチャーっぽさ。IT企業みたい。そりゃあJoinTVだのwiz TVだのってIT技術を駆使した仕組みなんだから当たり前だろうって?いや、そうだけどね。
話がそれちゃったな。そんな不思議な空気を感じながら聞いた日本テレビの発表は、期待以上の驚くべきものだった。
発表の概要を箇条書きで書くと・・・
A) LINEに日本テレビの(局としての)公式アカウント登場
B) JoinTV4つのリニューアル
1:セカンドスクリーンに対応(つまりスマホでも使える)
2:Twitterでも参加可能に
3:HTML5への対応でWEBで簡単に参加できる
4:JoinTVのチームにバスキュールも参加
⇒エヴァンゲリオンとTOYOTA CUPで新しいJoinTVが楽しめる
C) wizTV に、盛り上がっている話題を追うインタレストチャンネル機能追加(例:エヴァンゲリオンch)
あれー?箇条書きにするといまひとつ、インパクトが薄いなあ。
というわけで、JoinTVリニューアルの部分のスライドを写真で見せよう。




こんな感じで巨大なスクリーンにひとつひとつのポイントが映し出された発表を見ると、こちらもぐいぐい気分が高揚してくる。
とくにJoinTVのバージョンアップは驚いた。データ放送を使うのは面白いけど、やっぱり面倒は面倒。とくにテレビをネットにつなぐのはかなりハードルが高い作業だ。それに、スマホでのダブルスクリーンはこれから当たり前になっていくだろう。そんなニーズと状況に、見事に対応した。このバージョンアップは登場一年後の来春でも決して遅いとは言われなかっただろう。登場から半年あまりでこんなに使い方を広げるなんて、他のサービスでもなかなかないんじゃないだろうか。テレビという縛りやしがらみの多い世界でよく一気に変えられたものだ。
そういう、発表の内容に感嘆しつつも、一方でさっきふれた”不思議で奇妙な空気”の話にまた戻りたい。
もともと体育会系な気風だったはずのテレビ局としては似つかわしくない、まるでベンチャー企業のサービス発表会のような空気は、そのあとのパネルディスカッションも続いていく。壇上には、このブログには何度となく登場している角川アスキー総研の遠藤所長、少し前に同じセミナーで講演したITジャーナリストの本田雅一さん、バスキュールの朴社長、そして日本テレビのプロデューサー中西太氏。中西氏以外はぼくもお付き合いある方々で、なんだかなじむ人選だった。
このメンバーがそもそも、テレビ局らしくない。ベンチャー企業のイベント感だ。とうとう最後まで、テレビ局らしからぬ空気で催しは終わった。
それでぼくは何を言いたいのかというと、このイベントから、”企業が本気で取り組むイノベーション”というものを感じとった、ということだ。本気で会社を変えるなら、新部署をどすんとつくって、しかもそれは端っこに置かないで、中枢に近いところに置く。そして三年間ぐらいは成果を問わない。予算も過不足なくつけて使うことに四の五の言わない。日本テレビは編成局にメディアデザインセンターという部署を置き、ちゃんとイノベーションに取り組んでいるのだ。
他の局だとどうだろう。視聴率だ。番組にソーシャルを絡める?いいけどさあ、もうネットは敵だとか言うつもりはないけどね。視聴率につながるならいいよ。・・・なに?やってみたら視聴率は伸びなかったの?じゃダメじゃん。意味ないじゃん。・・・そんなことになるだろう。それが普通だ。テレビ局とはそういうものだ。
カンファレンスのいちばん最初に、小杉さんという偉い方が出てきてしゃべった。「”家政婦のミタ”をね、当時はwizTVがなかったからtuneTVで見てたんですが、ツイッターでドラマの本筋とは関係ないツッコむ人がいるんですよ。その時、ソーシャルに取り組まなきゃ、って思いました」こんなことを言う偉い人がいることに驚いた。
終了後の懇親会で、また別の偉い人がおっしゃっていた。「視聴率に結びつくかはわからないですけどね。でも人が集まってくれば何かができると思うんですよ」つまり、視聴率のためにソーシャルに取り組むのではなく、視聴率とは別の価値を見出すためにソーシャルをやるのだ、とおっしゃっている。
それは、正しい。
ぼくが今年に入ってソーシャルテレビに取り組もうと決めたのは、そこに”新たな価値”があると感じたからだし、コミュニティができれば何かできるはずだという、根拠はないけどはっきりとした確信を持ったからだ。
と、カンファレンスに感心したのはいいけど話をどう収拾つければいいかわからなくなってきた。あ、そうだそうだ。さっきの4つのスライドとは別に、この催しでもっとも衝撃を受けたスライドをお見せしよう。

JoinTVをどの番組で活用するかを検討する際、このチャートが役立ったそうだ。日本テレビの番組の中で、ソーシャルなどで盛り上がる度合いを調べていくと、金曜ロードショーが熱くなりやすかった。これを”ソーシャルパワースポット”と名づけたそうだ。
んんんんん!なんだか面白い!・・・こういう、役に立つかどうかわかんないけど調べてまとめると面白いこと。そんなことにエネルギーを注げる環境づくりが大切なのだ。恐るべし、日本テレビ。とんでもないベンチャー企業だ!期待しちゃうし、他の局も頑張ろうぜい!
<ライター紹介>
境 治 (Osamu Sakai)

メディア・ストラテジスト。1987年、東京大学を卒業し、広告代理店I&S(現ISBBDO)に入社してコピーライターとなる。92年、TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞。93年からフリーランスとなりテレビCMからポスターまで幅広く広告制作に携わる。
06年、映像制作会社ロボットに経営企画室長として入社。11年7月からは株式会社ビデオプロモーションで企画推進部長としてメディア開発に取り組む。
著書『テレビは生き残れるのか』
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com


■関連記事
・【ソーシャルテレビラボ】
「踊る大捜査線」は最初のソーシャルテレビ現象だったのかもしれない
http://smmlab.jp/?p=12520
・ソーシャルオリンピックは、サッカーが盛り上げた!
〜ロンドンオリンピック総括レポート「大会期間ツイート推移」〜
http://smmlab.jp/?p=11557
・ロンドンオリンピックで盛り上がる「ソーシャルテレビ」が
生み出している新たな変化とは?
http://smmlab.jp/?p=10853