企業に蓄積されたデータを、どう使うか。多くの企業が、実はまだその手前で足踏みしているのではないでしょうか。データウェアハウスや、顧客データを一元管理するカスタマーデータプラットフォーム(CDP)を導入し、社内のデータ環境は着実に整ってきました。
しかし「使えている」という言葉の中身をのぞくと、実態はビジネスインテリジェンス(BI)ツールで可視化して内部把握するだけにとどまっているケースが少なくありません。売上や施策に直接つながるインフラとしてデータを使いこなせているブランドは、まだ一部にとどまっています。
そんな中、トレジャーデータ株式会社(以下 Treasure AI)とアライドアーキテクツ株式会社は、企業のデータ活用を「現場の改善」から「経営の成長判断」へ引き上げるための業務連携を開始しました。Treasure AIが提供する顧客データプラットフォーム(CDP)内のファーストパーティーデータやTreasure AI Voiceが拾う商談・店頭の生声と、アライドアーキテクツのKaname.axⓇが構造化する市場全体の声「VOC」を掛け合わせ、これまで一部の経営者の”才覚”に頼っていた適切な経営・事業判断を、データドリブンな意思決定として再現可能にする試みです。
今回は、トレジャーデータ株式会社 執行役員 / Head of Account Managementの大久保有平氏と、アライドアーキテクツ株式会社 取締役社長の村岡弥真人が対談し、「データはある。でも使えていない」という多くの企業に共通する課題から、両社が手を組む理由まで語っていただきました。
データを溜めた先の「使えている」という誤認の正体
——業種を問わず、企業のデータ活用の現場でよく見かける「思い込み」にはどんなものがありますか。大久保氏:
よくある思い込みは、「データを整備できていれば、使えている」と捉えてしまうことです。
日本企業のデータ活用は、3つの段階を経て進んできました。まず企業に散在するデータを整備する段階、次にお客様データの粒度を高める段階、そして外部のデータも取り込んで拡充していく段階です。データが一元化されると、次はそれをどう活用するかが課題になり、あらゆるデータを一箇所に集約して保管するデータウェアハウスのニーズが生まれました。
ところが、目的を決めないまま収集するだけの企業も多く、結果として「これは何のために収集しているんだっけ」と迷走してしまうケースが目立ちます。
データウェアハウスから抜き出してビジネスインテリジェンス(BI)ツールで分析する——これも一定「使えている」の定義には入りますが、本当の意味での利活用かというと、トップライン成長や施策への貢献という観点では違います。
データを民主化し、インフラとして根付かせることで施策に紐づき、売上に寄与する——ここまでいって初めて「使えている」と言えるのだと思っています。実際、データ活用の投資対効果(ROI)を十分に実感いただけないケースを振り返ると、データを貯めてBIで分析するだけで止まっているという傾向が見えてきます。
——そうした「データはあるが使えていない」状況に、実際にはどこで足踏みしてしまうのでしょうか。村岡:
一番の足踏みポイントは、データとビジネスをつなぐ人材の不足です。マーケティングベンダーの立場から見ていても、まさにそういう場面をよく見かけます。
経営者の方が掲げるデータのビジネス活用ビジョンと、実際にデータを扱う部門の方が見てる世界には、大きなギャップが存在します。
データを構造化したり顧客データプラットフォーム(CDP)を構築したりする専門性と、それをビジネス化していく専門性は、そもそも別の領域なんですよね。経営者やビジネスサイドの方にはデータ構造等の知識が無いことが多く、データ部門の方には経営やビジネス感覚が不足しがちになることが多い。双方を接続する人材が不在するせいで、データはリッチにあるのに、マーケティング部門から見ると「実務には使えないデータベース」と距離を置いてみられてしまう、という状況が起きています。
大久保氏:
そのパターン、本当に多いです。これまで私たちが対話させていただくお相手は情報システム部門の方々が中心でした。テーマは「データをいかに箱の中に整えるか」というものです。それが今はビジネスユーザー側、マーケティングや経営企画、営業企画の方々へと、大きくシフトしています。
ただ、その接続人材が企業の中にいれば一番いいのですが、実際にはなかなかいません。情報システム部門とマーケティング部門は、そもそも会話の前提となる言葉や重視するものが違うんですよね。同じ言葉で話しているようで、実は噛み合っていないケースも少なく有りません。これは目指す方向性は同じでも、見ている視点が違うためです。
