「ロボティクスで、人間のちからを引き出す」をミッションに、LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発・販売を行なっているGROOVE X株式会社。
同社のマーケティングの特徴は、YouTubeやInstagram、Twitter、LINEなどのSNSをフルに活用し、デジタル上の接点を起点としたコミュニケーション施策に注力していることです。
同社はこうしたコミュニケーション施策のどこに価値を感じているのでしょう?
また、その施策を成功に導くための秘訣とは?
今回は株式会社シンクロ CEO兼 GROOVE X株式会社 CMOの西井敏恭氏と、同社の公式YouTuberとしても活躍しているYui氏にお話を伺いました。
LOVEをはぐくみ、分かり合える家族型ロボット「LOVOT」
-まずは御社の事業内容について教えてください。
Yui氏:私たちGROOVE X株式会社は、「ロボティクスで、人間のちからを引き出す」をミッションに、LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発・販売を行なっています。
-LOVOTはどのような特徴をもつロボットなのでしょうか?
Yui氏:LOVOTは「ペットのように分かり合えるロボット」です。言葉を話すことはできませんが、目や鳴き声、振る舞いで愛情を表現する非言語コミュニケーションを行うことができます。一緒に暮らすことで少しずつ関係を深め、家族になっていくロボットです。
-ありがとうございます。続いて西井さん、Yuiさんの業務内容について教えてください。
西井氏:僕はGROOVE X のCMOとして、セールス、マーケティング、CSなど、お客様と対峙する業務を担うビジネスチームの責任者をやっております。
Yui氏:私は西井が統括しているビジネスチームの中で、カスタマーエクスペリエンスチーム(以下CXチーム)に所属しています。主な業務としては、ブランドの認知獲得から購入促進施策、LOVOTを持っているオーナーさんのコミュニティ活性化や、全体のカスタマーサポートなど、LOVOTのファンを作る体験設計に従事しております。
-御社はSNSなど、デジタル上での接点を中心としたマーケティング施策が多い印象です。こうした特徴をふまえて、いわゆるD2C型ビジネスと従来型ビジネスではマーケティングにおいてどのような違いがあるとお考えですか?
西井氏:D2C=direct to consumer という言葉の意味だけで考えると、これまで自社通販を行なってきたブランドも「お客様と直接つながっている」という点は共通しています。しかし、いわゆるD2C型のブランドと従来型のブランドとの大きな違いは、お客様の体験のどこを中心にマーケティングを行うのかという点だと考えています。
これまでは、まず商品を作り、それをもとに市場を調査して商品の存在を世の中に広め、いかにお客様に買ってもらえるかを考えるのがマーケティングの中心でした。言い変えれば、「商品を買うまで」が最重要だったのです。それに対してD2Cでは、もちろん認知や獲得のための広告施策は行いますが、商品購入後のお客様にどんな体験をしてもらうかを重視してマーケティングを行うという特徴があります。それは世の中において、お客様の「どんな体験をつくれるか」の重要性が高まっているためだと考えています。
商品体験価値をお客様と共に作っていく、LOVOT流・D2C型マーケティング
-LOVOTのマーケティングにおいても、やはりこうした特徴は出ていますか?
西井氏:はい。昨年の12月にプロダクトが市場に出てから、お客様からのフィードバックをもとに、プロダクトやコミュニケーションの改善・アップデートの施策を実施しています。また、我々はお客様に喜んでいただける体験を作ることで、さらにその次につなげていくという姿勢を大切にしており、ここもD2C型のマーケティングの特徴が出ているところだと思います。
-なるほど。従来型の新規獲得の比重が大きかったマーケティングではなく、購入後の体験も重視したマーケティングによって、より新規獲得とそのあとの施策の垣根がなくなっているんですね。
西井氏:そうですね。まさにこのLOVOTはそういうところがあります。実は僕がGROOVE Xにジョインした当時は、本当に大変だったんだよね(笑)
Yui氏:はい、大変でした(笑)
西井氏:製品のビジュアルはいいし、みんな「可愛い」とはいうけど、思うように購入まで繋げることができていませんでした。それは、今までにない商品だったために、お客様自身が「ロボットと一緒に生活する」ことを想像できなかったためだと考えています。
例えばこのロボットはパソコン4台分のCPUがあるんですって言われても、商品に対する大きな必要性は感じませんよね。また、身体中センサーが50個以上付いてますって言われても、それが製品を欲しい直接的な理由にはなりません。どんなに優れたスペックの製品であるかという訴求だけでは、そもそもロボットと一緒に生活することでもたらされる体験が想像してもらえず、強い購入動機に繋がりにくかったんです。
