マイクロアド台湾インタビュー記事
台湾微告有限公司(MicroAd Taiwan, Ltd.)董事長/総経理 丸木 勇人氏

日本の人口が減少に向かう中、今後の日本企業にとって「海外からの売上獲得」は大変重要なテーマの一つです。その中で、海外展開の第一歩として魅力的な市場が「台湾市場」です。

そこで今回、台湾において多くの日系EC通販企業のマーケティングを支援、日本企業の「海外からの売上獲得」に貢献している株式会社マイクロアド台湾 代表の丸木氏にインタビュー、日本のEC通販企業が台湾で成功する秘訣についてたっぷりお話を伺ってきました。本日より、全三回にわたってその内容をお届けします!

第一回目となる本日のテーマは「日本のEC通販企業にとって、台湾市場がなぜ魅力的か」です。

アジア市場は「ブルーオーシャン」

-本日はよろしくお願いします!まずは、マイクロアド台湾の事業概要を教えていただけますか?

マイクロアド台湾は、台湾で7期目を迎えるインターネット広告代理店です。日系EC通販企業を中心に、さまざまな台湾内の広告を駆使してマーケティング支援を行なっています。私は台湾の責任者として、そしてマイクロアド海外全体の責任者として業務にあたっています。

マイクロアドは現在、台湾の他に、中国、ベトナム、インドネシアといったアジアに海外拠点を設けており、それぞれの国の文化や市場需要にあったサービス展開を行っております。例えば、台湾では通販企業様へのマーケティング支援が中心ですが、中国やベトナムではブランディングに関わる広告を中心にご支援しています。「日本で作ったサービス」をそのまま海外に持ち込むのではなく、それぞれの国で求められているものに沿ってアメーバのように形を変えながらサービスを展開していることが特徴です。

弊社は、他アドテク系の企業と比較しても早く、日本でもDSP市場がまだ発展途上だったタイミングから海外展開をスタートしております。「既に完成された市場」に入るより、「これから成長して行く市場」に入って行くことを会社の方針として大切にしていること、その中で、アジア市場は「まだ固まりきっていない」という点において、大変魅力と可能性を感じたことが理由です。

-早いタイミングからアジアへの展開をスタートされているのですね。御社にとっての「アジア市場の魅力」を、詳しく教えていただけますか?

「成長している市場の中に身を置ける」、その点が魅力的だと思っています。携帯電話の普及と共に、アジア各国のインターネット普及率は日本とほぼ近しい数字となっており、中国・韓国・台湾・香港・シンガポールなどの各国は人口比88%を超えるまでになっています。

それに伴いEC市場も目覚ましい伸びを続けており、例えば東南アジアEC市場の年平均成長率は62%を超え、直近では流通総額は約2兆5000億円に達したと言われています。また2025年にはEC流通総額は約11兆円を達成すると予測されているように、これからもまだまだ伸びしろがあると期待できます。

日本においてたくさんの競合がいる中でパイを奪い合う展開をしていくのか。あるいはまっさらで何もないところから新たに市場を作っていくのか。その意味で、アジア市場は日本企業にとって魅力的なのではないかと思っています。

マイクロアド台湾 丸木氏
Webミーティングツールを利用してインタビューに答える丸木 勇人氏

-アジア市場は、日本企業にとって「ブルーオーシャン」の市場だとお考えなのですね。

はい。ここ3年程で特に台湾への日本企業の進出が進み、まっさらと言える状況ではありませんが、まだまだアジア全体として見るとブルーオーシャンである、私はそう考えています。各国において「これをやれば成功する」という方法論が確立されきっていませんので、いち早く新しいことにチャレンジする企業に大きなチャンスがあると考えています。

例えば、東南アジアでEC通販を展開するとなると、まずは「Lazada」というECモールに出店する方法が一般的ですが、自社ECで成功した企業はまだいないんですよね。ここにチャレンジし、いい方法論を見つけられれば、そこから得られる先行者メリットは大変大きいのではないでしょうか。

また、私は4年程台湾に在住しておりますが、この4年間だけでも台湾におけるマーケティング環境には大きな変化がありました。

4年前はまだ、台湾で展開している日系の通販企業はまだ30社もないくらいの規模だったのではないでしょうか。大手企業の参入も少なく、日本の規模感に関わらず、まずはテストマーケティングとして越境ECからスタートするケースが多かったと思います。

