新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の世界的な流行は、日々の買い物、食事のスタイル、働き方や休日の過ごし方、人との交友の仕方まで、私たちの生活に大きな変化をもたらしました。

新しい常識を前提とした「ニューノーマル」時代に、企業はどのように消費者にアプローチしていくべきなのでしょうか?

そこで今回、私たちは「食品・日用品」「ファッション・美容商品」「外食」「娯楽・運動」の各分野における消費行動を調査しました。その調査から得られた約4,000名の消費者データ(※調査概要は記事最後に記載)をもとに、ニューノーマル時代のマーケティングに大切な3つのことを改めて整理していきます。

1.EC化/デジタル化の流れは止まらず。企業は早急な対応が必須に。

新型コロナ拡大以降にEC/デジタル上のサービスの需要が急増しています。この現象はこれからも続いていくのでしょうか。

今回の調査の結果、「食品・日用品などの普段の買い物」において約50%のユーザーが、また「ファッションや美容商品の消費行動」において約45%のユーザーが今後できるだけ通販を利用することに積極的であることが分かりました(図1&図2)。

また、「外食」に関しても「店内飲食」だけでない多様なサービス提供スタイルが求められています。今回の調査結果では、約50%のユーザーが今後できるだけ持ち帰りや宅配を利用することに積極的であると回答しています(図3)。

また、エンターテインメントやスポーツ/運動を楽しむ際もデジタルの活用が進んでいます。今回の調査では、48%が映画館の代わりに自宅で動画配信サービスを活用、ジムに行く代わりに自宅で筋トレするなど、今後極力自宅で動画を活用して楽しむことに積極的と回答しました(図4)。

これらの結果から、コロナをきっかけに進んだEC化/デジタル化や新サービス提供に対する需要の高まりは、決して一時的なものではなく、「これからの前提」と捉えるべきだと言えます。

各業界も、この流れを受けて急ピッチで以下のような対応を進めています。

<食品・日用品>

・クックパッド 生鮮食品EC「クックパッドマート」宅配サービスをスタート(2020年4月)
・Amazon×ライフ 生鮮食品オンライン販売・配送サービスのエリアを拡大(2020年4月)
・イオン 「新型コロナ後」に備え、オンラインへのシフト加速へ

<ファッション>

・ファッション各社 ライブコマースを通じたオンライン接客・販売を開始。ライブコマースをまとめたサイト+EC連動も。
・今治タオルのIKEUCHI ORGANIC オンラインzoomストアをオープン(2020年4月)
・「無印良品」 Amazon、楽天市場での販売をスタート(2020年5月&6月)

<美容商品>

・オルビス 自社ECサイトでスタッフによる有人チャットサービス開始(2020年4月)
・コーセー 現役美容部員がSNS上に投稿したメイク画像や商品紹介画像の掲載をスタート

<外食>

・俺の株式会社 「俺のEC」開設(2020年4月)
・卸業メイン/オリジナルクラフトビール販売の「京都醸造」 ECサイトを開始(2020年3月)

<娯楽・運動>

・東急スポーツオアシス 通販部門や自社アプリを強化
・YONEX 情報発信型ECサイトをオープン(2020年4月)

上記事例の詳細はこちらの記事にまとめてあります。
【コロナがもたらしたDX革命】各業界の「EC化」「デジタル化」取り組み事例まとめ

2.店舗のあり方が変わる。必要な「買い物」や「体験」が手早く安全にできる環境づくりを。

新型コロナ拡大後、店舗での買い物にはどのような変化があったのでしょうか?

今回の調査の結果、店頭で「食品・日用品などの普段の買い物」をする際には、約80%のユーザーが「一人または少人数で買い物をする」(図5)、展示物に触らない、レジ待ちで間をあけるなど「できるだけ人との接触を少なくする」(図6)と回答しました。また、約67%のユーザーが「お店に買い物に行く前に計画を立て、お店での買い物は手早く済ます」(図7)と回答し、いずれも今後も継続したい意向です。

これらの結果は、今後家族とスーパーの店内を歩きながらその日の食材を決めたり、友人と一緒にドラッグストアに立ち寄りその場で欲しいものを見つけたり…といった買い物シーンは少なくなり、これからは食品や日用品の買い物は事前に欲しいものを決めて一人でさっと済ませることが多くなることを示しています。

