徹底的に定量のデータに基づくダイレクトマーケティングモデルを推進するオルビスと、顧客の熱量を高めるファンマーケティングに注力するヤッホーブルーイング。
今回は、「新規顧客獲得」という同じミッションを異なる手法で追及する両社が、顧客アプローチの仕方についてお互いに質問し合った対談の様子をたっぷりとお届けします!
まず前編は、ヤッホーブルーイング→オルビスへの質問の様子です。
オルビス×ヤッホーブルーイング、異なる視点から「新規顧客獲得」を語る
今回は、独自のマーケティングモデルを追及される両社に、それぞれに聞きたいことを質問いただく形で、「新規顧客獲得」について語り合っていただきました!
対談に参加されたのは以下の方々です。
教えて!オルビスさん 新規顧客獲得で重視している指標は?
モデレーター/アライドアーキテクツ株式会社 伊藤 仁哉(以下、アライド/伊藤):ヤッホーさんからオルビスさんへの質問から始めていきましょう。まず始めに、オルビスがECを展開する中で重視している指標について教えていただけますか?
オルビス 山口 直氏(以下、オルビス/山口氏):私たちが大事にしている指標はCPOとLTVです。CPOだけ安く獲得しても後に優良顧客化しないかもしれませんし、その逆で優良顧客化しやすい施策だったとしても入り口のCPOが高騰してしまうとボリュームを増やすことはできません。
最終的には、トータルで見て一人のお客様から出る利益がどれくらいかという視点が重要と考えます。私たちはこれを「ユニットエコノミクス」と呼んでいます。
CPOとLTVに差が出やすいのは獲得経路の媒体ですね。大きく言えばECとリアル店舗、ECの中でもどのメディア、どの広告から経由したかによってCPOとLTVが大きく異なります。
現在は、新規のお客様向けで6つのスキンケア商材に広告投資していますが、媒体と商材の掛け算で、どの組み合わせがもっともCPO×LTVの観点で良いお客様になるか、事業成長につながるかを見ながら費用をアロケーションしています。
ヤッホーブルーイング 望月 卓郎氏(以下、ヤッホー/望月氏):媒体×商材というお話ですが、商材の数はさておき、媒体は無限に選択肢が存在しますよね。そのあたりはどう管理しているんですか?
オルビス/山口氏:広告媒体としては、ダイレクトレスポンス広告のうち数値で効果を測定できるものへの出稿を基本としています。現在は12~13媒体くらいに出稿中です。
広告の運用自体は代理店さんにお任せしていますが、月に3回くらいは広告経由での獲得数やCPOのレポートをいただき、弊社の中で基幹データの数字と照らし合わせて効果を確認する作業を行っています。
ヤッホー/望月氏:当社の200歩くらい先を行っていますね(笑)。
オルビス 照井 真規子氏(以下、オルビス/照井氏):商材毎に「この商材はSNSに強い」などの特徴があるので、6商材全てで12~13媒体に出稿しているわけではありません。あくまでユニットエコノミクスの考え方のもとに、この商材はこのメディアに特化しようなどの調整を月に3回程度行っています。
教えて!オルビスさん ダイレクトマーケティングの組織体制は?
アライド/伊藤:我々は広告を支援する立場として、数多くの通販企業さんとお付き合いがありますが、ここまで徹底的に「どこが利益が出る水準なのか」を軸に広告運用している企業さんは少ないように感じます。
通販企業さんのあるあるエピソードとして、「このCPOさえ守れていれば大丈夫」というCPO至上主義に陥りがちなところがあると思うんです。
本来は、「そのCPOで獲得して、その先本当に利益につながっているか?」まで見るのが大切ですが、実際のところは、広告運用の現場でそこまで見るのは大変だからと実施できていない企業さんが大半だと感じます。
ヤッホーブルーイング 桂馬 拓也氏(以下、ヤッホー/桂馬氏):ユニットエコノミクスの考え方のもと、きちんと利益を出すためには、購入したお客様を接客してLTVを伸ばしていくのも大切ですよね。
たくさんの媒体で広告を運用しながら、さらに接客もして…となると、かなり業務の幅が広いと思いますが、どういう組織体制で回しているんですか?
オルビス/山口氏:現在は、ダイレクトレスポンス型の広告を担当するメンバーが2名、成果単価型の広告担当が4名、育成領域の施策を回すメンバーが2名います。その他、クリエイティブを制作するディレクション担当が3名、インハウスデザイナーが3名います。加えて、彼らが日々の現場の運用業務に集中できるように、データ分析を専任で行っているメンバーも3名いるんです。
新規獲得~4回目購入までの部分に関しては、このようなチーム体制で日々の業務を回しています。
アライド/伊藤:購入後の育成を担当する2名の方は、ダイレクトレスポンス型の広告が入り口の顧客、成果単価型の広告が入り口の顧客の両方を見ているということですよね。
今は、育成の担当者が流入経路毎に細かく顧客を見て、LTVを伸ばすためのCRM施策を考えて回しているのでしょうか?
