
デジタル広告市場において、かつてはターゲティングの精度こそが成果の鍵とされてきました。しかし今、その前提が大きく塗り替えられようとしています。AIの進化によってMeta広告のアルゴリズムは飛躍的に高度化し、「訴求軸の多様性を持ったクリエイティブ」こそが成果を左右する時代が到来しています。
しかし現場では、制作リソースの不足や担当者の経験・勘への依存が課題として根強く残ります。多くのBtoCブランドが「クリエイティブの重要性はわかっている、だがどう実践すればいいかわからない」という壁に直面しているのが実情です。
そこで今回、Meta日本法人Facebook Japan 営業部長の水谷氏と、アライドアーキテクツ株式会社 執行役員の井出雄平が対談を実施しました。Metaが推奨するクリエイティブ運用の思想的背景と、アライドアーキテクツがMetaと連携して提供するデータとクリエイティブを統合した運用フレームワーク「クリエイティブフィードバックループ for Meta」のアプローチがどう呼応するかを語り合っています。データとクリエイティブを軸に、BtoCブランドのマーケターが今向き合うべきマーケティングの本質を語り合っていただきました。
Meta広告における「クリエイティブの多様化」という大きな壁
井出:
Meta広告のクリエイティブ運用に課題を感じているBtoCマーケターが非常に多い印象があります。プラットフォームの視点から、現場の実態をどのように捉えていますか?
水谷氏:
さまざまな企業のご担当者様と話していても出てくる話ですが、クリエイティブの多様化——つまり1つの商品・サービスに対して、異なる切り口や見せ方の広告を複数用意して配信していくこと——が大きな壁として課題に挙げられています。Meta広告のアルゴリズムが進化し、より多くのクリエイティブの中から最適なものを届けられるようになった今、クリエイティブの多様化の重要性はますます高まっていますが、制作リソースの問題もありますし、そもそものアイデア出しの難しさもある。それ自体の重要性は認識されてきていますが、体制やリソースの都合でなかなか実現できていないというのが一般的な状況です。
井出:
多様化の方向性についても、大量に作ればいいのか、質とのバランスをどう取るのか、各社の取り組み状況とMetaさんの推奨のあいだに、まだ大きな温度差があるということですね。
水谷氏:
多様化させる軸としては、実は大きく2つあります。「フォーマットの多様化」と「訴求軸の多様化」です。前者の静止画から動画にする、カルーセルにする、縦横比を変えるといった変更は比較的イメージしやすく、AIの普及もあって取り組みやすくなっています。各社ともやろうとはしているし、一定進んでいる。一方で後者の「訴求軸をどう多様化させるか」がまだのびしろとして残っています。
井出:
訴求軸については、担当者の経験や勘への依存が根強いですよね。過去の成功体験に引っ張られて同じ切り口に戻ってしまうケースも多い。
水谷氏:
まさにそこなんですよね。だからこそ「この商品・サービスが本来持っている価値とは何か」というところからきちんと訴求軸を見出して多様化していくアライドさんのアプローチは、個人的にとてもフィットすると感じています。ユーザーに求められているものでもありますし、私たちのプラットフォームが求めているものでもあります。
Agency Sales and Partnerships 営業部長 水谷氏
アルゴリズムの根底にある「ユーザーファースト」思想とAIの進化
井出:
少し話を広げて、Metaのプラットフォームとしての思想・アルゴリズムの変化についてもお聞かせください。
水谷氏:
