中国企業に学ぶ!「with コロナ時代」を生き抜く、企業のSNS活用術

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルス)拡大により、日本中でさまざまな企業が「既存ビジネスのオンライン化」「ECへの注力」などを強力に推進しています。

そのような中、新型コロナウイルスへの対応に関して日本より一足先を行く中国では、SNSをフルに活用することで、コロナ後も売上を拡大する事例が出てきています。

今回は、そのような中国企業事例をもとに、今後の「with コロナ時代」に必要な「企業のSNS活用術」を解説します。

「コロナショック」にも負けない、2つの中国企業事例

中国企業は、「コロナショック」を切り抜けるためにどのような工夫をしたのでしょうか?
2つの事例を紹介します。

事例1:化粧品会社金梦妆 店舗販売→オンライン&生放送注力へ、1日で約1,300万円売上達成

化粧品会社の金梦妆は、新型コロナウイルスの影響により全店舗(180店舗)が営業停止に。オンラインかつ生放送を利用した販売に注力する方針に転換しました。その結果、3月8日(中国の「女性の日」)のセールでは10万人が生放送を視聴し、約88万元(日本円:1,300万円)の売上を達成しました。

事例2:ベビー用品喜阳阳爱婴、コミュニティ作りに注力&生放送のコンテンツ作りを工夫し、1回の生放送で約1,500万円売上

ベビー用品を販売する喜阳阳爱婴は1996年に創業、直営店60店舗、加盟店200店舗を持つ企業です。2019年末よりオンラインを強化、直近のオンライン・オフラインの比率は約1:1に、オンライン売り上げは前年比で約15倍の成長をしていました。

今回の新型コロナウイルスの影響により、約80%の店舗が閉鎖せざるを得ない状況に。そこで、WeChat(※)の生放送を活用することにより、オフラインからオンラインへの更なる強化を図りました。

具体的な施策内容としては、行ったのは以下3点です。
1.WeChatで常連客に声がけして、WeChatフォロワーを集める。
2.生放送視聴者専用のクーポンを発行し、購買するきっかけづくりを行う。WeChatミニプログラムにて生放送を実施。
3.生放送時にお気に入り登録できるようにして、次回も視聴してもらう仕組みづくりを行う。

これを毎週少なくても8回は実施、WeChatのママコミュニティ・モーメンツ(タイムライン)などで呼び込みました。

リアル店舗と同様に配信者への信頼性が重要と考え、3名の社員を出演者に起用、人気の配信者に育成するよう力を入れたそうです。また、生放送の内容も「赤ちゃんの歯磨き」「赤ちゃんとママの料理」など日によってさまざまなテーマを設定、顧客が楽しめるように工夫しました。

さらに、購買のきっかけづくりとしてフラッシュセールの開催やクーポン配布、プレゼント企画などの取り組みも実施、生放送の影響力を拡大し、一回の生放送で約100万元(日本円:約1,500万円)を売り上げたそうです。リピート施策として、会員向けコンテンツの提供、Q&A、会員向けの特典発行なども行っています。

(※)WeChatとは?:中国テンセント社が運営するメッセンジャーアプリ。月間アクティブユーザー数は約12億人、20以上の言語版があり200の国と地域をカバーしている。メッセンジャー機能のみならず、買い物、ニュース、各種サービスの予約・決済サービスから医療、公共料金の支払いまで、ありとあらゆる分野をカバーするスーパーアプリである。

「withコロナ時代」を生き抜く、企業のSNS活用術

上記2つの事例には共通点があります。それは、WeChatや生放送アプリといったSNSをうまく活用して販売の継続や促進につなげていることです。

中国では独自のSNSが利用されており、FacebookやLINEなど私たちが普段使用しているSNSよりも機能的に進化している点もたくさんあります。また、ユーザーのSNSへの向き合い方やSNSの生活への密着度も異なるため、「日本では参考にならない」と思われるかもしれません。さらに、ご紹介した事例は自社と異なる業界であり、自社には取り入れられないと思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかしながら、そのベースとなる「考え方」、中国企業の「SNSを通じた生活者への向き合い方」には、業界を超えて多くの学ぶべき点があります。

