オウンドメディアやSNSでの積極的な交流、ビールファンが一同に会するイベント「よなよなエールの超宴」の開催など、熱量の高いファンが生まれる施策を数多く行い、成功させてきたことで知られるクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイング社。

同社は現在、クラフトビール「サブスク型」サービスの新規会員数の拡大に注力、自社ECにおいても「ファン」の声を最大限に活用する取り組みに挑戦しています。

今回は、ヤッホーブルーイングのコンシューマー事業全体を統括している望月卓郎氏と、公式通販サイト「よなよなの里 本店」を担当している桂馬 拓也氏に、現在のEC戦略についてお話を聞きました。

小売、自社EC、ECモール。それぞれの役割とは?

-今回は、ヤッホーブルーイングのEC事業についてお聞かせください。まずは公式通販サイト「よなよなの里 本店」立ち上げの経緯を教えていただけますか?

望月氏:実は、もともとECは「致し方なく始めた」面があるんです。

ヤッホーブルーイングは1997年に軽井沢で創業した会社です。「よなよなエール」の販売を開始した当時、日本では空前の地ビールブームだったこともあって、年間800万人くらい首都圏からお客様がくる軽井沢マーケットにおいて、弊社の製品もリアルの販路で結構な売上が立つ状況でした。

株式会社ヤッホーブルーイング コンシューマー事業部門 事業統括 望月 卓郎氏

でも、その後、1999年に「地ビールブーム」は終焉を迎えたんです。まさに、これから全国エリアを狙っていこうというタイミングでした。ブームが去ってしまうと、弊社がどんなに卸さんに営業をしても「地ビールの棚は用意していないから」と言われてしまい、「売りたいけれど売れない」状況に陥ってしまいました。販路がないということで、背水の陣で注力したのがECだったんです。その後、注力した楽天市場での成功に伴いクチコミが広がり、だんだんと認知を得てここまで成長してきました。自社EC「よなよなの里 本店」を開設したのは2013年のことです。

大手のビールメーカーさんは、取引先との関係上なかなか自社でダイレクトにECに手を出すことが難しいのですが、弊社はこのような経緯で創業間もない時期から個人のお客様にECを通じて直接販売することで成長してきた経緯があり、大きなユーザベースがあります。

公式通販サイト「よなよなの里 本店」。ECショップだけでなく、クラフトビールを楽しむための「よみもの」など充実したコンテンツが提供されている。

-現在は大手のコンビニやスーパーなどにも製品が置かれていると思いますが、今は自社EC事業をどのように位置づけているのですか?

望月氏:現在は流通規模が大きくなり、はじめて弊社製品を認知いただく入り口の大半がコンビニやスーパーなどの小売店です。会社全体の売上の大部分が流通経由で立っていることから分かります。

認知としてはだんぜんそちらのルートが多いのですが、流通の店頭で採用いただける製品ってせいぜい2~3アイテムだけなのです。小売店では限られたアイテムしか手に入れていただけないんですね。「よなよなエール」を飲んでいただいた方の大体10人に1人くらいは製品を気に入ってくださるのですが、それ以上のいろんな種類を試したいと思っていただいた方には、ECで買っていただくしかないんです。

桂馬氏:私たちは「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げています。日本で販売されているビールの大半は「ピルスナー」というビールの種類(ビアスタイル)で、似た味わいです。でも、私たちヤッホーブルーイングは味も香りも色合いも異なる、色んな種類のクラフトビールをつくっています。画一的な味しかなかった日本のビール市場に新たな文化を創出して、ビールファンにささやかな幸せをお届けしたい。そういう想いでやっていますので、コンビニで一回買っていただき「美味しかったなぁ」で終わってしまうのでは、目指しているところにたどり着けません。

そのような時に大切なのが、ECの存在なのかな、と。現に、ECに入ってきてくださるお客様は、コンビニなどで弊社の製品を知って、好きになってくださっているロイヤルティの高い方が多いですね。指名検索による流入のボリュームが大きいんです。

株式会社ヤッホーブルーイング 通販事業ユニット ユニットディレクター 桂馬 拓也氏

-自社EC以外にも、楽天市場、Amazon、auPATマーケットといったモールにも出展されていますよね。そちらはどのような役割になるのでしょうか?

望月氏:自社ECもモールもどちらも大事ですが、今はかなり明確に役割を分けています。やはり、モールには圧倒的な数のお客さんが来訪されているんですよね。「ECでビールを買いたい」「ECでお中元を買いたい」といったお買い物目的のお客さんが集まっているので、初めての接点として非常に大きいチャネルなわけです。

またモールの特性を反映して、売れる製品も全然違います。初めて弊社の製品を飲まれる方が買う「トライアル用のセット」や、お中元・福袋など、特定の商戦が盛り上がる時期に「ギフト系商材」が売れる傾向があります。このように、モールはその特性に合わせて初期認知を取る役割として位置づけており、そこからクラフトビールを気に入ってくださった方がより深くクラフトビールの世界にハマっていく際に、自社サイトに来訪していただく役割分担にしています。

運営体制も、自社ECサイトを運営するチームと、モールを運営するチームの2つに分けています。

自社ECに3ヵ月からの「お気軽コース」を導入、新規会員数の拡大に注力

-次に、自社EC「よなよなの里 本店」で実施している施策や課題について教えてください。現在、もっとも注力していることは何ですか?