思想として根底にあるのは一言で言えば徹底したユーザーファーストです。FacebookやInstagramにおいてユーザーの意思に関係なく広告を見せるのではなく、 ユーザーにとって心地よい体験を提供すること、好きなもの・欲しいものを届けることがアルゴリズムの根底にあります。いいね、コメント、保存、動画の滞在時間、カルーセルのスワイプ数——ひとりひとりのユーザーが今どんなコンテンツを好きで、これから何を好きになりそうかをあらゆる角度から捉えようとしています。
井出:
そのアルゴリズムに、近年AIの進化が大きく影響していると伺っています。
水谷氏:
そうですね。特にここ1、2年の変化で言うと、弊社の「Meta Andromeda」というAIモデルによってマッチングの精度が格段に向上しました。公開情報の処理能力では、それまでの約1万倍の精度とされています。以前は、例えば100件のクリエイティブの中から最適なものを探していたところが、今は1万件・10万件・100万件規模のプールの中からユーザーごとに最適なものを絞り込めるようになってきた。そうなると、最初のプールが広ければ広いほど良いという考え方が以前にも増して強くなっています。
井出:
動画についてもここ数年で急激に重要性が増していますね。
水谷氏:
そうなんです、正直私たちの想定を超えたスピードで伸びています。数年前に発表されていた動画広告市場の成長予測が、すでに2年ほど前倒しで達成されている状況です。Instagramにおける滞在時間の60%以上がリールなど縦長動画に占められており、「映える写真のInstagram」から大きく変化してきました。ただ、この流れは私たちが先導したというより、ユーザー自身の行動がそちらに向かったので私たちが合わせていった面が大きい。ユーザーが先にいて、アルゴリズムはそれについていっているという感覚です。
どのフォーマットをどのユーザーに当てるか——「コンパウンド」という接触設計
井出:
動画が重要といっても、すべてを動画に一本化すればいいわけではないですよね。
水谷氏:
そうなんです。ユーザーひとりひとりが好きなフォーマットは違います。たとえば私自身はカルーセルが好きで、横にスワイプしながら段階的に情報を見ていくのが性に合っている。プラットフォーム側ではそのユーザーの行動特性を把握しているので、同じブランドの広告を出す際にも、ある人には動画で、ある人にはカルーセルで出す、という出し分けを時間帯なども加味して行っています。
井出:
そうなると、「どのフォーマットをどのユーザーに当てるか」を人間側で考える必要はなくて、バリエーションを揃えておいてアルゴリズムに任せるという発想になりますね。
水谷氏:
まさにそうです。マーケターや代理店がやるべきことはひとりひとりの好みを予測することではなく、ちゃんとバリエーションを用意しておいて、出し分けの判断はプラットフォームのアルゴリズムに委ねる。そのほうが確実で、賢い戦略です。また最近弊社のグローバルでも提唱されているのが「コンパウンド」という考え方です。これは、かつてのように1本の広告で長時間のアテンションを獲得するのではなく、多様なアイデア・クリエイター・フォーマットによって複数の短い接点を蓄積するアプローチです。最初の接触はブランドビジュアル、2回目以降で商品訴求へ、といったジャーニーをAIが学習しながら組み立てていく。
井出:
これも属人的に設計するのではなく、アルゴリズムが最適化していくというわけですね。
水谷氏:
その通りです。たとえば「スキー場を予約した人はその後スキーウェアを検討するだろう」という購買ジャーニーを踏まえた配信もその一例です。こうした精度がAIの進化によってどんどん高まっています。
複数回の接触をどの順番で、どのフォーマットで届けるかAIが自動で最適化し、購買意向を高めていく。
パートナーシップ広告の重要性から見る“発信者の多様化”
井出:
最近、パートナーシップ広告という第三者発信の広告の重要性が高まってきているという話をよく聞くのですが?
