ここ数年で「D2C」という言葉をよく耳にするようになりました。

すでに海外、特にアメリカ・中国には多くの成功事例があり、国内にもD2Cブランドが華々しい事業成長を遂げたストーリーを散見します。

D2C的なアプローチにおいては、「Direct to Consumer」の名の通り、顧客とのタッチポイントにおけるデザインやコミュニケーションを重視して、ブランド独自の世界観を構築していくことの重要さが語られがちです。

しかし、秀逸なブランドとはすなわち大きな事業成長を遂げるビジネスとしても優秀な存在であり、そこにはビジネスモデルが切っても切り離せないものとして存在するのもまた事実です。

今回はD2Cにおけるビジネスモデルに着目し、その分類や選び方について詳しくお伝えしていきたいと思います。

D2Cの8つのビジネスモデル

D2Cにおけるビジネスモデルを知るためには、D2C/EC専門メディアの「success board」が紹介した分類が役に立つはずです。

ここでは、最初に本記事のサマリー版として定番の4タイプ+派生した新たな4タイプの合計8つのタイプを簡単にご紹介します。

D2Cのビジネスモデル:4つのタイプ

D2Cのビジネスモデルを整理するために、以下の2つの軸を用意します。

  • 有形商材 or 無形商材
  • サブスクリプション or 都度販売

この2軸によって、D2Cのビジネスモデルは以下の4つのタイプに分けることができます。

  • 有形商材 × 都度販売
  • 無形商材 × 都度販売
  • 有形商材 × サブスクリプション
  • 無形商材 × サブスクリプション

各タイプの詳細は参考記事を読んでいただくとして、大事なことは多様なブランドがビジネスを展開するように見えるD2Cであっても、基本的には、必ずこの4タイプのうちどれかに当てはまるということです。

「ビジネスモデルの選び方」は詳しく後述しますが、まずは想定するビジネスモデルが4つのうちどれに当たるのかを考えることで、脳内の整理が進むはずです。

D2Cのビジネスモデル:新たな4つのタイプ

「基本的には4タイプに当てはまる」と言いましたが、実際にはこの4タイプから派生したビジネスモデルも存在します。例えば、以下の4つは派生系だと言えるでしょう。

  • 高価格商品:「有形商材 × 都度販売」だが、単価が数万円を超えるような高価格商品を販売する。
  • ハードウェア+ソフトウェア:ハードウェアを「有形商材 × 都度販売」で販売した後、ソフトウェアを「無形商材 × サブスクリプション」で販売する。
  • Boxタイプ:「有形商材 × サブスクリプション」だが、中身が固定されないBOXを届ける。
  • パーソナライズD2C:「有形商材 × サブスクリプション」だが、複数の商品から顧客に最適なものを選ぶ。

分類上は定番4タイプに当てはめることもできますが、それぞれ狙いがあって派生したビジネスモデル。理解を深めるためには、区別して特徴を知ることが大事です。

またパーソナライズD2CこそITが可能にした新しい潮流だと捉えられますが、実は古くからあるクラシックなビジネスモデルも含まれています。

わかりやすいところだと、「ハードウェア+ソフトウェア」。刃が付け替えられるカミソリは古くからある製品ですが、カミソリ本体(ハードウェア)+刃(ソフトウェア)と考えると、先述した「ハードウェア+ソフトウェア」だと捉えることができます。

このように、D2Cという括りの中では新しく見える派生した4タイプも、ビジネスモデルの歴史を知っていれば実際は古くからある何かと何かの組み合わせです。そういった意味では、『ビジネスモデル全史』のような本で、多くのビジネスモデルを頭に入れておくことは前提として重要なことなのです。

良いビジネスモデルに潜む2つの事情

ここまで定番4タイプと派生系4タイプの合計8タイプを簡単にご紹介しましたが、ビジネスモデルを選ぶにあたって、選ぶ前に理解しておきたいことは他にもあります。

それは「良いビジネスモデルとは何か?」ということ。視点を変えると、ここには以下2つの存在による事情が潜んでいます。

  • 企業側の事情:長期的に利益を稼ぎながら事業を成長させていきたい。
  • 顧客側の事情:購買行動によって、何かを解決・実現したい。

つまり、言い換えると両者の事情がマッチしたものが良いビジネスモデル。「良いビジネスモデル」とは、企業が長期的に利益を稼ぎながら事業を成長させることができ、顧客も購買行動によって何かを解決・実現できる、という両立が肝要なのです。

