昨今、国内外で注目される新たなビジネスモデル「D2C」。日本国内にも、既に大きく成功を収めたブランドが数多く存在します。

この記事では、国内発の食品関連D2Cブランドにフォーカス。
食にまつわる新たなライフスタイルやトレンドを提案し、ユーザーの支持を集める12の事例を紹介し、成功のポイントを読み解きます。

①コロナ禍に前期比売上40%増 Oisix|オイシックス・ラ・大地

▼公式サイトURL
https://www.oisix.com/

有機・特別栽培の農産物、添加物を極力使わない加工食品や、ミールキットなど、生鮮食料品を定期宅配で届けるブランドです。
人気ナンバーワンは、忙しい人の時短調理を叶える「ミールキット」。「手間は省きたいけど、手抜きではなく『作った感』を出したい」という、毎日の食卓を担う人の微妙な心理を商品に反映し、2013年〜2021年3月の間で累計8,000万食売り上げました。(※1)
外出自粛が広がったコロナ禍には、人気飲食店とコラボしたミールキットも展開。シリーズ名「おうちレストラン」で売り出し、「おうち時間でも、お店の味を楽しみたい」というユーザーニーズに応えました。
その結果、2021年3月期連結売上高は前期比40.9%増の1000億円を突破しました。(※2)

②コロナ禍で販売数3.7倍に BASEFOOD|ベースフード株式会社

▼公式サイトURL
https://basefood.co.jp/

完全栄養食のパン・麺・クッキーを、EC経由で届けるブランドです。
完全栄養食とは「1日に必要な栄養素の1/3をすべて摂れる食品」のこと。
「忙しくて自炊ができないときでも、かんたんにおいしく栄養が摂れる」と打ち出しています。「仕事と栄養の両立って、難しい」「主食だけで健康になれないか?」「主食をイノベーションし、健康を当たり前に」という開発者の想いから生まれました。
「忙しくて自炊する時間がない」「糖質制限で毎朝スッキリしない」「トレーニングしているが、サラダチキンに飽きてきた」「食事管理をしているけど、パンやクッキーを食べたい」など、ブランドコンセプトに共感するユーザーの支持を得ることに成功し、累計販売数は1000万食を突破、コロナ禍には前年同期比売上3.7倍を達成(※3)しました。

③コロナ禍に売上2倍 マッスルデリ|株式会社Muscle Deli

▼公式サイトURL
https://muscledeli.co.jp/

栄養管理サポートを受けられる、宅配フードサービスです。
ダイエットを目指す人の「何をどれだけ食べたらいいかわからない」「いつも同じ食事になってしまう」「自分にあった栄養素の計算や調理をする手間がない」といった悩み解決がメインコンセプト。
冷凍弁当やピザ、パン、スープなど50種類以上の豊富なメニューがあり、いずれも管理栄養士やダイエットコーチが監修する高タンパク・低カロリーな食品です。
ユーザーは自分にあった食事プランを選び、宅配で受け取り、食べる前にレンジで加熱するだけという手軽さです。
コロナ禍に売上が伸び、2021年1月には前年同月比で売上2倍を達成(※4)しました。

④コロナ禍に売上8.5倍 ZENB|株式会社 ZENB JAPAN

▼公式サイトURL
https://zenb.jp/

ミツカングループが手掛ける、野菜を可能な限りまるごと使った食品のブランドです。
豆100%の麺、マカロニや、野菜のパスタソース、スープなどの商品ラインナップがあります。
今までは捨てられてきた野菜や穀物の皮、芯、さや、種、わた等を余すところなく使う「地球に優しい」点と、素材の旨味と栄養を引き出す技術を開発し「おいしい」点を両立。
糖質制限やダイエットのために主食を控える人が増えていますが、「豆100%の主食なら我慢しないで毎日食べられる」などユーザーの支持を集め、コロナ禍のブランド全体売上は前年同期比8.5倍に急伸(※5)しています。

⑤社員6倍、13年増収 ヤッホーブルーイング|株式会社ヤッホーブルーイング

▼公式サイトURL
https://yohobrewing.com/

クラフトビールの製造を手掛けるブランドです。
オウンドメディアやSNSを通した顧客との積極的な交流、ビールファンが一同に会するイベントの開催など、熱量の高いファンが生まれる施策を数多く展開し、その知名度をアップさせてきました。
商品は実店舗や小売店頭・大手ECモールでも販売していますが、現在は自社ECのサブスク販売拡大にも注力。ファンの声をEC上でも最大限に活用する取り組みを進めています。
業績は13期連続で増収増益を続け、売上高は2022年に200億円規模を目指すとしています。従業員数も増えており、この10年で20人から130人へ、約6倍に成長しました。(※6)

