「ここは、ヒント・マーケット」をブランドメッセージに幅広いジャンルの商品を取り扱い、顧客に対して「生活のヒント」の提供を目指す株式会社東急ハンズ。そんな同社が注力している施策の一つが公式Instagramアカウントの運用です。
今回は同社のInstagram運用担当者である商品戦略部 顧客政策グループ 上田 千晶氏に、Instagramを活用した販促施策からアカウント運用全体の戦略まで、幅広くお話を伺いました。
Instagramはミレニアル世代との接点を創出しアプローチする場
ーまず初めに、御社の事業内容や上田様の業務内容・ミッションについて教えてください。
上田氏 弊社は「ここは、ヒント・マーケット。」をコンセプトに、日用品や雑貨、DIY材料などさまざまな商品を取り扱う総合専門小売業です。2021年4月現在、東急ハンズ65店舗 (FC10店舗、海外15店舗含む)、ハンズ ビー20店舗、およびネットストアを展開し、ビューティ・ヘルスケアからアウトドア用品、工具まで幅広い商品を取り扱っています。
その中で私は主に公式Instagramアカウントの運用を行なっています。
東急ハンズのお客様は40代以上の方がメインなのですが、Instagramを実際にフォローしてくださる方はいわゆるミレニアル世代、20代〜30代後半くらいまでの方が多い傾向があります。私のミッションはInstagramを通じてそういった世代の方にアプローチしていくことです。
ー御社はInstagramの他にもTwitterやFacebookなども運用していますよね。なぜSNSを積極的に活用されているのでしょう?
上田氏 昨今は生活者の方が触れる情報量が多く、情報の取捨選択が求められています。そのため、従来のようなチラシやマスコミュニケーションの効果を感じにくくなってきました。こうした状況において弊社では、たくさんの選択肢の中からお客様に選んでいただける関係性を築くことを目的とし、ファンベースという考え方に基づいてお客様とのコミュニケーションを強化していこうという方針をとっています。FacebookやTwitter、InstagramといったSNSを通じたコミュニケーションはその一つです。
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ー各SNSプラットフォームごとに役割や運用目的の違いはあるのでしょうか?
上田氏 はい、コミュニケーション強化といっても各プラットフォームごとに、目的やアプローチの仕方には違いがあります。
例えば、Instagramはマーケティングのための利用がメインです。Instagramに馴染む商品の紹介や、季節性のある商品の紹介を行い、20代〜30代の女性をターゲットとして、東急ハンズの認知向上・愛着の醸成を行うのが役割です。こうしたコミュニケーションによって、新たな世代の顧客層に東急ハンズをご利用いただければと思っています。
一方、Twitterは主にブランディングのためのコミュニケーションツールとして利用しています。「おはよう」といった日常の挨拶をはじめ、ユーザーの方とのカジュアルなやりとりによって、弊社のもつ親しみやすさを伝えていきたいと思っています。
Facebookでは主に弊社のWEB記事である「ヒントマガジン」やYouTubeの動画など、コンテンツの紹介をしています。弊社に対する理解を深め、ブランド好意度を高めていくための場です。
ーInstagram運用を行う上で心がけていらっしゃることは何ですか?
上田氏 写真の撮り方や紹介する商品選定など、Instagramの投稿内容は東急ハンズの店舗のイメージと整合性があるように意識しています。
同時に、Instagramはお客様の「反応がある=興味がある」ものが比較的わかりやすく反映されるプラットフォームだと思っています。こうしたインサイトを参考にしながら、日々お客様に興味を持っていただける=お客様の反応のよい情報を発信するように気をつけています。
また、お客様からコメントやDMをいただくことも多いので、それらには丁寧にお答えし、関係性の深化につなげています。
ー反応が良い投稿にはどういった傾向があるのでしょうか?
上田氏 Instagramでは主に商品をご紹介していますが、カテゴリでいうと文房具についての投稿は反応が良いです。特に、おしゃれな感じというよりは見た目にインパクトがあったり、ユニークで一癖あるものが好まれる傾向があります。
ー確かに、御社のアカウントではマスクに風を送れる扇風機やバックパックまでしっかり隠すことができる傘などユニークな商品をご紹介されてますよね。
上田氏 はい。ここ最近の投稿でいうとその2つの投稿はやはり反応がよく、コメントもたくさんいただきました。他では見かけない商品や、便利な商品に対して強い興味を持っていただいていると思います。
接点創出から購入まで。東急ハンズのInstagram運用の鍵を握る第三者発信
ーInstagramには様々な機能がありますが、各機能はどのような役割でお使いですか?
