SaaSプロダクトを通じて総計200社を超えるD2C企業を支援してきたアライドアーキテクツ株式会社 取締役 CPOの村岡弥真人と、ECカート・物流・マーケティングなど各分野におけるD2C支援企業との対談を通じて、成長するD2C企業のフレームワークを解き明かしていく本連載企画。

最終回のゲストは、CRM領域でD2C企業を支援している株式会社E-Grant(イーグラント) 代表取締役COOの北川健太郎氏です。

650社以上の導入実績があるCRM・マーケティングオートメーションツール「うちでのこづち」の提供をはじめ、CRM領域におけるコンサルティングや人材紹介など、D2C企業のCRMを総合的に支援している北川氏は、ここ数年の「D2C」の潮流をどう捉えているのでしょうか。また、その中で成長する企業にどのような共通項を見出しているのでしょうか。

単なる一過性のトレンドとしてではなく、生活者に長く愛されリピートされるD2Cブランドは何が違うのか、その本質に迫ります。

「CRM」を重視する企業が増加傾向に。その背景にある市場変化とは?

アライドアーキテクツ 村岡:まずはイーグラントの事業概要を教えていただけますか。

イーグラント 北川氏:イーグラントはEC通販企業、D2C企業のCRM支援を専門に行っている会社です。

具体的には3つの事業領域があり、1つ目はシステム:650社以上に導入いただいているCRMマーケティングオートメーションツール「うちでのこづち」の提供、2つ目はマーケティング:ツール導入後のCRM領域におけるコンサルティングや課題解決支援サービス「CRM軍師」3つ目は人材:CRM領域における専門人材の紹介サービス「コマースキャリア」や教育を行っています。

CRM領域において「システム×マーケティング×人材」のソリューションを提供することで、総合CRMカンパニーとして業界をリードしていくことを目指しています。

株式会社E-Grant(イーグラント) 代表取締役COO 北川健太郎氏

村岡:従来のEC通販ではCRMよりも新規顧客の獲得に注力してきた企業が多い印象ですが、最近はCRMを重視する風潮に変わりつつあると感じます。北川さんはD2C企業のCRMを支援する中でどのような変化を感じていますか?

北川氏:私自身は2013年からCRMの支援に携わっていますが、正直当時はまったく見向きもされませんでした。「まだ新規顧客の獲得ができているし、CRMは必要ない」という企業さんが多かったですね。このように軽視されがちだったCRMが重視される傾向に変わってきたのは、まだ本当にこの数年のことです。CRMの仕組みをきちんと構築してから新規顧客を獲得することでLTVを伸ばすといったように、従来と施策の順番が変わってきています。

村岡:CRMが重視されるようになってきた背景には、どのような市場の変化があるのでしょうか?

北川氏:一つには新規顧客の獲得が難しくなってきていることがあります。日本の人口が減少し成長市場が減り、成熟産業が増える中で成長するEC市場に参入する企業は増えており、競争は激化する一方です。D2C企業が新規顧客獲得に注力し、年商1~3億円程度の規模まで拡大しても、その一歩先の規模に成長するためにはCRMが欠かせない要素になってきます。

また、そもそも新規顧客を獲得して終わりではなく、「商品を通じて顧客に何を実現していきたいか」の思想を大事にする企業が徐々に増えてきていると感じます。

例えば、我々が支援している株式会社ベルタさんが展開するブランド「BELTA」は、「ライフステージをあなたと育む」をブランドコンセプトに掲げ、妊娠、出産、産後、エイジングケアなど、女性のライフステージ変化における悩みや不安を解消する商品を複数提供しています。さらに、お客様一人一人に専任のカスタマーサクセス担当者が付き、家族や友人のような立場で悩みに寄り添い、共に解決を目指すサポートも行っています。

このようなブランドでは、長きにわたってお客様と良い関係値を築き上げていくこと=「CRM」が当たり前のように企業の思想として根付いているのです。

顧客と直接つながる「D2Cモデル」のはずが、実際には顧客不在のケースも

村岡:ブランドの思想として顧客との関係性を重視する企業が増えているということですね。この2~3年注目を浴びている、顧客と直接つながる「D2Cモデル」もその流れにあると言えるのでしょうか?

