Twitterキャンペーン「#おかしつなぎ」が大きな注目を集めたチロルチョコ株式会社。同社は過去にも、「面白い新商品の発売」や「チロルチョコ型の超巨大クッションプレゼントキャンペーン」、「社長交代を知らせる新聞全面広告」など、SNS上でさまざまな話題を巻き起こしています。

「同社の企画はなぜSNSでバズるのか?」-その秘訣に迫るべく、今回はチロルチョコの松尾社長にインタビュー。SNSで注目を集めるその裏側には、チロルチョコが大切にするマーケティング哲学がありました。

※本記事は、全2回に渡るインタビュー記事の後編です。
(前編記事はこちら:「SNSをやっててよかった」ー Twitterキャンペーン「#おかしつなぎ」の発起人/チロルチョコ松尾社長が語る、ソーシャルメディアの価値とは?

チロルチョコ型の超巨大クッションがTwitterで大きな話題に

-今回、#おかしつなぎが大きな注目を集めましたが、御社は以前からSNSで話題になるのがとても上手だな、という印象があります。昨年は「チロルチョコ型の超巨大クッション」プレゼントキャンペーンがTwitterで大変バズっていましたが、例えばあの企画はどのように生まれたのですか?

2019年は弊社の商品「コーヒーヌガー」の40周年でした。従来は、5年などの周年記念として、買って応募したら当たるタイプのクローズドキャンペーンを実施していたのですが、実はあまり実売に繋がっている感覚を得られていなかったのです。そこで、商品の40周年記念を多くの方に知っていただくための方法として、今回は、買っていない方でも応募できるオープンキャンペーンを実施しよう、ということになりました。また、やるならとにかくインパクトのある企画にして、認知度アップにつなげようと考えました。

そこでヒントになったのが、以前30周年の時に実施した「チロルチョコ型こたつプレゼント」のキャンペーンです。こちらは商品を買わなくても応募できるオープンキャンペーンだったのですが、それまでのキャンペーンと比較して段違いの応募数を記録していたんです。

やはり、利便性はさておき、「デカさ」のインパクトが大事なのかな(笑)という話になり、どんなものが用意できるかを社内で議論している中で生まれたのが「チロルチョコ型の超巨大クッション」です。日本でも無印良品さんの「体にフィットするソファ」が人をダメにするとして話題になっていたり、海外ではリビングルームの半分を占めるような異常に大きなクッションがあったりして、これがうちでも実施できたらめちゃくちゃ面白そうだね、と。どうやって作るか色々試行錯誤しながら、1.5メートル×1.5メートル、実際のチロルチョコの約100,000倍ものサイズのクッションが出来上がりました。

チロルチョコ代表取締役社長 松尾裕二氏 「あのクッションは、配送するのも大変でした。」

キャンペーンのプラットフォームには、ユーザーが参加しやすく拡散性があるTwitterを選択しました。当初は、弊社の公式アカウントをフォロー&投稿をリツイートしてくれた人の中から30名の方に賞品をプレゼントしようと思っていたのですが、「ありきたりで、つまらないな」「何か新しいことができないかな」と考えるようになりました。

そこで、他社さんのキャンペーンも研究しつつ考え付いたのが「毎日参加できる形式」のキャンペーンです。「今日抽選に外れても、明日当たるかもしれない」方が、ユーザーさんにとっても楽しいのではないかな、と。たった1回だけリツイートしてもらうよりも、毎日参加して投稿をリツイートしてもらえる方が拡散性も良いのでは、という会社としての考えもありました。

キャンペーン期間中は、毎日違うパターンの画像を用意しました。基本的には女性の写真でしたが、たまには男性を混ぜてみたり、キャッチコピーを変えてみたりなど、さまざまな工夫をしました。

2019年10月に実施した「超巨大クッションプレゼントキャンペーン」。30日間毎日違う画像を投稿し、キャンペーンへの参加を呼び掛けた。巨大すぎるクッションがTwitterで大きな話題になり、数々のメディアにも取り上げられた。
画像引用:プレゼントキャンペーン|チロルチョコ公式Twitter

