現在、世界的に猛威を振るっているCOVID-19(以下 新型コロナウイルス感染症)。日本においても、4月16日夜に、これまで出されていた7都府県以外の全ての道府県に対して5月6日までの「緊急事態宣言」が発令される事態となっています。
この危機的状況のなか、休校や在宅勤務で直に会って会話することができない状況に戸惑いや不安をお抱えの方も多いでしょう。この感染症の流行拡大は、経済のみならず私たちの生活のあり方や価値にも変化をもたらしています。そしてこれは、企業と生活者との関係性においても同様です。
この記事では、企業と生活者との交流の場である「ソーシャルメディア」に焦点をあて、生活者へのアンケート調査や事例を紹介し、企業と生活者との関係性におけるこれからの「ソーシャルメディア」のあり方について考えていきたいと思います。
いま、ソーシャルメディアでは何が起きているのか
今、世界の多くの国で直接的に他者と接触することが制限されています。そしてこの状況下において、「ソーシャルメディア」はその名のとおり、社会(ソーシャル)=人と人とをつなぐメディアとしてその存在感が増しています。そしてそれは今、ソーシャルメディアの使われ方や、プラットフォーム自体に変化を与えています。
①プラットフォーム側の取り組み
今回のパンデミックにより、ソーシャルメディアはプラットフォームとしてその重要性が増しています。各プラットフォームでは、その責務を果たすべく様々な施策に取り組んでいます。
まず1つは「情報の正確さ公正さの維持」です。
利用する誰もが情報発信可能なソーシャルメディアでは、度々、誤情報の拡散などの問題が発生します。人の生命に関わる新型コロナウイルス感染症の流行という局面で、各プラットフォームでは正確な情報提供を行うための動きを強めています。
例えば、より信頼できる情報に世界各国のユーザーがアクセスできるような工夫や、フェイクニュースのブロック、感染拡大に乗じた不適切なターゲット広告の禁止などがそれにあたります。特にユーザー同士の活発な会話が行われるTwitterでは、トレンドや検索などTwitterの一般的な機能の悪用を防ぐために大幅な投資を行い、警戒を続けています。(※1)
その他、Facebookでは、総額2000万ドルのマッチング寄付や中小企業への1億ドルのサポート、無料広告などを通じた医療機関支援など、経済や医療に対する支援にも力を入れています。(※2)
Instagramでは、ビデオチャットで友達と一緒にInstagram投稿を見ることができるシェア機能のリリースや、「おうち時間」スタンプの提供など、ユーザー同士の繋がりサポート強化を打ち出しました。(※3)
また、LINEは厚生労働省のアンケート調査への協力や、医師へのオンライン相談窓口の無償提供など、国内におけるユーザー数の多さと網羅性を活かした支援を実施しています。(※4)
②投稿コンテンツや流行ハッシュタグの傾向が変化
ソーシャルメディアに投稿されるコンテンツやその流行にも変化が見られます。 例えば、発信力のある著名人からの投稿には、外出自粛生活での楽しみ方の提案や、感染拡大防止への協力を呼びかけるようなものが増えました。
なかでもシンガーソングライターの星野源さんによる「#うちで踊ろう」は大きなブームとなっています。これは、星野さんがソーシャルメディアに自ら歌う動画を投稿し、フォロワーにコーラスや伴奏、ダンスを重ねて投稿することを呼びかけたことから始まり、瞬く間にたくさんの人の共感をよびました。
そのほか、在宅勤務や在宅時間、臨時休校中の子供の過ごし方について、より楽しく快適なものにするアイデアを伝えあうハッシュタグの利用も活発です。また、「リレー」や「バトン」といった、特定のお題に対して回答し、次に回答して欲しい相手をメンション投稿してやりとりを続けていくソーシャルメディア上の遊びも流行しています。
外出自粛が必要な日常生活において、生活者のなかでは、「自宅での快適な過ごし方を見つけたい」という意識や「誰かと繋がる安心感をもちたい意識」が強まっていると推測されます。
生活者がソーシャルメディアに求める「情報」「楽しさ」「つながりの実感」
次に、前述のソーシャルメディアの変化についてさらにその実態を把握すべく、アライドアーキテクツが実施した生活者へのアンケート調査データを元に考察していきます。
■調査概要
調査名称 : 新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う外出自粛に関するアンケートご協力のお願い
調査主体 : アライドアーキテクツ株式会社
調査時期 : 2020年4月8日~4月12日
調査方法 : モニプラ(アライドアーキテクツ株式会社)でアンケート調査を実施