水谷氏:
そうなんです。 これは裏返すと、企業アカウントから出す広告だけでは届きづらいユーザーが増えてきているということでもあります。
第三者の声として届けることで、広告としての摩擦を減らす。
井出:
Z世代の方々の話でよく聞きますね。
水谷氏:
まさにそうで、 Z世代の方々と実際に話していると、企業アカウントから出てきた広告だとわかった時点で、もうそこでマイナスポイントになっているという声も聞きます。どれだけ訴求軸をバラけさせ、魅力的なオファーをつけても、発信源が企業アカウントである以上、その壁は越えられない。
井出:
「何を言うか」だけでなく、「誰が言うか」が問われる時代ですね。私たちも実際、企業アカウントからではなくユーザー視点で作ったクリエイティブや、第三者発信のコンテンツがCVRを大きく動かす場面を何度も目の当たりにしています。企業アカウントからの配信に限らない使い方も、積極的に選択肢に入れていくべきだと感じています。
水谷氏:
そういう意味でも、多様化はフォーマットや訴求軸だけでなく、発信者の多様化も含めて考える必要があります。ユーザー発信のコンテンツを分析しているアライドさんのようなアプローチは、そこと相性がいいと思っています。クリエイティブの作り方としても、顧客視点を根本に置くという発想にもつながっています。
井出:
ありがとうございます。「顧客起点」というのは私たちが創業以来大切にしてきた部分でもあるので、Metaさんの思想と重なるところを改めて感じます。
クリエイティブフィードバックループの真価——データと上流設計で「属人化」を超える
井出:
こうした文脈を踏まえた上で、私たちの「クリエイティブフィードバックループ for Meta」のアプローチについてご意見頂ければと思います。
「クリエイティブフィードバックループ for Meta」は、SNSの発話データや競合のSOV分析、レビュー・コールセンターデータなどあらゆるVOCを分析して訴求軸を設計し、それに基づいてクリエイティブを制作・配信。Metaの広告スコアで勝ち負けを評価しながらPDCAを高速で回していく、データとクリエイティブを統合した運用フレームワークです。
データ分析で訴求軸を設計し、クリエイティブに落とし込んで配信・検証。結果を次の分析にフィードバックし、仮説精度を継続的に高めていく。
水谷氏:
親和性は非常に高いと感じています。クリエイティブの多様化が重要だとなった時に「なんとなく変える」のではなく、根拠に基づいて訴求軸をずらしていく・バラけさせていくアプローチは、弊社がプラットフォームとして進めたい方向性と一致しています。
井出:
「なんとなく作ったクリエイティブ」からの脱却という観点で、現場でよく出てくるキーワードはありますか?
水谷氏:
「属人化」という言葉は本当によく出てきます。どこまで行ってもフレームワーク化されておらず、クリエイティブ担当者個人の目線でPDCAが回っているケースが多い。内製化に力を入れているブランドでも、再現性やスピード感をどう持たせるかという課題は、よく聞きます。
井出:
CPAやCTRでKPIが部署ごとに分断されていて、統合的に見られていないという課題も多いですね。
水谷氏:
そこも本当に大きな問題で、御社のアプローチで素晴らしいと感じるポイントの一つが上流、つまり広告配信だけでなく、訴求軸の設計やバリュープロポジションの定義まで遡って関わる仕組みづくりがなされているところです。例えばコスメカテゴリーで価格訴求から脱却したいというケースは多いのですが、価格訴求の幅を広げても価格に食いつく人しか反応しない。「本当にビジネス全体の収益性が上がるのか」という問いに向き合えないまま小さくPDCAが回り続けてしまう。
井出:
結局、訴求軸の話はバリュープロポジションの再定義という話でもありますよね。実際の事例で言うと、弊社がご支援させていただいているニチレイフーズ様のケースが象徴的です。冷凍宅配弁当・おかず「きくばりごぜん」という商材において「遠方から高齢の家族を心配する子世代」というCEP(カテゴリーエントリーポイント)をデータから発見し、そこに向けたクリエイティブで目標CPAを大きく下回る成果につながりました。コモディティ商材でも、データ起点で新たな需要を掘り起こせるという好例だと思っています。
水谷氏:
まさにそうだと思います。「遠方から高齢の家族を心配する子世代」というのは、属性でのターゲティングでは絶対に辿り着けない切り口ですよね。そのクリエイティブに反応するユーザーにアルゴリズムがきちんと届けてくれるからこそ成立する。SEOでキーワードを買うだけでは届かない世界で、これがInstagramというプラットフォームの強みでもあります。そこをクリエイティブに接続されたループで回せれば、全体として意味をつくり続けられる。さらに言うと、マーケターの方々が社内で多様なクリエイティブへの挑戦を推進しようとする時に、過去の成功・失敗体験や社内調査結果が障壁になるケースも多い。「本当にお客様はこう言っているんですよ」という客観的なVOCデータが、社内説得のための武器にもなる。そういう観点でもソリューションとして使われる価値があると思います。
メディアプランの先にある役割——データとAIで伴走する代理店・マーケターへ
井出:
今後の展望として、代理店やマーケターの役割の変化についてはどのようにお考えですか?
