こんにちは、SMMLab研究員の小川です。
このブログでも過去2回にわたりご紹介した、アライドアーキテクツ株式会社主催「ソーシャルメディアマーケティングラボセミナー」が先日9月8日(木)に開催されました。
当日は、『ザッポス伝説』監訳・訳者である本荘修二氏をゲストに迎え、「ザッポス流超顧客主義 逆転発想経営とは」というテーマでお話しいただきました。また、第二部では、ソーシャルメディアマーケティングに積極的に取り組む企業の担当者である、ハウスウェルネスフーズ株式会社丸山氏、株式会社くもん出版小山氏を迎えて、本荘氏とのパネルディスカッションを行いました。
今回は、ソーシャル時代の企業活動における基本姿勢を問いなおす「本質」的な内容がご好評をいただいた、このセミナーのレポートをお届けします。
■ザッポス伝説の、はじまり、はじまり……
ザッポスとは、1999年に創業、2009年度の売上が10億ドルに達した、全米No.1のオンライン靴店です。たった10年の間に、何が起こったのか?今回のセミナーでは、CEOトニー・シェイの自伝的著書「ザッポス伝説」から、成功の秘密として以下の4点をご紹介しました。
・顧客がファンになるサービス
・ソーシャルウェブ活用
・カルチャー経営
・生き方(ポジティブ心理学)
■ザッポスの「サービス」は徹底した顧客満足の追及
ザッポスの特徴といえば、その徹底した“超顧客主義”とも言われるサービスの数々。それを象徴するエピソードがいくつか紹介されました。
・フリーダイヤルをサイトの各所に掲載、顧客の商品選びに最長7時間半付き合うことも
時間ばかりがかかり、非効率的とさえ言われがちな、カスタマーコールセンター。ところが、ザッポスはこのコールセンターをとても大切なものと考えており、サイトの各所にそのフリーダイヤルを掲載しているとのことです。おそらく、ほとんどのコールセンターでは「平均処理時間」を基準にオペレーターの業績を評価しているでしょう。でも、ザッポスからすれば、それは「オペレーターとはどれだけ早く顧客の電話を切れるかを気にすることになり、素晴らしいカスタマーサービスを提供しているようには思えない」といいます。また、電話口でセールスするようなこともありませんし、マニュアル原稿もありません。大切にしているのは、「顧客との個人的な気持ちのつながり」であり、顧客の商品選びに、最長7時間半付き合うこともあるそうです。
・在庫効率やリスク、配送効率やコスト増をいとわず、顧客にとってのベストを尽くす
通常、企業は在庫効率や配送効率をできるだけ高め、無駄のないように商品を動かそうとするでしょう(それにより、時には顧客への納品を遅らせることもあるかもしれません)。ところが、ザッポスでは、商品の標準届け日数は4~5日のところ、ロイヤリティの高い顧客には、翌日配達に無料でグレードアップして「ワオ!」と驚かせるのだとか。
■顧客自身がリアルで体験したことを、ソーシャルメディアを通じて拡散してくれる WOW(感嘆)は、WOM(クチコミ)を喚起する
ものやサービスがあふれる今、「普通の感動」では通用しなくなっています。ところが、上記でご紹介したような「想像を超える感動(WOW!)」であった場合、その感動は発達したソーシャルネットワークを通じて拡大再生産されていきます。さらに、この感動が継続されると、企業と個人の間にエモーショナルコネクションが醸成され、顧客群がファン化していくのです。
ザッポスは、ソーシャルネットワークが発達したアメリカという社会において、その「プラスのサイクル」を、上手に活用した企業といえます。
さらに、これからのソーシャル時代を考える上では、「以下の5つがキーワードである」と本荘氏は言います。
・効率化→付加価値追求
・価格競争→顧客体験の向上
・毎回儲ける→顧客生涯価値の追求
・P/L(短期損益)→B/S(顧客・ブランド資産)
・自分が売る→ファンが顧客を創造
ここまでがセミナーの前半です。
ここから、セミナーの議論は、これからの企業のあり方について、より本質を追求するものとなっていきます。
■どんなに経歴がすばらしく能力が高くても「コア・バリュー」にそぐわない人は採用しない。
では、ザッポスはマニュアルもなく、どうやって「WOW!」を生み出し続けているのか?それは、ザッポスの採用姿勢から見て取ることができます。
ザッポスでは、どんなに経歴が素晴らしく、能力が高く、すぐに短期的な利益を作ることが出来る人であっても、「コア・バリュー」にそぐわない人材は決して雇いません。(ザッポスの「コア・バリュー」についてはこちらからご覧いただけます)オフィスの外でも付き合いたい人を確実に採用していきたい、というポリシーです。
こちらは、ザッポスが作成した企業紹介のビデオ(すべて自作とのこと!)です。何とも楽しそうな職場ですね!
