新型コロナウイルスの影響により、生活者の環境・行動には様々な変化が生まれています。
企業にとっても、新規顧客との接点が限定されている状況下において、事業を継続していく上で「LTV向上」は今まで以上に大きな鍵となっています。そして、そのための「CRM施策」はこれから更に重要性を増していくことでしょう。
アライドアーキテクツでは、そんなコロナ禍でより重要になる「これからのCRM」とは?をテーマに、オンラインセミナーを実施。エーザイ、カゴメ、NTTドコモという各業界の大手3社をお迎えし、シンクロ西井氏をモデレーターにディスカッションが行われました。
今回はこのセミナーのレポートを前後編の2回に分けてお届けします。
後半では、各社の具体的な取り組み事例についてたっぷりとお話をお伺いしました。
<前編はこちら>
CRMはマーケティングそのもの。エーザイ・カゴメ・ドコモが語るCRMの価値とは?【EC×デジマ談義#2 セミナーレポート/前編】
ユーザーの状態に合わせた施策でdマーケットファンを育成|株式会社NTTドコモ
西井氏:次に、みなさまのCRM施策について具体的なお話を聞いていきたいと思います。ドコモさんには、先ほどロイヤルユーザー育成のためのステップについてお話いただきましたが、こちらは具体的にどのような施策を実施されているのでしょうか?
長谷川氏:はい。ロイヤルユーザー育成の第一段階は、ポータルサイトへの訪問です。これはdマーケットサービスの利用者を増やしてファン化を促すには、まずポータルへ訪問する人を増やすべきだと考えているためです。具体的には、サービス未購入者の方が気軽にサイトに訪問できるようなゲーミフィケーション的なコンテンツでの集客や、商品やコンテンツを探している人を連れてくる施策を実施しています。
次の段階は、サイトの訪問者にサービス利用を促す施策です。例えばサービス側から提供される「新規購入で●●プレゼント」などのキャンペーンや、サービスへの動線改善を行なっています。
そして、1ストア使っていただいた方には、2ストア目の利用を促す横のCRMや、1サービスのより深い利用を促す縦のCRMを2本走らせています。特に我々横断部門はクロスユースの強化を目的とした施策に注力しています。
長谷川氏:さらに、クロスユースが進んだユーザーには、継続利用をしていただくアプローチを行います。例えば、我々にはdマーケットマスターチャレンジというロイヤリティプログラムがあります。これは20個あるサービスのなかでどれでもいいから3ヶ月使うとマスターというランクになれるというものです。
こうして、ある程度サービス利用が定着したユーザーの中から、dマーケットのサービスについてTwitter上で発信をしてくれる方や、ファンミーティングに実際に参加して一緒にディスカッションができる方などdマーケットファンを作る施策に取り組んでいます。具体的にはソーシャル系の施策です。
西井氏:有り難うございます。ソーシャル系の施策によってどのようにファンを育てているのでしょうか?
長谷川氏:はい。我々はソーシャル施策を、「dマーケットのポータルサイトの中でユーザーの声を回す施策」、「dマーケットポータルの中から外側に向けて発信してもらう施策」、「ポータルの外で盛り上がってもらう施策」の3つに分けています。
まず、dマーケットポータル内での施策では、ファンミーティングの実施や、カスタマーレビューの強化に注力しています。
次に、dマーケットの中から外に向けての施策では、ユーザー参加型のキャンペーン施策があります。例えば、dポイントを使ったお得な体験を川柳にしてTwitter上に投稿してもらうキャンペーンを行いました。dマーケットポータルはユーザー数も多く、キャンペーンには数万件の応募があります。これは非常に大きなトラフィックを生み、新しいお客様をつれてくるきっかけにもなっています。
長谷川氏:また、ポータル外でのソーシャル施策では、公式Twitterの運用に注力しています。公式Twitterアカウントでは日々の投稿の他、毎月フォロー&リツイート促すキャンペーンを実施。この結果フォロワー数も増え、dマーケットについてのポジティブな投稿がソーシャル上に増えている状況です。
こうしたソーシャルメディアを活用した施策を実施することで、ユーザー間のコミュニケーションを活性化させ、ファンの育成につなげていきたいと考えています。
<NTTドコモのTwitter活用事例について知りたい方はこちら>【半年間でフォロワーが驚異の300%成長!】docomo dマーケットが公式Twitterアカウント×Twitter自動返信ツール「echoes」で「サービスの認知拡大」と「利用者増加」を同時に実現!
西井氏:この3つのソーシャル施策について、優先順位はありますか?
