9月18日・19日の両日開催された世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」から、SMMLabが参加したセッションのレポートをお届けします!
CLOSING KEYNOTEPRESENTATION: Welcome to the Hackonomy
Bonin Bough(ボニン・バウ)氏
モンデリーズ・インターナショナル
グローバル・メディア コンシューマー・エンゲージメント
バイス・プレジデント
ad:tech東京2013を締めくくるキーノートに登場したのは、インターネット界のアカデミー賞とも呼ばれるWebby Awardsをはじめ、数々の受賞歴を誇るBonin Bough(ボニン・バウ)氏。
現在は世界屈指のスナックメーカーであるモンデリーズ・インターナショナルであらゆるメディア戦略を担当しています。
今回のキーノートでは、モバイルを活用したマーケティングの重要性と、その先進的な事例、そして新たな価値を生み出すための「Hackonomy」の考え方について、パワフルに語りました。
「Hackonomy」とは
ボニン氏は自身のデジタル領域でのメディア・広告・マーケティング経験から、「Hackonomy」というアイデアを提唱しています。
ハックやハッカーと聞くと、コンピューターに不正に侵入する、いわゆる”ブラックハットハッカー”を思い浮かべる方が多いと思いますが、そうではありません。
ハックを、「ものごとを壊すことで新しいものをつくる、既存のプロセスを壊し新しいものを作り出すこと」と定義し、それによってより大きな価値を生み出すことを「Hackonomy」と呼んでいます。
モバイルへの投資の重要性とスタートアップ的な考え方
この着想を得た背景には、テクノロジー、特にモバイルの普及と進化があったそう。
「70億いる世界人口のうち、51億人は携帯電話を所持しています。
また、かつての情報デバイスが5000万人に行き渡るのに、ラジオは38年、テレビは13年、コンピューターは4年掛かった。
そんな中でiPhone、携帯電話でなくiPhoneだけが5000万人の手に渡るのには、たった2年しか掛からなかったんです!」
発展や生活者への浸透のスピードが顕著なモバイルが社会に与えている影響も当然、大きくなります。
「会議中にPCを開きながらスマートフォンを使うなどの“マルチタスキング”は当たり前、携帯電話が鳴っていないのに振動したように錯覚する人が続出するといった現象も世界中で起きているほどです(笑)」(ボニン氏)
ユーモラスな話題を挟みながら、こう続きます。
「これだけ影響のあるモバイル。
ユーザーは、全てのメディア接触時間の25%をモバイルで消費しているというデータもあるのに、ほとんどの企業は広告支出の1%程度しかモバイルに掛けていない。これはおかしいと思いませんか?
一方で2020年には、スーパーマーケットに並ぶすべてのものが、インターネットに接続するという調査もある。
たとえばモンデリーズで扱う80億の商品すべてが、売り場でネットにつながるということは、モンデリーズが世界最大のテクノロジー会社になるかもしれないことを示唆していると考えています。
しかし、われわれはGoogle、Cisco、Facebookほかテクノロジー会社のような考え方もふるまいも持っていません。
そこで、(そういった企業のような)”スタートアップが社会を変革させる原動力”を、われわれの組織にも植えつけようと思いました。
また、そういった原動力と動く力を鍛え、組織の筋肉”マッスルメモリー”として叩き込むことが必要です。」
メディアを”ハック”したモンデリーズの先進事例
以上を踏まえ、実際にモンデリーズが行ったあらゆるメディア、特にモバイル領域をハックして行ったプロモーション事例を紹介。
メディアのプログラマティック・バイイングではなく、キーワードは”リアルタイムのエンゲージメント”です。
ケース1: OREO Daily Twist
オレオの100周年を記念し、100日間連続で、その日ホットな話題をオレオと絡めたクリエイティブを用意し、毎日OREO Facebookページや、Pinterestなどで投稿するというもの。
期間中のクリエイティブは、生活者の間で話題になっていることを毎日リサーチをしてリアルタイムに制作。
