世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」から、これからのマーケティングを考えるヒントが詰まったカンファレンスの内容をレポートします!
今回は1日目午後のパートから、「コンテンツマーケティング」に関する2つのセッションをご紹介します。
企業・ブランドの一方的な広告メッセージの発信ではユーザーを顧客化するまでが難しくなり、ユーザーにブランドの世界観を味わってもらったり、共感してもらえる「コンテンツ」を使ったマーケティングが重視され始めています。
またスマホ、タブレットなどデバイスの普及だけでなく、ソーシャルメディアやスマホアプリなどメディアの多様化によって、ユーザーの受け取り方・楽しみ方にも大きな幅が出てきた「コンテンツ」。改めてその価値を見つめ直すことのできる議論が展開されました。
〔A-5〕
TVとデバイスのマルチスクリーン、さらにその先のスマートTVの影響を占う
モデレーター(左)
内田 哲也氏
(株)博報堂DYメディアパートナーズ統合コミュニケーションデザインセンターセンター長
スピーカー(右から)
荻野 欣之氏
(株)ビデオリサーチ取締役
吉柳 さおり氏
ベクトルグループ ㈱プラチナム代表取締役
森岡 康一氏
Facebook Japan
塚本 幹夫氏
(株)フジテレビジョン総合開発局IT戦略担当局長
オープニングキーノートでも題材とされた「テレビ×ソーシャルメディア」と関係の深い本セッション。
今なおメディアの軸として強いテレビを中心に、PC、スマホ、タブレットといった2台目・3台目のスクリーンが普及し同時にコンテンツを楽しむことも増えた昨今。テレビ、ソーシャルメディア、視聴者、PR/マーケティングとさまざまな立場で実績を上げた事例を振り返ることに始まり、マルチスクリーン化の今後についての議論が展開されました。
若年層を中心に進むマルチスクリーン化
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所によると、テレビ番組を見ながらソーシャルメディアでその番組に関する書き込みをしたり書き込みを読んだりすることがある、と答えた人は、若年層では2割以上。生活者の情報体験は確実に進化しつつあるようです。
テレビ局から見るマルチスクリーン化、ソーシャルテレビ
フジテレビは2013年1月より、「土ドラ」でスマホアプリ連動型のマルチスクリーンコンテンツを提供。
ドラマ放送中や、その間のテレビCMの音声をスマホアプリで聞き取ったりすることでプレゼント応募ができるものなどが好評を博しています。
同社の塚本氏は、テレビ番組を視聴しながらソーシャルメディアに番組のことを書き込むほど番組にのめり込む人々を「Social Viewers」、さらに深い関与度を示す人々「Engaged Viewers」と名付けました。
「Engaged Viewers」を、オンデマンドなどで有料番組を購入するまでになる層と定義づけ、この「Engaged Viewers」を増やしていくことが課題だと説明。
また、今年9月にアムステルダムにて開催されたばかりの2nd Screen summitの様子も一部紹介。
zeeboxをはじめ、ダウンロード数が既に数千万、数億単位に上るソーシャルテレビ、マルチスクリーン関連のスマホアプリも続々と出ていきているとのことです。
Facebook×テレビ
あまり印象がないかもしれませんが、Facebookもテレビを視聴しながらの利用が特に海外では浸透しています。
森岡氏からは、セカンドスクリーンとしてのFacebookアプリや、海外のFacebookページでテレビ番組と連動させたコンテンツ展開の事例紹介を中心に話がありました。
アメリカでは「Glee」「Simpsons」「The Voice」などの人気番組が、放送中に番組Facebookページに放送と絡めたを投稿し、盛り上げているそう。
今後、Facebookとテレビの関係性としては、
テレビ番組を見る→見た人がその感想をFacebookでシェアする→投稿を見た人がその番組を見る→感想をシェアする→………
