こんにちは、SMMLabの藤田です。
【ad:tech東京2011】から今回は、藤田晋氏(サイバーエージェント)、田中良和氏(グリー)、笠原健治氏(mixi)という、日本を代表するインターネット関連企業3社のトップがパネリスト、「コカ・コーラ パーク」を手掛け2010年「Web人大賞」を受賞した江端浩人氏(日本コカ・コーラ)がモデレーターという豪華な顔ぶれで話題になったパネルディスカッションをご紹介します。アドテック東京をプロデュースしたdmg::eventsのSusan MacDermid氏も交え、「日本企業がグローバリゼーションで勝ち抜くためには」というテーマについて議論されました。


 
まず最初にモデレーターの江端氏は、今回のセッションの企画意図をこう語りました。

「今や世界は自国のみならず、様々な国々の影響を受けるグローバリゼーションの時代となった。グローバリゼーションには「インフラ」が大きく関わっている。世界的な普及台数は、テレビが15億台、PCも15億台ぐらい、モバイルが5億台、スマートフォンが1.8億台と、モバイル・スマートフォンがどんどん増えている。将来的にこの差がもっと開いていくことは間違いが無く、世界中で普及したモバイル・スマートフォンがインターネットにつながり、そのネットワークを使って人々がコミュニケーションを始めると、それを束ねる大きなインフラが登場してくると考えられる。このような状況で、モバイル先進国である日本で切磋琢磨している三社が世界のデファクトスタンダードになる可能性も大いにあるのではないかと、このセッションを企画した。」
 
■現在の国内戦略の状況
 

【サイバーエージェント】藤田氏
サイバーエージェントは広告代理店業だと思われがちだが、実は利益の大半はアメーバ事業からであり、広告代理は10%程度に過ぎない。ソーシャルメディアの高まりを受けて、より収益性の高い、広告を収入源としたメディアやツールなどの開発に、経営資源を移していく決断をした。サイバーエージェントはマーケティング企業ではなくネット企業なのだから、ネットに詳しくなければならない。クライアントをサポートして行くうえでは、マーケティングに詳しいことではなく、“ネットのユーザーに詳しい、ネットでの広告とコンテンツの正しいアプローチを理解している、ウェブサイトの運営テクニックを知っている”といったことが期待されている。ネットに詳しくなる為に、自らメディア運営を行い、コンテンツを作る業態に変革する。そのために、広告代理店業の人員を大幅に移動させ、2年間で100の新規事業をスタートさせる予定で、すでに30のプロジェクトが動き始めている。
 
 

【mixi】笠原氏
「パブリックな情報発信や交流」、「多彩なソーシャル連携機能」、「誰でも簡単に開設できる」という3つの特徴をあげて「mixiページ」を紹介。発信者はより手軽で簡単に「ソーシャル」への取り組みが可能になり、導線が設置された事で一般ユーザーももっと身近に楽しめることが出来るようになるとのこと。続けて、3週間で213万人がクリックし、CTRが通常のバナー広告に比べPCで11倍、モバイルで16倍を記録した「ソーシャルバナー広告」と、130万人を超えるユーザーが参加し、ローソンとのソーシャルクーポンによって、累計42万人を店舗に送客した「ソーシャルラジオ」という独自の取り組みを紹介した。
 
 

【グリー】田中氏
グリーは当初PC向けのSNSだったが、ほどなくしてモバイルに集中、オープンプラットフォーム化し、現在は日本での会員数2, 641万人を誇る巨大プラットフォーマーに成長している。今や国内大手ゲーム会社でも、ゲーム機を利用したゲームよりソーシャルゲームの売上が上回る時代であり、顧客単価をあげれば獲得単価もより多く捻出出来る構造の中で高収益を目指す、拡大路線を進めており、TVCM、東京ゲームショウへの出展、雑誌タイアップ、デジタルサイネージなど、様々な広告施策を展開している。
 
江端氏は「携帯サービスの会社がこんなに早くTVCM放送回数一番の広告主になるとは思いもしなかった」と感想を語り、「世界でも普及率が高いテレビとの相性の良さ」「高収益モデル」「円高」と海外進出への条件が揃ったのでは?とグローバル戦略へと話題を移しました。
 
■今、そしてこれからのグローバル戦略
 

【グリー】田中氏
自らをfacebookやzyngaと比較し、モバイル中心のSNS、プラットフォーム、ゲームの垂直統合のビジネスモデルが、世界でも通じるユニークなビジネスモデルだと位置づけた。ユーザー数は世界で1億2, 000万人に上るが、一人当たりの利益は日本が抜群に高い。これからの課題は海外ユーザーの顧客単価、ARPU(Average Revenue Per Unit)を日本並みに引き上げて行く事。日本の1/4にするだけで全体の利益は倍になる構造。ローカライゼーションが重要と考え、7カ国に拠点を置き、グローバルオペレーション体制も進めている。10億人が利用するサービスを作ることを目指している。
江端氏「Appleなども垂直統合をしているが、グリーはOSやプラットフォーム、デバイスはニュートラルで、サービスだけ垂直統合をしているのがすごい。」
 
