新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナウイルス)は、中国・韓国・日本といったアジアに止まらず、欧米各国を含め世界中に拡大。WHO(世界保健機関)はパンデミック宣言を出しました。
日本国内においては教育機関の臨時休校、在宅勤務の推奨やイベント自粛など、感染拡大を防ぐための様々な対応策が講じられています。一方で、それに伴い休校中のこどもの生活に対する不安や不慣れな在宅勤務への切り替えといった課題も多く浮上。このような課題に対して、複数の企業がそれぞれのサービスや商品を活用した支援策を打ち出し始めています。
「エシカル(=倫理的、道徳的)」がマーケティングキーワードとして注目されるなか、企業は社会の危機的状況にどう向き合っていくべきなのでしょうか。
今回は、拡大する新型コロナウイルス感染症に対応した施策を打ち出している事例を紹介しながら考えていきたいと思います。
商品を提供することによる貢献事例
まず初めに、自社の商品の提供を通じて支援を行なっている事例をご紹介します。
【事例① こども食堂に自社の商品を提供/ベースフード株式会社】
新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休校で課題とされていることの1つに、給食がなくなったことによる子どものたちの昼食の確保があります。
この課題に対し、地域交流拠点と子どもの貧困対策を目的に全国に広がる「こども食堂(※)」では、子どもやその家庭に食材の受け渡しや配送の形式で食材を提供する取り組みを行なっています。
全国のこども食堂のネットワークを支援する「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」は、この取り組みに対する支援策として、無償で食品を提供する企業を募集。ベースフード株式会社はこの取り組みに賛同し、同社の「BASE BREAD」の提供を行いました。
ベースフード社が販売する商品の特徴は、主食のみでもバランスよく栄養が取れる「完全食」であること。臨時休校によって懸念される子どもの栄養不足の解決に、同社の製品はうってつけの商品であり、自社製品の価値を活かした貢献事例と言えます。
参考)むすびえによるリリース/ベースフード社Facebookページの投稿
こども食堂とは
子ども1人でも利用できる、無料また低額の食堂。地域の交流拠点を作り、貧困に苦しむ家庭を支援すべく全国に広がっている取り組み。
【事例② 非対面式置き配BOXを無償配布/Yper株式会社】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、Yper株式会社は同社の製品「OKIPPA」の数量限定無料配布を実施しました。
OKIPPAは、吊り下げ式の簡易宅配ボックスで、不在・在宅に関わらず、非対面で荷物を受け取れるサービスです。玄関のドアノブに吊り下げられることから、スペースが少ない集合住宅などでも宅配ボックスを設置することができる特徴があります。
OKIPPAを利用すれば、リモートワーク中でも作業を中断することなく荷物の受け取りが可能。特に、不要な外出を避け、ECによる買い物が増加傾向にあるこの状況下においては、大変有効な商品と言えます。
参考)本件についてのプレスリリース
サービスの提供を通じた貢献をしている事例
提供できるのは商品だけではありません。サービスの提供による取り組み事例もあります。
【事例③ 教育系コンテンツの提供/ヤフー株式会社】
臨時休校時の子どもへの教育支援の1つとして、ヤフー株式会社では子供向けサービスである「Yahoo!きっず」のなかで「おうち学校」と称した教育コンテンツの提供を始めました。「おうち学校」では、国語や算数といった主要教科のみならず、図工や体育など自宅学習が難しい教科に関するコンテンツも提供。
また、子どものインターネットサービスの利用時に懸念される有害コンテンツへの接触などの不安も、子どもが利用することを目的に作られた「Yahoo!きっず」上でコンテンツを提供することにより軽減することができています。
参考)おうち学校
【事例④ Web会議システムを期間限定無償提供/ベルフェイス株式会社】
感染拡大防止策として、多くの企業で在宅勤務が推奨されているなか、在宅勤務に対応するインフラ不足に悩む企業も少なくありません。こうした状況をうけ、Web会議システムを提供するベルフェイス株式会社ではWeb会議システム「bellFace」を無償提供しています。
営業特化型と謳う同社の製品は、企業の遠隔営業を支援するシステムとして様々な機能を搭載。在宅勤務の推奨により営業活動に悩む企業の支援策としてその製品価値を発揮しています。また、同社では期間中は通常の営業活動を中断し、導入ポートにあたることを明言しています。
参考)本件についてのプレスリリース
企業のもつネットワークを活かした取り組み事例
企業の商品やサービスを提供する施策以外に、自社のもつネットワークを活かした取り組みを実施している事例もあります。
【事例⑤ 高校生向け農業体験/オイシックス・ラ・大地株式会社】
有機・無添加食品やミールキット・有機野菜の販売を行うオイシックス・ラ・大地株式会社では、高校生を対象とした農業体験企画に取り組んでいます。
新型コロナウイルス感染症流行によって休校となる学校が相次ぐ今だからこそ、自然のなかでいつもと違う体験をしてもらいたいという思いで実施されているこの企画。
生産地との関係性をいかした同社だからこそ、実施可能な取り組みです。
参考)農業体験の参加者募集ページ
【事例⑥:飲食店の”未来のお客さんを作る”支援/株式会社キッチハイク】
食べるのが好きな人同士を結ぶアプリサービス「KitchHike」を提供している株式会社キッチハイクでは、飲食店業界を応援する「#勝手に応援プロジェクト」を立ち上げました。
今は外食を控えている利用者が、キッチハイク上で飲食店の未来の売り上げに繋がるチケットを購入、その売り上げを飲食店側に支払うという仕組みで、飲食店の「今」の売り上げを作っていく取り組みです。
日頃から蓄積された飲食店との信頼関係があり、食に関心の高いユーザーを多く抱える同社ならではの取り組みは、SNS上でも話題となり、支援の輪が広がっています。
参考)KitchHike
自社の製品やサービス、資産の真価や価値の再発見ができる機会と捉える
以上、今回は3つの切り口から6つの事例を紹介しました。それぞれ対応する課題や提供している支援施策は異なります。しかし、いずれの取り組みにも共通して言えるのは、各社ともに商品やサービス、もっている資産が提供できる価値を最大限活かしているということです。
このような支援施策の大半は無償や利益度外視で実施されているものが多く、実施の決断をすることは容易ではありません。また、こうした取り組みを実施する際には必ず「いつまで施策を継続すべきなのか」を決める必要があります。事態の収束が不透明な段階においては、施策期限の設定もまた難しい課題です。
しかし、世の中の危機的状況に対して、自社の商品やサービスがどう貢献できるのかを考えることはとても有意義であると言えます。もっと言えば、自分たちの商品やサービスを見つめ直し、価値の再発見や真価を見出す良い機会と捉えることもできるのではないでしょうか。
さらに、一歩を踏み出し行動することは、これまでなかった新しい生活者とのつながりが生まれるきっかけにもなるはずです。短期的な負担に目がいくこともありますが、長期的に生み出される価値も確かにあるでしょう。
我々に今求められているのは、正しい状況の整理・把握。そして、それに対して自分たちなら「誰に対して、何ができるか」を考える姿勢なのかもしれません。