その日その日にレリバンシー(関連性、適合性)の高いテーマを設定し100日間継続して作り続けました。
たとえば、以下のような投稿。
ゲイ・プライドデー 火星探査機が着陸した日
どれもソーシャルメディアやリアルの会話で思わず人に話したくなるものばかり、まさに話題が話題を呼びました。
この施策は、Web上で話題となったのはもちろん、マスメディアでも大きく取り上げられ、2.31億メディアインプレッション、Facebookページのファンは100日間で100万人増加などの実績が。
その結果、「100年経っても若いオレオ」というイメージを多くの人に定着させることができました。
OREO Daily Twist成功のポイントについてボニン氏は、ターゲットのデモグラフィックや、クラスターの固定概念(たとえば、東海岸に住んでいるアジア系は●●の傾向が強いといった既存のイメージ)を捨て、その日多くの人の間で話題にされている”カルチャー”を媒介にしたことだ、と語りました。
ここで得た、話題をリアルタイムでマーケティングのコンテンツに反映させる”マッスルメモリー”を、停電が起きたスーパーボウル中継中のTwitter広告にも活かしました。
(参照: http://wired.jp/2013/02/06/oreo-twitter-super-bowl/)
また、2/3が購入を計画していなかった生活者も、スーパーマーケットなどでオレオを想起する機会が増えたのか、コンビニでの売り上げ10%アップ、スーパーでの売り上げも22から32%までアップしたそうです。
さらに、売り場やその周辺でアプローチできるモバイルが、この衝動買いを促すことにも一役買うとも説明しました。
ケース2: TRIDENT(ガム)×Twitter×Fuse TV “Trending10
ガムのTRIDENTは、Twitter、Vineそして若者に人気のテレビ番組「Fuse」を巻き込んだコラボレーションによる、インタラクティブなプロモーションを行いました。
こちらも、その日話題になっていることをコンテンツに反映させる”リアルタイム性”の高いものですが、なんと、テレビ番組のコンテンツを当日決定。
毎朝7時にスタッフが集まり、Twitterを確認してホットなトピックスをリサーチ。
今までは、テレビの視聴中に番組に関することをユーザーがTwitterで話題にする、つまりテレビがTwitterに誘導していました。
しかしこのプロジェクトでは、Twitterで話題になっていることをテレビ番組「Fuse」に、またその番組についても視聴しながらTwitterで…という循環を生みました。
日中テレビを見ないけれどモバイルデバイスはチェックするミレニアム世代(10代、20代)に合わせ、番組を2~3分に再編集した動画をTwitterで発信したこともあり、視聴者層を大きく拡大。
ほかにも、番組で流れるTRIDENTスポットCMに合わせてTwitterでリアルタイムのプッシュを行う、Twitterで発信する2~3分のコンテンツにVineを使った6秒動画広告を挟む(広告の内容もTwitterでホットな話題をテーマに)、など広告・宣伝もTwitter、テレビをフル活用した結果、TRIDENTのブランドエンゲージメントを向上させることができました。
まとめ
こういった功績を上げたポイントを、ボニン氏は次の5つにまとめました。
1.リーチ
2.エンゲージメント
3.モバイルメディア
4.マルチデバイス
5. リアルタイム性
これらを備え「Hackonomy」を実現するには、どんな大企業でもスタートアップ的な思考とスピード感を持ち、そしてその感覚を”マッスルメモリー”として組織の筋力のごとく鍛え、叩き込ませることが必須。
“マッスルメモリー”するため、モンデリーズ社もリアルタイムマーケティングのパートナーとしてTwitter社のスタッフをオフィスに呼んだり、ブランドマネージャーをスタートアップで1週間働かせる、という試みもしているそうです。
また、そのような体制をつくるまで、変革するための何かを思いついたら「やりたい」で終わらせず資金とリソースを割かなくてはだめと力強く説きました。
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