D2Cのパイオニア的企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント「D2C最前線」。

今回は、D2C市場の中でも大きなシェアを占める「コスメ」と「食」を代表する3社が登壇し、D2C時代のブランド成長戦略についてセッションを展開しました。

成功を収めているブランドが何を考えどんな手を打っているのか、具体的な事例や、ここでしか聞けない裏話も交えて事業成長につながるヒントが紹介されました。

※イベント:D2C最前線とは?
株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催したセミナーイベント。2022年1月14日にWeb上でのライブ配信形式で実施された。

登壇者

モデレーター:

西井 敏恭 氏

株式会社シンクロ
代表取締役CEO 兼 オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員

株式会社シンクロを設立。株式会社シンクロでは、CMOのアウトソース事業として大手通販、スタートアップの企業など数社のマーケティングを支援したり、企業と提携してデジタル事業を協業している。現在はオイシックスのCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)も兼任している。

スピーカー(50音順):

妻夫木 友也 氏

オリオンビール株式会社
マーケティングコミュニケーション/EC部 EC課 課長

1982年生まれ。大学卒業後、関東のインフラ企業にてWebマーケティング・広報担当などを経て、2011年に沖縄へ移住。旅行サイトを運営する企業でウェブメディアの立ち上げやマーケティング責任者等を歴任。その後、2020年からオリオンビールにて現職。「オリオンビール公式通販」を通じて、自社製品はもちろん、オリジナルグッズや沖縄県産品の発信に取り組んでいる。

西村 林太郎 氏

株式会社 ZENB JAPAN(ミツカングループ)
ダイレクト戦略チーム マネージャー

2006年にミツカンに入社。国内外のマーケティングに携わり、2019年には英国でお酢製品の新ブランドを立ち上げ、大手流通各社のリスティングを獲得。帰国後、2021年春よりZENBのダイレクトセールスチームにて広告、SNS、CRMの業務を通じ、定期顧客数20倍達成に貢献。顧客データやインタビュー、SNS等から得られるインサイトを新規獲得・継続率UP施策に活かしながら、LTVの最大化に挑んでいる。

長谷川 周作 氏

株式会社ネオエフ (ファンケルグループ)
ブランシック事業推進グループ サービス・システムデザイナー

2012年に株式会社ファンケルに新卒入社。窓口・バックオフィスでのお客様対応、医療法人財団の運営サポート、健康食品事業の業績管理、化粧品需給、関連会社の吸収合併対応、銀座での飲食2店舗立ち上げなど、大小問わず様々な業務に携わる。2021年4月より株式会社ネオエフ所属となり、新ブランド「BRANCHIC」の立ち上げに奔走する。現在はサービス・システムデザイナーとして、商品調達から窓口・物流運営、ECサイトの保守運用等の業務を一括して担当している。

大手メーカーが考える「D2C」の強み

-西井氏:ここ数年、D2Cというビジネスモデルに注目が集まり、スタートアップの手法としてだけではなく、大企業が取り入れる事例も増えています。まさにそこに該当する皆さんの話をお聞きしたく、まずは各社どのような取り組みをしているかお話しいただけますか?

妻夫木氏:オリオンビールは沖縄で1957年に創業、今年で65周年を迎えます。沖縄らしいブランドの一つとして知られていますが、公式通販は2020年7月からスタートし、ビール、チューハイに加えて沖縄にちなんだ特産品・グッズも販売しています。同年9月にはサブスクリプション販売もスタートさせました。コンセプトとして、「おうちで沖縄時間を楽しみませんか?」を掲げています。

長谷川氏:ネオエフの親会社であるファンケルは、「美と健康」をテーマに化粧品・健康食品を展開し、昨年で創業40周年を迎えました。ファンケルグループでは研究・開発・生産・物流・カスタマーサービスまで自社で一貫して取り組む点が大きな強みです。そこから「新会社を作ってみよう」と新たなチャレンジに取り組み、2021年4月1日に連結子会社としてネオエフ立ち上げに至り、プレステージ向け新スキンケアブランド「ブランシック」をECのみで展開しています。ファンケルの長年の研究に基づき、肌の感覚受容器「メルケル細胞」の活性に着目したスキンケアラインです。