ここからは、先の事例をもとに、日本企業も参考にすべき「中国企業のSNS活用術」を3つのポイントにまとめて解説していきます。

ポイント1:キーワードは「私域流量」、企業と個人の強いつながりがベースに

1つ目のポイントは、SNS施策で企業と個人間の関係性の深化が重視されていることです。
2019年に中国のネット界隈でトレンドとなった言葉の一つに「私域流量」があります。

「公域流量」が「天猫(Tmall)」や「京東(JD.com)」「Weibo」といった大量のトラフィックがある巨大プラットフォームからのユーザー流入を指すのに対し、「私域流量」は自社媒体やWeChatの企業アカウント、WeChatグループといった独自の場所やコミュニティから得られるユーザー流入のことを指します。

現在、中国では、いかにこの「私域流量」を伸ばすかが各社のマーケティング上のテーマとなっています。

つまり、広告の活用、インフルエンサー(KOL、Key Opinion Leader)の起用、キャンペーンによる拡散などを通じて「公域流量」にて大量のインプレッションを獲得し、多くのユーザーを獲得するだけでなく、企業やブランドのファンを育成し、コアなファンになってくれるような仕掛けやKOC(Key Opinion Consumer/自分たちが実際に体験した信頼性の高い情報を発信することで、影響力を有する消費者)と連携することで、より「個人との関係性」を深めるマーケティングが重要視されてきているのです。

先ほどご紹介した2つの企業も、まさにこの「私域流量」を重視し、ファンコミニュニティを築き、そのパワーを最大限に活かしたことで「コロナ危機」を乗り越えたと言えます。

SNSの特徴の一つは、「大量のユーザーがたくさんの時間を過ごす場所」「情報が拡散しやすい場所」であり、メディア価値が非常に高いことが挙げられます。そのため企業は「ファン数」や「リーチ数」を指標にしてSNSを運用する傾向にあります。もちろん、たくさんの人と出会う機会を作るために、それら指標もとても重要です。

しかしながら、その関係性を「いざという時にも助けてもらえる」ような深いものにしていくためには、やはり普段からの「コミュニケーション」が大切なのではないでしょうか?

SNS上で企業から一方的なメッセージ配信を行うのではなく、
・顧客の役に立つ情報発信や、顧客に喜んでもらえるメッセ―ジ配信を行うことができているか
・顧客からのコメントや反応にきちんと対応できているか?耳を傾けられているか?一方通行で、独りよがりのコミュニケーションになっていないか?
・コアファンを大切にする施策を打てているか?新規ファンだけでなく、既存ファンも大切にできているか?

などを今一度見直し、SNSが「メディア」だけではなく「コミュニティ」としても機能しているか、SNSを「広げる」×「深める」の両軸で運用できているかを、改めて問い直してみることが大切です。

ポイント2:生放送やショート動画、コマース機能をフル活用

2つめのポイントは、生放送やショート動画、コマース機能など、SNSプラットフォームから提供されている機能を最大限に活用していることです。先の事例でも、生放送で集客し、そこからSNS内のコマース画面に誘導、そのまま決済にまで繋げる取り組みが行われています。

中国のSNSはこれらコマースに繋げる機能がとても進んでいること、生活者の間でも「生放送」の視聴や「ネット決済」が生活に根付いていることなど、日本とは異なる特徴があります。これら中国の姿は、日本がこれから進む道を示しているとも捉えることができます。

例えば、私たちが普段利用しているSNSにも、うまく活用することで売上に繋げられる機能が多数あります。しかしながら、日本企業でこれらの機能を十分に使いこなせている企業がどれだけあるでしょうか

InstagramでLIVE配信やストーリーズ投稿を行い、ショッピング機能を用いてECサイトに誘導する。LIVE配信内でのファンとのインタラクティブなやりとりや、ストーリーズのアンケート機能を用いて顧客のニーズを探る。

「小柄女性向けアパレルブランド『COHINA』は、約12万のインスタグラムフォロワーをもつ。新商品ローンチにあわせてライブ配信してリアルタイムで情報発信するほか、アンケート機能を使って収集した意見を商品開発に生かすなど、フォロワーとインタラクティブな関係性を作っている。」(出典:Instagramは“発見”から“購入検討”のプラットフォームへ――最新インサイトとEC活用方法のヒントを解説 / ネットショップ担当者フォーラム)

