EC×デジマ談義 前編

媒体単価の上昇、Googleのアップデート・Yahoo!の機能表示制限・ITPによる脱Cookie依存、各媒体の審査厳格化。デジタル広告市場は今、激しい変動の中にあります。
「新規獲得効率が悪化し続けているが、有効な打ち手が見当たらなくて困っている」とお悩みのEC企業マーケティング担当者も多いのではないでしょうか。

アライドアーキテクツでは、こうしたお悩み解決のヒントを探すべく「新規獲得広告が厳しくなる時代にEC企業が打つべき施策とは」をテーマにセミナーを実施。大地を守る会、マナラ、VELTRAという異業界のEC企業3社の取り組みについて、シンクロ西井氏をモデレーターにむかえてディスカッションが行われました。

今回はこのセミナーのレポートを前後編の2回に分けてお届けします。
後半では、実施施策の効果を高めるために各社が行なっている取り組みについてお話いただきました!

<前編はこちら>大地を守る会・マナラ・VELTRAが語る、変動が激しいデジタル市場で新規獲得施策をどう転換すべきか?【EC×デジマ談義セミナーレポート/前編】

LTVを高めるためのコミュニケーションを追求/マナラ化粧品

西井氏:続いて施策の効果を高めるために実施しているお取り組みについてお聞きしたいのですが、井上さんはいかがでしょうか?

井上氏:はい。効果的にLTVを高めていくために、私たちはお客様が本当に望む体験を提供していくことが大切だと考えています。たとえば、お客様にうかがうと、リアルなイベントを楽しみにしていることが分かりました。そこで最近はお客様と直接お会いする取り組みを積極的に行なってきました。

EC×デジマ談義 マナラ イベント
マナラ化粧品で行なっているオフラインイベントの様子。

西井氏:なるほど。リアルな接点を増やす取り組みはコストもリソースもかかると思います。それでも続ける意義や理由はどういったものなのでしょうか?

井上氏:私たちのメイン商品はスキンケアです。お客様にうかがうと、スキンケア商品の場合は、他の方の口コミを参考にしたり、家族からすすめられて購入したという声がとても多いんです。そうなると、やはりお客様が他の人に商品を勧めたくなるようなブランドにしなくてはいけません。

こうしたオフラインイベントなど、お客様が望む形で関係を深めていくことで、一人一人のお客様に、きちんと商品やブランドを理解してもらい、最終的に私たち社員のことも好きになっていただけたらと思います。これがブランドを強くし、そこから口コミが広がって新しいお客様にもつながっていくと考えています。まだ効果は可視化できていませんが、目指している姿としてはそこまでつなげていきたいです。

西井氏:なるほど。ほかにもイベントを通して自分と同じものをいいと思っている人と会えると、自分の選択への自信が持てるようになりますよね。それもLTVを高めるのに効果的なのかもしれませんね。

井上氏:おっしゃる通りです。また、リアルな接点を大切にするとはいえ、お会いできるお客様の数には限りがあります。こうした課題を解決するために、私たちがリアルイベントでご提供しているような体験をウェブ上でも体験してもらおうと「MANARA With」というファンサイトを運営しています。ここではイベントの参加募集やイベントレポートの他、お客様にお役立ていただけるような読み物を掲載しています。

NPSを活用して商品を改善/VELTRA

西井氏:ありがとうございます。続いて堀端さんはいかがでしょうか?

堀端氏:我々はいま、施策の効果をあげるためにNPSを活用した取り組みをしています。NPSとは顧客満足度のようなもので、商品やサービスをどの程度他者に勧めたいかを調べるものです。我々はお客様に、「あなたはどの程度VELTRAをご友人ご家族に勧めたいですか?」というアンケートをとり、0から10までの11段階で評価をしてもらっています。

EC×デジマ談義 NPS リピート率
実施したNPS調査からリピート率を算出すると、批判者層よりも、それぞれ推奨者層は28%、中立者層は22%、リピート率が高いことがわかった。

堀端氏:我々はこの調査を2017年1月から同年末まで実施し、アンケートにご回答いただいた方をスコア別に分けました。そしてその後、2018年1月から2019年12月末までの2年間において再びVELTRAをご利用いただいたかを調べ、リピート率を算出しました。

すると、アンケートで高いスコアをつけた推奨者層と、あまりご満足いただけなかった批判者層を比較すると、推奨者層の方が28%リピート率が高いことがわかりました。同様に中立者層においても、批判者層の方より22%リピート率が高くなっています。この結果を受け、我々は批判者層の方が参加されたツアーやネガティブコメントを徹底的に洗い出し、該当するツアーの改善や掲載の見直しなど改善施策を行いました。

西井氏:批判要因をつぶして批判者層を減らしていくことで、中立・推奨者層をあげていく施策に取り組んでいらっしゃるんですね。

堀端氏:その通りです。

UGC活用施策で定期購入への転換率が向上/オイシックス・ラ・大地

西井氏:ありがとうございます。では吉川さんはいかがでしょうか?