西村氏:ZENB JAPANは、2019年にミツカンから生まれました。ミツカングループが目指す、おいしさと健康が一致した「未来の食事」を体現するブランドという立ち位置です。普段は捨てられてしまう野菜の皮や芯まで可能な限りまるごと使って美味しく健康的な食品を開発するブランドです。豆100%の「新しい主食」であるZENBヌードルやマメロニ、野菜ペーストや、スイーツとして楽しむ野菜スティックなどの商品をお届けしています。販売チャネルはECのみで、スーパーや百貨店には卸していません。

-西井氏:D2Cと言うとバズワード的な側面もあります。単に従来商品をネットで販売するだけでは、旧来の「メーカー直販」と何ら変わりはありません。大手メーカーが考えるD2Cの強みとは、どんな点でしょうか。従来型ビジネスモデルには弱みがあり、D2Cに強みを見出しているからこそ参入したのではないかと考えますが、いかがですか?

西村氏:母体であるミツカンは調味料等をスーパーに卸すビジネスモデルです。新ブランド立ち上げにあたっては、いかに新たな価値を生み出し、消費者に理解・共感してもらうかが重要だと考えました。

全く新しいモノを作り出すプロジェクトとして始まり、開発部隊も別途設けました。ミツカン製品よりさらに「健康に良い」「環境に配慮した」という点を磨き上げ、商品開発を展開しています。アウトプットが違うので、きちんとストーリーとして説明できるように別ブランドにしたという経緯です。

今や、メーカーがモノを作って「美味しくて健康的だから買ってね」という価値の押しつけだけでは売れない時代になってきています。「(自分ごと化した)私のブランド」として消費者に捉えて欲しかった。お客様の生活に寄り添った「ZENBのある暮らし」を共に創り上げていきたい、という思いがありました。

また、将来に向けたミツカンのビジョンに則った「おいしいと健康を同時に叶える食生活」「環境に配慮した商品」という、ZENBのブランドコンセプトに共感していただくことも重要です。D2Cモデルを取ることで、SNS・メールなどを介してお客様と接触頻度を増やしつつ、クイックにコミュニケーションを展開できる点が強みです。

ミツカンとしても勿論お客様に寄り添いながら商品開発に取り組んできたものの、なかなか直接コミュニケーションを取る機会を持てず、分かり合えていない部分もありました。ミツカンの名前や商品自体は認知されていると思いますが、企業としての未来ビジョンまで理解・共感していただくまでには至っていないのかなと。その課題を、D2Cで解決したいと考えました。

妻夫木氏:オリオンビールでも、商品が売れてお客様にご愛飲いただいていても、直接コミュニケーションを取れないが故に「何が評価され、どこが好きで買ってくれているのか?」が分かりにくい課題を抱えていました。

D2Cの強みはお客様との接触頻度を増やすことができ、直接コミュニケーションを取れる点です。オリオンビールは沖縄に来れば容易に入手できますが、EC顧客の97%は県外です。商品について知ってはいるけれど、県外ではなかなか買えないビールを、いかに直接届け、広げていき、コミュニケーションまで展開していくか。その役割を、D2Cに見出したんです。

長谷川氏:私たちも同じ課題を抱えていました。ファンケルグループでは40年来、通販、店舗、流通と自社で一貫して手がけ事業を拡大させてきましたが、一口に通販と言っても大手ECモールにも出店するなど、旧来のメーカー直販の仕組みが通用しなくなってきました。それに伴って、お客様とのコミュニケーションも変化しつつあり、私たちも変化しなければならない課題を感じていました。しかし組織が大きくなると動きづらい点もあり、スモールスタートという意味合いで子会社を立ち上げたんです。

また、ファンケルブランドは「無添加化粧品」であり、肌にストレスを与えないことが一番良いというコンセプトです。しかし長年の当社の研究成果から、一部ポジティブなストレスを肌に与えると良い変化があることも分かってきました。その発想に基づく商品を無添加化粧品のラインに入れるのは厳しい。だから新ブランド・新会社を立ち上げたという背景もあります。

D2Cの強みは、立ち上げ時期からアーリーアダプターと直接つながりを持つことができ、「私のブランド」と自分ごと化してもらいやすい点です。お客様を大事にしながらブランドの磨き込みを進めていくことができる。そのためには日々、クイックに変化に対応していくことが重要です。

ー西井氏:モノや情報が溢れている今の時代、機能的差別化や味の違いを打ち出すだけでは、なかなか手にとってもらえませんよね。そこで、お客様といかにつながって、理念を打ち出し、そこに共感してもらうかという取り組みが非常に重要ですね。

母体のアセットを活かしながら、新たな視点を持つ

-西井氏:親会社との関係性や、コンセプト作りの部分について詳しく聞かせていただけますか?