-さまざまな工夫が大きな話題につながっていったのですね。

このキャンペーンがバズったのはたまたまだったとは思いますが、やはり根底には「楽しさ」があったのかな、と。弊社では、このような企画をする際にあまり商売っぽくしたくないという想いを非常に強く持っており、もしかしたらそれが良い方向に繋がっているのではないかな、と思っています。

もともと、「みんながやってるからやる」のがあまり好きじゃないんです。あまのじゃくなんですよ(笑)。Twitterのキャンペーンも色々な会社さんがやっていますが、他社さんがやっていることをそのままはやりたくない。「何かひとひねりして、少しでもチロルチョコらしさをプラスしたい」「チロルチョコにしかできないことは何だろう?」、そんなことを考えながら、いつも企画を立てています。

社長交代挨拶も新聞全面広告で!型破りな取引先挨拶にSNSユーザーが反応

-2017年の社長交代の際には日経MJ紙に全面広告を掲載して取引先への挨拶に代えたことがSNSで大反響となりましたよね。SNSで話題になることは予め想定していたのですか?

2017年6月9日付の経済紙「日経MJ」に掲載された全面広告。メインコピーには「チロルチョコの社長がかわりました‼」、左端には「誠に勝手ながら本掲載をもってお取引先各位へのご案内に代えさせていただきます」と書かれている。この型破りな広告はSNSで話題となり「チロルチョコ素敵すぎ!」と多くのユーザーやメディアからの注目を集めた。

いえ、本当に純粋に取引先への挨拶を新聞広告に替えようと思ってやったことなんです。日経MJ紙であれば、業界の関係者はだいたい読んでいますから、そこにひとつ広告を載せることでご挨拶を済ませられるかな、と。この企画は、弊社の先代社長(現会長)が「人生にそう何度もない大イベントを何か楽しいものにできないか」と考え、実行しました。

ですので、特にSNSでバズらせようと思ってやったものではないんです。たまたま広告を見ていただいた方がSNSに投稿したものがバズった、という認識です。

ブランドの新たなチャレンジに、SNSやウェブの力を

-今まで何度かSNSで大きな注目を集める経験をされていますが、SNSでの話題化が売上に繋がっている実感はお持ちですか?

SNSで話題にしていただくことはありますが、実はそこから売上へのリンクはまだこれからなんです。おかげさまで、チロルチョコはある程度既に認知いただいていることもあり、SNSで話題になったから急に売上が何倍にもなった、という実績はまだありません。

でも、これからは私たちチロルチョコも、もっと新しいことをしていかなければならないと思っています。例えば、チロルチョコの形や大きさ、売り場などを変える、など。やはり、新しいことをしていかないとブランドは少しずつ低下していくものだと思うんです。また、これからは新商品をお店に出せば売れる、という時代ではありません。私たちだけではなく、大手も含めてそんな市場環境なのではないでしょうか。

このような変化のときに、SNSは力になると思っています。SNSやウェブ周りをフル動員し、新しい施策を打つことで、何とか認知度を上げたい。これからもっとそのための勉強をしなければならないと考えています。

-これからのブランドの新たなチャレンジに、SNSの力を借りたいとお考えなのですね。
一方で、SNS=売上への可視化がしづらく、何をKPIにしてSNSを運用すべきか悩む方も多いのですが、チロルチョコさんは何かKPI指標はお持ちですか?

KPIは特に持っていません。SNSを見て買ったのか、あるいは店頭で見て買ったのか…最終的には分からないですし、正確に追えないものは追わない主義です。ですので、フォロワーの増加や実売への影響もあまり気にしないようにしています。

それよりも、SNSの価値はファンコミュニケーションができるところだと考えているので、コメント欄を開いて、どういうコミュニケーションができているかはたまにチェックするようにしています。「SNSで買ってほしい」というよりは、「SNSでチロルチョコを知ってほしい」「SNSでチロルチョコを好きになってほしい」という気持ちの方が強いですね。また、そもそも売上はまずは「商品そのものの魅力」で作るべきものだと考えています。

年間40~50品の新商品を発売!チロルチョコの「楽しい」商品開発事情

-「商品力」そのものがブランドであり売上を作るものとお考えなのですね。チロルチョコさんはどんどん新商品を出している印象がありますが、どのようなサイクルで新商品を作っているのですか?