⑥クラフトビールやプレミアムビールを飲まなかった人を獲得し売上拡大 オリオンビール|オリオンビール株式会社

▼公式サイトURL
https://www.orionbeer.co.jp/

沖縄発、プレミアムクラフトビールの製造で知られるブランドです。
沖縄旅行などをきっかけにオリオンビールのファンになる人も多く、SNS上には全国のファンによる口コミが自然発生。そこで、公式ECサイトの定期宅配申し込みページにSNS上のUGCを活用し、ファンの「生の声」を多数公開することで、CVRを4.2倍向上させました。
さらに、クラフトビールのプレミアムレンジを新たに攻めるべく2021年夏には新商品「75BEER」を発売。
日頃、クラフトビールやプレミアムビールを飲まない人を「75BEER」のファンにさせることに成功し、プレミアムビール市場は「75BEER」の売上がそのまま乗る形で1.5倍程度に拡大(※7)しています。

⑦曜日限定で販売、5分で完売 Mr. CHEESECAKE|株式会社Mr. CHEESECAKE

▼公式サイトURL
https://mr-cheesecake.com/

チーズケーキの製造・オンライン販売を行うブランドです。
シェフとしての経歴を持つ創業者の「人生最高のチーズケーキで、より豊かになる体験を届けたい」という想いの下でスタートしました。
トライアル的にInstagram経由で直販を開始したフェーズでも、1ヵ月で売上100万円を達成(※8)という人気ぶり。
毎週日曜と月曜の朝10時に数量限定でネット販売されるや、たった5分で完売(※9)するほどの人気が続いています。
消費者にとっては、コロナ禍の影響で「レストランで味わう」楽しみが奪われました。
そこでMr. CHEESECAKEは「レストランの体験価値の重要性」に着目し、シェフ経験を活かして「おいしさが的確に届く形」に料理をチューニングし直したそう。つまり、顧客が求める体験と徹底的に向き合い、商品を通して応えることで、絶大な支持を獲得したのです。

⑧女性に振り切った商品開発で売上10倍 タマチャンショップ|有限会社九南サービス

▼公式サイトURL
https://tamachanshop.jp/

九州の農家発の食品や、自然食品・健康食品を取り扱うブランドです。
もともとは小さな椎茸農家でしたが、「食」が持つ素晴らしい力を発信したいという想いから、2004年にEC運営をスタート。
「ニッポンのおかあちゃんになりたい!」をコンセプトとし、近年では女性向けに振り切った商品開発で美容専門プロテイン「タンパクオトメ」の売上が急拡大、2020年は前年比10倍超の売り上げを記録(※10)しました。2021年12月にはシリーズ累計販売100万袋を突破するヒット商品に。(※11)
ECでの販売に限らず、都心のサブスク型ドリンクスタンドのメニューに「タンパクオトメ」が採用されるなど、新たな顧客接点も拡大中です。

⑨コロナ禍で顧客層拡大、受注数2倍 NOSH|ナッシュ株式会社

▼公式サイトURL
https://nosh.jp/

管理栄養士が監修する「低糖質」「低塩分」の冷凍弁当を定期宅配するサービスです。
主な顧客は、体型維持などが気になる35〜45歳女性。そこへ、コロナ禍でステイホームが長期化し、自炊の負担が増えた子育て中の20代女性顧客も急増しました。
2020年3月には、従来の約2倍の受注数に急拡大。(※12)
ECサイトまたは専用アプリから注文でき、避けたい食材を選択できる「食材フィルター」や、「糖質」「塩分」「カロリー」によってメニューを選べるなど、食事制限をしたい人のストレスがなくなる工夫を積み重ね、ユーザーの支持を得ています。

⑩人気殺到、1年で会員数5,000人 パンスク|株式会社パンフォーユー

▼公式サイトURL
https://pansuku.com/

全国津々浦々のパン屋と提携し、冷凍パンの定期便を届けるサービスです。
「パン屋さんを訪れたときの幸せを自宅でも味わってほしい」「旅に出かけるように、まだ知らない美味しさに出会う体験を提供したい」という想いから始まりました。
提携パン屋は、北海道から沖縄まで30店舗。提携により、パン屋側には新規販路として月々の安定収入を確保できるメリットが生まれます。
サービス開始わずか1年で会員数5,000人を突破(※13)、数多くのテレビや雑誌などでも紹介され、人気殺到で今では会員登録すら順番待ち状態になっています。

⑪新たな「おやつ体験」の提案で売上2倍 スナックミー|株式会社スナックミー

▼公式サイトURL
https://snaq.me/

お菓子・おつまみの定期便を届けるサービスです。
自然素材を使用した100種類以上のお菓子・おつまみの中から、顧客の好みにマッチした8種類を専用ボックスに詰め合わせて配送。
大人も子供も安心して食べられて、新たな美味しさとの出会いにワクワクできる、という体験にフォーカスしてサービス設計されています。
顧客はおやつの組み合わせを指定できませんが、「箱を開ける際のワクワク感が気に入っている」「頑張った自分へのご褒美として使っている」など、同ブランドから提案されるおやつ体験に魅力を感じるユーザーが増え、2016年3月のサービス提供開始から月次で5〜10%成長を継続。直近1年間で売上規模は約2倍に増加しています。(※14)