上田氏 フィードでは商品単品をおすすめしていることが多いです。ストーリーズではヒントマガジンやキャンペーン情報など、リンク先に遷移させたいものがある時によく活用しています。
ーInstagramライブについてはいかがですか?
上田氏 Instagramライブは、コロナ禍でなかなか店頭に足を運べないお客様に対して、商品の使い方を知っていただいたり、店頭で接客をうけているような気持ちになっていただける場として活用しています。弊社のスタッフが実際に出演して説明することによって東急ハンズの親しみやすさを伝えることにも役立っていると思いますし、自宅にいながらハンズでのお買い物の楽しさや商品の魅力をお伝えできる場だと捉えています。
ー御社はショッピングタグなど、Instagramを販促にも活用されています。取り組むようになった背景についてお聞かせください。
上田氏 生活者の購買行動が多様化するなか、以前からECへの集客やそのための接点作りについては課題であると意識していました。そしてこのコロナ禍においてその重要性はより高まっていると感じています。
こうした課題感を持つなかで、Instagramには、ショッピングタグをはじめとして、オンライン上での商品購入を促すような機能が充実していますので、必然的にこれらを活用するようになりました。
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ー実際に利用されて難しさを感じていることはありますか?
上田氏 やはりどれだけ売上に貢献しているのか、定量的に見えにくい部分は難しいなと思います。一方で、Instagramで商品をご紹介した際に、「ECで検索したいので商品コードを教えてください」といったコメントをいただくことがあります。こうしたコメントを拝見すると、Instagramをきっかけとして購入を検討している方がいらっしゃるという手応えを感じることはできます。
ー「#ハンズでみっけ」といったUGC(※)の活用にも着手されていますね。こちらも販促的な役割を持っているのでしょうか?
上田氏 SNS運用はコミュニケーションの強化を目的としており、UGCもその一つの施策として興味を持っていました。
実際に活用をしてみると、コミュニケーションだけでなく販促施策という軸でも様々なメリットがあると感じています。
その1つは情報の信頼性が高いということです。UGCは本当にその商品を良いと思った一般の方が投稿してくださるものです。そこにはこちら側からの「売りたい」という気持ちがありませんので、信頼できて押し付けがましくなく、他のユーザーさんにも自然に受け入れていただけると思います。
また、UGCの投稿が増えることで、公式アカウントで投稿せずとも、商品を訴求できるという点も良いと思います。
ーUGCによって商品の魅力を効果的に伝えることができるんですね。
上田氏 さらに、第三者発信を利用した施策として、弊社では最近インフルエンサーの活用を始めました。UGCもインフルエンサーによる投稿も、公式のものとは違ったテイストの写真を投稿していただけます。その結果として、公式の投稿とは違ったテイストを好む方に興味を持っていただいたり、公式では表現しきれない価値をお伝えできていると思います。
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ーUGCやインフルエンサー活用など第三者発信を取り入れることで、ブランドイメージとの乖離を懸念される企業さんもいらっしゃいます。御社はそのあたりはどうお考えですか?
上田氏 私たちは東急ハンズを「ヒントマーケット」と定義しています。これは、弊社はお客様に対して様々なヒントをご提供する立場であり、それをどう感じていただくかは、お客様自身に委ねているという考えを表現したものです。この考え方に基づけば、UGCやインフルエンサーの方の投稿は私たちのヒントをもとにお客様が感じたひとつの答えの形だと言えます。そのため特に違和感などを感じたことはございませんし、今後もこのあたりについては心配しておりません。
ーありがとうございます。その他のメリットについてはいかがですか?
上田氏 この4月に、インフルエンサーの方に弊社のプライベートブランドの化粧品をご紹介していただいたのですが、その投稿には「東急ハンズって化粧品もあったんだ」のようなコメントが見受けられました。第三者発信によって、公式アカウントだけではリーチできないような方にも、情報を知っていただけるのは魅力だと思います。
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ーInstagramを活用した販促施策は、他のプラットフォームと比較してどのような違いがあるとお考えですか?
