「#コロナに負けるな 外出自粛中のお家にほんの少しの楽しみを。チロルチョコ320個を抽選で100名様にプレゼント」-チロルチョコ株式会社が同社の公式Twitterアカウントで開始したキャンペーン「#おかしつなぎ」は、多くのユーザーの共感を呼び、瞬く間に全国70社を超えるお菓子メーカーが参加する一大ムーブメントになりました。

今回は、本企画の発起人であるチロルチョコ株式会社松尾社長にインタビュー、同社が本企画に込めた想いをはじめ、同社にとってのSNS公式アカウント運営の意義や、ソーシャルメディアに向き合う際に大切にしている考え方、過去話題になったキャンペーンや商品開発の裏話まで、たっぷりとお話をお伺いしてきました!

「日本に明るい話題を」 チロルチョコが#おかしつなぎに込めた想い

-まずは今回の企画「#おかしつなぎ」を始めた経緯を教えてください。

私が本企画を思いついた4月中旬は、新型コロナウイルス感染症の影響で日本全国にどんよりとした空気感が漂っており、Yahoo!やTwitterなどを見ていても、ネガティブで攻撃的なコメントが散見される状況でした。

そうしたコメントを目にする中で、私自身もつい批判的でネガティブな考え方になっていることに気が付いたのです。「お菓子メーカーとして、何かポジティブな話題を提供できないだろうか」ーそんな思いからスタートしたのが今回の企画です。

弊社の先代が作った社是は「楽しいお菓子で世の中明るく」、そして現在のミッションは「あなたを笑顔にする」です。私たちは普段から、どうしたらお客様に楽しさをお届けできるかを社内でディスカッションしています。今回の企画でも、これを体現できればと考えました。

チロルチョコ株式会社社長 松尾裕二氏。Webミーティングツールを利用してインタビューを実施した。

-ポジティブな話題の提供方法として、「Twitterを通じて、自社商品をプレゼントするキャンペーンを開催」したのはなぜですか?
また、「#おかしつなぎ」という絶妙なネーミングは、どのように思いついたのですか?

自分たちに何ができるかを考えたときに、やはり私たちの仕事は「お菓子を作ること」であり、お菓子メーカーとして「お菓子を通じて楽しさをご提供する」ことこそが自分たちのやるべきことではないか、逆にそれ以外にできることはないのではないか、と。ですので、今回の企画は「自社商品をプレゼントしよう」と、すぐに決まりました。

その次に考えたのが、何か共通の言葉を作ることでした。今回のゴールはお菓子を提供することではなく、「明るい話題を提供する」ことです。私たち1社だけでこの企画を実行しても、たまたま弊社のアカウントをフォローいただいている方を少しハッピーにすることはできるかもしれませんが、この話題を届けられる範囲が限られてしまいますよね。

もっと多くの方に明るい話題をお届けするにはどうしたらよいか、そのためにはTwitterで共通の言葉を作り、他社さんも巻き込むことで話題をより広めていけるのではないか、と思いました。

そこで、まず、普段から仲良くしていただいているお菓子メーカーさん6社にご相談したところ、皆さんすぐに話に乗っていただけたのです。「#おかしつなぎ」というハッシュタグは、その6社さんとご相談する中で生まれたものです。

当初、私は「#コロナに負けるな」というハッシュタグのみを考えていたのですが、とある会社さんから「今は#ギャグつなぎという企画もあるから、#おかしつなぎもいいんじゃない?」というアイデアをいただきまして。

6社でコンセンサスを取り、「#コロナに負けるな」「#おかしつなぎ」の2つのハッシュタグは必ず入れよう、となりました。当初同列だったはずのこの2つのハッシュタグは、最終的には「#おかしつなぎ」の方がグッと伸びる結果となりました。

チロルチョコ株式会社Twitter公式アカウントにおける、本企画についてのTwitter投稿。「#コロナに負けるな」から始まる本投稿はTwitterユーザー間で大きな反響を呼び、瞬く間に拡散されていった。
画像引用:#おかしつなぎ|チロルチョコ公式Twitter

-「#おかしつなぎ」の企画には、最終的に、大手製菓メーカーから地方のメーカーまで70社を超える企業が参加し、一大ムーブメントになりましたね。当初6社からスタートされたこの企画がここまで拡がることは予想されていたのでしょうか?