 

【mixi】笠原氏
海外拠点は中国・上海とアメリカ・シリコンバレーの二ヵ所。
実は、中国では2007年位からmixiの中国版SNSを展開したものの上手くいかず、開発に集中、今では一大開発拠点となっている。一方シリコンバレーでは投資やアライアンスを手掛けており、新サービスも発信していきたいと思っている。今後のサービス展開については「SNS 2.0」というキーワードの元、既存のSNSの問題点を改善し、新たな形のSNSへの脱皮を目指している。
江端氏「mixiの強さは、ソーシャルグラフの実名性と匿名性のバランスやコミュニティーの大きさ等を、ユーザーが心地よく調節出来るところ。その良さを海外でも発揮してほしい。」
 
 

【サイバーエージェント】藤田氏
アメリカ・サンフランシスコにオフィスを立ち上げ、会社のNo.2を派遣してFacebook・Smartphoneゲーム・アドネットワークを行っており、売上は10億程度。大型買収はせず小さく生んで大きく育てる方針で、渋谷発のJapanese Coolを提案していく。アメーバーピグは世界でも珍しいサービスだと自負してアメリカで展開している。
アジアではベンチャーキャピタルを中心にしていて現在30社に投資、うち2社が上場を果たしている。過去何度か中国と韓国で進出と撤退を繰り返したが、特に中国は難しい。しかしVCならなんとか足場が出来るのではないかと考えた。最近ようやく会員数が1億人を超える中国最大級のSNS「Kaixin001(開心網)」上で、「アメーバピグ」の中国版となる「小人国(シャオレンゴウ)」のサービスを開始した。これからはアジアの中でもサービスを行っていくが、「日本の文化や価値観から生まれたものを海外に発信していく」という姿勢は変わらない。
 
三社のグローバル戦略を聞き終わったSusan氏からは、こんな質問が投げかけられました。
■いかにしてサービスを国際的なものにしていくのか?
 
【グリー】田中氏
シリコンバレーははっきり言ってど田舎。あそこで世界中の状況を理解しながら、ローカライズしたサービスを作っているとは到底思えない(笑)実際、TwitterやFacebookなど、グローバルで何億人というユーザーを抱えているサービスは、言葉以外はカスタマイズなんかしていないんじゃないかと思う。これからは世界中でカスタマイズしなくても流行るサービスこそが、数億人規模で成功出来るサービスなのではないか。
また、ゲームに関してはすでに製品を海外市場で展開している実績があるため、グローバル化はさほど難しくないと考えている。日本のやり方が世界に通用するかではなく、自分たちのやり方が通用するかを追求して行きたい。「日本でしか通用しない」価値観は排除し、「グローバルに通用する価値観を手に入れる」ことがこれからの目標。
 
【mixi】笠原氏
グリーと同じように、自身のビジネスをブラッシュアップすることが、成功の鍵であると感じている。以前中国に進出したときは、従業員を現地で採用し、中国人に受けるようにローカライズしたが、一方でmixiの良さが削ぎ落され、ユニークさがなくなってしまった。しかしmixiらしいユニークさが世界に通用する可能性は絶対にあると思うので、今後はその良さを保ったまま、海外へ展開するビジネスをしていきたい。
 
【サイバーエージェント】藤田氏
2, 3年前にFacebookがオープン化したことで、ASPとして海外進出することが可能になった。インフラを自力で整えなくても、Facebookのユーザーをかき集められるし、スマートフォンが普及したことでApp Store等がプラットフォーム化し、放っておいても2、3割は海外からアクセスがある。こうした状況から、言語を変更するだけでグローバル化出来るようになったことは、本当に大きな変化だと思う。
 
 
■マーケットによって参入戦略はどう変わるか?
 
【サイバーエージェント】藤田氏
ネットビジネスでは、言語コミュニュケーションの過程が大きいため、ドメスティックに陥りがちだと思っていたが、本質的に良いサービスはあっという間に全世界に普及する時代になった。真似をされるのも早いが、圧倒的な技術力で作られた強いサービスなら、真似をするのは難しい。だから技術力を強化し、強いサービスを作って、それを海外で成功させてたい。
 
【グリー】田中氏
そのマーケットの競合にどのくらいの競争力があるかで、製品の優位性が決まると思う。圧倒的優位であればカスタマイズの必要はないが、市場環境の変化によって優位性が落ちれば、検討せざるを得なくなるだろう。
 
 

江端氏
「三社ともやはりすごくしっかりしたビジョンを持っていらっしゃる。そして、確かなコアを作り、それを進化させ、時代に合わせている姿はまさに『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C. コリンズ)であり、海外でもきっと活躍出来ると感じた。 」
 
 
いかがでしたでしょうか?戦略は三社三様でありながらも、「オリジナル」である自社サービスへの圧倒的な自負と、それを進化させることで海外でも十分戦えるという自信は共通しているように思いました。日本企業のグローバリゼーションに、明るい希望を感じさせてくれる、チャレンジスピリット溢れるセッションでした。
 
 
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