⑫日本サブスクリプションビジネス大賞優秀賞 Post Coffee|POST COFFEE 株式会社

▼公式サイトURL
https://postcoffee.co/

高品質なスペシャルティコーヒーを組み合わせ、定期便で届けるサービスです。
「もっと豊かなコーヒー体験を楽しんでほしい」という想いからスタート。
ユーザーの好きなスイーツ、お酒、普段のライフスタイルなどから、顧客一人ひとりの好みに合わせて最適化した専用コーヒーボックスを提案します。
2021年5月には、会員数が約25倍に成長。オンラインでできる「コーヒー診断」の診断回数は30万回を突破。Instagramでの「#PostCoffee」のタグが付いた投稿は1万件を超えた(※15)ほか、「日本サブスクリプションビジネス大賞2020」で優秀賞を受賞(※16)しました。

食にまつわる新たな価値創造

「食」関連のサービスを顧客に継続利用してもらうために、原材料・品質に納得してもらうことは大前提だと言えます。

12の事例から学べるポイントとして、食のD2Cで成功したブランドは「安心・安全」だけではなく、「献立考案や調理の手間をいかに省くか」「自宅にいながらレストランや飲食店で味わうような、感動の食体験をいかに楽しんでもらえるか」など、家庭内での食にまつわる新たな価値創造に成功していると言えます。

コロナ禍を経た消費者行動・心理の変化を細やかに捉え、「自炊」や「レストラン体験」の再定義・アップデートをした企業が成功を掴んでいるのではないでしょうか。「食べ物」の提供というよりむしろ、「体験」の提供の重視です。すなわち、「食べ物を介して満足できる顧客体験」と徹底的に向き合い、プロダクト・サービスの磨き込みを怠らないことが成功のポイントだと言えそうです。

今後、食品分野のD2Cビジネスモデル構築を検討している方は、ぜひご参考ください。

(※1)オイシックスが躍進する3つの成功要因とは?|ヒット商品研究所|note
(※2)コロナ禍の需要増でオイシックス・ラ・大地の売上は1000億円を突破【2021年3月期】 | ネットショップ担当者フォーラム
(※3)完全栄養食「BASE FOOD」、シリーズ累計販売数は1000万食を突破:コロナ禍で3.7倍に – ITmedia ビジネスオンライン
(※4)卓球・水谷も食べている。創業5年の宅食サービス「マッスルデリ」とは何者か
(※5)SDGsとおいしさ両立で売り上げ8倍 ミツカンの野菜丸ごと「ZENB」
(※6)【ヤッホー井手】社員6倍、13年増収。超フラット企業の成功法
(※7)プレミアムクラフトビールが好調。オリオンビール CMOが描く、沖縄発のブランド戦略 | Agenda note (アジェンダノート)
(※8)【Mr. CHEESECAKE・田村浩二氏に聞く】 飲食店経営者必見!顧客との向き合い方で変わるコミュニケーション|ECのミカタ
(※9)完売続出のチーズケーキD2Cに学ぶ アフターコロナの戦い方
(※10)「タマチャンショップ」田中耕太郎社長に聞く「商品と口コミの力で女性向けプロテインの売上10倍」 | 日本ネット経済新聞|新聞×ウェブでEC&流通のデジタル化をリード
(※11)「タマチャンショップ」、美容プロテイン『タンパクオトメ』シリーズの累計販売数が100万袋突破 | TECH+
(※12)【売上アップの決め手】弁当ECサイト「nosh」、3月度は受注が平常月の2倍に
(※13)冷凍パンの定期便「パンスク」、3月31日(水)から大丸東京店に期間限定で初出店し“全国のパン屋巡り”が体験できる冷凍パンセットを販売|株式会社パンフォーユーのプレスリリース
(※14)おやつサブスク「スナックミー」が2.6億円調達、データドリブンで独自のおやつ体験創出へ | DIAMOND SIGNAL
(※15)コーヒーのサブスク「PostCoffee」1.5億円の資金調達を実施
(※16)日本サブスクリプションビジネス大賞2020

この記事の著者

景山 真理

フリーランスのライター。EC店舗、タウン情報誌制作会社、マーケティング支援企業などへの勤務経験を経て、Webメディア・紙媒体で活動しています。専門領域はデジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、ECのセールスメルマガ、デジタルトランスフォーメーション。
Website:Mari Kageyama Writing Works