弊社は年間で40~50品くらいの新商品を発売しています。春・夏は平均月1~2品、秋・冬は平均月5~6品くらいでしょうか。NB品と言われる全国向け商品に加え、留型と言われる特定のルート限定商品もあるので、どんどん商品の型が増えてきていますね。

-それだけの数の新商品、アイデア出しも大変なのではと思うのですが、どのように楽しく面白い商品を考え出しているのですか?

弊社はマーケティング部がないので、特に大掛かりな市場調査をやることもありません。今は、開発チームのメンバーがとにかくアイデアをひねり出しています(笑)。もちろん、周囲からは色んな情報が入ってきますし、例えば昨年で言えばタピオカ味を出そうかなど、トレンドにも気を配っています。でも、まずは「自分のやりたい味」が基本です。たくさんのアイデアの中から美味しくなりそうなものをピックアップして、試作して、さらに絞り込んで…というプロセスをひたすら繰り返しています。

年間40~50品もの新商品を発売。往年の売れ筋商品のパッケージカラー替えや、季節に応じた限定商品なども。
画像引用:ビックチロルゴールド(左)ビックチロルひなまつり(右)|チロルチョコ公式Twitter

また、最近多いのは他社さんとのコラボ商品です。例えば、街のチーズケーキ専門店や地方の銘菓とコラボしたり。味とデザインの明確なゴールがあるため商品開発も進めやすいですし、お客様にとっても、例えば「あのチーズケーキ店の味なんだ」と、手に取っていただくフックになります。コンビニのお店さんにも「売れそうだな」と思っていただけるきっかけになりますので、コラボ商品はメーカーにとっても売上にしやすく、お客様にも届けやすい方法ですね。

コラボする際には、とにかく品質を大事にしています。コラボする相手先さんのブランドを崩すわけにはいきませんので、良い素材を使ってきちんと味を再現することにこだわっています。

-商品のコラボだけでなく、チロルチョコのブランドを使って、別業界や別商材とのコラボも行っていらっしゃいますよね。

はい、例えばチロルチョコに合う日本酒、チロルチョコのロゴが入ったTシャツなどがあります。基本的にはロイヤリティのビジネスではあるのですが、弊社のスタンスとしては基本的には「来るもの拒まず」です。そこまで厳しいルールは設けていません。現在は、チロルチョコのブランドを広めていただける方法として、他業界とのコラボにも積極的に取り組んでいます。

「面白いと思ったらやってみる」、楽しいループを回していこう

-今回は、チロルチョコのマーケティング哲学をたくさん知ることができました。
SMMLabを読んでいただいている方の中にも、消費者として、そしてマーケターとして、チロルチョコを好きな方がたくさんいると思います!
最後に、一言メッセージをいただけますか?

仕事は当然営利目的であり、ビジネスなので損することがあってはなりません。でも、特に私たちのようなお菓子業界は、安心安全や美味しさだけではなく、「楽しさ」がベースにあるからこそ、色々な方に食べていただけていると思っています。これは、商品だけに言えることではなく、ブランド作りやSNS、マーケティングのやり方についても同じことが言えるのではないでしょうか。

とにかく、「面白い」と思ったらやってみたらいいと思います。面白いことをアウトプットしてみて、良ければよし、ダメならダメでいい、という感覚でいること。楽しいアイデアが出たらまずは具現化してみて、そしてPDCAを回す。失敗したら反省する。うまくいけば「よかったな」と美味しいお酒を飲む。そうすることで楽しいループを回していけるのではないでしょうか。

私自身、今後も「楽しさ」を一番に仕事をしていきたいなと思っています。

-これからもチロルチョコさんの展開を楽しみにしています。ありがとうございました!