国内最大級の専門カンファレンス【モバイル&ソーシャルWEEK2012】 2日目の専門セッションをレポートします。
マーケティングに携わる経営層や担当部署の責任者、そしてソーシャルメディアやスマートデバイス向けサービスの開発者、モバイルとソーシャルの提供事業者など、デジタルマーケティング業界のキーパーソンが一堂に会して行われた国内最大級の専門カンファレンス「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」。
2012年7月24日~26日の3日間にかけて行われた「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」で、SMMLabが取材したセッションをレポートしています。今回は第二日目に開催された、専門セッションの中からSMM Labが参加した3つのセッション内容をご紹介します。
セッション1:「知識ゼロからのFacebookマーケティング」
フェイスブック Marketing Manager 須田 伸氏
Facebookマーケティングマネージャーの須田 伸氏が、各国企業のFacebook利用実績から浮かび上がってきたFacebookマーケティングの成功フローと誤解されがちな5つのポイントを紹介しました。
成功するFacebookマーケティングの4段階ステップ「BCEI」
STEP1 Facebookページを作成する(Build)
全てはFacebookページから始まります。企業やブランドのメッセージをより明確に伝えることが出来るツールとして、自分たちの個性やキャラクターを表現しましょう。最初から有料広告を使うのではなく、スタッフやその家族、商品、メールリスト、ショップ、他媒体へ出稿した広告など、既にある「資産」やマーケティング施策を活用するべきです。そうしてまずは自社やブランドにすでに理解や愛着を持ってくれている人をFacebookページのファンにしましょう。
STEP2 より多くのファンを繋げる(Connect)
Facebook広告を効果的に活用して、より多くのファンと繋がりましょう。Facebook広告は適切なターゲットを設定した複数の広告素材を用意し、ユーザーの反応を見ながらチューニングすることで効果を最大化することが出来ます。
STEP3 繋がったファンと交流する(Engage)
関心を引く内容をタイムリーに投稿することを心がけます。最低でも週に1, 2回、定期的に。
「Frequency Light Interaction(F.L.I.)」頻繁かつ軽量なインタラクションを提供出来るように、コンテンツカレンダーを作成して、リズム感のある投稿で、「常につながっている状態」=「オールウェイズ・オン(常にオン)」を実践します。投稿者の人間味を大切にし、ファンが反応したくなる内容やFacebookページならではのスペシャルオファーを用意しましょう。インサイトでファンの反応を検証・分析し、改善しつづけるサイクルを確立しましょう。
STEP4 ファンの友だちへと広げる(Influence)
ファンを通じてその友だちへアプローチする施策として、「スポンサー記事」を活用しましょう。
スポンサー記事は、もともとニュースフィードに掲載される可能性の高い記事を更にドライブさせる方法で、「広告」にソーシャルなコンテクストを付加することが出来るため、クチコミに近い効果が期待出来ます。
須田氏は、この「BCEI」モデルを効率的に運用することで、Facebookはマーケティングツールとしての威力を十分に発揮するはずだが、その活用にはまだまだ誤解が多いとして、以下の五つを上げました。
1. キラーコンテンツを作れば、人は自然に集まってくる
⇒Facebookの本質は「つながり」。人を集めることとは分けて考えるべき。
2. エッジの効いたテクノロジーが必須
⇒テクノロジー重視で目的と手段を取り違えてしまわない。
アプリ等は3クリック以内のシンプルなものの方が効果が高い。
3. ソーシャルな要素は後からの味付けで十分
⇒ソーシャルを前提として企画作りが大切。Social by Designを意識する。
4. 広告なのだから、人々の会話に入っていかなければダメ
⇒Facebookでは人々はすでに思い思いの会話を楽しんでいる。その会話に寄り添い、会話のネタになる材料を提供するべき。
5. 従来のウェブサイトの代替物として扱う
⇒キャンペーンサイトのように開催時期以外放置してはダメ。「常につながっている状態」=「オールウェイズ・オン(常にオン)」を目指し、人々が会話している場所という特徴に沿った位置づけを検討する。
須田氏は、このような誤解を生み出す既成概念を捨て、「つながり」の中でボトムラインにもポジティブな影響を与えるように取り組んでいくことが、Facebookマーケティングで目指すべき姿だとまとめ、今後は日本発の成功事例もどんどん発信していきたいとしました。
セッション2:「マジョリカ マジョルカ」が仕掛ける、F1層をターゲットとしたユニークなソーシャルメディア戦略
資生堂 国内化粧品事業部 セルフスキンケア メーキャップブランドユニット 清水 英孝氏
2003年7月に発売された「マジョリカ マジョルカ」は、日本国内に留まらずアジア7カ国で人気のメーキャップブランドです。「女の子はいつも自分の物語の主人公」をテーマに、「可愛いデザイン」や幻想的な「世界観」に徹底的にこだわり、ターゲットである20代女性が潜在的に持っている「女の子DNA」に訴えかけるストーリーを大切にするマーケティングに取り組んでいるそうです。その結果、「マジョリカ マジョルカ」は資生堂の中でも認知度の高い人気ブランドに成長しています。
「マジョリカ マジョルカ」独自のマーケティング戦略のポイントは以下の4つ
1. モバイル
独自の世界観をユーザーが体感しやすいメディアとしてブランド誕生当初からPCサイトに注力してきましたが、若い女性のコミュニケーションの中心が、PCからモバイルに移行し始めた2008年冬にモバイルサイトを刷新。Flashを活用したリッチでインタラクティブなユーザー体験を提供しています。