企業は、試食や見本品展示などの店頭プロモーションだけでなくオンラインでのプロモーションなど「購入前に消費者と接点を持つ施策」への対応が急務と言えます。

また、店舗でも消費者が心地よく買い物ができる配慮(レジ待ち時の整列の工夫等)が必須でしょう。

店舗で「ファッション・美容商品」の買い物をする際は、54%が事前に情報収集をしお店での買い物を手早く済ませることに積極的と回答しました(図8)。ただし、食品・日用品の日々の買い物では全体の76%であったのと比較すると少なく(図7)、ファッションや美容に関してはやはり店頭で実際に見て決めたいニーズも一定数あることがわかります。

また、51%が今後「店頭での試着・サンプル品の使用や店員との会話など、店頭での人との接触を極力避ける」と回答しました(図9)。こちらも食品・日用品の日々の買い物では全体の85%だったのと比較すると少なく(図6)、試着や店員と相談しながらの買い物の需要も引き続きあることが分かります。

企業は、これら消費者の「試着・試用・接客」のニーズをできるだけ安全に、かつ短い時間で満たすことができるような店舗サービス提供の工夫が求められます。また、逆にオンライン接客やライブコマースの実施、自分が試したらどうなるかを想像できるツール(オンライン上での試着やカラーあわせ等)などを取り入れ、店舗での体験をデジタルでも実現できる工夫も求められるのではないでしょうか。

メガネのJINSが2017年より全国で提供している「JINSアプリ」では、消費者が店頭で各商品についているQRコードにアプリをかざすだけでその商品を記録することができます。店頭で無料で視力測定し、その度数情報をアプリに記録することも可能です。さらに、アプリ内の「FACE MATCH」にてメガネの試着もでき、JINSスタッフ約3,000人が作ったAI「JINS BRAIN」がメガネの似合い度を客観的に採点する機能も提供されています。消費者は、店頭でフレームの試着や視力検査を手早く行った後、自宅でゆっくりとショッピングを楽しむことができます。

店舗で「外食」をする際には、約58%のユーザーが「少人数、屋外空間を選ぶ、大皿料理は避ける」など、人との接触を極力少なくしたいと回答しました(図10)。これからも、できれば持ち帰りや宅配を利用、人とお店で外食をする場合には大皿料理は避け、不必要な飲み会や大人数の集まりは避けるなどの傾向が続くようです。

企業はこの傾向を踏まえ、外食する空間を換気が良く人との距離が取れて心地の良いものにする、料理の出し方や接客の際も感染拡大防止に十分な配慮をするなどの工夫が必要でしょう。

飲食店のコロナ対策についてはこちらのサイトにさまざまな情報が掲載されています。
飲食店の新型コロナウイルス対策。最新ニュースから「支援情報」まで|Foodist

「エンターテインメント・スポーツ/運動」について、動画を積極的に取り入れる層が多い一方で、約30%のユーザーは動画の活用を「現在は取り入れているが今後は消極的」「現在も今後も取り入れる予定はない」と回答、リアルの場での体験を重視しています(図4)。

また、自宅外で娯楽や運動を楽しむ際も、53%が空いている時間や場所を選ぶ、すれ違う時には距離を取る、予約制の施設を利用するなど、今後人との接触を極力避けると回答した一方で(図11)、人との接触を避けることに「消極的」なユーザーや「いずれも当てはまらない」ユーザーも全体の46%にのぼり、リアルの場で他の人と一緒に楽しみたいニーズも高いことが分かります。

企業はこの傾向を踏まえ、人との一体感を感じながらも感染予防の観点で快適に心地の良く過ごせる空間を作る工夫や、オンライン上でも人との一体感が楽しめるコンテンツの提供が求められます。

外出が今までよりも気軽なものでなくなった現在、消費者が店舗やリアルの場に期待するものは「店舗などのリアルの場所だからこその体験」なのではないでしょうか。店舗やリアルの場でのサービスを「お客様へのとっておきの体験ができるもの」として磨き上げていくこと、店舗を起点にそこからデジタルでも繋がれる仕組みをきちんと用意しておくことが重要です。

3.情報の探し方が変わる。SNSが、より生活全般で利用されるインフラに。

このように人々の消費行動が大きく変化するなか、その情報源には何らかの変化があるのでしょうか?私たちは今回、数あるメディアの中でもSNSに焦点を当て、「新しい消費行動」における意思決定のプロセスにSNSがどのような影響を与えているのかについても調査しました。

今回の調査の結果、約90%のユーザーがこれまで通りの時間SNSを利用、もしくは増加していると回答しました(図12)。なお、新しい生活様式で過ごす現在、利用する頻度が最も高いSNSは「LINE」38%、「Twitter」35%となり、この2つのプラットフォームが利用頻度が高いと答えた人が他と比較して圧倒的に多いことが分かりました(図13)。