長谷川氏:施策の優先順位は明確には定めていません。どの施策も重要で、3つ一丸で実施することでユーザー同士のコミュニケーションを活性化し、ファンを作っていくことができると考えています。また、こうしたソーシャル施策は一つひとつがどのくらいの投資対効果があるかということは考えていません。長期的な未来への投資施策として位置づけ、dマーケットのMAUを増やすためのものと認識しています。
早期離脱を防ぎ定期購入を定着させるためのオフライン施策に注力|エーザイ株式会社
西井氏:続いて、エーザイさんのお取り組みについて佐藤さんお願いします。
佐藤氏:弊社のCRM施策の最大の目的は商品の継続利用を促すことです。商品のメイン顧客層が50〜60代なので、商品の同梱物や、DM活用などオフライン施策に重きを置いています。
佐藤氏:オフライン施策の1つであるDMは、複数の目的で利用しています。例えば、トライアルから定期購入への移行を目的とした場合、定期購入時に商品やブランドに対してどんな印象をもつかは大切です。そこで、DMを送るタイミングや内容について現状の分析と改善に力をいれています。
また、一度定期を離脱したお客様の復活を目的とする場合もDMは有効です。コールセンターで強引な解約阻止をしてしまうと、お客様に反感や不信感を与え、二度と戻ってきていただけないことも考えられます。そのため、解約阻止施策はあえて積極的に実施せず、解約後の復活を重視したDM施策を実施することで、最終的にLTV、継続率を改善する事ができます。
また、もちろんですが、商品同梱ツールの制作もしており、加えて、現在はファン化を目的としたメイクアップセミナーや減塩レシピの料理教室の開催など、お客様と触れ合うリアルな場を作る取り組みにも着手し始めています。
西井氏:これからCRMに取り組む企業さんはどんな施策から取り組んでいけばよいと思いますか?
佐藤氏:オンライン施策の方がミニマムコストで始められ、チャレンジしやすいと思います。まずはオンラインから進め、改善が見られたところで、改めてイニシャルコストがかかるオフライン施策の改善に取り組むというのが王道だと思います。
西井氏:ありがとうございます。では次の事例についてご説明をお願いします。
佐藤氏:はい。次に弊社で実施した同梱物の改善についてご紹介します。
そもそも、弊社には定期購入の早期離脱が多いという課題がありました。特に定期購入の2ヶ月目から3ヶ月目までの離脱がもっとも多く、また、4ヶ月以降も一定数解約が生まれることから、定期購入の定着にも課題がありました。この課題を解決するため、リピート購入をしやすい環境作りやコミュニケーションの必要を感じており、特に離脱の多い初期の段階で定期購入を続けたいと思っていただくようなアプローチをしなくてはいけないと思っていました。
佐藤氏:そこで我々は、解約をしたお客様の解約理由について、継続期間とその理由をデータ化し、分析を行いました。
佐藤氏:そうすると、早期解約のお客様の解約理由としては、定期購入だと思わずに購入したお客様が多いことがわかりました。また、効果が実感できなかったお客様が一定数いる一方で飲み余りも引き続き発生していることも見えてきました。
理想はそれぞれの理由に対して1to1でコミュニケーションできればよいのですが、現実は難しい部分があります。そこで包括的に改善していくためのCRMツールの制作に着手しました。
西井氏:解約理由を分析してそれを改善するためのCRMを使っているんですね。
佐藤氏:はい。ツールの内容はもちろん、DMなのか同梱ツールなのか、どの手段が一番最適なのかについても一つひとつ判断を行いました。
西井氏:具体的にはどのような施策を実施したのでしょうか?
佐藤氏:主には、「期待値コントロール」を目的とした施策です。解約されるお客様のなかには、「実感できなかった」という方が多くいらっしゃいます。サプリメントは短期間では実感しにくいですし、個人差もあることなので長く続けることが大切です。こうしたメッセージをきちんと伝えるツールを作り、期待値をコントロールしていくことで定期利用を促す施策です。
また、弊社は美容系の商品を多く展開していた背景から、会報誌の内容も美容コンテンツに偏りがちでした。生活習慣系商品のお客様にとって、こうした内容の会報誌は不適切なものであるため、生活習慣領域の商品を購入したお客様に即した専用の会報誌制作にも着手しました。
さらに枝葉の話になりますが、より長く続けていただくために、まとめ定期を始めたり、物流コストを抑えるため、メール便で配送可能な商品の開発も実施しました。
西井氏:メッセージの内容以外に工夫をしているポイントはありますか?