■企業文化、それこそが「ブランド」
いかがでしょうか?上記のビデオを見てもわかるとおり、ザッポスの社員自身がザッポスを最も愛している人であり、ザッポスへの愛が「WOW!」を常に生み出す企業文化へとつながっていくのです。
そして、今やこの「WOW!」こそが「企業文化」であり、ザッポスの「ブランド」となっています。
最近、ゴルフの石川遼選手のプレーなどでもよく「ゾーンに入った」という言葉が使われますが、ザッポスは社員の気持ちが「ゾーン」の状態にまで高まっているため、自然と最大限のパフォーマンスをすることができているとも言えるでしょう。
社員・顧客・取引先、関係者、そして世界にハピネスを。
あなたの会社、及びあなた自身への学びや刺激はありましたか?
以上が本荘修二氏による講演内容です。なお、この講演の様子はUSTREAMからご覧いただけます。ぜひご覧ください(25分ころから講演が始まります!)。
Stream videos at Ustream
■本荘修二氏プロフィール
セミナーでは引き続いて、企業担当者をゲストに迎え、パネルディスカッションを行いました。その中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。
■ゲストスピーカー
■利益追求の観点からは一見「ムダ」であり、ROIとしての効果は見込めないのでは?と思った施策が、「顧客満足」を追求する過程においては、長期的に大きな実りとなったという例はありますか?
小山氏:百貨店で開催している「くもんのおもちゃの体験会」などは、当日の売り上げだけを見ると、割が合わない。しかし、そこでお客様が体験される思い出は“深さ”が違う。保護者の方はお子さんが「出来た」瞬間を見るのが大好き。目の前で活き活きと目を輝かせてパズルを完成させるお子さんの姿を見て、周りでご覧になっていた他のお母様も感激してくれる。そしてわが子を重ね合わせた姿を思い浮かべて、後日お買い上げいただくことが多い。こうした“深い”体験をなんとかしてWEBで再現できないものかと思い、ソーシャルメディアに取り組んでいる。
■とはいえ、やはり経営者の立場としては、ROIやKGI、KPIという指標でソーシャルメディアを測ろうとすることが多いのではないでしょうか?
本荘氏:ザッポスはNPS(顧客が他人に薦めたくなるか)のような「質」にこだわっており、それについてはかなり指標設定していて、実は計測しまくっているんですよ(笑)。だから、日本企業は指標調査を少し誤った形で取り入れてしまっているようでとても残念。ダッシュボード経営はある意味「楽」だから、ひいては経営の怠慢に繋がってしまう恐れもある。
■ソーシャルメディアで顧客と直接コミュニケーションをとるにあたり、「炎上」は怖くないですか?
丸山氏:怖いと思ったことはない。なぜ「炎上」が起こるか、その理由はたった一つで、何かしらお客様を「騙す」ことがあったのだと思う。
自分の商品やサービスを良いものと見せすぎており、実際にはその期待に応えられなくて、がっかりさせてしまうからこそ炎上につながるのではないだろうか。あくまでも正直に伝えていけば、それはきっとお客様の心に届いていく。そして大切なのは、伝える本人(企業のマーケティング担当者)が、その商品やサービス、ブランドを愛していること。自分の会社のブランドが大好きで、それを伝えたい、という気持ちが根本にあるからこそ、お客様に届いていくもの。逆に、自分があまり気に入っていないものを、人に本気でお勧めすることができるのか。そしてそれが人の心に届いていくのだろうか?
本荘氏:やはり最後は「愛」だよね(笑)
お話を聞いていて印象的だったのは、現場でご活躍のお二人はソーシャルメディアだけを取り出して考えているのではないということ。リアルでのお客様との関係や体験、感動をいかにネット上に取り入れて、その「長さ」と「深さ」を増幅させていくか…お客様と真摯に向き合うという姿勢は、ソーシャルメディアマーケティングに限った事ではないという基本に気付かされました。「ソーシャル」は今に始まったことではない。その取り組みが広がる仕組みが進化しただけ。そう考えなおすと見えてくるものがあるのではないでしょうか?
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