新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大の影響で、様々な企業のデジタル化・EC化が進んでおり、新たにECを始めたり、ECへの注力度合いをあげたりする企業が増えています。新型コロナの影響により生活者の消費行動が大きく変化する中、EC企業はどんな影響を受けているのでしょうか?
アライドアーキテクツが5月に開催し100名以上のマーケターが参加したオンラインイベント「EC×デジマ談義#2」の参加者に聞いてみました。
■調査概要
調査主体 :アライドアーキテクツ株式会社
調査時期 :2020年5月29日~6月5日
調査方法 :イベント終了後に参加者へGoogle Formにて任意で回答を依頼
調査対象数:81名(うち、新型コロナ拡大以前からECを運営していた方51名/EC企業の支援者など含むその他30名)
※設問ごとの有効回答数を「n=」で記載しています。
※本調査の内容を転載・ご利用いただく場合は「アライドアーキテクツ株式会社調べ」とクレジットを記載してください。
ECでは、売上などの主要な指標が上向きに
まずは売上にどのような影響が出ているのか、感染拡大前よりECの運営を行ってきた方に聞いたところ、EC売上が「大きく良化・少し良化」と回答した方が約57%と、過半数となりました。反対に、実店舗売上については、外出自粛の影響を大きく受け「大きく悪化・少し悪化」と回答した方が約80%にのぼりました。
様々なニュースで報じられているように、売上を実店舗に依存している事業者にとっては非常に厳しい状況が伺える一方で、ECでの買い物の需要が増えたことで、EC領域では追い風の傾向が強いことがわかりました。
続いて、新型コロナ拡大後、ECの新規獲得広告の状況がどうなったかを聞いたところ、約50%が以前と変わらない規模・媒体で出稿していると答えました。また、「大幅に増やした・少し増やした」という回答は「大幅に減らした・少し減らした」という回答をやや上回る約19%となり、ECにおける新規獲得広告出稿量は、大きな変化がないかむしろ増加傾向であることがわかりました。
また、広告での新規獲得単価(CPA)への影響についても尋ねたところ、「大きく良化、少し良化」が40%、「特に変化なし」が約38%という回答が得られました。少なくとも悪影響がでているケースは少なく、出稿を続けている広告主にとっては、ECの新規顧客獲得単価の面でもむしろ追い風となっているようです。
これは、新型コロナ拡大に伴うアクセス増により、広告枠が買われるのを上回るペースで広告在庫が生まれていることや、経済の停滞により全体としての広告需要が減っていることで、広告の掲載単価が大幅に下がっている(※1)ことが原因と考えられます。
Grillによる調査によると、コロナ禍によって約6割の企業で広告宣伝費が減少しており(※2)、広告宣伝費全体を減らしている企業が多いことがわかります。一方で、ECの新規獲得広告については、掲載単価の低下による広告効率の向上や、外出自粛の影響によるEC需要の増加などにより伸長しているようです。
実際に、本調査を実施したイベント「EC×デジマ談義#2」に登壇したエーザイ社・カゴメ社でも「会社全体としては広告費が減少しているが、通販事業に限ると増加している」という状況であることが語られました。
<EC×デジマ談義#2のイベントレポートはこちら>
CRMはマーケティングそのもの。エーザイ・カゴメ・ドコモが語るCRMの価値とは?【EC×デジマ談義#2 セミナーレポート/前編】
(※1)参考:YouTube の広告価格、コロナ危機で 20% 下落:「在庫が埋まるより作られるペースの方が速い」|DIGIDAY
(※2)参考:コロナ禍により約6割の企業で広告宣伝費が減少/約7割が新たな手法に積極的【Grill調査】|MarkeZine
オンラインの販売チャネルの中でも、自社ECへの注力が顕著に
次に、新型コロナ拡大前後それぞれで重視している販売チャネルについて尋ねたところ、外出自粛などで店舗売上が下がっていることを背景に、オンラインチャネルを重視しているという回答が58.7%→74.5%と約16ptの増加となりました。「新型コロナによる影響があったので、EC運営に力をいれるべきという考えになった」という旨の自由記述回答も複数見られ、感染拡大の現状は、企業のEC運営に対する姿勢へ確実に変化を及ぼしています。
また、モール型ECを重視していると回答した数は感染拡大前後で変化がなく、オンラインのチャネルの中でも特に外部要因に左右されづらい自社ECが重視されていく傾向が見られました。
これから重要になるのは「ファンづくり」「ファンベースドマーケティング」
では、このような状況の中、これから重要になっていくマーケティング施策とはどんなものなのでしょうか。今回の調査結果(※3)によると、4割近い方が「ファンづくり」「ファンベースドマーケティング」など、顧客の熱量を上げてファンになってもらい、ファンを起点とするマーケティング施策を行っていくことが重要になると思うと回答しました。
(※3)EC×デジマ談義#2に参加した「ECを含む事業会社の支援を行う企業」「これからECを立ち上げる企業」などを含めた全ての調査対象者に、「これから重要性があがると思われる施策は?」という質問を自由回答式で尋ねた。
新型コロナ感染拡大により短期的な消費が落ち込み、オフラインでの顧客との接点が持ちづらい今、ブランド全体としては新規顧客を獲得しづらい状況です。しかし、ファンはそんな中でも接点を持ち続けさえすれば、いずれ帰ってきてくれる、自社のことを応援してくれる大切な存在です。
