マイクロアド台湾インタビュー記事 vol.2
台湾微告有限公司(MicroAd Taiwan, Ltd.)董事長/総経理 丸木勇人氏

台湾において多くの日系EC通販企業のマーケティングを支援、日本企業の「海外からの売上獲得」に貢献している株式会社マイクロアド台湾 代表の丸木氏「日本のEC通販企業が台湾で成功する秘訣」についてインタビューする本シリーズ。
シリーズ二回目となる本日のテーマは「台湾EC市場で勝つために、日本企業がまずやるべきこと」です。

(※)本記事は、全三回シリーズの第二回目です。第一回目の記事はこちら:
日本のEC通販企業が「台湾」で成功しやすい理由とは?【マイクロアド台湾に聞く、台湾EC市場で成功する秘訣 Vol.1】 

日本企業が台湾で存在感を出すために、「新しいことをいち早く」

-(前回のインタビューで)台湾は日本企業にとって取り組みやすい市場であることは分かりました。
その一方で、台湾の現地企業、中国企業や韓国企業など多くのプレーヤーがいる中、日本企業が存在感を示していくことは簡単なことではないのではとも感じます。丸木さんは、日本企業が台湾市場で勝つために、まず何をやるべきだとお考えですか?

日本企業が台湾市場で存在感を示していくためには、何よりも日本企業だからこそできる「新しいこと」を、「いち早く」行うことが重要です。

日本市場で行ってきた細かなマーケティングノウハウを台湾でも展開することに加え、いかに早く確実に、台湾市場に合った新しいマーケティング手法を発見し実行できるかがカギになります。

台湾企業においては、地の利を活かして台湾現地のメディア開拓であったり台湾における人脈であったり、台湾のユーザーに合う方法をご存知なので、やはりこの点はなかなか日系企業でできている企業は少ないなという印象です。その一方で、やはりまだまだマーケティングの粒度の細かさという点では、日本市場で一般的に行っている方法がまだ実践されていなかったりします。

中国企業においては、とにかく実行スピードが早いなという印象です。台湾の市場において少しでも可能性がある施策に関してはものすごいスピードで予算を投下して実施を行い、効率が合わなければすぐ停止、という動きをしています。また、言語の壁もほぼないという点においてもメリットが大きいかなと思います。

このような中で日本企業が存在感を示していくには、やはり「いかに早く確実に台湾市場に刺さる手法を発見し、実行できるか」この部分が重要になってくるのではと考えています。

マイクロアド台湾 丸木氏

-「いかに早く新しいことを実行できるか」ということですね。社内で決裁を通す上でも、大変難しいチャレンジだという印象を受けますが、各社さんどのように工夫されているのでしょうか。

日本企業の場合は現地の広告責任者でありながらも予算全体の決裁は本社に通さなければならないことが多く、その調整に時間がかかっている印象があります。年間の予算を決めることはもちろん重要ですが、一方で市場は3か月ペースで「当たり」が「ハズレ」になるなど大きく変化しており、それに適応できる組織体制を持つことが大変重要です。

また、海外に展開する中で、一つのものに投資しすぎるのはかなりリスクが高いという認識を持つことも大切です。例えば、二年前まではFacebook広告だけ出稿していれば新規顧客獲得ができた状況にありました。しかしそれは同時に、Facebookの審査方針が変わっただけで一気に獲得ができなくなってしまうリスクもはらんでいたと言えます。「リスク分散」する意味でも、さまざまな新しい施策に取り組んでいくことが重要なのです。

-なるほど。一方で日本企業の場合は、他社で「成功事例」が出てから自社も新しいものに取り組もうという考えが根強い傾向にありませんか?

そうですね。しかし、台湾の人口は2,400万人しかいませんので、「事例が出てから」など悠長なことを言っている余裕はないんです。

例えば新しいツールを入れてマーケティングの施策に取り組み始める場合、ツール固定費がかかるため、それを含めて換算すると一時的にCPO(Cost per Order:新規顧客獲得コスト)が悪化して見えてしまうことがあります。ただ、ここで「今」のCPO悪化を懸念して新しいことに取り組まない判断をしてしまうと、「やる」と決断した企業に後れを取ることになるんですよね。台湾全体の人口が多くない中で後手の判断をすると、一瞬で市場を取られてしまう可能性があるのです。

逆の考え方をすると、人口が多いわけではないので、新しい施策で攻めたとしてもボリュームは限られており、リスクは限定されていると言えます。例えば中国で同じことをやろうとすると、攻めても攻めても失敗続き…ということが起こり得ますよね。ですから、失敗を恐れて後手を取るよりも、まずはチャレンジしてみることが大切です。

台湾の企業は目標CPOが決まっていることが多く、各社確実にCPOが取れる施策に偏りがちで、なかなか全体のグロース(広告投資額)が上がっていかない傾向にあります。そんな中で、日本の企業が「何かこれをやることで将来的にCPOが下がっていく」と判断でき、新しい施策にチャレンジできたら、大きな違いになるのではないでしょうか。

アライドアーキテクツ 村岡氏
インタビュアー:アライドアーキテクツ株式会社 CPO 村岡弥真人氏
Webミーティングツールを用いて、丸木氏へのインタビューを行った

マイクロアド台湾が提案する、日本企業ならではの「4つの施策」

-最近、マイクロアド台湾として広告主向けに提供している「新しい施策」にはどのようなものがありますか?