水谷氏:
個人的には、これからの代理店の価値はデータとAIをどう組み込んでいくかという方向に移っていくと感じています。従来のメディアプランの設計や広告配信業務ではなく、より戦略・業務設計に近い役割へとシフトしていく。プラットフォーム側のAI活用が進むことで、ターゲティングやクリエイティブの最適化をプラットフォームが担う部分がどんどん増える。そうなった時の代理店の価値の重心は、必然的に変わっていかざるを得ません。
井出:
私たちも同じことを感じています。クライアントのマーケターの右腕として、実行と戦略の両面で伴走できる存在になれるかどうか。例えば様々なデータがサイロ化したまま属人的に処理されているケースで、それをまとめて扱える環境を一緒に作っていくといった動き方ですね。
水谷氏:
まさにそうだと思います。プラットフォームが持っていないコールセンターデータ、購買データ、POSデータまで含めて、真の意味でのデータドリブンな運用に向かっていくためには、そうした幅広いデータを統合して扱える伴走者が必要になります。それを属人化させない仕組みとして構築するのはハードルが高い。だからこそ、そこにフォーカスしたソリューションが広まっていってほしいですし、期待しています。
クリエイティブがターゲティングを担う時代へ。Metaの未来とメッセージ
井出:
アルゴリズムをハックしようとする動きや、クリエイティブを大量生産すれば成果が上がるという方向性もありますが、根本に「ユーザーファーストで考える」という思想があれば、アルゴリズムの細かい変化に一喜一憂しなくても結果的に良い成果につながる——そういう理解でよいでしょうか。
水谷氏:
そう思います。ユーザーファーストを念頭に置いておけば、今後あらゆる変化が起きても怖くないとも言えます。縦長動画が重要になったのも、私たちが先導したというより、ユーザーがその方向に向かったので私たちが合わせていった。プラットフォームの動向を追いかけるより、その先にいるユーザーと市場をしっかり見ることが大事です。
井出:
今後Metaとして特に注目しているトレンドや、次のフォーマットはありますか?
水谷氏:
注目しているのはThreads(スレッズ)です。日本でも急速に伸びており、テキストコミュニケーションの場が広がることで、動画や静止画からは取れなかったユーザーの声がデータとして蓄積されていく。そうするとユーザーの行動データというシグナルが増え、広告もオーガニックも精度が高まるという好循環が生まれます。アライドアーキテクツさんのようにVOC分析を強みとしているパートナーとの連携においても、面白い可能性が広がると思っています。
さらに少し先を見ると、スマートグラスのようなデバイスの進化も視野にあります。マーク・ザッカーバーグが「ユーザーが見ているものを見て、聞いているものを聞く」と表現するようなデバイスが普及すれば、スマートフォンすら取り出さない時代が来るかもしれない。リアルな行動インサイトを捉えるという意味で、マーケティングのあり方も大きく変わっていくでしょう。
井出:
ありがとうございます。最後に、SMMLabの読者であるBtoCブランドのマーケターへメッセージをいただけますか?
水谷氏:
マーケターの方々が日々やろうとしている「データ×クリエイティブ」というテーマは、間違いなくやるべき方向ですし、Metaのプラットフォームとしての方向性とも完全に一致しています。ぜひその方向で進めてほしいのですが、一方で実行は簡単ではない。「クリエイティブフィードバックループ for Meta」のようなソリューションを上手に活用して、属人化させない形で再現性を持たせた運用を実現していただくことを強くお勧めしたいと思います。
井出:
「クリエイティブでターゲティングする」という発想が、まだ多くのマーケターにとって新鮮に映る今だからこそ、Metaさんと一緒にこの変化を市場に届けていける意義があると感じています。引き続きよろしくお願いします。
Kaname事例の詳細はこちら
▶キューサイ|データプラットフォーム「Kaname.ax®」独自構築で挑む、VOC分析強化の組織変革プロジェクト