北川氏:そうですね。現代のようにモノが溢れる時代にどう顧客に選んでもらうのか、その一つの解として「顧客起点マーケティング」を掲げるD2Cモデルが注目を浴びること、そしてそのモデルを前提として市場に参入する企業が増えるのは自然な流れだと考えています。

一方で、「D2C」という言葉だけが独り歩きしてしまっている側面もあると感じています。D2Cへの参入障壁が下がる中、「D2C=金のなる木」としてマーケティングのテクニックだけが先行されてしまうケースも増えているのかな、と。

村岡:「D2C」というと美しいブランド理念が語られることが多いですが、実際にはユーザーが不在になっており、あくまでビジネスとしてのブランド展開になっているケースもあるということですよね。

アライドアーキテクツ株式会社 取締役 CPO 村岡 弥真人
UGCを活用しECサイトやLPの効率改善を行うSaaSプロダクト「Letro」を提供している

北川氏:はい。CRMのやり方においても、本来はブランドの理念を実現するための顧客との関係性づくりであるはずにも関わらず、実際には企業主体の一方的なコミュニケーションになってしまっているケースも見受けられます。

ただ、やはりそういうスタンスでは、結果としてユーザーは離れていきますし、ブランドとしても長続きしません。真の意味で顧客主体のD2Cモデルを体現できているのかどうか、そこで成功するかの明暗が分かれてくると感じています。

成功するD2C企業が実践するCRM、3つの共通項

村岡:成功するD2C企業が実践している「顧客主体のCRM」とは、どのようなものですか?

北川氏:CRMはお客様との関係性づくりですので、そのやり方そのものは企業によって千差万別であってよいと考えます。ただ、顧客主体のCRMを実践できている企業さんには3つの共通項があります。

まず一つ目は、企業のトップが「顧客体験」や「顧客との関係性作り」を重視していることです。一例として、先ほどご紹介した株式会社ベルタさんは、ブランド立ち上げ当初からずっとトップダウンでCRM施策に力を入れています。

二つ目として、成長D2C企業には、カスタマーセンターを「顧客との貴重な接点」と捉え、コストをかけて自社で丁寧に運営している企業が多いです。カスタマーセンターを外注するのが悪いというわけではありませんが、カスタマーセンターにおけるKPIの持ち方も含めて、顧客接点をどう活かすかの考え方に違いがあると感じます。

三つ目は、日頃から顧客の声を聞き、それをマーケティングメッセージや商品作りに反映していることです。例えば、優良顧客との座談会を実施し「なぜ継続してくださっているか」の理由を聞いて、その声をまだブランドを使い始めたばかりの顧客に伝えたり。逆に解約する方にその理由を聞いてそれを一つずつ解消したりなどを当たり前にやっている企業が多いです。

村岡:「解約させないための施策」「アップセルするための施策」としてCRMを実施するのではなく、CRMを顧客主体のコミュニケーションを行うことによる「ファン作り」と捉え、その結果としてLTVを伸ばしているということでしょうか?

北川氏:その通りです。解約率の減少やアップセル金額の向上はあくまで「結果」であって、そこにはまず顧客の態度変容があるはずなんです。

なぜ初期の顧客から、何度も継続する顧客に変わったのか?そこにどんな体験があったのか?なぜずっと優良顧客でい続けてくださるのか、そこには必ず何らかのお客様の変化があります。CRMを通じて、その理由をきちんと紐解いていくことで、結果として数字につながっていくのです。

村岡:解約率を下げたりアップセル金額を上げたりする具体的な施策は色々ありますが、それ以前に、まずはお客様の本質的な理解が大切なんですね。

新規顧客獲得とCRM、適切なバランスはどこにあるのか?

村岡:北川さんのお話を聞いていると、CRMとはまさにブランドづくりそのものであると感じます。

一方で、CRMが企業の成長に不可欠であることが理屈では分かっていても、アーリーステージのD2C企業にとっては、まずは新規顧客獲得が優先事項であり、最初からCRMに投資する判断はしにくいのも事実かな、と思います。実際に、まずは売上が1~3億円に到達するまでは新規顧客獲得に振り切る、その後CRMを考え始めるというD2C企業さんもいらっしゃいます。

D2C企業が成長していくために、本来CRMはいつから始めるべきなのでしょうか?

北川氏:村岡さんのおっしゃる通りCRMはブランディングそのものですので、本来は事業のインフラであるべきなんです。ブランドを0→1で立ち上げるタイミング、1→10に拡大するタイミング、それぞれに必要なCRM施策も異なります。ですから、「どのフェーズからCRMをやるべきか」という答えは本質的には存在しないと考えています。

村岡:CRMをやるやらないではなく、CRMとは当たり前に実施するべきものである、ということですね。

北川氏:その通りです。新規顧客をいくら獲得しても、リピート通販である限りは継続していただかないと利益が上がりませんから。バケツの底に穴が開いた状態で新規顧客を獲得するのか、バケツのそこに水がたまるように設計してから新規顧客を獲得するのか、長い目で見た際の成長率に違いがあることは明白ですよね。

村岡:予算や人的コストは「新規顧客獲得」と「CRM」のどちらにどう配分すべきとお考えですか?