当初この企画を考えていた時に、この「おかしつなぎ」をきっかけに各業界に同じ動きが拡がっていくと良いなと、自分の中で妄想していました(笑)。

製菓メーカーだけでなく、お米や肉、魚など、本当に困っている方が必要としている生活必需品を提供する食品メーカーさんなどにも拡がっていき、「助け合いができる日本って良い国だな」という空気感を生み出すことができたらよいな、と。でも、現実問題としては、当初お声掛けした6社に加え、プラス3~4社くらいの参加になるかなあと思っていたのです。

ですので、予想以上に多くの企業様に拡がり、最後は追い切れないほどの数にまでなったのはとても嬉しい驚きでした。

「#コロナに負けるな」「#おかしつなぎ」のハッシュタグと共に、全国大小さまざまなお菓子メーカー70社以上が本企画に参加、プレゼントキャンペーンを実施した。
画像引用:#おかしつなぎ|クラシエフーズ公式Twitter(左)カステラ専門店のさかえ屋(右)

-Twitter上でのユーザーさんの反応も大変ポジティブでしたね。当選者からも、写真と共に多数の「ありがとう」の投稿がされていました。社内では、そんなユーザーさんたちからの声をどのように見ていたのですか?

「これをきっかけに新しいお菓子が知れた」などのポジティブな声を多数いただき、この企画をやって本当に良かったと思いました。ユーザーさんからのコメントが嬉しくて、最初に投稿してリツイートが増えていったときは特に、本当にずっとコメントを見ていたんですよ。1日の半分くらいTwitterを見ていて、仕事になりませんでしたね(笑)。

社員も同じく、ユーザーさんからいただいたコメントを非常に多く見ていて、とても喜んでいました。社員から、「この企画をやってよかった」「お菓子メーカーで良かった」という声をもらったのも嬉しかったですね。誰も傷つかず、みんながハッピーな気持ちになれる企画だったな、と。この企画をやってよかった、そしてSNSをやっていて本当に良かったと思いました。

-御社から、一つ一つの投稿に細やかに返信しているのも印象的でした。

今回の企画の成功要因の一つとして、弊社のSNS公式アカウント担当者が、コメントをくださったユーザーさんへの返信や、おかしつなぎに参加くださった企業さんの投稿のリツイートなどを、細やかにフォローしてくれたことが挙げられます。

弊社の「SNSの中の人」は、営業事務も兼任している20代中盤の若い女性で、まだ今年の4月からSNS担当を始めたばかりなのですが、彼女が気を回してフォローしてくれたこともあり、この話題がどんどん伸びていったのではないかな、と思っています。

チロルチョコが当選したユーザーからの喜びのコメントがTwitterにたくさん投稿された。また、チロルチョコからも多くのユーザーのコメントにリプライやリツイートで反応した。
画像引用:左側の画像ユーザー投稿引用RT右側の画像ユーザー投稿引用RT|公式Twitter

SNS担当に若手社員を起用、自由なコミュニケーションからファン作りを目指す

-御社の「SNSの中の人」が、まだ4月に担当になったばかりの方とは驚きました。SNS担当者を新任した背景にはどのような理由があるのでしょうか?

弊社がSNSの公式アカウントを立ち上げたのは約10年前のことです。従来のホームページのような一方通行のコミュニケーションだけでなく、お客様と双方向のコミュニケ―ションが取れるツールとしてやってみようと思ったのです。アカウントを持つことそのものは無料ですし(笑)。

SNSの投稿を通じてチロルチョコに触れていただく機会をたくさん作り、またユーザーさんからコメントをいただいたり、それに返したりすることで、チロルチョコのコアなファン/ライトなファンが増えていったらいいなという想いがありました。当時はまだ私もチロルチョコに入社したばかりのタイミングであり、自分で投稿やリプライもしていましたね。

ところが、私自身が他の業務でどんどん忙しくなり、自分でSNS投稿をするのが難しくなってしまったんです。その後、SNSチームを作り、投稿をするようになったのですが、やはり人手不足で、投稿するだけで精一杯でした。次第に、会社としてSNSに目配り気配りすることができなくなっていった数年間だったと思います。

その一方で、やはりこれは本来のSNSの使い方ではないのではないか、なんとかSNSを強化したいという想いをずっと持っていました。そのような背景があり、今年の1月に営業事務として入ってきた中途入社の若手社員に、兼務でSNSも担当してもらうことにしました。

弊社は大きな会社ではありませんし、YouTubeやウェブ広告もほとんどやっていませんから、1日8時間、SNSだけを仕事にする社員を置くことはなかなか難しいです。でも、他業務と兼任で1日の3分の1程度でもSNSに向き合ってもらうことで、会社としてもやりたいことに取り組めるし、本人も若い中でも新しいことを任されたというモチベーションに繋がるのではないか、と。現在は、お互いにとってポジティブな状態を作れていると思います。

-若手社員を他業務と兼務でSNS担当に抜擢し、改めてユーザーとのコミュニケーションに力を入れ始めたのですね。現在、SNSの投稿やコメントの運用はどのような体制やルールのもと行っているのでしょうか?