調査対象数:4,157名(アンケート回答完了人数)
※設問ごとの有効回答数を「n=」で記載しています。
①SNSの利用時間は一部のユーザーで増加傾向に
まずはじめに、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための外出自粛で、実際にSNSの利用頻度が増えたと感じているのかどうかを聞きました。その結果、回答者の30%以上が利用頻度が増えたと答えています。
また、利用頻度の増加については、プラットフォーム側からの発表データもあります。
・Twitter:2020年1~3月期に1日当たりの広告を閲覧した利用者数が前年同期比23%増加、2019年10~12月期比較8%増加(※5)
・Facebook社:大規模な感染拡大が認められている多くの国で、2020年3月のメッセージ送信総数が先月比50%以上増加(※6)
・LINE:2020年3月にグループコミュニケーションでやりとりされるメッセージの総数が前月比29%増加、グループ通話の利用回数が前月比62%増加(※7)
こうしたデータをふまえると、ある一定数の生活者はSNSに費やす時間が確実に増えていると言えます。
②情報収集やコミュニケーションへの関心が高まる
では、SNSに費やす時間が増えていると感じている生活者は、一体どんな目的でSNSを利用しているのでしょうか。
アンケートによると、SNSの利用目的でもっとも多いのは「新型コロナウイルスに関する情報収集(67%)」となっています。生活者は、その実態がつかめない「新型ウイルス」についてより多くの情報を求めており、既存メディアに加えてSNSからの情報収集に積極的であることがうかがえます。
実際、SNSの利用頻度が増えたと答えた人の80%以上が、SNS上で新型コロナウイルス感染症に関する様々な情報の投稿を目にすることが増えたと答えています。
他方、今後SNSで行なっていくこととして、「友人・知人とのコミュニケーション」や「自身の趣味等に関する情報収集・接点作り」など、友達とのコミュニケーションや、趣味を充実させるような使い方を考えている生活者も見受けられます。この傾向は、外出自粛を伴う時間が長期化すればするほど高まってくるものと思われます。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のための外出自粛生活により、ソーシャルメディアは生活者が「豊富な情報」「いま楽しむことができるもの」「他者とのつながりの実感」を得る場所という側面を強めているようです。
生活者がみているのは企業の人格
そして、今回の新型コロナウイルス感染症の流行は、生活者の「企業に対する意識」についても変化をもたらしつつあります。
今回のアンケートでは「新型コロナウイルス感染症拡大以降、特定の企業に対する評価がプラスもしくはマイナスに変化したことがあるか」についても聞きました。
その結果、およそ40%強の人が何かしらの変化を感じた経験があると回答しています。
プラスに変わった経験では、「企業からのサービス提供方針に共感した」との回答がもっとも多く、マイナスに変わった経験では「サービス提供方針へ反発・不快感を持った」という回答が多く集まりました。
これらを踏まえると、企業から提供される商品やサービスそのものの価値とともに、その提供方針や、発信されるメッセージ、社会貢献姿勢など、その企業がどんな思想をもち、どういった行動をとるのかをみている生活者も多いということがわかります。
実際、アンケートに寄せられた具体的な体験として
・本来製造していないのに医療用マスクを製造して病院へ送るなどの対応に、心が温かくなった。
・休校になり、子供達のための休校応援キャンペーンを実施した企業はプラスに変わった。
・人命優先のため長期閉店したり、従業員が発症した場合の情報公開をしているところは信頼できる。
など、今回の新型コロナウィルス感染症流行に対する、企業の対応そのものに共感を覚えたエピソードが寄せられています。
生活者が企業を評価する際、「その企業が自分たちにとって共感できる人格であるか」が重要となってきているといえるでしょう。
※この調査結果を更に詳しく知りたい方はこちら:消費者は今企業SNSをどう見ている?「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う消費者のSNS利用実態調査」結果発表
企業がいま、ソーシャルメディアを通してできることとは?
では、いま、ソーシャルメディア上で生活者が求めているコミュニケーションを提供しながら、自分たちの企業人格を理解してもらうためにはどんな施策ができるのでしょうか?