佐藤氏:DM施策では送る時期についても工夫をしています。弊社の場合早期の離脱率を抑えることが重要でしたので、定期購入にお申し込みをいただいた初期の段階で、利用を続けることの意義や、続けている方の飲み方や実感度合が伝わる内容のDMを送り、継続利用を啓発していきました。
また、3ヶ月目以降のお客様には、商品を利用しながらどういったライフスタイルを送ることが重要かを伝えることを心がけています。こうした取り組みは実績もでており、LTVとしても数百円単位で改善することに成功しました。
顧客の「熱量行動」とLTVの相関関係を導き出して施策にいかす|カゴメ株式会社
西井氏:ありがとうございます。では次に原さんお願いします。
原氏:はい。弊社の場合も、今佐藤さんの話にあったように離脱ポイントを把握して、初期の段階での離脱を防ぐ施策は重要だと考えています。
我々のようなリピート通販では、多くの企業が初期の離脱を抑えるため、コールセンターで「フォローコール」を実施しています。これは定期の初期段階でお客様にお電話で状況をヒアリングし、問題や課題を解決していくという施策です。ただこの施策の一番の問題は、お客様が電話にでてくれるキャッチ率にありました。我々の場合は、全体の6割を占めるオフラインのお客様のうち、3回お電話をして繋がるのは50%。定期購入のお客さんの3割にしかリーチできていない施策ということになってしまいます。
原氏:そうすると、残りの7割のお客さんに対するアプローチが必要となります。弊社ではそのために、「フォローDM」を実施しています。これは購入初期段階のお客様に対して、商品購入に対するお礼と、悩みや課題解決を行う電話番号をご案内するDMをお送りするものです。
そしてこれら2つの施策の効果を測るためスプリットテストを行ったところ、フォローコールがつながった人やDMが届いた人は、届かなかった人に比べて解約率がおよそ半分くらいになることがわかりました。
特に、DMを送付したお客様がコールセンターに電話をいただくのは10%以下です。つまりほとんどの場合直接お悩みは解決していません。しかし、商品購入を訴える内容を一切排除し、お客さんに対してお礼をお伝えしてフォローするというパーソナル対応が解約率の改善に繋がっているのです。特にコロナ禍においては、コールセンターの在席を確保するのが難しくなっていますので、このフォローDMは有効な施策だと思っています。
西井氏:50%の差がでるのはすごいですね。有り難うございました。続いての事例についてもご紹介をお願いします。
原氏:はい。我々はCRM施策への優先度が高まってきたところで、リピート通販の根幹である「CRMを通してお客様に継続購入いただける仕組み」の確立を目的とし、2018年1月にプロジェクトを立ち上げました。
このプロジェクトにはLTVアップという短期的なLTVを上げていくことと、ファンレベルアップという2つの目的があります。特に今日はファンレベルアップについてお話したいと思います。
まずなぜ、ファンレベルの向上が大切なのかというと、ファンの熱量が高まり、ファンが増えていくことがLTVの向上につながるためです。また、ファンの方による口コミは新規顧客の呼び込みにもつながり、広告による新規獲得施策が厳しさを増す中で有効な施策となる面もあります。そして我々は、このファンレベルアップ施策では、「ファンの度合い」を正しく定義し、「収益」と相関性のある指標を導きだすことが重要だと考えています。
原氏:そのため、我々はプロジェクトの中でお客さんの熱量行動のパターンを特定・分類し、LTVと相関関係があるかどうかを分析しました。具体的には、お客さんの代表的な熱量行動に点数をふってファンレベルを数値化。LTVとファンレベルという2つの軸でセグメントして、その相関関係をみるというものです。
西井氏:お客さんの熱量行動はどのように特定したのでしょうか?
原氏:お客さんの熱量行動は「ファンジャーニーマップ」を作って洗い出しました。お客さんの行動をひとつひとつ洗い出して分析し、どのような体験と行動によって熱量が高まっていくのかを整理したものです。
そして次に、こうしたファンの熱量行動とLTVとの相関関係の有無をみるため、年齢や性別などの属性影響を全部排除し、「熱量行動」の有無によってLTVにどれだけ差があるのかを調べました。その結果、例えば会報誌のお便りを返送した経験があるお客さんは、返送経験のないお客様に比べて年間LTVが1.3倍ほど高くなることがわかりました。
そして、この分析結果を、商品に関する情報取得などの「商品に関心がある行動」、アンケートの回答や工場見学など「ブランドを楽しむ行動」、ギフトやおすそわけなどの「推奨行動」の3つにグルーピング。横軸にグループごとの熱量行動、縦軸にLTVをとり、その相関関係を分析しました。
原氏:そうすると、例えば定期に入りたてのエントリー層のお客さんは、熱量が高いファン行動をとっても、あまりLTVは上がっていきません。しかし、ある一定のLTVを越えると、熱量の高まりとともにLTVが上がっていくことが見えてきました。この因果は特定できていませんが、相関関係はかなり見えてきたと思います。
そしてLTVが高いロイヤル顧客層を増やすためには、単純に商品購入を訴えて、顧客単価の向上に終始するのではなく、ファンレベルアップを行う施策や、それらを組み合わせた複合的なアプローチも必要だということも分かりました。
西井氏:具体的にはどんな施策を行っているのでしょうか?
