2019年頃までは「D2C」が一種のバズワードのような状態でしたが、2020年頃からD2C領域でも圧倒的に成長するブランドが複数登場してきたことから、成長D2Cブランドが何を行ったのか、どういった経緯で成長に至ったのかという具体的なモデルの解明がより注目されるようになってきました。一方で、その多くがブランド視点での発信となっており、再現性を見出すことが難しい側面もあります。

そこで、本連載ではSaaSプロダクトを通じて総計200社を超えるD2C企業を支援してきたアライドアーキテクツ株式会社 取締役 CPOの村岡弥真人と、ECカート・物流・マーケティングなど各分野におけるD2C支援企業との対談を通じて、成長するD2C企業のフレームワークを解き明かしていきます。

連載第一回目のゲストは、多くの成長D2C企業に愛されるEC基幹システム「ecforce」を提供する株式会社SUPER STUDIO 取締役 CROの真野勉氏です。累計300社以上のD2C企業を支援してきた真野氏が語る、成功するD2C企業の共通項とは?

ここ数年の「D2C」の変化とは?

アライドアーキテクツ 村岡:まずはSUPER STUDIO社の事業概要を教えていただけますか。

SUPER STUDIO 真野氏:SUPER STUDIOの事業には大きく2つの軸があります。一つ目は、D2C企業向けのSaaS型EC基幹システムecforceです。DINETTEやN&O LifeといったD2C成長企業をはじめ、累計300社以上にご利用いただいております。二つ目は、商品開発からオペレーションまでD2Cの全工程をワンストップで支援するソリューション事業「apollo d2c」です。数十社のD2C事業立ち上げ支援を行ってきました。

SUPER STUDIOは、元々はECで物を売るビジネスからスタートした会社です。商品開発から日々のオペレーション、マーケティングまで、自分たちがECプレイヤーとして最前線に立った経験を踏まえてシステム開発やサービス提供を行っています。

株式会社SUPER STUDIO 取締役 CRO 真野 勉氏

村岡ありがとうございます。アメリカが火付け役となり日本にもD2Cブームが到来してから、多くの新興ブランドが立ち上がってきましたよね。しかし、全てのブランドが上手くいくわけではなく、ここ最近は成長著しい企業と、伸び悩んでしまう企業に二極化している印象があります。多くのD2C企業を支援し、また自身もD2Cブランドの提供社として現場の最前線に立ってきた真野さんから見て、ここ数年のD2C領域にはどのような変化があるでしょうか?

真野氏:もっとも大きな変化はデジタルマーケティングの進化です。その波をうまく捉えた企業とそうでない企業で明暗が分かれていると感じます。もともと私たちがEC事業を始めた2015年頃は、Facebook広告をはじめデジタル広告の精度が高まり、上手く広告さえ出せれば再現性高く新規顧客が獲得できた時代でした。しかし、その後生活者のデジタル化が一気に進み世の中の情報量も急拡大、それに伴いデジタル広告も多様化する中で、単にLPを作って広告を精度高く運用するだけでは新規顧客数を伸ばすことが難しくなってきました。

村岡:私自身も2015-2016年頃は、SNS広告を中心に企業のデジタル広告運用支援を行っていましたが、当時はたしかにアドテクバブルのような状態でしたね。ある意味「広告をうまく回せれば事業を伸ばせる」時代だったのかな、と。しかし、アドテクがさらなる進化を遂げ、ターゲティングや運用の精度が高まり、誰でも一定の質を担保できるようになってくると、それ以外の領域で差をつけないとブランドとしての成長につながらなくなってきたと感じています。

アライドアーキテクツ株式会社 取締役 CPO 村岡 弥真人

真野氏:そうですね。特に最近は私たちのようにD2CブランドやECの立ち上げを支援する会社が増えており、この領域への参入障壁そのものが下がっています。プレイヤーが増えて競争が激化していることも、D2Cの成功が一筋縄ではいかなくなってきた理由と言えます。

成功するD2C企業の共通項

村岡:その中で他社と差をつけ成長する企業は、デジタルマーケティングの領域でどのような取り組みをしているのでしょうか?

真野氏:成長する企業の共通項として、「広告からSNS・インフルエンサーまで、とにかくありとあらゆる新しいデジタルマーケティング施策を試し、高速でPDCAを回しながら伸ばせるところに予算を張る」を組織として体現していることが挙げられます。当たり前のようですが、これをやり切れている企業は意外と少ないのではないでしょうか。自社の成功体験だけに固執せず新しい施策にも果敢に取り組む経営体質、施策の良し悪しを見極めるスピード感、成果が出る方法を諦めずに探し続ける胆力が必要です。

村岡:同感です。私たちアライドアーキテクツではUGC(User Generated Contents)をマーケティングに活用するためのSaaSプロダクトLetroを提供しています。今でこそEC企業がUGCをLPや広告クリエイティブに活用するのは当たり前になっていますが、私たちがこのサービスの提供を始めた2016年はまだ「UGCって何?」や、「UGCはブランド世界観の毀損につながるから使えない」と言う意見が大半でした。そのような状態の中でも、私たちが信じる「UGCが持つ可能性」に共感いただき、当時はまだ実践している企業が少なかった「UGCを広告クリエイティブとLPに活用する取り組み」を早期から実践いただいたブランドは、現在着実に成果を上げています。