妻夫木氏:ビールを売ることは勿論ですが、その先にある「沖縄を感じられる時間」の提供をコンセプトにしています。これは、お客様の声を反映した結果です。

最近人気が高かったのは…「オリオンビール+年越し沖縄そば」のセット商品。これが凄く売れました。それから、家飲みグッズ。ECサイトをオープンするやいなや、一番最初に品切れを起こしたのが「Orion」のロゴ入り提灯だったんです。ユーザーレビューで「家に飾って沖縄風居酒屋の雰囲気を楽しんでいる」という声も寄せられました。

つまり、我々はビールを売っていると言うよりは、「沖縄っぽい空間を家飲みで楽しめるところ」「気分が上がるところ」を評価してもらっているんです。そこからヒントを得て、家飲みグッズの充実化を図り、琉球ガラス工房とのコラボで新たなグッズ開発を進めたり…ビールだけでなく、その周辺グッズも充実させています。

沖縄旅行を想起させるアイコン的に見てくださっているのだと思います。だから沖縄らしさを形にして、その周辺の価値・コトを一緒に売っていこう、という答えに辿り着きました。

-西井氏:まさに「コト消費」の典型例で素晴らしいですね。オリオンビールさんが沖縄の中でカルチャーを創っていて、それを他の場所に居ながらも体感できるからこその成果ですね。うまくD2Cとして展開されていて、お客様と一緒に価値を創り上げている好事例だと感じました。

長谷川氏:ファンケルグループでは研究・生産・物流・カスタマーサポートと一貫して自社で取り組んでいますが、ネオエフには従業員が3名しか在籍しておらず、3人では全部は無理、ということで、親会社が持っている仕組みを最大限活用する策を考えました。

グループ最大の強みは研究・生産であり、長年の研究データに基づいた開発も展開できます。また、全社的に見た生産・調整のしやすさ、そして徹底した品質管理も可能です。物流・カスタマーサポートについてはサードパーティーの活用も検討しましたが、自社で取り組むほうがスムーズだと判断し、いかに母体の開発部門をアセットとして活かすか、をまずは考えました。

妻夫木氏:オリオンも、先達が創り上げてきたブランドアセットを大いに活用しています。

西村氏:ミツカンも歴史が長いので、その研究成果・技術を活用しています。

「ZENB」のブランドコンセプト「人や環境への負荷が少なく、『おいしい』と『カラダにいい』をどちらも叶えるウェルビーイングな新しい食生活を提案する」は、SDGsやサステナブルが流行ってきたから始めた訳ではなく、もう少し前から構想として温めていました。

もともと、ミツカン自体がスローガンとして「やがて、いのちにかわるもの」と掲げており、人の健康や環境に配慮していきたいという思いがありました。酢や納豆といった食品は、体に良いのは分かるけど、味で敬遠する人もいます。

そこで、ZENBは「おいしい」と「カラダにいい」の両立をコンセプトに据えました。モノではなく、コトを売る。つまり「食生活を楽しくしよう」「小さな幸せを生活の中で見つけていこう」と、お客様の生活に寄り添う世界観でコミュニケーションを展開しています。

具体的には、2週間に1回程度のペースで、消費者から話を聞きます。インタビューで食生活に関する意識を聞き、トレンドを押さえる。あるいは、不安や困りごとを聞く。

新商品発売前の試食モニター施策などを投入できるのも、D2Cの強みです。売る前に商品を試してもらって、声を集めます。お客さんも一緒に商品づくりに参加することで、ブランド関与度の高い“濃いお客さん”を作れる点もD2Cのメリットです。その他、既存顧客や離脱顧客に対してはWEBアンケートも実施しています。

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大手EC・D2Cが導入するUGC運用ソリューションLetro(レトロ)とは?

