こんにちは、SMMLab研究員の瀬戸口です。
アメリカに於けるビューティーブランドのマーケティング事例で一番有名なのは、「P&G」のOld Spice Guyのビデオでしょう。キャンペーンを通して総計180に及ぶ動画メッセージをYouTubeに投稿し、3日間で1, 100万回閲覧され、Facebookページのファンは60万人増加しました。そのきっかけを作ったのは、Facebookでのクチコミです。クチコミは古くから存在するマーケティング手法ですが、FacebookやTwitterなどのテクノロジーの出現で、その効用は再び加速しています。特にアメリカでは、Facebookは強力なCRM(Customer Relationship Management=顧客管理)ツールとして捉えられています。
そこで今回は、Mashable(http://mashable.com/2011/08/01/beauty-brands-facebook/)「ビューティーブランドの5つのFacebookマーケティング事例」の抄訳を元に、CRMの観点でのユーザーとのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。
1)エンゲージメントとコミュニティーに全力を、セールスは度外視
アメリカでは現在、Facebookは「物を売ろう」という観点ではなく、ユーザーとのエンゲージメントを築くためのプラットフォームとして使われています。日本でも有名な化粧品会社の「M・A・C」のFacebookページは200万人のファンがいますが、「我々はFacebookをセールス、プロモーションの場とは見なしていない。」と「M・A・C」のグローバルマーケティングを担当するGuillaume Jesel氏はいいます。
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Image:Mashable

「M・A・C」はブランドやエンターテイメント、エンゲージメントに関するコンテンツをFacebookでシェアしていますが、ファンから寄せられる質問に応えることが最優先事項だとしています。それが、化粧品に関する要望であったり、キャリア構築に関するヒントであったり、カスタマーサービス関連のものであっても。加えて、Facebookページ内で様々なアプリを展開し、高スコアを出してくれるアクティブなユーザーにスポットライトを当てることでコミュニティー構築を促進しています。
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「M・A・C」の一番有名なキャンペーンは、ファンになることで「M・A・C」のクリエイティブチームに「化粧」をしてもらえ、採用されたラッキーなユーザーは、秋に公開する新商品のオンライン・オフライン プロモーションに登場することができるというもの。Facebook上でのプロモーションだけにとどまらず、「もしかしたら店頭で自分を発見することがあるかも」という感情体験をユーザーに提供する手法が取られています。
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また、化粧品ブランド「Bare Escentuals」のウォール内で交わされる会話は、ナント97%がユーザー同士の会話となっており、成功を収めているFacebookページと言われています。
2)コンテンツカレンダーに取り組んでみる
メジャーなビューティーブランドにとって、Facebookはプロモーショナルカレンダーの中核を担うようになって来ています。「Aveda」のグローバルマーケティング担当Rachel Ostrom氏によると、2009年のFacebookページローンチ時にはコンテンツカレンダーを設けていませんでしたが、新しいプロダクトの展開と店舗でのプロモーションに伴い、Facebook上でコンテンツを1ヶ月前倒しで告知する計画を実行しました。現在、彼女のチームは継続してどのような種類のポストがLikeやコメント、シェアを誘うのかをモニタリングしています。
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「Facebookページでは、実用的な知識やファンの意見が最大限のパフォーマンスを発揮するのです」と、Rachel氏は2タイプのアプローチ法を紹介しています。一つは、ファンに好きなサロンを尋ねること。もうひとつは、2010年の好きな商品を10個挙げてもらうというもの。「これらのタイプの質問には、600以上の返答が得られますが、重要なのは投稿された反応をすべて纏めて報告することで、ブランドが「あなたの意見を聞いていますよ」という姿勢をユーザーに示すことです」と述べています。
一方、「M・A・C」はアップデート情報を、「ニュースを流す」、「動画や写真などのビジュアルコンテンツを流す」、「ゲームなどのアプリを流す」など、コンスタントに変えることで、ユーザーとのエンゲージメントを維持しています。表現の形態は様々ですが、「M・A・C」がメッセージの中心であることは決して変わりません。
「Facebookをブランドのエンゲージメントを高めるプラットフォームに選んだのは、プロモーション経路や特定商品用の媒体としてではなく、ブランドコレクションとして提示することで、ユーザーにインスピレーションを与えるためなのです」と続けて、「Quite Cute」と「Surf Baby collections」の2つのプロモーション手法を紹介しています。
「Quite Cute」(http://www.temptalia.com/「M・A・C」-quite-cute-collection-for-spring-2011)では、Cute Pinballというゲームをリリースし、30, 000人の利用者と平均プレー時間12分を記録。「Surf Baby collections」では、プロサーファーのプロフィールをタブで展開し、写真やビデオ、文章などを日記風に3週間にわたって更新しました。