だからこそ、市場の声(外部データ)からビジネスインサイトを導き出すアライドアーキテクツさんと、自社データ(内部データ)を統合し、AIを用いて顧客体験の向上からビジネスの実行までを強固なテクノロジー基盤で支える私たちが組む意味があるのだと思っています。
経営と現場をつなぐ「接続人材」不在という壁
——先ほどお話いただいた「接続人材の不在」について、この壁を越えるために必要な考え方はありますか。村岡:
重要なのは、ゴールから逆算する考え方——いわゆるバックキャスト思考です。何をやるのか、何の目的のために何をしたいのか、ここを先に明確にすることが先決です。それがデータで解決できるかどうかは、一旦置いておいていい。
ビジネス目標に対して何をすべきかの解像度を上げて初めて、その実現のためにデータで何ができるか、そのために必要なデータが今の環境の中にあるかどうかが見えてきます。この逆算の順番でやらないと、どこかで話がおかしな方向に進んでしまうんです。
——そうしたつまずきは、AIを導入する企業でも起きているのでしょうか。大久保氏:
実は、AIの機能を導入されたお客様のうち、8割ほどの作業が「データ整備」なんです。データリテラシーが高く、既にデータをうまく使いこなしている企業であっても、AIを使うとなった際に最初に着手するのはデータ整備でした。
AIを基準に考えたとき、これまで「綺麗に整っている」とされていたデータの定義が、必ずしも当てはまるとは限りません。AIで何を実現したいのかというゴールから逆引きして、データがどうあるべきかを再定義する必要がある、ということなんです。
——それはまさに、村岡が述べていた「接続人材の不在」が招いている状態、ということでしょうか。大久保氏:
そうです。目的から逆算せずに導入だけを進めてしまうと、結局そこに立ち返ってデータ整備からやり直すことになるんです。目的を明確にしないまま進めると、どんな情報を、どこまでの機密性・重要度で扱うべきかの判断がつかなくなりますし、データの利活用そのものの議論も前に進まないんです。
現場の”生声”をファクトデータにする——Treasure AI Voice
——ここまでは社内データの話でしたが、Treasure AIとはどのようなサービスなのでしょうか。大久保氏:
Treasure AIの成り立ちをお話しするには、少し私たちの進化の背景をご説明させてください。もともと、Treasure Dataはクラウド型のデータウェアハウス(DWH)としてスタートしました。当時は、データを抽出・分析するのにSQLなどのコーディングの知識が必要で、データサイエンティストや情報システム部門の方など、専門知識を持つ方々を中心に活用頂いていました。しかし、私たちが掲げる「データの民主化」をさらに推し進め、ビジネスユーザーが日常的にデータを活用できる環境を作るためには、次のステップに進む必要がありました。
そこで、専門知識がなくても画面上の操作だけでセグメントデータを抽出できる、直感的な操作画面(GUI)を持つ機能をリリースし、CDPというカテゴリーにシフトしました。これによって、これまで扱えなかったビジネスユーザーの多くがデータに触れられるようになりました。しかし、さらに施策ドリブンに使ってもらうには、もっとユーザーフレンドリーな形が必要だと考え、AI Agent Foundry というサービスをローンチしました。一言で言えば、「対話型のAIエージェントが、データの抽出から分析、さらには施策の提案・実行までをサポートしてくれるサービス」です。ユーザーは専門知識がなくても、「この条件に合う顧客リストを出して」とAIに指示するだけで、欲しい情報を瞬時に引き出し、アクションに繋げることができます。その提供開始に伴い「Treasure AI」にリブランディングを行いました。
——そこから実際にサービスとして活用が進む中で、どのような変化が生まれているのでしょうか。大久保氏:
これまで私たちが扱ってきたのは、自社で取得できるファーストパーティーデータや、ウェブ上の行動データが中心でした。ただ、そこには一つだけ欠けているピースがありました。それがオフラインのデータ、つまり「現場のファクトデータ」です。
そこで、営業や店頭など、デジタル上では取得できない会話の情報を保管できるソースを作ろう、という流れの中で生まれたのが、対面の会話をAIで記録・分析するTreasure AI Voiceです。