-西井氏:マス向けの市場調査というのは昔からありますが、マスではなく、既存顧客や離脱顧客に深堀りしているからこそ、コンセプトの磨き込みに寄与しているんでしょうね。

コンセプトは、各社で従来商品に関しても一つ一つあったのではないでしょうか?しかし、D2C立ち上げに際して皆さん改めて注力されています。その背景にある視点は?

西村氏:商品レベルでは確かに今までもありました。そこからさらに一歩引いて「いかにお客さんに使ってもらうか」「よりハッピーになれるか」を生活者視点で深堀りしている視点が、従来とは異なります。

妻夫木氏:1つ1つの商品コンセプトは昔から築き上げられてきたもの、ただし、視点の違いが大きい、というのは当社でも同様です。「沖縄時間を提供する」…裏を返せば、沖縄ファンの生活から見た「沖縄らしさ、沖縄らしい気持ちよさ」ってどういうことだろう?を掘り下げているんです。

長谷川氏:ネオエフの製品は、コンセプトをかなり尖らせてニッチなところに攻め入っています。今までの肌研究の中で出た成果を基に商品作りをして、成分にこだわったブランドとして売っていくラインです。お客様にとっては、まるで理科の実験のように、使用前にエッセンスとパウダーを10日分ごとに混ぜて使っていただく製品であり、ちょっと変わった新たなスキンケア体験をしてもらえるよう、商品づくりを進めていきました。

ブランド立ち上げ時のお客様との接点づくり

-西井氏:「お客様との接点づくりを重視」という話が出ました。ブランド立ち上げ時の接点づくりは、どう工夫しましたか?

長谷川氏:ネオエフでは、Instagram運用に尽力しました。ブランドコンセプトに共感してくれるモデル・料理家など3名のスペシャリストを登用、その人達とブランドを創っていくことを打ち出してまずはフォロワー獲得を進め、3ヶ月で1600フォロワー数を達成しました。1000フォロワーを超えるまでが大変でしたが、ブランドに共感してくれる人の助けを借り、そのつながりを活かした「つながりマーケティング」を実施しました。

妻夫木氏:当社でも、集客は最初の壁でした。ブランドの資産はフル活用しつつあらゆる施策に取り組みました。費用対効果を見ながらWeb広告も投入し、そして沖縄県内でリアル接点を作る工夫もしました。観光客が来そうなスポットにチラシを置くなど、足で稼ぐスタイルです。小さくても、とにかく多くの打ち手を繰り出すことが大事です。

西村氏:サイトを立ち上げただけではお客さんは来ませんから、最初は腐心しました。ブランドの思想をどうやって伝えていくか…著名なシェフ、料理研究科などにインタビューをして話題作りや、外食店で使ってもらったり、とにかく認知獲得を目指して広告も打ちました。そこから、次第にインスタグラマーに取り上げられたり、ユーチューバー、芸能人に取り上げられて、成長してきました。

「これはうまくいった!」成功施策

-西井氏:「これはうまくいった!」という成功施策を聞かせてください。

妻夫木氏:成功事例の共通項としては「お客様と共有できている思い・話題を起点に作ったもの」ですね。

例えば、「沖縄の社会課題×商品」。3年前、首里城が火災で消失してしまいました。その年にオリオンビールは再建支援のデザイン缶ビールを発売しました。復興支援をしたい沖縄ファンも多く、ECサイトで通常商品の7倍の売り上げを記録して、数字を見て我々も嬉しかったですね。課題を共有できている場合に商品を手に取ってもらえて、SNSでも熱心に発信してくれると実感しました。

2つ目の成功事例としてコロナ禍のアウトドアブームを受け、アウトドアブランドCHUMSと限定コラボグッズを発売しました。「夏場にアウトドアでビールを楽しもう」という提案が時代の雰囲気とも相性が良く、大きな反響がありわずか数分で完売しました。これも、お客様と気持ちを共有できたからこそ成功した事例だと言えます。

3つ目の成功事例は、サブスクのLPでUGCを大いに活用したことです。オリオンビールを楽しまれているお客様自身の言葉で魅力を語っていただく。お客様の声を数多く掲載したことで、CVR4.2倍を達成しました。