北川氏:我々は、まずは販促予算の5-10%をCRM施策に投じましょうとお話ししています。例えば、月に新規顧客の獲得に1,000万円を使っているなら、50-100万円をCRMに投じるということです。新規顧客獲得に一件数万円のコストがかかるのに比較して、CRM施策にはそこまでの費用がかかりません。例えば我々の提供するCRMツール「うちでのこづち」も月額29,800円~という費用体系です。
今までCRMに投資してこなかった企業さんであれば、ほぼ必ず投資対効果が得られるはずです。「定期購入を促していない」「定期購入の導線ができていない」などの今までのマイナス点をゼロにし、プラスに変えていくだけでも大きな違いが生まれます。

村岡:こうしたCRMの重要性をアーリーステージから理解し実践できる企業は、実際に増えているのでしょうか?

北川氏:今はマーケットのニッチ化が進んでおり(例えばニキビ商品でも「特定のニキビ」に特化して効果がある商品を出すなど)、新規顧客獲得もより難しさを増しています。その意味で、アーリーステージからCRMに力を入れる企業は増えています。

しかし、CRMに力を入れて継続的にブランディングを行う企業の数はまだまだ限られています。だからこそ、そこに力を入れることで大きく成長していけるチャンスもあるのです。

D2C企業がより成長していくためには、CPA、CPO、ROASの追求という狭い世界に留まるのではなく、ブランド価値としてユーザーに何を伝えているのか、企業としてどうありたいのかといったもっと広い世界に拡げていくことが大事なのではないでしょうか。そうした基盤があるからこそ、ブランドの思想がユーザーに伝わり、長く愛されるブランドとして成長していけるのだと思います。

村岡:Eコマースだとつい目の前のKPIが全てになりがちですが、本来は新規顧客獲得担当やCRM担当などの役割は関係なく、組織として全員がお客様に向かいあうべきということですよね。それを実現するための強固な組織基盤も不可欠になりますね。

イーグラントが描く、D2Cのこれから

村岡:最後に、北川さんが考えるこれからのD2Cの展望と、D2C企業を支援する立場としてイーグラントがこれから取り組んでいきたいことを教えてください。

北川氏:D2Cはまだ発展の一過程にあると考えています。たくさんの企業が市場に参入し、業界全体が盛り上がるのはとても良いことですが、どのように長く愛されるブランドを育てるのか、業界が健全に発展していくのかについては、まだこれからです。

本来、日本は「想いやり」や「おもてなし」という文化がある国だと思っています。そして、それは必ず世界と戦う時の武器になるはずです。

CRMを重視するD2C企業や、我々のようにD2CのCRMを支援する事業者はまだ少ないですが、これからはCRMを通じてD2C業界をより健全に発展させていきたい、そして日本を盛り上げていきたいと思っています。

村岡:「CRMを通じて日本を盛り上げる」を実現するために、イーグラントが企業として大切にしていることは何ですか?

北川氏:まずは我々自身が「想いやり」や「おもてなし」の心で顧客の課題に寄り添うこと、単なるツールベンダーとしてではなく顧客に伴走するパートナーとして、顧客の事業成長に貢献していくことを大切にしています。だからこそ、現状に甘んじず、常に「未来のECはどうあるべきか」「どういう社会を実現したいのか」という高い視座を持てる組織文化作りに取り組んでいます。

目の前の定量数値目標だけを追い求めていては、本来の我々の事業としての意義を見失いかねません。非効率的で非生産的なこともあるかもしれませんが、それも含めて我々の価値だと考えています。まずは自分たちが顧客に「想いやり」や「おもてなし」を持って貢献できなければ、クライアントにそれを求めることもできませんから。

村岡:そうした姿勢が顧客に伝わり、イーグラントや「うちでのこづち」のファンが増え、650社を超える支援実績につながっているのですね。今後もD2C業界における総合CRMカンパニーとしてのイーグラントの展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました!

本記事で「連載企画:D2C支援SaaSベンダーインタビュー」は最終回です。3社のゲストが語る「成長D2C企業の共通項」から見えてきたのは、徹底的に「顧客」に向き合い、スピード感を持ってプロダクトやサービスをアップデートしていく企業の姿でした。皆さまはどのような感想をお持ちになられたでしょうか?本連載企画が、お読みいただいている皆さまのD2Cビジネスを成長させるヒントとなれば幸いです。