また、この新規顧客獲得が厳しくなる時代に事業を安定的に展開していくためには、既存顧客のLTVをあげることが必須です。「EC×デジマ談義#2」でのカゴメ社の話では、ファンの”熱量行動”とLTVの向上に相関関係が見えてきているそうです。LTVの向上に寄与する現実的な手段としても「ファンは大事」という認識はいっそう高まっているのではないでしょうか。
<上記の取り組みに関する詳細記事はこちら>
効果的なCRM施策を生み出すカギは顧客理解を深めること。エーザイ・カゴメ・ドコモに聞くCRM戦略【EC×デジマ談義#2/セミナーレポート 後編】
その他にも、「これから重要になるであろう施策は?」という質問に対しては以下のような回答が得られました。(一部抜粋)
- 継続・アップセル・ファン作り全て大事だと思うが、施策ではなくプロダクト自体で実現していけるような柔軟な開発体制が重要だと思う。
- 究極的には、このコロナのあとは、マーケットに寄り添って、顧客のエモーショナルエンゲージメントを高めることが大事。媒体を通じて発信し顧客と繋がることが大切になると感じている。
- CRM=これからのマーケティングで不可欠なものであり、商品購入時の期待値から顧客体験、商品の所有まで含めたトータルの設計が重要だと感じる。
- コロナの影響を受けての各媒体の動向を把握し、よりライバルがいないところでの出稿できるかがカギになると思う。(オンライン・オフライン両方)
重要性が再認識されたのは、CRMやその先のCEM(顧客体験マネジメント)
また、今回の感染拡大の影響を通して、EC運営全般の施策の中で「これまでもやってきたがやはり大事だと思ったこと」「今後やっていきたいと思ったこと」は何かという質問に対しては、「(新規顧客獲得だけではなく)CRMを重要視していきたい」という声が3割ほどを占める結果となりました。(自由記述形式での回答)
CRMと一口にいってもその定義は非常に幅広く、「EC×デジマ談義#2」でも語られたように「CRMはマーケティングそのものだ」とする見方もあります。回答者からは、「CRMの捉え方を変えていく、定石に囚われない施策とその検証方法の構築」や「CRMをこえてCEM(顧客体験マネジメント)」が重要だと感じているとの声も寄せられました。
外出自粛による消費行動の変化により、社会全体としてオンラインの重要性が増し、「オンライン=年配の方への施策としては不向き」という考え方は当てはまらなくなってきています。
また今までは、ファンミーティングをはじめとする「顧客と強い繋がりを作る施策」は、リアルでしかできないと考えられてきましたが、オンラインでも実現できることに生活者も企業も気づき始めています。これまでオフラインでのコミュニケーション中心だった年齢層もオンラインに流入する中、オンライン上での顧客体験の設計はこれまで以上に重要になるでしょう。
調査回答者からも、オンライン上での顧客体験の設計に関して、重要性を再認識したこと・今後やっていきたいこととして、以下のような回答が得られました。(一部抜粋)
- オンラインでもリアルのように、体温を感じさせるコミュニケーションの工夫をする
- ECでもリアル店舗に近いレベルで品揃えをよくする
- オンライン上での「ブランド体験」施策(顧客のファン化)を行う
- オンラインの領域が年配の方からしても、より近くなっていると感じるため、これまでの考えを改め、年配の方向けのオンライン施策をどんどんやっていきたい。
まずは、時流にあわせて素早くアクションしていくことから
今回はECに携わる方々に、新型コロナ感染拡大によるECの状況変化と今後の予想について聞きました。
新型コロナ感染拡大による影響で、生活者の消費行動は一変しました。この状況下でEC領域の需要は増加しているため、業績が好調であるEC企業も多いでしょう。
しかしその一方で、ブランド全体でいえば、長期にわたるであろう不況への不安から生活者の財布の紐が固くなる、店舗への客足が元の水準に戻るまで相当な時間を要すことが予想されるなど、その他にも様々な影響を受けることは間違いありません。そんな中、今後もブランドが新たな生活者と繋がり、そこから新しく顧客になってもらうことのコストはますます上がっていくと考えられます。
このような時代にEC企業が生き残っていくためには、「新規顧客獲得偏重ではなく、顧客・ファンのCRMに向き合うこと」「オンラインでもオフラインと同じような(もしくはオンラインならではの)体験を提供できるように、チャネル関係なくブランドとして一貫した全体の顧客体験の向上に向き合うこと」が重要です。
これらは、一見新しい顧客を獲得することとは遠いことのように思えるかもしれませんが、本質的なブランド価値の向上に繋がり、結果として新たなファン・顧客を作っていくサイクルにも繋がっていきます。
新型コロナの流行第2波も心配され先行きが不透明な中、全てをすぐに実行していくことは難しいかもしれません。しかし、今起こっていることは「新型コロナによって変わった」というよりも、「もともとあった変化が加速した」という方が正しいでしょう。そういう意味では、ECに限ったことではありませんが、世の中の情勢を把握し、時流に合わせて小さくでも素早くアクションし続けていくことが一番大事な要素なのかもしれません。
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