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3)Facebookファン限定イベント
今まで見てきたブランドのFacebookファンは、全て従順でエンゲージメントの高いユーザーでした。このようなブランドへの貢献度が高いファンに、利益の還元やサンプリングプログラムを展開しているケースもあります。
今年5月に行われた「Aveda」のサンプリングキャンペーンは、シャンプーとコンディショナー、リンスを梱包した20, 000個のサンプリングパックを配るというものでした。キャンペーン参加者は、商品説明とビデオを見た後にFacebookタブでサンプリングリクエストを行い、近場の店舗やサロンに足を運んで、サンプリングパックを受け取ったのです。
サンプリングキャンペーンは効率的に新しい製品の認知度を向上させるだけではなく、Facebookページのファン数のベースアップにも効果があり、より良いフィードバックが得られます。ファッションレーベルの「Oscar de la Renta」が最新フレグランスのサンプルを25, 000個提供すると、ほぼ三日で在庫が尽き、ブランドのLikeは40%も上昇したばかりでなく、サンプルを受け取ったうちの約5, 000人が香りに関する事後調査にも協力してくれました。
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「サンプリングのコンセプト自体は以前から存在しますが、伝統的なサンプリングでは人がそれを使ったときに何を考えているのかを知ることができませんでした。製品のフィードバックを得る方法として、Facebookはとても重要なマーケティングのプラットフォームであると思います」と「Oscar de la Renta」のコミュニケーションディレクターであるErika Bearmanはいいます。
4)他チャネルをミックスさせる
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Facebookでどのようなキャンペーンをしようと、リーチ数を伸ばし、ブランドのオンラインとオフラインの架け橋になれなければ意味がありません。
「Covergirl」の新しいマルチチャネルプロモーションは、今年1月発売の「natural luxe」シリーズを大変巧妙に広めました。TVCMでは、視聴者を公式サイトである「covergirl.com」や近くのドラッグストアへ誘導するのではなく、Facebookページ「facebook.com/covergirl」へ来るようにメッセージを発信。Facebookページでは、サンプルを手に入れることができ、そのサンプルで化粧をするビデオをアップすると「Covergirl movement」の一員になることができるというものでした。
このCMは、ブランドのモデルであるTaylor SwiftとQueen Latifahを起用したFacebook広告と連動して展開され、初日だけで8, 000Likesを集めたことで、「Covergirl」はFacebookのビューティーブランド別like数で2位を射止める事が出来ました。
「Aveda」が2月に「Show Off Your Curls contest」というFacebookプロモーションを開催したときは、登録済みのユーザーにFacebookタブを開くよう促すメールを出し、さらに店頭とaveda.com内でFacebookキャンペーンの告知を行いました。「Checkin for H20 campaign」では、Facebook PlacesとFoursquareを合わせて採用しました。「Aveda」はそもそもソーシャルネットワークやYouTube、Twitterの活用率が高いブランドですが、Facebookを「全てのコンテンツのハブ」として捉えていることを忘れてはいけません。
5)カスタマーサポートサービスを提供する
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Facebookのクエスチョン機能は「店頭のカウンターで尋ねられる質問と同じぐらい重要。そのため個別での対応に完璧を目指しています」と「Estee Lauder Companies Inc.」のThalberg氏は言います。
「Mary Kay」のようなオフラインのカスタマーサービスで賞賛されているブランドでは、ビューティーコンサルタントのネットワークから選ばれた個人用のコンサルタントが、いつでもどこでも、Facebookでオフラインと同じレベルのカスタマーサービスを提供しています。「『Mary Kay』にとって、オンラインの体験を創造することは、我々の普段行なっているオフラインでの体験を忠実に再現すればいいことなのです」と「Mary Key」のUS marketing VPであるYvette Franco氏は語ります。
via
http://mashable.com/2011/08/01/beauty-brands-facebook/
今回ご紹介した記事に登場したのは全てビューティー関連のブランドでした。しかし、他業種でも活用できる本質的な「ヒント」が沢山あったことにお気付きではないでしょうか。Facebook上のユーザーとのコミュニケーションは、全てエンゲージメントを高める(ユーザーとブランドとの絆を強める)ための手段でしかないのです。そこで、どのようにユーザーとコミュニケーションを取っていくのかはブランドの代弁者である運営者の腕の見せ所です。ユーザーと直に接することには、失言や不親切な対応によってリスクが生じる可能性もあります。しかし、前回「なぜFacebookが未来のマーケティングなのかを示すチャート4枚」で述べたとおり、ユーザーにブランドのファンとなってもらうことで得られるリターンは今後ますます大きくなっていくと考えられます。今回のヒントを元に今一度、Facebookページでのファンとのコミュニケーションの在り方を見なおしてみてください。