原氏:例えば、いままでクレームの場合しか対応してこなかった会報誌の返送のお便りを、全ての内容にきちんと対応することに取り組んでいます。これは、会報誌の返送回数が増える行動とLTVが上がることに相関があることが分かったためです。
同時に、お客様からの返信内容を会報誌で開示していくことにも取り組んでいます。開示することによって、返送してくれる方を増やしたいと考えています。こうした購入訴求以外のお客様とのコミュニケーションは、今後さらに重要になると思います。
西井氏:有り難うございます。LTVを上げていこうと思った時にやはり「購入金額」や「回数」にとらわれがちですが、こうした違った角度から捉えることで、新しいCRMやLTVヘのアプローチができていくのかもしれませんね。
アフターコロナに取るべきCRM施策とは?
西井氏:では最後に、これまでの話を踏まえて、今後CRMの取り組みをどうしていくべきだと考えていらっしゃるかお聞かせください。まずは佐藤さんお願いします。
佐藤氏:はい。コロナ禍においてはお客様がなかなか店頭に行けないなど、オフライン接点のコミュニケーションが難しくなってくると思っています。そのため、これまで通り、同梱物やDMなどのオフラインツールでのコミュニケーションは継続しつつ、それに加えてデジタルでお客さんと接点を作っていくことは大切だと考えています。
また、以前よりテストを始めていたリアルな場でのコミュニケーションも今は提供できない状況にあります。今後は、Instagramなどデジタルのプラットフォームを活用したお客様との交流機会の創出施策についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。
西井氏:ありがとうございます。まさに今日のようなセミナーをオンラインで開催するのも新しいやり方の1つですよね。こうした場を作るための新しいやり方は他にもあるのではないかと思います。続いて長谷川さんお願いします。
長谷川氏:コロナによってお客様の行動や意識は当然変化していますが、個人的にはそこまで劇的な変化にはならないのではと思っています。劇的に変化するというよりはCRM施策など、今まであったものの重要性や必要性が増すというイメージです。 また、弊社が今後さらに取り組んでいかなくてはいけないと思っているのはブランディングです。お客様からどう思われるのかという部分をしっかりと磨き、ファンを作るのはもちろん、良いブランドだと言ってもらえるような施策に取り組んで行きたいです。
西井氏:有り難うございます。最後に原さん、お願いします。
原氏:はい。コロナ禍において自分の行動で変化したことを整理すると、大きく3つくらいに分かれると思いました。まず1つは人や現金を避けるようになったことです。それにより今後電子マネーなどの決済手段が拡張していき、Amazon payやdマネーなどの重要性が高まると考えています。
また様々な意識も高まったと感じています。特に、健康意識はとても高まりました。そのため、商品、ブランドの生活者便益について再考する必要性があると思います。
さらにこの短期間で、社会とのつながりを重視する意識や、社会貢献への意識が大きく高まったと考えています。これは、企業活動において非常に重要であり、社会全体における企業の在り方や、生活者とどうつながるべきなのかというブランディングの部分をもう一度考え直す時期にきているのかなと思います。
西井氏:ありがとうございます。今日は本当にCRMの在り方から具体的な取り組みまでたくさんのお話をいただきました。
みなさんのお話を聞いていて共通していると思ったのが、やはり自社のお客様をきちんと理解しようという姿勢だなと思っています。その企業ごとにお客さんの行動や意識は当然違います。他社が成功しているから自分たちもうまくいくというのではなく、自社のお客さんについてその違いを理解して適切なコミュニケーションを行うことが、特にCRMの領域においてはより大切なのではないかと感じました。
今後新型コロナウイルス感染症の流行がどのようにに収束していくのかまだ見えていない部分もありますが、ぜひ自社の顧客への理解を深め、CRM施策に生かしていただければと思います。本日は本当に有り難うございました。