新しい生活様式下におけるSNSの利用目的の中で増えたものは「趣味・好きなことに対する情報収集:59%」、「世の中のニュースのチェック:59%」、「友人との会話:24%」でした。さらに、「外出する時間を減らすために、事前にSNSでサービス内容やクチコミを検索・収集することが増えた:30%」、「通販やデリバリーを利用する機会が増え、サービス内容・クチコミ・申込をSNSを通じて検索・収集することが増えた:28%」となり、新しい生活様式下における買い物の情報取集源としてSNSを利用する人が増えていることが分かりました(図14)。この傾向は特にInstagramやTwitterをよく使うユーザーに多く見られます(図15)。

また、今後のSNSの利用目的についても尋ねたところ、70%のユーザーが今後SNSを「商品やサービスに関する情報収集やクチコミの検索」に「積極的に利用したい」「利用したい」と回答(図16)、60%のユーザーが今後SNSを「商品やサービスの申し込みや購買」に「積極的に利用したい」「利用したい」と回答しました(図17)。

新型コロナ拡大以降、SNSを「買い物に関する情報収集源」として一時的に利用するだけでなく、今後もその傾向が続くことがうかがえます。また、SNSを口コミ検索だけでなく申込みや購買を行う場所としても利用したいユーザーが多いようです。中でも、TwitterユーザーとInstagramユーザーにその意向が高いことが見て取れます(図17)。

ニューノーマル時代の消費行動において、SNSは「情報収集源」としての役割を果たすだけでなく、「購買」まで視野に入れた重要な役割を担っていくでしょう。

企業は今後、SNS上での情報発信、ユーザーとのコミュニケーション、キャンペーン等を活用した話題化、自社のUGCの生成など、SNS上で存在感を出すことが重要と考えられます。さらに公式アカウントでの情報発信やハッシュタグの活用、ソーシャルコマースへの対応等を通じてSNS上の情報からスムーズに購買までつなげる工夫を行うことで、このニーズを上手に捉えていくべきです。

キッコーマン、マルコメ、オタフクソース、マロニー、ハウス食品、ミツカンなど食品メーカー17社は、Twitter合同企画「#うちで夏祭り」にて、おうちで楽しむ屋台メシレシピを公開しました。

外出自粛によりなかなかお祭り気分が味わえない夏でも、「自宅で屋台の味を楽しもう」と呼びかけるこの企画は、「思わず作りたくなる」「作ったらSNSに投稿したくなる」要素がふんだんに盛り込まれています。詳細のレシピを見るためには、各社のTwitter投稿から自社サイトのレシピページを開く流れになっており、ついでに他のレシピもチェック…という効果も見込める設計になっています。

まとめ

今回の調査の結果、ニューノーマル時代において、消費者はより通販やオンラインサービスを利用する、お店に行く前に情報収集をする、お店では極力人との接触を避けるなど、これからも新たな消費行動を続ける意向であることが改めて明らかになりました。

現在、各業界が生き残りをかけて急速な対応を進めています。各社とも「自社のあり方」を改めて見つめ直し、今後の変化した世の中で「どうあるべきか」を探っています。私たちは、今までの常識や成功パターンにとらわれず、「今求められているものは何なのか」を手探りでも粘り強く探していかなければなりません

また、ニューノーマル時代においては、SNSの「消費行動における情報インフラ」としての重要性はますます高まっていることも分かりました。企業は、SNSに自社への好意的な情報が存在する状況はどのように生まれるのか、を改めて問い直す必要があります。顧客に喜ばれる商品作り、EC上でのスムーズな購入体験、トラブル時の丁寧で適切なサポート、店頭でのあたたかな接客体験…SNSの発展によりすべてが透明であっという間に伝達する時代だからこそ、改めて基礎に立ち返ることが重要なのではないでしょうか。

(※)調査概要
調査名称 : 新型コロナウイルス感染症拡大以降の「新しい生活様式」における、消費者のSNS利用実態調査
調査主体 : アライドアーキテクツ株式会社
調査時期 : 2020年7月11日~7月19日
調査方法 : モニプラ(アライドアーキテクツ株式会社)でアンケート調査を実施
調査対象数:4,069名(アンケート回答完了人数)
※設問ごとの有効回答数を「n=」で記載しています。
※本調査の内容を転載・ご利用いただく場合は「アライドアーキテクツ株式会社調べ」とクレジットを記載してください。

▼本調査の完全版データ(PDFファイル)を以下よりダウンロードいただけます。▼
※完全版では、消費行動に関する詳細データのみならず、ニューノーマル時代の働き方や交友関係に関する意識調査結果、買い物以外のさまざまな目的でのSNSプラットフォーム別の利用意向調査結果など、さらに多くのデータをご覧いただけます。