①「豊富な情報」=企業のノウハウ提供
まず生活者が今ソーシャルメディアに求めている「豊富な情報」に関しては、企業はそれぞれの事業活動によって蓄積したノウハウを提供することができます。
企業が培ったノウハウをソーシャルメディアで発信することは、「豊富な情報」を求める生活者にとって有益であり、ソーシャルメディア上で共感を呼ぶコンテンツになり得ます。また、自社ならではのノウハウ提供によって、自分たちの人格を理解してもらうための接点創出も可能です。
<事例>「#在宅楽飯」でレシピを共有
在宅勤務化が進み、毎日の食事作りの負担が増えている生活者は少なくありません。そこで、在宅勤務時に無理なく作れるレシピを投稿するハッシュタグとして、Instagramを中心に利用が広がっているのが「#在宅楽飯」です。
食品メーカーなど「食」にまつわるサービスを提供している企業では、このハッシュタグを使いながら自社のもつ豊富なレシピを共有し、生活者との接点作りに成功している企業もあります。
<事例>運動不足解消方法を提案
また、在宅勤務や外出自粛による運動不足の解消も生活者の関心が高いトピックです。自宅で簡単にできるトレーニング・運動、子供の運動不足解消アイデアなどソーシャルメディア上には毎日様々な投稿がされています。ヘルスケアやスポーツ用品メーカーなどは自社のノウハウを活かし、運動不足解消を抱える生活者に向けた運動コンテンツを提供しています。
②自社ならではの「楽しさ」を提供して生活者の緊張をとく
外出自粛、目に見えないウイルスへの警戒、慣れない在宅勤務や自宅学習など、生活者はいま大きなストレスを抱えています。この張り詰めた緊張を解くような「楽しい」コンテンツの提供もまた、企業が行うことができるコミュニケーションの1つです。生活者に対して企業のもつユーモアを伝えることもでき、愛着の醸成にもつながります。
<事例>#企業公式メシテロ大会
Twitterでは飲食店や商業施設が、ご飯やスイーツの写真を投稿する「#企業公式メシテロ大会」のハッシュタグが話題となっています。企業アカウントから投稿される渾身のメシテロ投稿は、一般のTwitterユーザーのなかでもすぐに話題に。
「落ち着いたら絶対食べにいきたい!」「ほんとに罪深い!!でもありがとうございます!!」など好意的なリアクションが多く寄せられています。
<事例>ZOOMの背景画像提供
多くの企業でリモートワーク化が進む中、様々な企業が自社ならではのWeb会議サービス用背景画像を提供。生活者のリモートワークに楽しさや遊び心を添えようと試みています。
③生活者に寄り添い、つながりを感じさせるコミュニケーション
孤独が多い外出規制下において、生活者はソーシャルメディアに「つながり」を求めています。そんな時こそ、企業は生活者に寄り添ったコミュニケーションを行うことで、生活者に自社との繋がりを感じてもらうことができます。
<事例>外出自粛時ならではコミュニケーションを通じて結びつきを強める
公式アカウント上での定期的なフォトコンテストの実施や、Instagramストーリーズの質問機能を活用した会話など、自社アカウントを介して日頃から生活者との関係深化を図っている企業はたくさんいます。外出自粛の今、こうしたコミュニケーションに「家にいる時間を楽しむ」「家にいる時間を豊かにする」ような要素を加えることで、より生活者に寄り添い、強いつながりを感じてもらうことができます。
<事例>生活者の目線を大切にして社会貢献姿勢を示す
この世界的な危機に直面して、自分が貢献できることを探したいと思っている生活者は少なくありません。背伸びしすぎず、生活者の目線を大切にして社会貢献姿勢を示すことは、そんな生活者に共に戦っている姿勢を示してつながりをつくっていくアプローチです。
生活者が求める情報、ちょっとした楽しさ、つながりの意識を提供していくコミュニケーションは決して簡単なことではないかもしれません。
しかし1つ言えるのは、どんなコミュニケーションでもまず「自分が企業からそのメッセージを受け取ったらどう思うだろうか」と想像する姿勢が大切だということです。
「企業のSNS担当である以前に自分も1人の生活者である」という意識は、センシティブな状況下におけるソーシャルメディア上のコミュニケーションではより重要なものになるはずです。
これからのソーシャルメディアがもたらす「企業と生活者の長期的なつながり」の価値
最後に、これからの企業と生活者との関係性において、なぜソーシャルメディアでのコミュニケーションがなぜ大切になるのかを考えていきたいと思います。
①アフターコロナでは生活者との長期的なつながりが大切になる
IMFの発表によれば、今回の新型コロナウイルス感染症の流行における世界経済へのダメージは甚大で、2020年の世界の経済成長率は-3%と予測されます。これは2009年のリーマンショック時を大きく下回り、1929年に始まった世界恐慌以降で最悪の見込みであるという見解を示しています。(※8)