上田氏 Instagramはビジュアルがメインですので、やはり視覚的にその商品の魅力を伝えられるのが大きな特徴だと感じています。
同時に、ショッピングタグや、ストーリーズでのリンクなど、商品の詳細や購入ページへのスムーズな導線設計ができる機能が充実しています。特にショッピングタグはフィード、ストーリーズ、コレクションなど幅広い場所で利用することができ、商品を単品やカテゴリ分けなど様々な切り口で見せることが可能です。
実際Instagramライブで複数のメーカーさんの商品など、多くのアイテムをご紹介した時は、コレクション機能を活用しています。IGTVから商品一覧が見れるようにすることで、より快適にお買い物を楽しんでいただけるように工夫しています。
上田氏 また、ECサイトを訪れたりお店に足を運ぶ人は東急ハンズに行こう、東急ハンズでお買い物をしよう、と思っている方ですよね。一方で、Instagramは発見タブやインフルエンサーの投稿、UGCなどを活用し、今まで東急ハンズにあまり興味をお持ちではなかった方にも情報を届けることができます。その他の施策とInstagramとではこの点が大きく違うなと感じています。
※UGCとは:UGC(User Generated Contents)とは企業ではなく、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツのことを言います。 最近はInstagramなどSNSに投稿された写真や動画などが UGCとして注目されています。
Instagram上のコミュニティの規模を広げながら「共感」できるアカウントを目指す
ーInstagram運用におけるKPIやKGIについて教えてください。
上田氏 クリック数やインプレッション数もみていますが、一番重きをおいているのはフォロワーの獲得数です。
ーなぜフォロワー獲得を重視されているのでしょうか?
上田氏 私たちは、Instagramのなかに東急ハンズという公式アカウントを中心としたひとつのコミュニティがあると思っています。そこは、公式アカウントからの発信や、お客様からのハッシュタグ投稿によって、「こんな面白いものをみつけたよ」という情報を共有する場です。
もちろん売上への貢献といったことも考えないわけではありませんが、私たちはまず、このコミュニティの規模を広げていくことが大切だと考えています。そして、それを測るものとして用いているのがフォロワー数なのです。Instagramを活用した施策を通し、弊社の扱う幅広い種類の商品について、より多くの人に価値や面白みが伝わっていけば、その先の売上にもつながるのではないかと思います。
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ーInstagram運用の成功ポイントについてはどうお考えですか?
上田氏 一番大切なのは見ている方の共感を得られる発信することだと思います。例えばイベント性を大切にし、その季節や現在のトレンドにあった商品の情報を発信することもその一つです。また、先ほど文具に関する投稿は反応が良いという話をしましたが、こうしたお客様のインサイトを考えることも、共感してもらえる情報発信には欠かせません。
実際、今年の2月に店舗とECで実施した文具祭りに関する投稿は、たくさんのリアクションをいただきました。さらに、この文具祭りでは、ライブ配信や、投稿いただいたUGCを特設サイトに掲載したり、公式アカウントでリポストしたりしました。こうした双方向的なコミュニケーションもまたお客様の共感を呼ぶものであり、結果として実際に参加されている一般のユーザーさんの投稿も自然と増え、話題化にもつなげることができたと思います。
ーInstagram運用を継続していくために御社が工夫されていることはありますか?
上田氏 弊社では会社全体として、ミレニアル世代とコミュニケーションが取れるInstagramは弊社のファン作りにおいても需要な接点であるという共通認識が持てています。これは大切なことなのではないかと思います。そのためには、社内に対して今取り組んでいる施策など細やかに情報発信することが重要だと考えています。
ーありがとうございます。最後に今後Instagramを活用してどんなことに取り組んでいきたいか、展望について教えてください。
上田氏 インフルエンサーを活用し始めましたというお話はしたのですが、インフルエンサーさんとのInstagramライブでのコラボ配信は積極的に取り組んでいきたいと思っています。すでにメーカーさんとのコラボ配信は何度か行なっており、さらに3月にYouTuberの方と行なったコラボ配信では、通常と桁が2つ違うくらいの方にご視聴いただけました。
コラボ配信は、弊社の公式アカウントだけではリーチすることができない層に情報を届ける大切な施策ですので、こうした機能などを活用しながら、ミレニアル世代への継続的なアプローチを行い、長期的にファンを育成していければと思います。
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