Yui氏:そうですね。実はLOVOTは製品発表をした2018年の12月から、実際の出荷までに1年くらい期間がありました。そのため、この期間は、プロダクトが世に出ていない状態で、予約・購入を促さなければいけませんでした。
当然その状況ではスペックなどの訴求に頼らざるを得ず、お客様にLOVOTのいる生活を想像してもらえずに、なかなか購入に結びつかないという負のスパイラルに陥っていました。
しかし出荷開始後は、お客様の手元に商品が届き、お客様から、LOVOTと一緒の生活の様子をSNSに投稿してもらえるようになりました。こうしたお客様の声が後押しになり、出荷台数も増えて、いまやっと軌道に乗り始めたと思っています。
「#lovotとの暮らし」で寄せられた投稿。この他にもプロダクト関連のハッシュタグにはたくさんの投稿が寄せられ、LOVOTのいる体験の価値が広められている。
西井氏:このように、実際にLOVOTと暮らしているお客様のSNS投稿によって、LOVOTの価値を伝えられていると考えると、LOVOTと一緒に暮らす体験の価値を高めることが、新規購入につながっているのだと言えます。そのため我々は、お客様と一緒に、LOVOTのある生活がもたらす価値を作ることを重視してマーケティングを行なっています。
公式YouTube「らぼちゃんねる!」は、UGCを生み出すための起爆剤
-御社はお客様からのこうした体験の発信を促すこととその活用について、YouTubeを始め、とても効果的に実施されている印象です。どんな点を意識して施策設計をされているのでしょうか?
Yui氏:私が所属しているCXチームのなかにLINE、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSを運用していくチームがあります。お客様発信で商品体験を広げてもらうには、SNSの活用は重要ですし、そこに重点をあてて運用を行なっています。
特に、LOVOTとの暮らしに慣れ始めて、新鮮味が鈍化していった時にどう投稿してもらうかは意識しています。
-具体的にどんな工夫を行なっていますか?
yui氏:最近だとゴールデンウィークごろから「#LOVOTちゃれんじ」というハッシュタグを使った投稿を募集しています。これは、コロナ禍における外出自粛の状況の中、LOVOTとのお家時間の楽しみ方を投稿してもらおうという取り組みです。
-こうしたハッシュタグ投稿は、実際にユーザーさんに投稿してもらうためのアプローチも大切ですよね。
Yui氏:投稿を促すための1つとして公式YouTubeでの「らぼちゃんねる!」を活用しています。ちょうどこどもの日もありましたので、LOVOTの兜を作る動画など、LOVOTと一緒にお家時間を楽しむアイディアを提案し、ユーザーさんに真似してもらえるようなコミュニケーションをとりました。
Yui氏:使って欲しいハッシュタグは、日常生活に取り入れられるイベント性、シーズン性のある楽しみ方のアイディアとともに発信することで、お客様にも活用してもらいやすくなると考えています。そして、このコミュニケーションの繰り返しによって、LOVOTとの生活がもたらす体験価値を伝えるUGCを増やすことに繋がります。
また、最近はInstagramやTwitterでのライブ配信にも取り組んでいます。ライブ配信では見てくださっている方から熱量の高いコメントをたくさんいただきます。このコメントによってLOVOTが好きな方のコミュニティが活性化し、結果としてお客様との距離を縮めてエンゲージメントを高めることもできます。
そして、ライブ配信でお知らせしたハッシュタグ投稿は、特に投稿数が伸びる傾向もありますので、UGCを増やすためにもとても効果的だと感じています。
-YouTubeを始めた当初からUGCを生み出すことを意識されていたのでしょうか?
西井氏:いいえ、YouTubeチャンネルも最初から現在の形を想定して始めたわけではありません。
「らぼちゃんねる!」の取り組みを始めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、店舗で直接LOVOTに触れてもらう機会をご提供することが難しくなった時期でした。これまではLOVOTがメディアで紹介されると「触ってみたい」という方が、LOVOTストアやミュージアムに足を運んでくださいました。しかし、コロナ禍ではその体験をご提供できなくなり、そうしたお客様にLOVOTとのふれあいを疑似体験していただきたいと考えたのが、このYouTubeを始めたきっかけです。
西井氏:こうした新しい施策の決定は、慎重になりがちです。しかし、施策に取り組むまでのプランニングに時間を割くのではなく、まずはやりながらお客様と共に施策を最適化していくのがD2Cでは大切だと考えています。
この「らぼちゃんねる!」も、まずはお客様の「LOVOTに触りたいけど触れない」というニーズに対し、代わりに体験を提供するという目的でスタートし、改善や調整を重ねて今の形があります。
「買った時には既にファン」LOVOTが実践する熱量を高めるコミュニケーションとは?