吉川氏:我々はUGCを活用して施策の効果を高めています。お客様がまだサービスを使っていない状態や、お試しセットを使い切っていない状態では、定期購入をするかどうかの判断は難しいですよね。そこで定期登録してもらうためのLPや、サービス説明のためのLPのコンテンツに利用者のUGCを取り入れ、商品を使った後のイメージを持ってもらう取り組みをしています。

商品やサービスを使うことでお客様の生活がどう変わるかということは、我々企業側からの言葉では伝わりにくいものがあります。実際に使っているお客様のリアルな声であるUGCを活用することで、より具体的なイメージをもってもらい、実際に定期入会への転換率が1.15倍に改善した実績もでています。

EC×デジマ談義 大地を守る会 UGC
お試しセット購入者に定期登録を促すために使用しているLPで実際に表示しているUGC。

西井氏:これは健康食品のビフォーアフターと通じるものがあると思います。こんな野菜を使っていますというビフォーがあって、アフターとしてそれを実際に使っているユーザーさんの使い方を提示することで信頼感をもってもらったり、自分も使ってみたいという気持ちになっていただいたりするのかもしれませんね。

吉川氏:そうですね。また、効果がわかりやすい商品だと伝えやすいのですが、我々のように「それがある生活」といった少し抽象的なものだと我々からの発信では限界もあると感じています。

西井氏:「商品にどんな価値を感じているのか」というのも多様化していて、必ずしも1つではないからこそUGCを取り入れることは効果的なのかもしれません。ちなみに、こうしたUGCを集める際、依頼をするとPR感がでてしまうという声もあります。UGCを作ったり集めたりする時に気をつけていることはありますか?

吉川氏:基本的にはこちらから依頼して投稿してもらうということはせず、ネガティブなコメントを含めて、自然に投稿していただいたものを使うようにしています。そのため、投稿しやすい状況を作ったり、投稿しやすい導線を作ることには気をつけています。

西井氏:確かに投稿のお願いをするよりは、導線上に投稿しやすい状態を作って投稿を貯めるほうがいいのかもしれないですね。マナラさんはいかがですか?化粧品のUGCだと、商品を持って顔出ししている、みたいなものが多くなってしまうイメージがあるのですが何か工夫されていることはありますか?

井上氏:そうですね、弊社はPR的なものより実際に使っていただいた方に投稿いただくことを重視しています。そのために、お客様に対するコミュニケーションでも、まずは使ってみてください、よかったらこんな形で投稿ができます、といったアプローチを行なっています。

EC×デジマ談義 イベント風景

西井氏:ありがとうございます。VELTRAさんは旅行業界ですし、UGCは豊富にありそうですよね。

堀端氏:SNS上のUGCの活用はまだまだこれからです。ただツアーを利用した方の「体験談」はかなりの数があり、こちらを活用しています。効果的に使うという点では、掲載する体験談にはネガティブなコメントも入れることを心がけ、よりリアルさや信頼感につなげていくようにしています。

西井氏:なるほど。ありがとうございます。ちなみによりコンバージョンにつながりやすいUGCはどんなものになるのでしょうという質問をいただいています。吉川さんいかがですか?

吉川氏:どのタイミングのコミュニケーションかによって、効果的なUGCも違うと思いますが、少し先の未来を見てもらえるように意識しています。例えば我々の場合は、定期登録を促す際には商品があることによる生活や食卓の様子が伝わるものが効果が高いですし、お試しセット訴求の場合は、お試しセットが届いて箱を開けた時の様子が伝わるものがコンバージョンが高い傾向があります。

西井氏:ありがとうございます。本日はマナラ化粧品・井上さん、VELTRA・堀端さん、大地を守る会・吉川さんをお迎えして、「新規獲得広告が厳しくなる時代にEC企業が打つべき施策とは」をテーマにディスカッションしてきました。お話をうかがっていて皆さん、新規獲得を「点」の結果だけではなく、その獲得までの過程の改善や、獲得後のLTVに注目するなど、「線」で捉えて施策に取り組んでいらっしゃると感じました。

また、実際にお客様に会う、NPSの調査に基づいた改善施策、UGC活用施策など、生活者の視点をきちんと施策に取りれているのが印象的でした。新規獲得広告が厳しくなる今後、こうした視点をもったマーケティングが重要となってくるのかもしれないですね。