D2Cのパイオニア的企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント「D2C最前線」。今回は、N&O Life、バルクオム、トリコの3社が登壇、「D2Cプラットフォーム戦略のリアル」をテーマに行われたパネルディスカッションの内容を前編・後編の2回に分けてレポートします!

本セッションでは、現在のD2Cトレンドの背景にはどのような社会の変化があるのか、今D2Cに取り組む意義、また同社が考える「D2C 6つの定義」など、これからD2Cビジネスを考える上で必ず押さえておきたいポイントが紹介されました。

イベント:D2C最前線とは?

株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催したセミナーイベント。2020年2月27日にWeb上でのライブ配信形式で実施された。


オープニングセッション「なぜ今D2Cがトレンドなのか?」
登壇者:株式会社SUPER STUDIO 共同創業者・エバンジェリスト 真野 勉氏
2014年12月に株式会社SUPER STUDIOを代表の林氏、花岡氏と共に共同創業。テクノロジーとコンサルティングを内製している国内唯一のD2C特化支援企業として、D2C特化型SaaS「EC Force」、D2Cコンサルティング支援サービス「Apollo D2C」を展開している。

D2Cトレンドの背景にある「消費行動の3つの変化」

まず最初に、真野氏は、D2Cは「デジタル化によって変化した消費行動に最適なマーケティングフレームワークである」と定義し、D2Cの良さを「新興企業であっても、ユニークな商品やアプローチをもって、既存マーケットに新規参入が可能であること」とした上で、近年のD2C盛り上がりの背景には消費行動に関する3つの変化があると説明しました。

1.消費者がいる場所の変化→広告業界の変化

D2C 消費行動の変化

真野氏は、「2014年頃からのスマホの本格普及によって、人々がいる場所がマスからデジタルに本格的に移り変わってきた」と説明します。そしてこれにより広告業界にも大きな変化が起きていると強調しました。

「デジタル広告は、マス広告と異なり、誰でも顧客別・予算別に、リスクを最小限に抑えたうえで広告の配信が可能です。また、近年のアドテクノロジーの変化によって広告効率も改善しており、クリエイティブを工夫することによって、よりターゲットに広告を届けやすい環境が実現してきました。つまり、業界に新規参入するブランドであったとしても、消費者にリーチできる独自の消費者向け販売チャネルを迅速かつ費用対効果の高い方法で構築することが可能になったと言えます。」(真野氏)

このように、マスからデジタルへの変遷に伴う「広告業界の変化」により、新規ブランドにとっての業界への参入障壁が下がり、現在のD2Cブームに繋がっていると語りました。

2.消費者が求める価値の変化

D2C 消費者が求める価値の変化

また、消費者が物やサービスに求める価値の変化も、昨今のD2Cブームに繋がっていると説明します。

「日本は豊かになったことで、消費者は、物やサービスの機能的価値ではなく、情緒的な価値にお金を払うようになりました。例えば、電子レンジの機能的価値には物を温める、オーブンとしても使える、食材毎の温め方ができるなどがあります。これに対して情緒的価値とは、例えば、インテリアとしても優れている、電子レンジで音楽も楽しめるなどが挙げられます。このように、独自のストーリーやコンセプト・世界観を持ち、ユニークな体験を提供できる商品・サービスが消費者に選ばれるようになっているのです。」(真野氏)

3.ビジネスモデルの変化

D2C ビジネスモデルの変化

さらに、「サブスクリプションビジネスの台頭が、顧客起点で拡大させるビジネス=D2Cのブームにも繋がっている」と語りました。

「ネットフリックスやアマゾンプライムなどを代表するサブスクリプションビジネスは、既に私たちの生活のインフラとなりつつあります。このビジネスモデルの変化により、物の所有から、物の利用への人々の価値観がシフトしました。これを背景に、現在D2C×サブスクリプションというモデルが出来上がってきています。」(真野氏)

これらの消費行動の変化により、「価格競争合戦では大手企業に勝ち目がなく、市場の成長も旧態依然としていた分野においても、スタートアップ企業が独自の世界観をもってユニークな体験を生み出せる商品を作り、D2Cというマーケティングで一矢報いることが可能になった」と強調しました。

D2Cの波は大手にも!