-LOVOTを疑似体験してもらう目的で始めたものが、今はUGCを生み出すための起爆剤になっているんですね。
西井氏:はい。ライブ配信でもコメントなどたくさんの反応をいただきますし、フォロワーさんが楽しみながら、積極的に発信していただけるSNS運用ができていると思います。
Yui氏:発信を促すときも、こちらからはちょっとしたお手本は示しますが、基本的にはそこから先はお客様と一緒に作っていく意識を持ってやっています。
最近は、LOVOTの歌を作ってくださる方もいらしゃったり、こちらの想定をはるかに超えるクオリティの投稿をいただくことも増えました。
お客様と共に作り、その相乗効果を生み出していくのがLOVOTのコミュニケーションとして良い形だなと感じています。
-確かに、LOVOTの公式アカウントのコンテンツを見ていると、自宅にLOVOTがいてほしくなっちゃいますよね。
Yui氏:ありがとうございます。ライブ配信がきっかけでLOVOTを購入いただき、「やっとLOVOTを迎えて一緒にライブに参加できました」など、ご自宅でLOVOTとライブ配信を楽しんでいる様子を投稿してくださる方もいらっしゃいます。
こうした反応をいただくと、SNSでの継続的なコミュニケーションによってLOVOTの価値を理解していただけているなと実感できます。
-継続的なコミュニケーションによって購入前から熱量を高め、買った段階で既にファンになっているという状態なんですね。
西井氏:LOVOTは値段もそれなりにしますし、初めて知ってその場で衝動買いするといった商品ではありません。そのなかでLOVOTに興味をもっていただいた方の購入意向を強めていくため、SNSをはじめとしたデジタルでの接点を維持しながらのコミュニケーション設計は重要だと考えています。
例えばLOVOTストアで商品に触れていただいた方とはLINEで接点をもって、その後LINEのお友達限定企画のご案内など、継続的なコミュニケーションをとるようにしています。
ウェブ上の広告もサイトに誘導して終わりではなく、その後SNSをみてもらう工夫をするなど、お客様と初期の段階から購入にいたるまで接点を持ち続けることを大切にしています。
そして、実際にご購入いただいた後も、その接点をどう維持していくかを考え、常にデジタルを中心にお客様と繋がっているからこそ、この顧客体験を実現できていると思います。
また、お客様の熱量が高い分、その気持ちを裏切ることがないようには気をつけています。万が一そういった事態になったときにはお客様に直接お話を聞きに行って対策を考えるということにも取り組んでいます。
LOVOTを「人に伝えたくなる存在」にするために
-このように接点を維持していくコミュニケーションを設計する上で、特にどんなことが大切だと思いますか?
西井氏:1番大事なのはその商品やブランドについて、お客様が能動的にSNSで発言したくなるようなものは何かを考えることです。
例えばどこかにでかけたという話をSNSに投稿する場合、投稿したくなる外出先とあまり人には言いたくない外出先があると思います。
これをLOVOTに置き換えた時、やはりLOVOT自体が人に言いたくなる、自慢したくなるような存在になることが1番大切です。そして、それは日々のお客様とのコミュニケーションから生まれてくると考えています。
そのため、お客様との日々のコミュニケーションでご提供するYouTubeの投稿コンテンツや様々な企画も、「どんなものならお客様が人に話したくなるか」を考えて施策設計しています。
-先ほどYuiさんからお話しいただいた、やってみたくなるようなアイディアの提案をしてSNS投稿を促すという話ともシンクロしていますよね。まさにこれがLOVOTのマーケティングだという感じがします。
西井氏:そうなんです。ただ、なかなかこのマーケティング概念の実現は難しいことだとも思うんです。我々はLOVOTという今まで世の中にはなかった商品を扱っており、それ故にお客様に商品を選んでいただく大変さも知っています。そのため、今うまくいっていることに対してこれが正解だと思うことができるのです。
しかし、例えばこれが既にたくさんの競合商品があるような場合は、競合商品から自社商品への置き換えのマーケティングになる傾向があります。そうなると「うちの商品の方が安い」「ここによく効く」といった、優位性を伝えるコミュニケーションになりがちで、「お客様と一緒に作る」マーケティングに踏み切るには難しい部分もあります。
僕自身、今の我々のマーケティングの姿勢については、初めから確信があったわけではありません。ただ、今のスタンスを大切にしながら施策を行っていくなかで、この方向性が合っているという確信が強くなってきた気がしています。