当時は台湾現地企業も含め、インターネット広告を活用してEC通販市場で勝負するプレーヤーの数が多くなかったため、「Facebook広告を回していれば商品の需要がわかる」というくらい、Facebook広告のCPMも低く、効率が合わせやすい市場だったと思います。今と比較し、日本円で800円ほども安く取れる状況でした。また、例えば「記事を経由して成果を獲得する」といったような日本の独自の広告の形も、まさにこれから試して行くステージでした。

それから4年が経過し、現在は大手企業も含めて200社以上の日系EC通販企業が台湾市場に参入。Facebook広告のCPM一つをとっても、日本と大きく変わらないような数字感になっています。台湾企業の広告への理解度も上がっており、市場は成熟期に入りつつあると感じています。だからこそ、これからはFacebook広告だけでなく、日本で展開しているような、より細やかで本格的なさまざまなマーケティング施策を展開し、他企業がやっていない新しい勝ちパターンを最初に作っていくことで大きなチャンスがあるのではないかと考えています。

アライドアーキテクツ 村岡氏
インタビュアー:アライドアーキテクツ株式会社 プロダクトカンパニー長 村岡弥真人氏

日本のEC通販企業が「台湾」で成功しやすい4つの理由

-アジア各国の中でも、まず日本のEC通販企業が最初に進出する国として、「台湾」がやりやすいとよく言われますが、それはなぜなのでしょうか?

日本のEC通販企業にとって、台湾が適している理由は4つあります。

一つ目の理由は「台湾のEC市場環境」です。台湾のEC市場規模は約4兆円であり、年々成長しています。EC市場規模自体は日本の4分の1ほどですが、台湾の人口(2,400万人)は日本の人口(1.2億人)に比べて5分の1ほどであり、それを考えると、台湾には人口に比べて大きなEC市場が存在していると言えます。また、台湾の16-64歳のモバイルフォン保有率は直近で約97%にも達しています。

私がこちらで生活をしている中で感じるのは、インターネットが生活に根付いているなという点です。ECモールが非常に多く、momo/pchome/楽天/taobao/露店/shopeeなど多くのECモールがこの台湾市場の中でひしめきあっています。プチプラ系の化粧品や雑貨、日用品などはもちろん、家電やPCなど値段の高いものもECで多く販売されており、またそれが24時間以内で届くサービスもあります。日本ではお店で見て購入することが一般的なものでもECで当たり前に購入できる点は、台湾人の生活にいかにECが根付いているかを表していると思います。

直近のコロナショックにおいても、台湾のインターネットへの感度の高さを痛感する機会がありました。アプリ経由でマスクを購入し、近くのコンビニで代引きで受け取れる仕組みを、政府が速攻で作ったんです。このように、台湾は国を挙げてインターネットへの取り組みを積極的に行っており、その点においても日本のEC通販企業にとって大変魅力があると思います。

二つ目の理由は「規制面でのやりやすさ」です。台湾では、1.5~2ヶ月ほどで企業の設立が可能です。資本金についても大きな制限がなく、極端な例でいうと数十万円の資本金でも設立できます。また、会社設立登記時に記載する業務内容を幅広く書いておくことで、さまざまなサービスが展開できるため、仮に当初予定から異なるサービスを展開したいとなった時にも潰しがききやすいです。中国においては、この部分に大変厳しくライセンスが存在するため、例えば広告代理店はメディア運営ができないなどの難しさがあります。ただし、台湾でも、進出の際に政府に対して商品登録を行う必要があります。日本では認可されている成分が台湾では認可されていないなどの差により商品登録ができない、もしくは商品登録に1年以上時間を要するケースもありますので、その点は注意が必要です。

また、台湾進出だけでなく、越境ECにおいても台湾は大変やりやすい国であると言えます。各国と比較し、配送が大変安定しているためです。コロナショックによりEMSでの商品発送が今現在は難しくなっておりますが、基本的にはアジア各国の中では台湾が一番税関が通りやすいです。ベトナムやタイでは、EMSで商品を送った際に税関で中身を確認されることが多く、開封済みの商品がユーザーの手元に届いたり、税関で商品が止まり、送り返されたり、最悪そのまま紛失などの事象も多く発生しますが、台湾ではそのようなトラブルは少ないです。

三つ目の理由は、「台湾のメディア環境」です。日本とほぼ同じく、ユーザーはFacebook、Google、Instagram、LINEを中心に使用しているため、日本で実施しているマーケティングのノウハウをそのまま台湾で展開できます。そのため、日本で細やかにデジタルマーケティングを行っている通販EC企業がそのまま台湾に来ると強みを活かして比較的成功しやすいと言えます。