また帝国データバンクでは、この不況がリーマンショック時と異なるのは、初期段階で「ヒト」「モノ」という実物経済に影響を与え、さらに「カネ」へと波及している点だと指摘します。(※9)
実物経済の落ち込みが先行している今回は、市場先行型だったリーマンショックよりもその影響範囲は広いと言えます。さらに感染症拡大防止策として「ヒト」や「モノ」の行動が制限されている状況下では、経済政策で短期的に消費を増加させることは容易ではありません。そのため今回の不況はより長期化すると予測されます。
不況が長期化すれば生活者は「本当に必要なものだけを手に入れる」、いわゆる買い控えの意識が高まっていきます。そして企業人格を重視する傾向において、買うのであれば納得できる企業のものを買いたいという意向も強くなると考えられます。
このように、不況によって消費が落ち込み、新規ビジネスを始めるハードルが高くなるなか、企業にとって自分たちを理解し支持してくれる生活者=「ファン」との長期的なつながりを維持し、LTVを高めていく施策がより重要性を増してきます。「不況時にも支えてくれる」「いつか帰ってきてくれる」ファンは、企業にとってかけがえのない存在になるのです。
②相互理解を深めて長期的な関係を築く「ソーシャルメディア」
アフターコロナの世の中において、ソーシャルメディア上でのコミュケーションが大切となってくる理由は、まさにここにあります。
ソーシャルメディアは、企業と生活者がダイレクトに双方向性のあるコミュニケーションができる場です。企業は自分たちの企業人格を生活者に理解してもらい、同時に生活者からのリアクションによって、生活者がいま何を求めているのかを知ることができます。
つまり、ソーシャルメディアは企業が生活者と長期的な関係を築くうえで、継続的なつながりを維持し、相互理解しながら関係を深めていく場として大変有効なのです。
加えて、今回のコロナウイルス感染症の流行をきっかけに、いままでオフラインの場で顧客とのつながりを実現してきた企業は、実店舗以外のオンラインの場での顧客とのつながりの重要性を改めて認識することとなりました。
外出自粛下においても、「インターネットがあればどこにいてもそのつながりを維持していくことができる」、ソーシャルメディアがもつその強みが際立ってきたと言えます。
実際、大手化粧品メーカーの株式会社コーセーでは総合美容情報サイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」において、店頭に立つ現役美容部員がソーシャルメディア上に投稿したメイク画像や商品紹介画像の掲載を始めました。
現役美容部員という生活者と目線が近いお手本を示しながら、オンライン上での顧客との継続的なコミュニケーションが期待されています。(※10)
このようなソーシャルメディア上での企業と生活者のつながりは、企業側のみを豊かにするものではありません。ソーシャルメディア上で企業からもたらされる情報や楽しさは、生活者の日々の充実につながります。
さらに、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションを重ねていくことで企業との相互理解が深まれば、生活者は、より自分たちが求めるものを、その人格に共感できる企業から購入することができます。これは生活者の購入体験を豊かにするものでしょう。
アフターコロナの世界でソーシャルメディアが持つ価値とは、企業と生活者とが相互理解を深め、長期的に持続可能な関係性を築き、共に豊かになれる場所を提供すること、そこにあるのかもしれません。
(※1)新型コロナウイルスに関する公共の会話を保護するための取り組みの強化(Twitter発表)
(※2)新型コロナウイルスから人々を守るための取り組みおよび情報提供について(Facebook発表)
(※3)Instagramで利用者に情報やサポートを提供し、利用者の安全を確保(Instagram)
(※4)LINEグループにおける新型コロナウイルス感染症に関する取り組みと業務における対応方針について(LINE)
(※5)Twitter、新型コロナの影響で1~3月期は売上高未達の見通し mDAUは増加(ITmedia)
(※6)新型コロナウイルス拡大に伴うFacebookサービスの安定性・信頼性の維持について(Facebook社)
(※7)「LINE」利用動向に関するレポートを発表(LINE社)
(※8)世界の経済成長率ー3% 世界恐慌以降で最悪(NHKニュース)
(※9)新型肺炎が日本経済に及ぼす影響(4)(帝国データバンク)
(※10)【化粧品業界初!】コーセーがSTAFF START導入。現役美容部員が自社通販サイト上でメイクアップ、スキンケアを紹介(PR TIMES)