
マーケティング戦略を考える際、「なぜこの商品が選ばれるのか?」「どんなシーンで使われるのか?」といったポジティブな要因に目が向きがちです。しかし、同じくらい重要なのが、「なぜ買われないのか?」「なぜ継続して購入されないのか?」というネガティブな要因です。
例えば、新しいスキンケア製品を検討する際、「自分の肌に合うか不安」「値段が高そう」「敏感肌だから心配」といった懸念で購入をためらう人がいます。また、実際に購入した人からは「香りが強すぎる」「べたつく」「思ったより効果を感じられない」といった不満の声が上がることもあります。
こうした「購入を妨げる壁」や「離脱につながる不満」を体系的に分析するのが、「カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析」です。
SNSのUGCやレビューから顧客の声をAI技術で分析する独自手法「CEPsリスニング」によって、CExPsを特定することで、購入検討者の「誤解や思い込み」を打ち消す施策や、既存顧客の離脱を防ぐ改善点を発見できます。
本記事では、カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析について、その基本や活用方法を具体例も交えながら紹介します。
「CEPsリスニング」とは?
CEPsリスニングは、アライドアーキテクツが提供するデータプラットフォーム「Kaname.ax」に取り込んだSNSのUGCやECのレビューなどから、特許出願中(*)の独自AI技術を活用して顧客の声を分析し、商品・ブランドを購入・利用する際のきっかけ(CEPs:カテゴリーエントリーポイント)を導き出すサービスです。生活者の実際の体験や感想をCEPsを軸に分析することで、生活者インサイトを発見・評価し、より効果的なマーケティング戦略の策定を可能にします。
このCEPsリスニングの分析メニューには、ポジティブ文脈の「CEPs(カテゴリーエントリーポイント)」とネガティブ文脈の「CExPs(カテゴリーイグジットポイント)」があります。CEPsが「なぜ買われるのか?」を分析するのに対し、CExPsは「なぜ買われないのか?」を分析します。

▼CEPsの詳細については、こちらの記事をご覧ください
CEPs(カテゴリーエントリーポイント)とは?ブランドが誰に何を訴求すべきか突き止めよう
* アライドアーキテクツ社はこの技術において特許出願中:2025年7月25日発表「アライドアーキテクツ、SNS投稿などから消費者インサイトを抽出するAI技術の特許を出願」
https://www.aainc.co.jp/news-release/2025/02616.html
技術概要:SNS投稿やレビュー、顧客アンケートから分析対象に関する情報を抽出し、AIによって複数のCEPs(カテゴリーエントリーポイント)を自動抽出・判定する技術
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)とは?
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)とは、「CEPsリスニング」の分析手法の一つ「カテゴリーイグジットポイント分析」において導き出される「購入障壁や体験後の不満といった”ネガティブ要素”」を指し、アライドアーキテクツが独自に開発したものです。
CExPsを特定し分析することで、商品やサービスが「なぜ買われないのか」「なぜ離脱されるのか」といった、顧客がブランドから”離れる理由”が体系的にわかります。
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析の2つの核心要素
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析では、ネガティブな顧客の声を「購入障壁」と「体験不満」の2つの軸で分類・分析します。
この2つの要素を把握することが、戦略立案においてきわめて重要です。
①購入障壁:購入前のネガティブな思い込み・懸念
「購入障壁」とは、実際にはその商品やサービスを使っていないものの、思い込みや懸念によって購入をためらっている層が持つネガティブなイメージのことです。
例えば、冷凍弁当宅配サービスの場合、以下のような購入障壁が挙げられます。

これらは、実際に利用したことがない人が持つイメージであり、事実とは異なる場合も多くあります。しかし、こうした思い込みが新規顧客の獲得を妨げる大きな壁になっているのです。
②体験不満:実際に使った後のネガティブな声
「体験不満」とは、実際にその商品やサービスを利用した結果、解約や乗り換えにつながったリアルな不満の声のことです。
冷凍弁当宅配サービスの場合、例えば以下のような体験不満が挙げられます。