▼オリオンビールのUGC活用事例はこちら
【新規獲得LPのCVRが4.2倍に向上】オリオンビールのUGC活用事例

-西井氏:お客様に発信してもらうと、モノがコト化して共感が生まれ、売上にもつながるんでしょうね。

西村氏:当社でも、広告・LP施策の勝ちパターンは「消費者を巻き込むこと」です。アンケートでニーズを質問した上でモニターセットを紹介するスキームです。その後に遷移する本LPでは、利用者の声、Instagram投稿のコンテンツ訴求はマストです。消費者がZENBを食べているリアルな食卓を見せ、「これなら自分もやってみようかな」と自分ごと化させる取り組みが成功パターンだと言えます。

オリオンさんの話とも通じますが、お客さんから生まれたコンテンツは、やはり強いです。以前は当社側で作ったコピーやレシピを推してきましたが、去年の春に「自分だけの卵かけヌードル」投稿キャンペーンを展開し、上位入賞コンテンツをFacebook・Instagramの広告クリエイティブに採用しました。プロが撮影したような料理写真ではなくても、リアル感があって、フィードに馴染みます。すると「自分もトライできそう」と支持・共感を集めクリック率がアップし、CTR121%という好成績を収めました。

-西井氏:開発側が商品のアップデートをせずとも、「お客様の手元で調理してもらうことで、一人ひとりそれぞれにとってのZENBヌードルがある」と伝えられているナラティブな演出ですね。

また、母体が長く事業を展開していて組織が大きい場合、既存のマーケ基準を踏襲しているとPDCAを回しづらい、動きづらいなどもあるかと思います。その点はいかがですか?

西村氏:ZENBでは、母体に比べ遥かに速いスピードでPDCAを回しています。コンパクトな陣営で、意思決定もスピーディーです。製造や会計は母体の仕組みを使っているため、スタートアップよりやや動きが遅いかもしれませんが、そこは致し方ないと捉えています。

長谷川氏:大手企業で新規事業のミッションを担って苦労している人も多いのではと思い、当社のインフラ整備の裏話もお伝えします。

グループ全体の既存システムの改修だけは「やらない」と決めて進めました。スピーディーに事業化したいのに、事業規模に見合わない投資になると判断したためです。

ECのカートシステムは外部のものを導入しました。その選定に向けて、ファンケルグループとして絶対に譲れない点を洗い出しました。具体的には、「セキュリティ面」「親会社の会計システムと連携ができること」「システムのサポート体制」を重視しました。

母体が大きいが故に、動きにくさを感じる場面もありますが…しかし、なぜ我々が子会社で、コンパクトな陣営として存在しているのか?と考えたときに、さまざまなことを小さくトライして母体にフィードバックできる意義があります。たとえ新しい挑戦で失敗したとしても、傷は浅い。母体と共有することでラーニングになります。つまり、我々はスピード感重視で進んでいくこともミッションなんです。

D2Cブランド立ち上げ・成長に重要な視点

-西井氏:それでは最後の質問として、D2Cブランドの立ち上げ・成長において大切に思っていることを聞かせてください。

妻夫木氏:「自分自身がユーザーであり続ける、ユーザー目線をいかに失わないか」です。D2Cとは企業の姿勢が顧客側から可視化されやすいビジネスモデルです。真剣さに欠けていては「お里が知れる」ということにもなりかねません。沖縄、そしてオリオンビールが好き、あるいは、ビールで寛ぐ時間とどう向き合うか。自分自身が一人のユーザーとして突き詰めることが大事だと考え、日々、実践しています。

長谷川氏:ブランド立ち上げから一番大事にしてきたことは「瞬発力」です。仕事をスマートに進めることよりも、とにかく目の前にある課題や意思決定をいかに素早く打ち返すかに注力し、とことんコミットすることが最重要だと考えています。

西村氏:企業側から「美味しいですよ」という一方的な訴求ではなく、お客さんと共に伸びて、創り上げて、発信していく。寄り添う姿勢が大事です。

-西井氏:三者三様それぞれに、母体は異なる業界ですが、根底にあるものは「ユーザー視点」「共創」「スピード感」など共通していますね。改めて3名のみなさん、ありがとうございました。

この記事の著者

景山 真理

フリーランスのライター。EC店舗、タウン情報誌制作会社、マーケティング支援企業などへの勤務経験を経て、Webメディア・紙媒体で活動しています。専門領域はデジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、ECのセールスメルマガ、デジタルトランスフォーメーション。
Website:Mari Kageyama Writing Works