真野氏は、このD2Cのトレンドはスタートアップ企業に限ったものではなく、「世界中で、大手企業が既存の市場に新規参入する手段として、D2C企業の買収を進めている」と説明しました。

「例えば、2016年には、ユニリーバ社が2012年創業のD2Cスタートアップ企業Dollar Shave Club社を約1,100億円で買収したことが話題となりました。このDollar Shave Clubは、ワンコインでシェービングとカミソリを毎月届けるサブスクリプションモデルでビジネスを展開、創業からわずか数年で約200億円もの売上を達成していました。シェービングを商材として持っていなかったユニリーバ社はここに着目し、Dollar Shave Clubを買収することで、長年P&Gなど既存大手企業が牛耳ってきたシェービング市場への新規参入を果たしたのです。」(真野氏)

また、海外企業だけでなく、日本企業も積極的にD2C企業の買収を進めており、「2019年には資生堂がアメリカのD2Cスキンケアブランド、ドランクエレファント社を約900億円で買収、ワコールホールディングスがアメリカのD2Cインナーウェアブランド、インティメイツ・オンライン社を買収などのニュースが話題になった」と紹介しました。

SUPER STUDIOが考える、「D2C」6つの定義

次に真野氏は、「SUPER STUDIOが考えるD2Cの定義を、世の中の定義に沿って解説する」として、D2Cの6つの定義を紹介しました。

D2C 株式会社SUPER STUDIO 真野氏①

(※以下、真野氏が語った「D2C6つの定義」のポイントをまとめて記載します)

1.デジタルである

今からブランドを立ち上げる際に、すでに「デジタルをやらない」理由はないと考えられる。現在は、デジタルファーストな戦略がコスト、スピード、再現性において合理的だ。実際には、デジタルファーストでビジネスを立ち上げた後、さらなる事業拡大フェーズで、リアル店舗の出店や小売への卸を行うことがブランドの定石になるのではないか。また、その後ファンコミュニティを創ることも重要だと考えられる。

2.ユニークな体験を与えるプロダクト

消費行動の変化によって、ユニークな体験を与える商品が求められているので、D2Cブランドが目指す「ユニークな体験を与えるプロダクト」は世の中のニーズと合致していると言える。ユニークな体験を与えるプロダクトはその分価格も高い傾向にあるが、機能的価値のみを持つ商品とユニークな体験を与える情緒的価値のある商品では、LTVベースで価格差が2倍あっても売れるという実態もある。さらに、情緒的価値を持つ商品はデジタルマーケティングとの相性も非常に良く、ユニットエコノミクスが成立しやすいことが経験上明らかになっている。

3.垂直統合されたサプライチェーンが武器

デジタルファースト=自社ECを持つことを意味するため、物流やコールセンターなどのあらゆるサプライチェーンを運営の管理下に置く必要が出てくる。大変である一方、それによって、従来の方法ではブラックボックスであったコスト構造も制御可能となり、さまざまなマーケティング戦略を組んで高速にPDCAを回すことも可能になることから、垂直統合されたサプライチェーンは武器になると言える。

また、あらゆるサプライチェーンを管理下に置くことで、物流やコールセンターなども含めたあらゆる顧客接点において一貫性を保つことができるようになり、ユニークな体験を与えるという世界観との相性もよいと考えられる。

D2C 株式会社SUPER STUDIO 真野氏②

4.顧客とのダイレクトな対話が可能

デジタルファーストなマーケティングでは、商品を販売する前からSNSで見込み顧客と対話することができ、商品リリース後もPUSH型で会員との対話が可能だ。コールセンターに集まる意見も重要な顧客の声と考えられる。このように、デジタルを入口にオンラインやオフラインで顧客と直接対話でき、そこから得られた顧客の声を商品改善やマーケティング施策に活かすことは大きなメリットになる。ただし、消費者の声をそのまま聞くことは必ずしも商品をよくするとは限らないことから、顧客の真の声を捉えることが重要と言える。

また、「消費者の声を聞く」という意味では、D2Cはクラウドファンディングとの相性もとても良い。近年はブランド立ち上げ時にマーケティング施策の一環としてクラウドファンディングを実施する事例も多く見られる。

5.データ・ドリブン

自社ECを持つことであらゆる確度から精度の高いデータドリブンにより意思決定ができるようになり、ユニットエコノミクスの成立可否の早期判断が可能となる。「人は言葉では嘘をつくかもしれないが、行動では嘘をつかない」と考えられ、ECのデータは消費者のアクティビティログ=消費者によるもう一つの声とも言い換えられる。顧客との直接の対話によって得られた声と、データによるアクティビティログの両方から事業の状態を判断することが重要だ。

6.資金調達がしやすい

全てはマーケティング施策次第であり資金調達が必須というわけではない。ただし、データドリブンであることの大きなメリットとして「早期にユニットエコノミクス成立可否の判定がしやすい」点があるため、ベンチャーキャピタルや銀行など投資する側でもその判断がしやすく、また投資してもらうD2Cブランド側としても「資金を投資してこれだけ踏み込めば、これだけ事業が伸びる」という絵を描きやすい。D2Cと資金調達は相性がよいと言える。

真野氏は、最後に「D2Cベンチャー企業にとってチャンスが到来している」と語り、本講演を締め括りました。

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