弊社としては、一つのメニューに投下し過ぎるリスクを考慮、「分散投資」の概念でさまざまなツールやメニューを提供し、クライアントの状況に合わせた提案を行っています。台湾ではまだまだ広告分野のテクノロジーが進んでいませんので、日本のテクノロジーをうまく台湾で活かす取り組みを複数進めています。現在行っているものとして、例えば以下の4つが挙げられます。

1.さまざまなデータを活用した広告展開

さまざまなデータホルダーと台湾市場においてデータ活用をした広告展開のお話を進めています。決済データ、会員データ、通信データなど、1st partyデータを元にした配信を行っていただける仕組み作りの構築と、データホルダーに向けたマネタイズを、日本のマイクロアド本社と共に進めています。台湾ではまだまだ自社データを用いた広告配信が進んでいませんので、この部分において先んじて投資を進めています。

2.独自のインフィードプラットフォームの提供

台湾市場において、インフィードプラットフォーム「Compass-fit」を独自に展開しています。台湾内の有名メディアの記事枠を大量に在庫保有しており、PMP(Private Market Place:掲載媒体と広告主を限定したターゲティング広告市場のこと)のようなイメージで広告配信を行うことができます。直近では「Compass-fit」内で動画配信する手法の開発も完了しており、効率の良い動画素材をこのプラットフォームを使って横展開する企業様も増えています。

3.さまざまな動画を自社制作してYouTubeに掲載、広告配信も

漫画、VTuber、KOL、素人など、さまざまなタイプの動画コンテンツを弊社にて自社で作成しYouTubeに掲載、また広告配信にも活用しています。日本の動画制作ツールも活用し、大量の動画を台湾市場で配信できる体制を整えています。

4.UGCをマーケティングに有効活用

UGC(User Generated Contents:企業ではなく一般ユーザーにより制作・生成されたコンテンツのこと)をマーケティング施策に活用しています。日本ではUGCをLPや広告のクリエイティブに活用する事例が増えていますが、まだ台湾市場においてはその手法は浸透していません。日本で先行して成功事例が生まれているUGCツールを用いて、台湾市場においてもUGCを活用したマーケティングを実践し、成果が出始めています。現在は、LPにUGCを掲載してCVRを改善する取り組みを進めていますが、CVR改善に貢献するツールはなかなか他にはないこともあり、この分野はこれからも成長すると確信しています。

台湾ユーザーに新たな価値を、「株式会社ビーボ」のチャレンジ

-マイクロアドさんがご支援している広告主さんの中で、新しいことに取り組んでいる事例があれば教えていただけますか?

例えば、弊社がご支援している株式会社ビーボさんは、台湾において新たな施策に積極的に取り組んでいらっしゃいます。

同社は「“なりたい“に本気」をビジョンに、「BELTA」のブランド名にて、酵素ドリンクを販売するD2C事業を行っています。「今より綺麗になりたい方」や、「痩せたい方」などの顧客に対して、D2Cモデルで直接コミュニケーションを取り伴走するスタイルで事業を展開しています。中でもカスタマーサクセスには最も力を入れており、スタッフ一人一人が顧客に寄り添い、商品のことに限らずおすすめの献立やダイエット法などをお勧め、直近では管理栄養士のスタッフも入るなど、専門的な知識も取り入れ顧客に満足してもらうように努めています。

そんな同社は、新たな施策の一つとして、現在LPにUGCを掲載する取組みを進めています。
UGCをLPに掲載することで、「CVRが向上し、ご購入いただける方を増やせる」だけでなく、「商品を実際に使っていただいている方の本当の満足の声を見せることで、商品検討者に正しい期待値を持っていただける」=同社のビジョン「“なりたい“に本気」に沿った施策と考え、スタートしたそうです。

日本のUGC活用ツールを活用してUGCを収集・活用し効果を細かく計測、さらにその結果に基いてUGC掲載位置の変更や、表示させるUGCの入れ替えなどの対応を行い、開始から約1ヶ月間でLPのCVRを約1.2倍に改善する成果を上げています。

-新しいことにいち早く取り組み、成果にもつなげていらっしゃるのは素晴らしいですね。

はい、そう思います。実は、今回私がSMMLabでインタビューを受けるに当たり、ビーボさんに「本取り組みの背景にある考え方や想い」を聞いてみたんです。すると、以下のようなコメントをいただきました。

株式会社ビーボによるコメント:

「他社が行っているいい施策を真似するのは簡単ですが、その場合じきにお客様側にも飽きがくるのではと思っています。つまり、既存施策を取る場合、私たちは企業としてきちんと他社との差別性を追求していかねばなりません

一方で、新しいことにチャレンジする場合、前例がなく数値予測などを試算することは難しいですが、成功したときにリターンが大きいですし、今まで誰もやっていない分、差別性を意識せずに自分たちが表現したいことをそのまま実施することができます。それはブランドイメージの向上にもつながると思いますし、また新しいチャレンジから売上の下地を作ることができたら、それをまたさらなる新しいチャレンジの投資に使うこともできますよね。

そのため、弊社にとって新しいチャレンジはとても重要ですし、これからもチャレンジし続けていきたいと思っています。」

-ビーボさんは、まさに御社がおっしゃっている「日本企業が成功するためにまずやるべきこと=新しいことをいち早く行う」を体現していらっしゃるのですね。

マイクロアド台湾 丸木氏 インタビュー

そうですね。これからも、日本企業ならではの「台湾市場に刺さる」手法をスピーディーに展開することで、事業成長に貢献していきたいですね。

株式会社ビーボ社が台湾で実践しているUGC活用施策の詳細については以下をご覧ください。
台湾向けLPのCVRが1.2倍に向上!ビーボの商材別UGC活用術

最終回となる第三回目は、「台湾市場における日本企業の勝ちパターン」と、「日本企業は、台湾の次のステップとして何を目指すべきか」をテーマに記事をお届けします。次回の記事も、どうぞお楽しみに!