現在は、SNSアカウントの運用はその新任担当者に完全に任せており、私も含めて社内の誰も事前チェックは行っておりませんし、特にルールもありません(笑)。それよりも、いちいち確認しなくてよいので、SNS世代の感性で自由に投稿し、「中の人」のキャラクターを作ってもらえればよいかな、と。

最初担当者になったばかりのころは、どういう言い方にするか悩むこともあったようで、私も相談を受けて一緒に考えたりしました。でも最近はそういう相談もほとんどなくなり、日々の投稿は彼女が考えて自由にやってくれていますね。

以前の弊社の投稿は「新商品の案内」など、どちらかというと機械的な投稿が多かったのですが、彼女に任せてからもっと親しみやすく「中の人」っぽい投稿ができるようになりました。彼女に任せてよかったな、と思っています。

-若手社員に完全に任せていらっしゃるとは素晴らしいですね!リスク管理などを考えて任せきれない企業さんも多いと思いますが、御社はその点についてどのようにお考えですか?

まず最初にSNS担当になってもらった際に、「なぜあなたにSNSをお願いするのか」「なぜ会社としてこれからSNSに力を入れていきたいのか」という会話をしっかりと行いました。

また、SNS運営に関する本を何冊か私と一緒に読んで、「これからSNSを通じてお客様とこんなコミュニケーションができたらいいよね」という議論も交わしました。日々の投稿を細かくチェックするよりも、まずはこのように、SNS運営目的に対する共通認識を持つことが大切なのではないでしょうか。

-現在はTwitter、Instagram、FacebookのSNS公式アカウントを運営されていますね。それぞれ、どのように使い分けをしていらっしゃいますか?

Twitterは、ユーザーさんとのコミュニケーションツールとして最も優れたプラットフォームだと考え、力を入れています。リプライなどを通じて、ライトな関係性を構築できる場所だと思いますね。ユーザーさんから頂いたコメントには、積極的に返信するよう心掛けています。

Instagramは、画像にこだわるべきプラットフォームだと思いますので、画像制作にコストをかけて運用しています。チロルチョコの子どもっぽさや可愛さを残しつつ、おしゃれなイメージも訴求し、チロルチョコを別の角度から見ていただけるように工夫しています。

Facebookは、TwitterやInstagramで使用した素材を利用しながら、運用しています。

画像引用:(左)チロルチョコTwitter公式アカウント(@TIROL_jp
(右)チロルチョコInstagram公式アカウント(@tirolchoco_official

「SNSをやっててよかった」、ユーザー投稿による炎上を3日で鎮火

-SNSアカウントを立ち上げてからこれまでの約10年間、人手不足に悩みながらも、アカウントを運用を止めずに続けてこられた中で、何か印象に残っている出来事があれば教えてください。

個人的に一番覚えているのは、2013年に、Twitterに「チロルチョコに芋虫が入っていた」と写真付きのユーザー投稿があり、炎上してしまったことです。発生から1時間ほどで弊社にてその炎上を検知、3時間後には弊社から正式にTwitterでコメントを出したのですが、その対応を評価いただき、3日以内に炎上は鎮火いたしました。
(経緯詳細についてはこちらの記事を参照:賞賛と炎上を分けるもの/CNET Japan

あの時のことは鮮明に覚えており、思い返すと今でも肝が冷えます。商品パッケージから最終出荷日付を特定し「工場で芋虫が混入したものではない」という事実を把握してから、会社としての正式なコメントを出すまでの1時間半くらいの間に、何度も140文字の投稿を書いては消し、書いては消しを繰り返し、何度見直すんだろうというくらい見直しました。プリントアウトをしたり、途中で外に出てリフレッシュしながら読んでみたり。自分の言いたいことだけでなく、受け取り手の想いも想像しながら投稿を作りました。

これが、「本当にSNSをやっていてよかった」と最初に思った出来事です。SNSをやっていなければ、あんなにスピーディーに情報を開示し、色んな方々にそれを届けることはできませんでしたから。悪い話ではありますが、あの時炎上を鎮火できたのは、SNSをやっていたからこそだと思います。

インタビュー後編に続く:
「商品を出すだけでは売れない時代に、SNSは力になる」-チロルチョコが語る、これからのマーケティングに大切なこと