例えばオンラインフィットネスのD2Cブランド「Peloton(ペロトン)」。顧客は移動時間なしで、自宅でハイクオリティなフィットネスサービスを享受できますし、企業側は一度ハードウェアを売って終わりにせず、継続的にソフトウェアで課金ポイントを持つことができるので、長期的な事業成長を描きやすいという側面があります。

このように両者の事情が高い次元でマッチするものこそ、良いビジネスモデルだと言えるでしょう。

D2Cビジネスモデルの選び方(大きな3つの流れ)

それではここから、D2Cにおけるビジネスモデルの選び方に話題は移っていきます。

私たちが想定している読者は、これからD2Cブランドを立ち上げる方のうち、まだ商材や売り方などが定まっておらず、ビジネスモデルを模索している方。細かく言うと様々なアプローチがあるのですが、ここでは「選び方」を大きく以下の3つの流れに分けてみました。

  • ビジネスモデルを理解する(リサーチ)。
  • ビジネスモデルを組み合わせる。
  • ビジネスモデルの実現性を検証する。

それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。

ビジネスモデルを理解する(リサーチ)

兎にも角にも、リサーチからスタートします。手を動かしてモノづくりをしたり、事業計画を引く前に、まずは世にある成功事例を徹底的に見ていきましょう。

ただ、網羅的に見るのは時間が膨大にあれば良いのですが、いそがしいビジネスマンには薦められません。

ポイントは、想定している商材やジャンルがあれば類似ブランド・プロダクトを調べていくことと、特に世の中で受け入れられつつある新鋭のブランドを、海外事例を含めてリサーチしていく点です。

国内ブランドは、インタビュー記事や最近ではnoteのようなブログ記事も多いので、さほど時間をかけず要点を見出すことはできるでしょう。しかし、海外事例はそうもいきません。英語の読解力があれば良いものの、誰もができる方法ではないでしょう。

その時のポイントですが、ひたすら海外D2Cブランドのサイトをのぞき、以下の点を重点的にリサーチすることをおすすめします。

  • どんなビジネスの設計をしているのか?
  • どんなジャンル・商材で?
  • どんな販売モデルで?
  • プライシングは?

これらは粒度が若干違う問いですが、「どんなビジネスの設計をしているのか?」を紐解くことで、自ずとその他の問いには答えられるはず。つまりビジネスモデルを理解することが最重要課題なのです。

一方、意識しないで良い点はデザインです。確かにD2Cにおいてデザインの重要性は疑いようもないのですが、リサーチ段階の優先度は「ビジネスモデル>デザイン」です。秀逸なビジネスモデルの設計なくして、デザインの優劣を語る段階ではないと考えましょう。

さらに追加で、気になったブランドは表に出ていない情報を深掘りしていくことも忘れてはなりません。「ブランド名+sales」や「ブランド名+strategy」といった検索キーワードで定性情報を調査していきます。

例えば、一見「歯ブラシのサブスクリプションD2C」に見えるブランドがあったとします。しかし、リサーチを進めると歯科医や保険会社と協業しているというプレスリリースを発見しました。この場合、単純なBtoCではなく、BtoBの展開も踏まえたビジネスモデル全体がおぼろげながら見えてくることでしょう。

このように、深掘りすることで表面的に見えるビジネスモデルとは違う姿が浮かび上がってくるのです。

ビジネスモデルを組み合わせる

ここまでくると、リサーチによって筋のよいビジネスモデルを複数理解している状態だと言えます。ここから先は、組み合わせを考える段階です。

名著『アイデアのつくり方』でも言われている通り、古いアイディアの組み合わせで新しいアイディアを作り出していくのです。

ここで大事なことは、顧客満足を目指すのは当然として、企業側の事情である「長期的に利益を稼ぎながら事業を成長させていきたい」をどう実現するかです。これをすこしミクロな視点で捉えると、「いかにリカーリング収益を伸ばすか?」という問いに変換することができるでしょう。

リカーリング(Recurring)とは、「繰り返し」「循環」といった意味。サブスクリプションであれば顧客の継続を伸ばすことですし、そうでなければ顧客が購買する回数を増やすことで、長期的な視点で収益を伸ばすことを意味します。