2. 異業種コラボレーション
ターゲットと世界観をマッチさせることが出来る異業種とのコラボレーションに積極的に取り組んできました。
コラボレーションをプラスαのメディアと位置付け、これまでにガム、アイスクリーム、ホテル、文具などと協業、それまでリーチ出来なかった新しいユーザー層へのタッチポイントを獲得しています。コラボ相手とは互いの既存施策を有効活用し、相乗効果を最大化する取り組みを目指しています。
3. ソーシャルメディアを活用したブランディング
徹底した世界観に基づいて作られたファンタジックなブランドサイトにマッチしない、商品やイベントの身近な情報を幅広く発信するためにソーシャルメディアの活用を開始しましたが、ROIを追求するために自社によるローコストオペレーションを原則としています。また、アジアでの人気も高いブランドなので、海外ユーザーとのコミュニケーションも大事にしています。ソーシャルメディアの積極的な活用は「PR効果」を高め、実購買への影響も大きくなってきています。
4. 次代を見据えた先進性のある取り組み
若い女性ユーザーが多く、ビジュアル的にフォトジェニックで、言語のハードルが低いという特徴から、親和性が高いと判断した「Pinterest」への取り組みは、その先見性でネットでも話題を呼び、先行者利益と言えるPR効果を生み出しました。また商品購買率の高いメディアとして、自社のeコマースへの導線としても期待しているそうです。
以上のように、「マジョリカ マジョルカ」はターゲットにブランドの本質を「伝える手段」として、時代に合わせて利用するメディアを変えてきたわけですが、こうした戦略を通じて清水氏は、「広告等のペイドメディアはその都度費用が発生するが、SNSは繰り返し活用出来る“メディア資産”であることが分かった」と語りました。
セッション3:「ソーシャルメディアで僕たちは何に目覚めたのか?」
モデレータ
日経BP社 ITpro編集 プロデューサー 菊池 隆裕氏
パネリスト
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛氏
チームラボ 代表取締役社長 猪子 寿之氏
芸者東京エンターテインメント 代表取締役CEO ファンタジスタ 田中 泰生氏
「急成長したソーシャルメディアにより、私たちの生活や考え方、友人や知人とのコミュニケーションは何が変わったのか。また、ソーシャルメディアは、これからどのように発展、浸透していくのか。」をテーマに、ネット業界で活躍中のお三方が登場したトークセッションは、それぞれの立場から自由に議論を交わし、大変盛り上がりました。
まず、モデレータの菊池氏からソーシャルメディアの普及によって、発信と受信がはっきりと分かれていた情報の流れが大きく変わってきたという背景が説明され、パネリストの考える「ソーシャルメディアによる変化」が問いかけられました。
iモードの父とも呼ばれ現在は慶応大学でソーシャルメディアに関する教鞭をとり、Twitterで10万人のフォロワーを擁する夏野氏は、ソーシャルメディアで即時に大勢が知識と経験値を共有することによって、人類の進化が加速しているといい、その進化に社会システムが追いついていない現状を示唆しました。
ウルトラテクノロジスト集団として注目を浴びる「チームラボ」を率いて、独創的なプロジェクトを数多く生み出している猪子氏は、ソーシャルメディアを活用している人といない人の格差が広がっていることを指摘し、データドリブンな現状におけるクリエイターの直感とユーザー視点の大切を語りました。
ソーシャルゲームの開発を手掛ける「芸者東京エンターテインメント」の田中氏は、2008年にAR技術を使った電脳フィギュアを発表した際、その話題がネットからテレビに波及した経験から、「人に言わずにいられない突き抜けたもの」を創り出せば、広告に頼らなくても消費者が勝手に広めてくれる可能性に「ソーシャル」を感じたといいます。
ただ対話の中で、現状の日本では、新しい発想が出てきたときの抵抗や規制が根強く、旧態然とした保守的さが最大抵抗勢力であるとし、3.11によって人々のソーシャルメディアに対する印象は変化したが、社会システムや法律の整備には、もっとドラスティックな変化が必要ではないかと疑問が投げかけられました。
猪子氏は、「日本は未だにドメスティック志向だが、世界は既に、ワンプロダクト・ワンコンテンツ・ワンシステムという、始めから世界をターゲットにした、非実在(アイコンに頼らない)・非言語(言語に頼らない)の方向へ向かっている」としたうえで、「本来日本が文化的ポテンシャルとして強みがある領域のはず」と語り、夏野氏は「人材と資金の流動性が高まれば、日本にもまだまだチャンスがある」と今後の日本発展の方向性を示しました。
一方、田中氏はソーシャルメディアによって情報格差や伝達スピードが平均化していることによる弊害として、世界の生活様式や街の構成が画一化しつつあることを指摘しました。これは生活に関わる各コンテンツがワンフォーマットに限定されつつあることを意味し、多様性や新規性を生み出すにはこれまで以上のチャレンジが必要となるといいます。そのため田中氏には、コンテンツを生み出すリソースの問題として、一人の能力を高めるのか、能力の高いもう一人を探すのかという悩みがあるといいます。
夏野氏は「少子高齢化によって、ますます保守化が進むと、“新しいものを生み出す”パワーが弱まり、日本経済の余力はあと10年持たないかもしれない。」と危惧しながらも、「自身は、こうした時代の転換期に頑張っている企業を応援し、人々の価値観を変えたい。社会を大きく変える原動力はソーシャルメディアであることに間違いはない。」と締め括りました。
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