メディアの利用については、日本と非常に感覚が似ているなと思っています。若者、特に女性はInstagramの投稿が非常に多い印象がありますね。お店に入ると、写真を撮ってInstagramにアップしている姿をよく見かけます。また、台湾では、世代関わらずLINEをメッセージツールとして使用している傾向にありますね。タクシーの運転手さんはご年配の方が多いですが、皆さんLINEでメッセージや電話をしながら器用に運転されているシーンをよく見かけます(笑)。

日本と違うなと感じる点は、「SNS=知り合い同士でやりとりをするもの」だけではなく、全く知らない人同士でも、需要に応じて活発にやり取りされている点です。
例えば、知らない人同士で、ゲーム「どうぶつの森」に関する情報交換をするグループが作られていて、積極的にやりとりされていたり。知らない人同士でUberのような機能を果たすLINEグループが作られており、そこに場所や時間や行き先を入れるとすぐに個人のドライバーが駆けつけてくれたり。使い方が本当に多種多様であり、モバイルに関する感度が高いと感じますね。また、企業が何かを投稿して炎上するという話もほとんど聞いたことがありません。インターネットでの発信を広く受容する文化があるのかなと思います。

四つ目の理由は、「日本に対する感度の高さ」です。台湾では日本語を勉強している方が非常に多く、約200万人ほどが日本語を勉強した経験があるとも言われています。人口が2,400万人しかいませんから、人口の約10%程度が日本語を少しでも話せるということです。これだけでも、日本と台湾の距離の近さがお分わりいただけるかと思います。

また、日本商品は人気があり、台湾の現地企業や、台湾に進出する中国企業がパッケージに日本語を使う場合もあるほどです(笑)。日本を訴求することで、信頼性が増すという実感があるのだと思います。日本のEC通販企業も、現地向けのLPや広告のクリエイティブにあえて日本語を使ったり、またMade in Japanや「日本でこれくらい売れています!」をしっかり訴求しています。

台湾でまず名前があがる日本企業と言えば、ユニクロではないでしょうか。台湾のユニクロは、日本のユニクロに比べ値段が高いのですが、それでも大変高い人気を誇っています。日本ブランド・シンプル・安心というように、日本のメーカーに対しての大きな信頼性があることを表していると思います。

もう一つ、こちらに来て面白いなと思ったのが、お寿司のチェーン店に行列ができていることですね。現在台湾に日本のお寿司チェーン各社が進出しておりますが、それぞれお昼時や夕食時には1時間以上並んでいることもざらにあります。生物が苦手な方の多い台湾においてここまで行列ができるとは日本人ながら想像できない現象でした。

その他、飲料・化粧品・家電なども含め、各業種に台湾現地企業と競争できるレベルで人気のある日本ブランドが存在しているということ自体、台湾の市場が日本に適していることを表していると思います。

マイクロアド台湾 丸木氏

これからは「本物」が求められる時代に

-今回のコロナショックを受けて、台湾ユーザーの「EC利用」や「日本への感度」に変化はありますか?コロナショック後も、変わらず日本企業にはチャンスがあるのでしょうか?

弊社でご支援をしているクライアント様の広告に対して、「きちんと消毒を行ってから台湾に発送しているのか?」「今のタイミングで日本から物を届けるべきなんでしょうか?」などのネガティブな反応もあります。また、台湾企業が、改めて今回のコロナショックを通じて台湾の国家の強さを感じており、「Made in Taiwan」を見直す動きも出てきています。

よって今後は、「日本製」というだけでメリットが出る時代から、「本当に良いもの」そして「安全なもの」が購入される時代に、市場の価値観が変化してくると確信しています。

これは一見、日本企業にとって不利な状況になるように見えるかもしれません。しかしながら、本来の日本の強さこそが、「品質の良さ」であり、「安全性」であるはずです。これからは、現地の物も含めてしっかりと比較された上で、本当にいいものが選ばれ、購入されるようになると考えています。

その過程で、これからは日本企業もアプローチの仕方を変えていく必要があります。例えば、健康食品や化粧品の成分一つをとっても、台湾では良さが認識されていないものもたくさん存在しています。このような、「日本で作られている良いもの」を、シンプルに台湾に向けて提供できるかキーになるのではないでしょうか。ただ「Made in Japan」を訴求するだけではなく、良いものを伝えていく。その姿勢が今後の台湾市場で勝つためのポイントになると言えます。

第二回目は、「台湾市場で日本企業が勝つために、まずやるべきこととは?」をテーマに記事をお届けします。台湾市場でチャレンジしている企業の事例もご紹介する予定です。二回目の記事も、どうぞお楽しみに!