同社は実店舗を持たずECのみで商品を販売。立ち上げから1年で月商5,000万円を達成、2019年度は売上前年比2.2倍を達成している。(出典:小柄女性向けブランド『COHINA』がオープン2周年!売上220%成長を達成 / 株式会社newn)

LINE公式アカウントを運営。クーポン機能、メッセージ配信、タイムライン投稿や広告なども活用しながら、ファンとのコミュニケーションや売上増加につなげる。

京都生まれのナチュラルコスメブランド「VINTORTE(ヴァントルテ)」は、LINE公式アカウントを運用。週に1回のメッセージ配信やタイムライン投稿などを通じて顧客への情報配信を行うほか、LINEのリッチメッセージで左右違うメイクを出して、遷移先のURLに計測タグを仕込み、顧客が何に興味があるかのリサーチもしている。

また、ホームページ上のバナー告知や商品を届ける際の同梱チラシにて「会員情報とLINEアカウントの連携」を促進(アカウントを連携させた顧客に購入時に使えるポイントを付与)、リピート促進に役立てている。結果として、LINE公式アカウント経由での売上は同社月間売上の13%にまで達している。

このようにさまざまな機能を自社で一気に導入していくのは難しい…とお感じの方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、ここで大切なのは「機能を導入すること」そのものではありません。

SNSをただ「ポスターのような写真やメッセージを一方的に配信するだけの場」ではなく、「ファンとのインタラクティブなコミュニケーションをする場」と捉え、その過程でさまざまな取り組みにチャレンジしていくこと、その一環として機能も活用していくことなのではないでしょうか。

人々のオンライン上での繋がりがより大事になる「withコロナ時代」に、SNSは「生活のインフラ」としてより重要度が増していくと考えられます。企業は、顧客との関係性を深める場としてSNSをいかに有効に活用できるか、そのためにはどんな機能が便利で、ユーザーに受け入れられやすいか、自社ならではの活用方法を研究していくことも必要です。

ポイント3:「企業」だけでなく「企業の中の個人(社員)」もブランド化

3つめのポイントは、「企業」としてだけでなく、「企業の中の個人(社員)」も前面に出したマーケティング活動を行っていることです。先の事例では、美容部員がインフルエンサー化し、その方たちが発信する情報に信頼が集まっている様子をご紹介しました。

オフラインでも、いつも「お気に入りの店員さん」から買うことがあったように、今後の「with コロナ時代」においては、「企業」と「個人」だけでなく、「企業」と「企業の中の個人」と「個人」という考え方も重要になるのではないでしょうか。

日本でも、例えば美容師やアパレル店員が個人名を出してSNSアカウントを運用しファンを獲得、来店や購入に繋げるといった取り組みがすでに一般化しています。また、BtoB企業でも、企業名を公表し実名でSNSアカウントを運用したりブログを書いたりすることで、案件相談を獲得するケースが増えています。

BEAMS(ビームス)サイト
出典:BEAMS(ビームス)公式サイト
各店舗スタッフのコーディネートを自社WEBサイトやSNS公式アカウントで発信している。

今後他業界でも、同じように、会社として「個人のブランディング化」を促進することで会社全体の売上にも繋げていく取り組みが進んでいくでしょう。オフラインの場で直接伝えられる機会が限られるからこそ、オンラインでもより人柄を伝え、親しみを持ってもらえる運用が重要になるのです。

まとめ

以上、今回は「コロナショック」を切り抜けてきた中国企業の事例をご紹介しながら、日本企業も参考にできる3つの「SNS活用術」をご紹介しました。

1.私域流量、個人との繋がりをより重視
2.SNSプラットフォームから提供されている機能をさまざまなアイデアで活用
3.企業の中の個人の名前や顔を見せてより顧客と近い関係を築く

この3つの中で、特に気になるもの、自社に活かせそうなポイントはありましたか?
本記事が、皆さまにとって普段のSNS活用を振り返るきっかけになれば幸いです。

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