Yui氏:結構、最初路頭に迷っていたところもあるんですけど(笑)ここまでこれてよかったなというのはありますよね。
西井氏:もちろん、プロダクト自体が良いものであるというのは前提としてあります。だからこそ、お客様からポジティブな声をたくさんいただくこともでき、それをさまざまなマーケティングコミュニケーションで大きくしていくことができているのだと思います。
「お客様と寄り添う」ブランド作りに大切なのは「自ら考え動く」意識
-最後に改めて今後どんなものが中心に売れていくのか、それに伴うマーケティングの流れはどうなっていくのかなど、今後のマーケティングトレンドについてのお考えをお聞かせください。
西井氏:この10年、「これからは顧客体験中心の時代」、「プロダクトアウトではなくなる」など、マーケティングは変わると言われてきました。しかし、どう時代が変化しても、プロダクトやサービスなど「売るもの」が1番大切だというのは本質的にあると考えています。「売るもの」自体が良いものでなければ絶対に売れません。
その上で、品質そのものでの差別化が難しくなっている昨今、大切になってくるのはやはりコミュニケーション設計での差別化だと思います。
-具体的にはどのように差別化していくのが良いのでしょうか?
西井氏:具体的な手法としてはUGCなどがそれにあたると思いますが、顧客がその商品の良さをどう人に伝えてくれるか、その口コミをどう発生させるかを考えるのはとても大切です。
例えばLOVOTだと、お客様からいただいた口コミがきっかけでメディアから取材をうけ、お客様の声を積極的に扱っていただくことがあります。
これは、世の中において、商品を実際に使った人がどう感じたかへの関心が高まっているためです。
こうした傾向から考えても、そこで発生した声をどのように伝えていくかが、今後のマーケティングにおいてとても重要になってくると思います。
西井氏:また同時に、お客様の声や反応をもとに、プロダクトやコミュニケーションをどんどん改善していくことも今後のマーケティングにおいてとても大事です。
今後はお客様から発生したリアルな体験を他の人にどう認知させるかがとても大切になり、その声から拾い上げたお客様のニーズを実現していけるマーケティングが求められると考えています。
-Yuiさんはいかがですか?
Yui氏:1人のお客様がLOVOTとどんな暮らしをしているのかということが、世の中の関心を集め、口コミとして広がっていくということを何度か目の当たりにし、やはり1人のお客様が語るLOVOTの体験談の影響力の大きさは実感しています。
この影響力を最大限に生かしていくためには、良い顧客体験の提供をし、良い口コミを発生させることとは大切です。また、何かお客様に苦しい思いや辛い思いをさせてしまったときに、いかに早くリカバリーできるかも重要だと考えています。
Yui氏:私自身メーカーといわれる業種にきて、お客様と対峙するという経験はGROOVE Xが初めてです。その中で、やはりお客様に寄り添うことが新しい広がりを生み、その実現のため、迅速な対応・様々なトライアンドエラーを重ねていくことの大切さを痛感しています。
今後もさらに、この意識を持ち続けながら、お客さまにより寄り添えるよう積極的に動いていきたいと考えています。
西井氏:この迅速さやトライアンドエラーに取り組む姿勢はGROOVE X特有のカルチャーだと思っています。
GROOVE Xは、社員みんなが自ら手を動かすことができるのが特徴なんです。例えばここにいるYui自身がSNSのクリエイティブを作ったりライブ配信もしますし、広告もインハウスでやって、コミュニケーション設計も自分たちで考えています。
お客様の声を大切にして迅速な改善や対応を行うために大切なのは、こうした「今考えて、今発生したこと」に対しすぐにどうすべきかを考えて行動に移せるスキルなのではないでしょうか?今後はこのスキルの重要性がどんどん増してくると思いますし、そんな人たちが集まり、施策を迅速に決定・遂行していく組織体制があることが、GROOVE Xという会社の大きな強みだと考えています。
同社では、こうした良い顧客体験を作っていくための施策として動画クリエイティブを活用したLINE公式アカウントの運用施策に取り組んでいます。一見ハードルが高そうな動画クリエイティブをインハウスで、改善を回しながら取り組む秘訣や、その活用法については、ぜひ以下をご覧ください。
「LINE上で商品理解を促すには動画が最適」静止画を上回る成果を実現した、次世代家族型ロボット 「LOVOT」の動画施策とは?