実際、店頭の接客現場で言うと、スタッフが日々の接客内容をテキストで報告する際、お客様のちょっとした本音や会話の熱量といった、定型フォーマットでは表現しきれない重要なニュアンスが、どうしても削ぎ落とされてしまうことが多いんです。実際に接客の会話を録音して文字起こしをし、AIで要約したものをシステムに流し込むだけでも、現場の報告業務の負荷が格段に下がりますし、何よりそうした「ニュアンスを含んだ生の声」をそのままファクトとして正しく把握できるようになる、というのが大きな変化です。
村岡:
それはアンケートなど、オフラインで扱うVOC(顧客の声)データにも通じる話だと感じます。アンケートだとどうしても身構えた回答が集まりがちですが、現場の生声はその瞬間の、飾らない声になりますよね。
大久保氏:
まさにそうなんです。接客報告やアンケートの声は、意志を持って整えられたものです。一方で、既に存在する生の声をフラットに録音する、という点に、これまでとの違いがあると思っています。
What(何が起きたか)は見えてきた。企業がぶつかるのはWhy(なぜそうなったか)
——現場の生声を蓄積できるようになった先で、お客様は次にどのようなことに困られるのでしょうか。大久保氏:
データが溜まってきても、「What(何が起きたか)」は分かるようになる一方で、「Why(なぜそうなったか)」が分からない、という壁にぶつかるケースが多いです。行動や発言のログは追えても、その裏にある意図や背景までは見えてこない、ということですね。これはまだ発展途上の領域で、現場の会話を録音して文字起こしをし、データ化されたものをAIでどう活用すればいいのか、そのアウトプットのイメージが湧いていないまま、とりあえず録音してみている、というフェーズの企業も少なくありません。
村岡:
弊社が扱うVOC(顧客の声)データの領域でも、同じ壁があります。市場の声を集めても、それをひとつひとつ単体で見ていくだけでは、情報としては薄いんです。私たちの場合は、SNS上の声をAIで「状況的な便益」と「体験的な便益」に分類し、前後の文脈まで含めて読み解いていくアプローチを取っています。ただ、それだけをやっても、結局は市場全体の空気感を把握するだけで終わってしまう。
大久保氏:
まさにそこですよね。
村岡:
本当に大切なのは、その市場の声と、自社のお客様との接点をどう繋ぐかということです。自社の購買データや会員データといった内側の情報だけを見ていても、自社顧客の理解は深まりますが、それが市場全体の需要やニーズをどの程度満たしているのか?市場にはまだ伸び代はあるのか?など、経営の意思決定に重要な示唆を得ることができないことがあります。
私たちアライドアーキテクツは市場側の声の解像度が高い強みがある一方、Treasure AIさんのように自社データの解像度をあげることが難しい弱みもありました。自社データは「自社のお客様がどう動いたか」を、市場の声は「世の中がどう捉えているか」を映す、それぞれ役割の違う鏡のようなものです。そこを補う視点がないと、結局はデータをどう解釈するかが属人的になってしまい、経験値や才覚のある人間がいる会社だけが成長する、という話になってしまうんです。
自社データ(内)×市場VOC(外)の統合が、”才覚”の再現性を生む
——「経験値や才覚のある人間がいる会社だけが成長する」というお話がありましたが、その”才覚”に頼らずに成長を再現していくには、何が必要なのでしょうか。村岡:
そのヒントは、経営者やCMOの方々からよく伺う「お客様一人(N1)の声にピンと来て、それを商品開発に活かした」というエピソードにあると思っています。最初は単純にひらめきなのかなと思っていたのですが、いろんな方のお話を伺っていくと、実は共通点があることに気づきました。
そういう方々は、実は店頭に立って接客していたり、圧倒的な数の外部の声に触れていたりします。そのうえで、自社のお客様がどう動いているかというデータも見えている。市場の状況と自社の状況、両方を突き合わせた上で「ここに痛みがある」「こういう幸福を求めている」と理解できているからこそ、その中で光る一つの声(N1)を見つけられる。つまり、外側(市場)の声と内側(自社)のデータ、両方を掛け合わせて見ているというのが、”才覚”の正体だと感じています。それが属人的な感覚ではなく仕組みとして再現できれば、”才覚”のある人がいない会社でも同じ景色に近づけるはずなんです。
——その掛け合わせを、属人的な感覚ではなく、仕組みとして再現するのが今回の業務連携ということでしょうか。大久保氏:
まさにそうだと思います。これまでは自社のデータ環境にある顧客データをきちんと分析して自らを知りましょう、という文脈でデータ活用を促してきましたが、それだけでは頭打ちになってきています。もっと広い視野を持つには、外部のデータやインサイトをどう得るか、という議論が必要になってくるんです。
村岡:
今までのファーストパーティーデータの多くは「結果」の記録です。次に必要になる「因果」——なぜそういう行動を取ったのか、というインサイトの部分は、これまで経験則に頼らざるを得なかった領域でした。AIを使えば、どんな行動がどんな結果につながるかは見えてきますが、多様化が進む時代において、行動データの把握だけでは限界があります。
村岡:
ポイントは、内側(自社データ)と外側(市場データ)、それぞれの中にも”精度の階層”があるということだと思っていて。
外側で言うと、一番外にあるのが、SNS上で自発的に発信されている声——私たちがKaname.axⓇで扱っている領域です。市場全体のマクロ感を捉えることができますが、ひとつひとつの声の質は高くないことがあります。
その内側にあるのが、アンケートのような、意図を持って設計された調査データです。自然発生しているSNSの声よりも具体的で解像度を上げることができますが、自然発生ではなく、一定の意図を持って設計されているという特徴があります。
一方、内側(自社データ)で言うと、購買履歴やウェブ上の行動ログといったCDPのデータは「結果」を教えてくれますが、「なぜそう動いたか」までは教えてくれません。そこに一番近いところにあるのが、商談や店頭で交わされる生の会話、つまり音声データです。Treasure AI Voiceが拾っているのは、まさに自社データの中でも最も生々しい部分だと思うんです。
大久保氏:
まさにそうですね。
村岡:
ただ、音声はあくまで対面の場に限られるので、得られる情報の範囲はどうしても狭い。半径何メートルという世界の話なので、それだけでは確証にならないんです。
だからこそ、外側の頂点にあるVOCと、内側の頂点にある音声データ、この2つを掛け合わせることで、信憑性は格段に上がると考えています。実際、私たちのVOCだけでは、コールセンターや店頭接客、商談の場といった、お客様に一番近いところの声がどうしても抜け落ちてしまいます。そこをTreasure AI Voiceが埋めてくれることで、初めて市場の声と現場の声がひとつにつながる感覚があります。
現場改善から、OMO・ローカルストアでの「市場共創」へ
——ここまでのお話を踏まえて、今後、こうしたデータ活用はどのような世界観に向かっていくとお考えですか。大久保氏:
私たちが目指しているのは、コールセンターでのやり取りや店頭接客、さらには社内会議まで、あらゆる現場の声をファクトデータとしてつなげていく世界観です。そこから浮かび上がる本質的なニーズや課題をAIに要約・抽出させ、それを最終的に人が評価していく——こうした流れが実現できれば、店舗ごとの横展開もやりやすくなります。
例えば、全国展開しているブランドで、ある店舗でのディスプレイ演出が好調だったとします。その周辺の顧客属性が似ている別の店舗で同じ演出を試したところ、同じように売れた——という事例がありました。店舗ごとにどんな人が来て、どんな会話がなされているかが見えて初めて、こうした横展開ができるようになります。
これまで各社、オンラインとオフラインの融合(OMO)に挑戦してきましたが、うまくいっているケースはまだ多くありません。理由はシンプルで、現場でどんな人が来て、どんな会話が交わされ、どんな接客がされたのか、という生の情報が分からないからです。逆に言えば、そこさえ埋められれば、OMOは次のフェーズに進めると思っています。
——最後に、この業務連携を通じて、今後どのような景色を描いていきたいとお考えですか。村岡:
一人の”才覚”に頼らなくても、組織が再現性を持って事業成長に臨める会社を増やしていきたい。それが、今回Treasure AIさんと業務連携をする一番の理由です。
現場の改善で終わらせず、経営の成長判断にまで届くデータ活用を、私たちだけでも、Treasure AIさんだけでもなく、2社だからこそ形にしていきたいと思っています。
大久保氏:
売上を上げる、解約を防ぐ、というのはもう当たり前にやらなきゃいけないことだと思っています。
その先で私たちが踏み込みたいのは、ビジネス全体を一緒にデザインするという観点です。そのデータから炙り出される情報に基づいて、市場を作っていく。ここに、アライドさんとの業務連携の大きな意味があると思っています。