オルビス/山口氏:実はそこがポイントでして、新規獲得と育成を一貫して見られるように昨年体制を変更したんです。照井が新規獲得広告だけでなく、ダイレクトメールやメルマガなども併せて見ているのは、それが理由です。
アライド/伊藤:通販企業さんは「新規獲得」と「CRM・育成」を二つのチームに分けている場合が多く、それぞれでKPIを分けるしかない状態になっている場合が多いですよね。
オルビスさんの場合は、新規と育成を横断した組織体制にすることで、現場レベルでもしっかりと「利益が出る水準=ユニットエコノミクス」の考え方を徹底させているのですね。
教えて!オルビスさん CRM施策、どこまでどうやってるの?
ヤッホー/桂馬氏:弊社の場合、CRMのプロセスでは、同梱物を作ったり、お試しセットで入会いただいたお客様がよりご満足いただける方法を考えたり…と、範囲が広く、やることが盛りだくさんで、2名ではとても業務が回らないように思うのですが、オルビスさんはたった2名でどうやってそのあたりを回してるんですか?
オルビス/山口氏:年間で施策に対するメリハリを付けるようにしています。我々の場合、1月~12月が一つの期なのですが、例えば上期の1~6月は「いかに新規獲得~F2転換までのボリュームを増やせるか」に注力する、下期の7~12月は「上期で獲得した方々をいかにF4転換させるか」のクロスセルに注力するなど、年間を通して、いつ何に力を入れるかにメリハリを付けるんです。
全部同時並行にやろうとすると、やれることがたくさんあるので手詰まりになってしまいます。お客様が初回にご購入いただいてからの時間軸にあわせて、どの施策に注力するかのバランスを考えています。
ヤッホー/桂馬氏:なるほど…。それは新しいですね、とても参考になります。
アライド/伊藤:通常、通販企業さんは期の締めのタイミングで最大の新規顧客獲得数にするために、年末に向けてどんどん広告費のボリュームを上げていく場合が多いですよね。
でも、それは「全体の利益」という観点で運用すると真逆の行為なのかもしれませんね。オルビスさんのように、期の前半で新規獲得のボリュームを取り、後半でLTVを上げる施策に注力する方が、ユニットエコノミクスの観点では理にかなっているなと思いました。それに、年末に向けて出稿する企業が増えると、CPMもそれに伴ってどんどん高騰していきますから非効率な面もあります。
オルビス/山口氏:その通りです。我々は、多くの会社様が出稿を強めるタイミングは、戦いに出るのは避けています(笑)。
教えて!オルビスさん 新しい施策導入の判断基準は?
アライド/伊藤:ヤッホーさんからオルビスさんへの最後の質問に移ります。オルビスさんは、年間を通して代理店さんからさまざまな施策の提案を受けたり、何らかの課題を解決するときに施策の選定を行ったりする場面があると思いますが、どのような基準で新しい施策導入の判断をしていますか?
オルビス/照井氏:「この代理店でしかできない施策は原則ない」という前提に立って、複数社を比較するようにしています。
その際に大事にしているのは、数値のシミュレーションの精度です。他社の事例もしっかりヒアリングしながら、「本当にこのシミュレーションは現実的なのか?」を納得できるまで確認するようにしています。
もちろん、まだ誰もやったことがないような施策にチャレンジする場合もあります。その際は、仮にその施策が失敗しても大丈夫な余裕のあるタイミングでやるようにしていますね。
アライド/伊藤:オルビスさんは、その点を本当に徹底していらっしゃいますよね。代理店だけにKPIの責任を負わせるのではなく、一緒に責任を持ち、納得感をもって進めていくスタンスをお持ちだと感じます。
オルビス/山口氏:我々は、代理店企業さんは「パートナー」さんであるという意識が強いんです。「ある一定の期間で目標のCPOに行かなかったら終わり」のような関係性だと、お互いにもったいないですよね。そのCPOに至るまでに、しっかり段階を踏んで、いつまでに何をどこまでやるかをすり合わせ、何が足りないか等を建設的に議論出来る方が、お互いに知見が貯まると思います。
ヤッホー/望月氏:私たちの定期宅配サービスは、今まで年間契約の一つだけだったんです。ご満足いただいて継続いただける方も92~93%ととても高い状態なので、あまり詳細なシミュレーションなどはできていませんでした。
でも、つい最近、3ヵ月から始められる定期宅配サービスを開始し、今までとスピード感も規模感も変わってきたところだったんです。これからは、新規獲得からLTVまでを一貫して見る視点、より数値に基づいてシミュレーションしながら施策を行っていくことも大事になるなと感じました。
ヤッホー/桂馬氏:今までは、「満足いただき、継続いただくこと」にフォーカスしていました。ちょうど、これからはもっと新規獲得の規模を拡大にも注力しようというタイミングだったので、今日のお話は本当に参考になりました。
オルビスが、ヤッホーブルーイングに「ファンマーケティング」に関する質問をした後編記事はこちら