桂馬氏:クラフトビールの定期宅配サービス「ひらけ!よなよな月の生活(以下、「月の生活」)」が、大きな柱のひとつです。現在は、このサブスク型サービスの会員数を伸ばすことに注力しています。

「月の生活」はとても継続率が高く、90%を超えている状態です。満足率が高いサービスだと自負しています。ところが、今までは「年間コース」(年間契約のコース)しか提供してこなかったため、本当にロイヤルティの高い方だけしか入ってこられなかったんです。

そこで、2021年8月からは、最短3ヵ月から始められる「お気軽コース」もスタートしました。

クラフトビール定期宅配サービス「ひらけ!よなよな月の生活」。よなよなエール、インドの青鬼、水曜日のネコといった定番の6種類の製品に加え、毎月2~3種類の限定醸造製品を1本単位で自由に組み合わせて、定期的に顧客の自宅に届けるサービス。

-3ヵ月のコースとなると、従来の年間契約が前提の時に比べて、在庫調整なども大変なのではないですか?

桂馬氏:そうですね。「月の生活」は、「その月のビールの中からを好きなものを、好きな本数選んでいただけますよ」というのを魅力のひとつにしているのですが、ビールの製造そのものは3ヵ月前からスタートしなければなりません。ですから、このビールは一人何本くらい購入するだろうと予測を立てて、あらかじめ準備をしておく必要があります。

望月氏:今までは「月の生活」の会員数が約7,000人程度だったのですが、新しく「お気軽コース」を導入することで、新規の方の人数の大幅な増加が見込まれます。そうすると、予測の難易度がさらに高まっていきます。お客様の選ぶビール数の想定が1~2本ずれるだけで、いきなり1,000ケース単位のビールが余剰してしまうということが起きてしまうんです。

桂馬氏:現在もっとも苦戦しているのは、自社サイトを運営する上でのリソースの確保です。製品の準備や在庫の調整を行いながら、広告やメルマガ、ページのPDCAもしなければいけません。やりたいことは山のようにあるので、推進する仕組みであったり、リソースを確保していくのが肝かなと思っています。

また、定期配送を3ヵ月からスタートできますよということは、3ヵ月後にお客様がゼロになってしまうリスクもあるわけです。そういった意味で、これはかなり大きなチャレンジですね。

ECでも「高い熱量」を生み出すために、お客様の声を重視

-新規会員数の拡大、継続率の維持のために、今後どのようなことが重要になってくると思いますか?

望月氏:弊社はこれまでも、コンシューマー系の事業全体で「お客様の熱量を上げるためにどのようなことが効くのだろうか」を考えながら、さまざまな施策を行ってきました。ECにおいても、その方針に変わりはありません。

桂馬氏:ECにおいて弊社が注力している施策の一つに、お客様の声の活用があります。従来より、既存の「月の生活」の会員様にインタビューした内容を記事にしてサイトで公開したり、メルマガで配信するなど、「実際にお客様がどのように楽しんでいるのか」という視点を大事にしてきました。

ただ、それだとどうしてもヤッホーブルーイングからの提案という風に見えてしまうのが気になっていたんです。また、インタビューして、書いて、サイトに掲載するというプロセスに時間がかかってしまい、旬の情報を旬の時期にお伝えすることにも限界を感じていました。

そこで、今回新たに、Instagram上のUGCの収集とサイトへの掲載を一括で実施できるツールを導入、ファンのUGCを自社ECにそのまま掲載する取り組みを始めました。

UGC活用ツール「Letro」を導入、Instagram上にお客様が投稿したUGCをECサイト上に掲載している。

-熱量の高いお客様によるクチコミ(UGC)が、さらに新しいお客様を呼ぶ。そんな状態を作っていくことが今後のポイントになってくるんですね。

桂馬氏:そうですね。この取り組みを開始したことで、実際にECサイトのCVRが1.16倍に向上しました。新たに「お気軽コース」を開始し、ECサイトへの新規流入数が増えるこのタイミングで、ECサイトのCVRをもう一段上げておきたいと考えていたので、その意味でもぴったりの施策となりました。

また、今回UGCをECサイト上に掲載し、どのようなクチコミにお客様が興味を持たれているのかを数値で計測することによって、「魅力的な飲用シーン」が成果につながるということがわかってきました。例えば、豪華な食事とビールの投稿だったり、アウトドアでビールを楽しむ写真だったり。

今まで弊社が経験値から分かっていたことが、UGCの効果測定を通じて改めて実証できたのも大きかったと思っています。こうして得られた示唆は、今後「月の生活」のプロモーションをつくっていく上でも参考にしていきたいです。

ヤッホーブルーイングのUGC活用について、詳しくインタビューした記事はこちら
ヤッホー、ファンによる熱量の高いUGCがEC売上に直結!CVR1.16倍に向上

-これからも御社のEC展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました!