1日から入れるレジャー保険「Snap Insurance」(以下「Snap」)(※1)を2019年8月にローンチし、話題を集めた第一生命保険株式会社(以下、第一生命)。スマホ完結型の、新しく、簡単かつスピーディーな保険体験を提供する同社は、ソーシャルメディアを中心としたプロモーションに取り組み、若年層への認知を拡げています。

今回は、第一生命 営業企画部の福辺浩嗣氏と松村光一朗氏に、同社が実践する若年層向けプロモーションの内容について詳しくお話を伺いました。

(右から)第一生命保険株式会社 営業企画部 福辺浩嗣氏、松村光一朗氏(所属部署は取材当時のものです)、アライドアーキテクツ株式会社 今崎裕二

「Snap」誕生の背景にあったのは、営業環境の変化と若年層との接点強化

-今日は「Snap」の販売に至った経緯や特徴、プロモーション戦略について教えていただければと思います。まずは「Snap」をリリースするに至った背景をお聞かせください。

福辺氏:背景としては、ミレニアル世代やZ世代(※2)と呼ばれる若年層とのタッチポイント(※3)をどのように深めていくかが課題としてありました。近年、弊社も含め生命保険会社において、営業環境が大きく変化しています。これまでは、当社が「生涯設計デザイナー」と呼んでいる営業担当者がお客さまのご自宅やお勤め先を訪問することで、若年層を含めた幅広い層へのアプローチができておりました。しかしながら、現在はご家庭や職場への訪問が難しくなり、そういったお客さまとの接点が確保しにくくなっております。このような状況の中で、とりわけ、若年層へのアプローチの流れが作りにくく、どのようにタッチポイントを持ち、深めていくかが課題としてありました。

若年層とのタッチポイントを考えたとき、例えば20歳の独身のお客さまに、家族に遺すための数千万円の死亡保障をお勧めしても自分ごと化が難しく、ピンとこないと思います。そのような中で、簡単な手続きで加入でき、若年層も必要性を感じる保険商品をデジタルの世界で販売することによって、ミレニアル世代やZ世代とのタッチポイントが確保できるのではと考えました。この商品をきっかけとして、将来的には第一生命のファンになっていただき、家庭を持ったタイミングなどに、弊社の保険商品に目を向けていただく流れをいかに創っていけるかが本取り組みの意義だと考えております。

1:Snap Insuranceは、第一生命が保険募集代理店として、株式会社justInCaseの少額短期保険商品を提供するためのWEBアプリサービスである。

2:ミレニアル世代は1980年代から2000年代初頭に生まれた人に対して用いる表現。またデジタルネイティブと称される世代でもある。Z世代は、1990年代後半から2000年生まれの世代を表す。

3:タッチポイントとは、顧客と直に接してコミュニケーションを行うための顧客接点のこと。

第一生命株式会社 福辺浩嗣氏
第一生命保険株式会社 福辺浩嗣氏

-今回の商品「Snap」はレジャー保険である点が特徴だと感じましたが、なぜ保険の中でもレジャー保険を若年層へのアプローチ商材として採用しようと思われたのですか。また、「Snap」を「スマホ完結型」のサービスとした背景も教えてください。

福辺氏:若年層が何を求めているのかのインサイトを把握するため、ユーザーインタビューを実施しながら、ビジネスコンセプトを考えることから始めました。若者が必要とする保険は何かを掘り下げていく中で、いろいろなアクティビティのリスクを補償するレジャー保険が若者と親和性が高いジャンルだということが見えてきました。さらに、デジタルネイティブな若年層に向けて、スマホで加入できる簡便さは、最低限必要な条件だということも見えてきました。また、チャット風のトーク形式で保険の申込みができる、自分が加入した保険商品を一緒にレジャーに行く友人とシェアすることができる機能を備えることで、若者に向けたプラスαの付加価値を生み出すことを意識しました。

「Snap」申込み画面
「Snap」申込み画面の一例。トーク形式で問い合わせに答えることでお勧めのプランを確認でき、そのままスマホ上で申し込みを完了できる。一緒にレジャーに行く友人に情報をシェアすることも可能。

プロモーションに求めたのは、従来のイメージを壊す刷新性

-次に、「Snap」のプロモーション戦略について教えてください。若年層にアプローチするために、どのような手法を選択したのでしょうか?

福辺氏:第一生命では、加入から保険金の支払いまでをデジタルで完結できるサービスは初めて提供するものだったため、それをどのようにプロモーションしていけば若年層に振り向いてもらえるのか、手探りの状態でのスタートでした。ただ商品がデジタル接点ということから、デジタルマーケティングという点は切り離せないため、デジタルの領域でのプロモーション施策を色々とチャレンジしてみようと考えていました。そして、その中でもどういったものが若年層に効果的であるか等の知見を得ることで、第一生命のこれからのプロモーションの参考となるように取り組んでいくことを意識していました。

松村氏:従来の保険に対して「なんとなく硬い」、「分かりづらい」、「考えるのが面倒」というイメージを持つ方もいらっしゃるのではと思います。私としてはそんなイメージを刷新することができ、ユーザーから全く新しい商品と感じていただけるようなプロモーションが必要だと考えていました。

第一生命株式会社 松村光一朗氏
第一生命保険株式会社 松村光一朗氏

松村氏:そのような中、今回まず第一弾として取り組んだのは、商品の根幹を表す「コンセプトムービー」の制作です。動画を見ていただいた方に、ゴルフやスキー/スノーボード、ダイビングなど従来から保険のイメージのあるアクティビティに限らず、キャンプ、フェス、スケボー、トレッキングなど、より幅広いアクティビティにも利用できる商品であることが伝わり、「自分ごと化」が促進されるように意識しました。

動画のキーコンセプトは、「ムチャしようぜ」。さまざまなアクティビティのシーンと前向きな音楽を動画に盛り込み、「1日から入れる、チャレンジを応援するレジャー保険」として訴求しました。

このコンセプトムービーを通じて「保険=事故を起こしたり、ケガをした際に想起されるネガティブな印象なもの」から「チャレンジをサポートしてくれるポジティブなもの」に認識が変わるとよいなと考えています。

「ムチャしようぜ。」をキーコンセプトに制作された「Snap」コンセプトムービー。「Snap」サービスサイトのTOPや、広告施策のクリエイティブに利用されている。

福辺氏:「ムチャしようぜ。」というキーコンセプトが最初に出てきたときは、「ムチャしようぜか…。保険会社としてこのような言い方をして大丈夫なのかな…」と思いましたが、これまで切り込めていなかった若年層への切り込む視点でみると、非常に良いキーコンセプトになったのではと思っています。社内やSNSでの評判も上々です。

-その他、どのような施策に取り組みましたか?

松村氏:リスティング広告やFacebook、Instagram、TwitterなどのSNS広告、YouTube広告など各種デジタル広告に出稿しました。ターゲットにあわせて細かくクリエイティブを分ける、動画・静止画両方の活用、イベントやシーズンに連動して出稿するなど、さまざまなパターンをテストしました。

Instagramのクリエイティブでは、サーフィンや釣りなど、特定の利用シーンを表現したイラストを用いたカルーセル広告の効果がよかったため、そこからサッカーやテニス、キャンプなど、利用シーンの幅を広げたパターンを追加し、ABテストを行いました。キャッチフレーズについても分析し、「1日から入れる」というワーディングの訴求は効果が高いことが判明しました。フレーズ分析からも「簡単かつスピーディーに加入できる」ことが若年層のニーズに刺さることを改めて実感しました。

また、潜在層と常に繋がることができる場として「Snap」の公式Twitterアカウントも立ち上げました。フォロワー増加を目的としたTwitterキャンペーンも開催し、アカウント開設から約4カ月で15,000人の方と繋がりを持つことができました。

TwitterアカウントではTwitterの特性であるリアルタイム制を加味し、季節や「○○の日」といったトレンドにあわせて「Snap」を紹介するものから、「Snap」サービスの操作性を見せる投稿、キャラクターを用いたラフな投稿など、幅広いコンテンツを展開しています。今後は投稿の種類毎の反応を見ていきながら、どのような投稿がユーザーとマッチするのかをより詳細に検証していきたいと思っています。

Snap Insurance【公式】Twitterアカウント
Snap Insurance【公式】Twitterアカウント。2019年8月に開設し、現在のフォロワー数は約15,000人(2020年1月時点)。
https://twitter.com/snap_insurance

次なる戦略は、ユーザーから波及していく仕掛けづくり

-最後に、今後のプロモーション戦略についてお聞かせください。

福辺氏:今は、認知拡大をメインの目的としたプロモーションを展開していく中で、媒体の良し悪しなどが見えてきたところです。これからは、認知してくれた方に保険の提供価値を感じていただき、第一生命のファンになっていただけるかが、取り組みの重要なポイントになると考えています。トライアルを重ねていく中で、どういう人たちが興味を持ってくれているのかや、相性の良い媒体を知ることができたので、今後は媒体を絞りながら、ユーザーが「Snap」を体験するに至るためには、生活者の動線上でどのように接点を持つことが望ましいかをより一層追求していきたいと思っています。

また、認知と理解の両立が大切になってくるため、今後は、「スキー場でのプロモーション」など、「Snap」を使用するシーンにあわせたプロモーションを行い、実際に商品を使っていただきたい潜在層の行動導線上にコミュニケーションのタッチポイントを創る必要があると感じています。実際に、現在「Snap」を使っていただける方はリピート率が高く、10回以上使用していただいている方もいらっしゃいます。一度使っていただければ必ずその便利さを実感していただけると思っておりますので、今後はいかに認知層に「体験」いただくかが課題だと考えています。

松村氏:現在はまだ広告等にコストをかけるフェーズだとは思いますが、これからはSNSでの施策に注力し、ユーザーから波及していく仕掛けを作っていくことをイメージしています。自然発生的にポジティブな口コミが伝わっていくなど、SNS独自の特性をプロモーションに組み込めると理想ですね。今はTwitterも、商品プロモーションのための場として活用していますが、これからはお客様の声が聞けるメディアとしても活用していければと思っています。

今後はUGC(※4)など、お客様の声を活用した施策にもトライし、いずれは「Snap」がレジャー保険として第一想起されるブランドに成長させていきたいです。

4:UGC:User Generated Contentsの略。企業ではなく、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツのことを指す。 最近はInstagramなどSNSに投稿された写真や動画などが UGCとして注目されている。

第一生命株式会社 福辺氏 松村氏