といった、TVからFacebookへの好循環を生み出す、”エコシステム”の構築を目指してくとのことでした。
Facebookにもハッシュタグが導入されたので、セカンドスクリーンとしてFacebookを活用する人がますます増え、このエコシステムが確立される日も近いのではないでしょうか。
また、森岡氏曰く「夜8時~11時の間は多くのユーザーがTVを見ながらFacebookを利用しているとのデータが既に出ています。」
この傾向やFacebookから取得できるユーザーデータを活かし、マーケティングやテレビ連動広告と連携させる企業が今後、増えていくのか注目です。
マルチスクリーンを活用した豊かなブランド体験で顧客へ育成
PR、マーケティングの観点では、あらゆるスクリーンを使って、デジタル・リアルでどんなブランド体験を生活者にさせるかが鍵となります。
また、「番組やそこから派生したソーシャルメディア上のコミュニティである企業や商品について知ったユーザーを、いかに顧客に育てるか、そこで得たデータをいかにマーケティングに活かすか、が課題では」と吉柳氏は語ります。
マネタイズへの課題
これまでそれぞれの事例を見てきましたが、ソーシャルテレビ・コンテンツのマルチスクリーン化をマネタイズへと繋げている例というのは現れていないのが現状です。
しかし今はそれでいい、という結論に至りました。
何故ならWebテクノロジーの進化が生まれると、その進化をすぐに取り入れて楽しむのは生活者・視聴者であり、テレビやビジネスサイドの人々がそういった生活者の変化に気付くのはその後になってしまうから。
多くの人々の間で話題になっているテクノロジーを取り入れようと、追いかけるのが広告主やテレビ局の側であるというポジションを認識し、その上で新しいものを取り入れていこうとする姿勢が重要になるのではと締め括りました。
〔A-6〕
インタラクティブ広告 デジタル時代に響くコンテンツとは?
モデレーター(左)
友澤 大輔氏
ヤフー(株)マーケティングイノベーション室 室長
スピーカー(右から)
本田 哲也氏
ブルーカレント・ジャパン(株)代表取締役社長/CEO
朴 正義氏(株)
バスキュール取締役社長
坂田 淳子氏
サントリービジネスエキスパート(株)宣伝部
このセッションでは、デジタルだからこそできる「インタラクティブ」をブランディッド、ノンブランディッド、広告主というさまざまな角度から紹介しました。
「アドテックは元々”How”つまり、手段の要素が強いものでした。テクノロジーの発達により、インタラクティブ広告や、そのコンテンツは”Why”をしっかり考え、その周りで”What”特にクリエイティブは”何””どんなものに”したいか、を考える必要が出てきました。」(友澤氏)
さらにその広告クリエイティブも
・ブランディッドコンテンツ
⇒企業・ブランドが自ら魅了をアピールする
・ノンブランディッドコンテンツ
⇒発信者が企業・ブランド自身ではない形でアピールする
・フィクション
⇒ストーリーなどに基づくフィクションのコンテンツ
・ファクト
⇒モニターや実験結果を元にブランド体験を表現する
に分けられると説明します。
デジタルテクノロジーの進化によりブランディッドコンテンツも拡張
バスキュールの朴氏による、クリエイティブエージェンシーの立場から見たブランディッドコンテンツについて、事例を交えた解説がありました。
最近のインタラクティブ広告の傾向として以下の3つを紹介。
1.フィクションではなく、ファクトベースのブランドストーリーづくりが面白い!
代表的なのが、これまで『商品を使うと突然美女が寄ってくる』というフィクションを越えファンタジーに近いようなブランディッドコンテンツがお馴染みだったAXE。
今年はファクトをどう取り入れていくかということで新たな試みとして「AXE脳科学研究所」でファクトに基づくコンテンツを提供しました。
2.プロダクトやサービスのそのものと連携し、ブランド体験の拡張にチャレンジできる!
「東京ディズニーリゾート30周年公式カメラアプリ「HAPPINESS CAM」など、商品やサービスにさらにデジタルを絡めることで、+αのブランド体験に増幅させることができます。
3.あのメディアをもっとインタラクティブに!