これらは実際の利用体験に基づく不満であり、商品やサービスそのものの改善点や、既存顧客へのコミュニケーション改善につながる重要な情報です。

なぜ2つの要素を分けて見る必要があるのか?
購入障壁を取り払わなければ、新しい顧客は入ってきません。一方、体験不満を解消しなければ、長く使っていただける顧客に育ちません。
つまり、購入障壁の解消は「新規顧客獲得」に、体験不満の解消は「既存顧客維持」に直結するのです。
さらに、この2つを比較することで、マーケティング戦略の方向性が見えてきます。
なぜカテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析が重要なのか?
ネガティブ分析の重要性
マーケティング戦略において、「選ばれる理由」だけでなく「選ばれない理由」を知ることは同等に重要です。ポジティブな要因の分析だけでは、なぜ顧客が購入に至らないのか、なぜ解約や乗り換えが起きるのかという根本的な課題を見逃してしまいます。
競合のカテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析から得られること
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)を活用することで、自社商品だけでなく商品カテゴリー全体や競合商品のネガティブな声も分析可能になります。競合が抱える課題を知ることで、自社の差別化ポイントを発見したり、市場全体の改善余地を見出したりできます。これにより、データに基づいた精度の高い商品開発やマーケティング施策の立案につながります。
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析でできること
購入障壁の特定→ネック返し施策
購入障壁を明らかにすることで、顧客が持つ「誤解や思い込み」を直接打ち消す施策を展開できます。
活用イメージ:オイルクレンジングブランドA
オイルクレンジングに対するカテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析を行ったところ、「オイルクレンジングは使用後にベタつくイメージがある」という購入障壁が多くの潜在顧客に存在することが明らかになったと仮定します。
ブランドAは、オイルクレンジングと思えない使用後のさっぱり感を強みとしていたものの、この購入障壁によって潜在顧客にその価値が届いていないことを認識、広告クリエイティブで購入障壁を先回りして打ち消す戦略を採用しました。
「オイルクレンジングはベタつくと思っていませんか?」
このように、顧客が持つネガティブなイメージをあえて言語化し、それを否定することで、「確かにそう思っていた。でもブランドAは違うんだ」という気づきを与えることができます。
購入障壁を特定し、それを直接打ち消す「ネック返し」の施策は、新規顧客の獲得においてきわめて効果的なアプローチと言えます。
自社vs競合の比較→差別化ポイント発見
競合他社に対して語られている体験不満が自社にはない場合、それを強みとして前面に押し出すことができます。逆に自社特有のネガティブがある場合は改善の余地が浮き彫りになります。

購入障壁と体験不満の比較→戦略の方向性決定
購入障壁と体験不満の2つを比較することで、マーケティングコミュニケーションや商品・サービスの提供において、どのポイントに注力すべきかという戦略の方向性が見えてきます。
パターン①:購入障壁は多いが、体験不満は少ない
このパターンは「買う前の誤解や思い込みは多いが、実際に使った人の満足度は高い」という状況です。
例えば、海外旅行用のeSIMサービスでは、購入前に「eSIMはなんとなく信用できない」「物理的なWi-Fiルーターがないと不安」といった声が見られます。しかし実際に使ってみると「スマホだけあれば完結してしまうのでとても便利」「通信にストレスがなく、もう手放せない」といった満足の声も見られます。
この場合、商品そのものには問題がないため、市場啓蒙や認知施策を強化することが有効です。「実は便利で安心」というメッセージを広く伝えることで、購入障壁を下げることができます。
パターン②:購入障壁は少ないが、体験不満は多い
このパターンは、「購入前のイメージは悪くないが、実際に使ってみると不満が多い」という状況です。
この場合、商品・サービスそのものの改善が必要となるケースが多いです。また、既存顧客へのコミュニケーション強化やカスタマーサポートの充実も重要になります。放置すると、解約や乗り換えが増加し、ブランドイメージの悪化につながります。
なお、購入前の期待値と購入後の体験にギャップがあることによって体験不満が生まれているケースもあります。その場合は、新規顧客獲得時点で伝えているメッセージやコミュニケーションのあり方そのものを見直す必要があります。

カテゴリーイグジットポイント(CExPs)を特定する方法
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)を特定するためには、ネガティブな顧客の声を体系的に収集・分析する必要があります。ここでは、カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析における代表的なアプローチを紹介します。
主なデータソース
データ収集には、主にXなどのSNSプラットフォーム上の発話や、ECサイトなどのレビューを活用します。
SNSは、企業に直接届きにくい「小さな不満」や「解約者の本音」もリアルタイムに拾える点がメリットです。また、競合ブランドのネガティブな声も同時に取得できます。
レビューは、比較的まとまった文章で書かれることが多く、具体的な不満点を把握しやすいのが特徴です。購入・利用体験者の声であるため、「体験不満」の分析に特に有効です。
収集したVOCのカテゴライズ
収集したネガティブな声を、「購入障壁」と「体験不満」の2つに分類します。
発言内容を精査し、それが購入前の思い込みや懸念によるものなのか、実際に利用した体験に基づく不満なのかを判別していきます。
さらに、自社ブランドだけでなく、カテゴリー全体や競合ブランドのネガティブな声も同様に分類・比較することで、市場全体の傾向や自社の相対的な位置づけを把握できます。
感情強度のスコアリング
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)特定方法の大きな特徴のひとつに、「感情強度のスコアリング」が挙げられます。
発言件数のみならず、発話内容からネガティブな感情の強さそのものをAI技術でスコア化します。
これにより、「発話件数は少ないが深刻度が高い問題」を見逃すことなく抽出し、真に優先すべき課題を特定することができます。件数の多さだけでなく、感情の深刻さという視点を加えることで、より実効性の高い施策立案が可能となります。
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析から導き出された改善施策の例
実際にカテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析を活用した事例を紹介します。
AuB株式会社のケース
背景と課題
AuB株式会社は、2025年10月より新たな領域として睡眠サポート市場に参入。タルトチェリーの濃縮果汁「NIGHT CHERRY ESSENCE(ナイトチェリーエッセンス)」の提供を開始しました。
同商品は、有機栽培のタルトチェリーを約5倍に濃縮した、甘味料や合成着色料を一切使わない無添加の商品です。AuBは「天然由来」「無添加」といった商品特性が差別化ポイントになるという仮説を持っていましたが、タルトチェリーは日本市場ではまだ認知度が低く、既に多くのプレイヤーが存在する「睡眠サポート」カテゴリーにおいて、この仮説が実際に消費者ニーズと合致しているのかをデータで検証し、効果的な訴求方法を明確にする必要がありました。
カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析による競合カテゴリーの不満軸を抽出
そこで、睡眠サポート市場および美容ドリンク市場におけるネガティブVOCを分析。カテゴリーイグジットポイント(消費者が商品から離脱する要因)の抽出を図りました。
分析の結果、競合商品に対して以下のような購入障壁や体験不満が明らかになりました。