組み合わせる際に、これを念頭に考えます。例えば、低糖質な食事を提供する宅配サービスnosh(ナッシュ)。UberEATSの登場により宅配弁当の個別販売が一般的になってくるタイミングで、サブスクリプションのビジネスモデルを組み合わせることで新たな価値を創造しました。この選択でリカーリング収益が伸びたことは言うまでもありません。

このような事例を多く見ると「結局、サブスクリプションにすれば良い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、サブスクリプションに向かない商材ももちろんあります(例えば特別感・限定感を謳う商品。極端な例ですが、限定100食のクリスマスタルトなど)。

ただこの場合も、基本的な考えは大きく変わりません。顧客に再訪問と再購入を促すコミュニケーションをとることで、サブスクリプションでなくても確実にリカーリング収益は伸びるのです。

ビジネスモデルの実現性を検証する

最後に想定しているビジネスモデルに実現性があるかを検証します。わかりやすい視点で言うと、コスト面。いくら秀逸なビジネスモデルであっても、回収する利益が低すぎるとビジネスが立ち行かなくなることは目に見えています。

その他にも例えば以下のような点において、実現性があるかを考える必要があります。

  • 製造・流通における問題点はないか?
  • 複雑すぎる技術が必要ではないか?
  • 組織間のしがらみはないか?
  • 事業が成長したら露見する問題はないか?

あらゆる想像力を働かせて実現性を検証することで、理想的なビジネスモデルにも何らかの穴を発見することがあります。その際は、違うビジネスモデルを組み合わせることで解決できるかを再検討しましょう。

ここまでD2Cのビジネスモデルを選ぶ際の3つの大きな流れをお伝えしましたが、慣れないうちは先述した8タイプのビジネスモデルを参考に、自社に最適な案を探してみるのがおすすめです。

新規性の高いビジネスモデル構築時のポイント

あと一つ重要なこととして、特に新規性の高いビジネスモデルを構築する際のポイントをお伝えします。

そもそもD2Cの場合は新しい価値を作ろうとするので、ビジネスモデルも新規性が高くなる可能性があります。その場合の問題として、たとえブランド側が良いと思っていても、新しい価値は顧客にはわからないといったことが挙げられます。

その際に重要なのがUGC(User Generated Content)。ブランドが一方的に情報を発信しても理解されませんが、顧客に実際に体験してもらい、顧客自身の発信(UGC)を促すことで新しい価値を伝播しやすくすることができます。

そのため、新規性の高いビジネスモデル構築時には良質なUGCをいかにたくさん生み出すかが、重要なポイントとなるのです。UGCが事業成長に貢献した事例は、以下からぜひご覧になってみてください。
UGC活用事例を見る

最後に、私たちのこともご紹介させていただきます。

D2C顧客体験型ECプラットフォーム「ecforce」を企画・開発する私たちSUPER STUDIOは、自社でもブランド立ち上げを行っており、日々ノウハウを貯めています。

常に様々なビジネスモデルにチャレンジしており、以下のようなブランドの事例に加え、2022年1月時点で50件近くの支援実績があります(詳しくは以下の画像をご覧ください)。

  • ふつうのマヨネーズ
  • GO WITH WHITE.
  • しぐにゃる
  • kipkip
  • groomin
  • CILY 他

また、これらの事例で培ったノウハウを基に、EC・D2Cビジネスを総合支援するecforce teamsを展開していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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■著者プロフィール

飯尾元(いいおげん)

株式会社SUPER STUDIO
ecforce company 執行役員
brand execution group / marketing group / business consulting group

早稲田大学法学部卒業後、現楽天グループ株式会社に入社。ファーストパーティーEC事業の事業戦略担当として、主に新レベニューソース創出、利益改善、SCM改革等のプロジェクトを担当。
その後、外資コンサルファームにて、デジタル時代の新規事業開発/ビジネスモデル変革等、主にデジタル戦略関連プロジェクトに従事。
SUPER STUDIOでは、自社D2Cブランド立ち上げ・運用、クライアント様所有ブランドのハンズオン型支援を担う部門の責任者として、合計数十ブランドにおいて企画〜立ち上げ〜グロースの全フェーズを経験。
理論だけではなく、実践を経たD2Cノウハウを様々なブランド横断で展開している。