これまでメディアというのは枠がきまっていて、その枠内で表現をするというのが当たり前でしたが、それがデジタルの進歩により変化が。
Social Banner Projectの『mixi×NIKEiD』や、視聴者参加型のインタラクティブ番組『BLOODY TUBE』は、N対Nの広告やテレビ番組の在り方を実現させました。
「テクノロジーの進化が、インタラクティブクリエイションの領域を広げている。コンテンツづくりの可能性を広げただけでなく、プロダクトそのものだったり、これまで触れることのできなかったメディア体験自体もクリエイトできる時代になってきました。」(朴氏)
戦略PRが生むノンブランディッドコンテンツ
このテーマでは、ノンブランディッドコンテンツが生まれる「戦略PR」とは何かに始まり、PRの観点からインタラクティブコンテンツについて、本田氏により語られました。
「ポイントは2つあります。PRはファクト・事実ベースで情報を発信していくというのが一つの大きな点で、ノンフィクションであるということ。
もう一つが、『第三者発信』と呼んでますが、企業・ブランドが自分で伝えたいことを言うのではなく、マスコミやソーシャルメディアなどのメディア、それから専門家などのインフルエンサーといった第三者から魅力を発信していただくというものです。
つまり言い換えれば、ブランディッドよりも、ノンブランディッドなコミュニケーションがそもそも得意。
コンテンツマーケティングの観点から言うと、ノンブランディッドなコンテンツを作るのがPRだと、これからのマーケティング上、再定義した方がいいのかなと、私は思います。」(本田氏)
また、ブランディッド×ノンブランディッド、両輪を掛け合わせてシナジーを産むことで、”売れる空気づくり”、大きなブームを作ることができると言います。
たとえば数年前から流行し、今や定番となったハイボール。
ブランディッドなTVCMでクリエイティブに凝ったことや飲食店への流通に力を入れたことに加え、ノンブランディッドな部分がブームに与えた影響も大きくあります。
具体的には、「●●のメーカーが」とか「△△のウイスキーが」ではなく、「ハイボールを飲む人が増えている」という実態、ファクトを世に発信していったことで、より多くの人にアピールすることができました。
ケーススタディ~サントリーのWebブランドコミュニケーション~
続いて、広告主サイドからの意見として、サントリー坂田氏がザ・プレミアムモルツのリニューアル時に行った施策の例を中心に語りました。
「最近Webの世界では、今までの媒体のように広告メッセージを伝える場所を選ぶやり方ではなく、『お客様がいるところであれば、場所は関係なく出していこう』『人(ターゲット)に対して出していこう』という考えが増えていると思います。
そんな中で私がやっていることは時代に逆流しているかもしれませんが(笑)、お客様に届ける”場所”をきちんと選んでやっていきたいということを、テクノロジーが進んでいるからこそむしろ意識してやっています。」(坂田氏)
2012年にリバイタライズ(リニューアル)されたザ・プレミアムモルツを宣伝する際も、メッセージを届ける”場所”を意識したコミュニケーション戦略を立てたそう。
「あくまでも『商品がリニューアルして美味しくなった』というメッセージは私の考えではメーカーの押し付け、メーカーが言っていること(生活者はどう感じているかわからないこと)だと。なのでマスメディアと同じように一方的に発信しても伝わらないと思いました。」(坂田氏)
その際Webにおいては、リーチの大きさなどを考慮し、Yahoo!を場所として選び、今までなかった新しい仕組みをYahoo!と一緒につくることで、「ザ・プレミアムモルツが新しくなった」ということを押しつけではなく体感してもらうオープニングフラッシュの作成に至ったそうです。
この施策が好評で、翌年2013年もYahoo!トップのジャックを実施。
バナー部分だけではなく、Yahoo!トピックスとそのコンテンツまで含めたジャック広告を掲載。コンテンツ部分も、商品の歴史や動画広告などしっかり作り込みを行ったとのこと。
ほかにも、LINE、YouTube、クックパッドなど、あらゆる”場”で、そこに適したクリエイティブを配置してブランディッドコンテンツを提供しています。
まとめ
テクノロジーの進化とともに、よりリッチなブランディッドコンテンツをユーザーに提供できるようになりました。
また、そもそもそのブランドが「なぜ今、必要なのか、注目なのか」というニーズの掘り起こしや顕在化させる役割を、PRやノンブランディッドコンテンツが担っています。
「重要なのは、テクノロジーに頼りすぎず『そもそも何を伝えたいのか』では。
あくまでブランドが発信したいことを支えてくれる手段のひとつがテクノロジーであって、それを通じて『ブランドが何をしたいのか』をしっかりと確立する、役割を見直すことが必要だと思います。」(友澤氏)
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