例えば、DINETTEはUGCを顧客目線のクリエイティブと捉え、ブランド立ち上げ初期段階からLPのコンテンツに取り入れることで、LPのCVRを1.27倍にすることに成功しました。

UGC=顧客のクチコミですから、自分自身が生活者の立場になって考えれば、購入前にクチコミを見ることで購買意欲が高まるのは自然な流れです。でも当時はまだそれに真剣に取り組んでいるブランドは少なかった。「UGCの力」を語る私たちの話を聞いていただき、信頼していただいたからこそ、ブランドの事業成長に貢献できたと考えています。

真野氏:自分たちのやり方だけに固執することなく、広告代理店やSaaSベンダーなどのパートナーと協力関係を築きながら、自分たちの成功フレームワークに落としていける企業が強いですよね。

もちろん、支援企業側もブランドと一緒に成長するマインドを持っていることが必須です。我々SUPER STUDIOは、常に変化し続けるEC業界において成果を出し続けるためには、常に変化を受け入れてプロダクトをアップデートし続けなければならないと考えています。ecforceはSaaSなので、「永遠のβ版」なのです。D2Cブランドと支援会社が共に成長する、それが理想の姿だと考えます。

DINETTEによるUGC活用施策の詳細はこちら
UGCを活用しCVR1.27倍!D2CコスメDINETTEのマーケティング戦略

失敗するD2C企業が陥りがちなパターン

村岡:では逆に成長が伸び悩んでしまうD2Cブランドが陥りがちなパターンはあるのでしょうか?

真野氏:まずは商品設計段階で、経営者が「このブランドコンセプトでいける」と自分の考えに固執してしまうことです。市場調査など通常踏むべきステップを踏まずに経営者の思い込みでプロダクトを作ってしまうことが案外あるのです。その場合は一瞬跳ねることもありますが、なかなか長続きしないパターンが多いです。

村岡:先ほどのデジタルマーケティングへの取り組み方にも通じるお話ですね。成功するためには、まずは多くの情報を持つことが大切ということでしょうか。インハウスで全てを自社で完結する良さもありますが、逆に外部の会社が持っているかもしれないあらゆる正解をインプットできない弱みもあると言えそうですね。

SUPER STUDIOが描く、D2Cのこれから

村岡:最後に、改めて真野さんが考える「D2C」の定義とは何でしょうか?

真野氏:D2Cとは、デジタル化によって変化した消費行動に最適なマーケティングフレームワークです。SUPER STUDIOでは、このフレームワークは以下6つの要素に分かれると定義しています。

  • デジタルであること
  • ユニークな体験を与えるプロダクト
  • 垂直統合されたサプライチェーン
  • 顧客とのダイレクトな会話
  • データドリブン
  • VCから資金調達を行って短期間で急成長

真野氏がD2Cフレームワークを構成する6つの要素について詳しく語った記事はこちら
なぜ今「D2C」がトレンドなのか?ーSUPER STUDIOが語る、今企業が「D2C」に取り組む意義とは?

これら全てに共通するのは「高速でお客様のニーズやペインを読み取り、高速でそれを商品化して届ける」ことです。進化し続けるテクノロジーを上手く活用し、それを顧客の本質的な理解と満足度の高い商品・サービス提供に反映する、こうしたマーケティングモデルそのものがD2Cなのではないでしょうか。

村岡:これからはさらに大きな領域でも、そうした「D2C」の要素を持った企業が出てくると思いますが、SUPER STUDIOとしては今後どのような展望をお持ちですか?

真野氏:自社ECをお持ちの方々がグロースするときにシステムがボトルネックで成長できない状態を限りなく無くしていきたいですね。そのためには、従来のEC基幹システムの枠を超えて、顧客の事業成長に必要な機能をワンストップで提供していく必要があると考えています。

例えば、現在ecforceで最も顧客に喜ばれている機能として広告管理機能があります。従来のEC基幹システムは、ECサイトの構築や商品登録・カートの設計にフォーカスされており、マーケティング機能とは切り離されているのが当たり前でした。ですから、例えばEC基幹システムでのアフィリエイト経由の売上件数と、アフィリエイトプラットフォームでの売上件数がずれるようなことが頻繁に起きていたのです。でも、本来は「ずれない」のが当たり前のはずですよね。そこでecforceには、従来のEC基幹システムにはなかった広告管理機能も搭載しました。

これからも、「顧客の課題に向き合い、常に顧客と共に成長していく」マインドを第一に、プロダクト開発を推進していきたいです。

村岡:顧客のペインをダイレクトに吸い上げ、高速でプロダクト開発に反映していく。従来の常識や枠に捉われず、顧客視点で必要な機能を盛り込んでいく。まさにD2CモデルをSUPER STUDIO自身も体現しているのですね。同じD2C支援企業として私たちもD2Cブランドと共に成長し、顧客の事業に貢献していきたいと改めて感じました。本日はありがとうございました!

<連載企画:D2C支援SaaSベンダーインタビュー その他記事はこちら>
成功するD2C企業の共通項とは?D2C支援SaaSベンダーインタビュー【STARX編】