自社の強みの確信
これらのインサイトは、企業側が想定していた以上に睡眠サポート市場において「天然由来」「自然な睡眠」といったキーワードへの潜在需要が大きいことを示していました。特に、甘味料や合成着色料等の成分を含む商品への抵抗感や、「薬っぽさ」への懸念が市場に根強く存在することが判明しました。
また、美容ドリンク市場においては「飲みやすさ」「後味の良さ」が重要になることが判明しました。
この分析により、AuBが差別化要素として仮説を持っていた「天然由来」「無添加」「すっきりとした飲みやすい味わい」という特徴が、実際に消費者にとって重要な購入動機となりうることがデータで実証されました。
仮説の検証と訴求メッセージの最適化
カテゴリーイグジットポイント分析の結果を基に、AuBは商品が本来持つ特性をより効果的に伝えるための訴求戦略を構築しました。
1. 商品特性の訴求優先順位の明確化
分析により、市場の不満を解消する要素として「天然由来」「無添加」への需要が非常に高いことが確認されました。これにより、もともと商品が持っていた「お休み前の生活リズムを整える果物としてのタルトチェリー」「有機JAS認証を取得した有機栽培原料のみを使用」「水や砂糖、甘味料、添加物を一切加えない果汁100%の無添加」という特徴を、LPや広告クリエイティブにおいて前面に打ち出す優先順位が明確になりました。
2. 「睡眠美容」コンセプトの確信
「アントシアニン」「鉄分」「マグネシウム」「各種ビタミン群」といった豊富な美容成分を含みながら、就寝前でも飲みやすいすっきりとした味わいであることを、睡眠サポートと美容を両立する「睡眠美容」というコンセプトで伝えることは市場の需要に応えるものであると確認しました。
3. ターゲット層の再確認
分析結果から、自然志向・健康意識が高く、「薬に頼らない睡眠改善」を求める層、特に美容と健康を両立したい女性層へのアプローチが有効であることが裏付けられました。
4. LPのメッセージング最適化
競合商品への不満を解消する要素(天然由来、無添加、美容成分豊富、飲みやすい味わい)がより伝わるよう、メッセージの配置や表現方法を最適化。訴求の優先順位を見直すことで、消費者が求めていた価値を明確に伝えるクリエイティブの制作を実現しました。
まとめ:カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析でネガティブな要因を可視化し、マーケティング戦略を最適化しよう
本記事では、カテゴリーイグジットポイント(CExPs)分析は、「なぜ買われないのか?」「なぜ継続して購入されないのか?」というネガティブな要因を、「購入障壁」と「体験不満」の2つの軸で明らかにする分析メニューであると解説しました。
購入障壁を特定することで、顧客の誤解や思い込みを打ち消す施策を展開でき、購入前の懸念を先回りして解消することで、新規顧客の獲得につながります。
体験不満を把握することで、商品やサービスの改善点、顧客へのコミュニケーション改善が明確になります。
さらに、自社と競合、カテゴリー全体のネガティブな声を比較することで、差別化ポイントの発見や、市場全体の改善余地を見出すことができます。購入障壁と体験不満を比較すれば、マーケティングコミュニケーションや商品・サービスの提供において何に注力すべきかという戦略の方向性も見えてきます。
カテゴリーエントリーポイント(CEPs)とカテゴリーイグジットポイント(CExPs)の両面から顧客インサイトを把握することで、より実効性の高いマーケティング戦略や商品開発が可能になります。
ぜひ、あなたが担当するブランドや商品・サービスについても、カテゴリーイグジットポイント(CExPs)による分析に取り組んでみてください。
アライドアーキテクツでは、CEPsリスニングによる顧客インサイトの発見から、最適な戦略設計、企画実行まで幅広くご支援しています。
「自社のブランドや商品・サービスのカテゴリーイグジットポイント(CExPs)が気になる」
「ネガティブな声から改善施策を考えたい」
「VOCの収集、分析から施策に至るまで、一貫してお任せしたい」
ぜひアライドアーキテクツが提供するデータプラットフォーム「Kaname.ax」へお気軽にお問い合わせください。




