ベースフードインタビュー記事

「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションに、1食で必要な栄養素をバランスよく取ることができるパンや麺の販売を行なっているベースフード株式会社。

食品系D2C企業として業界を牽引する同社はなぜ、D2C型のビジネスモデルを選んだのでしょうか?また、同社ではD2C型のマーケティングを行ううえで、何を重視しているのでしょうか?

今回は、同社のCMO齋藤竜太氏に、同社のマーケティング戦略から効率的な組織作りまで、たっぷりとお話をお伺いしました。

なぜBASE FOODは「お客様と直接つながること」を求めたのか

-まずは御社の事業内容や商品について教えてください。

齋藤氏:ベースフードは「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションに、完全栄養の麺・パンを開発し、それを世の中に広げていくという事業を展開しています。商品は主に、自社のECサイトで販売しています。サブスクリプションモデルを採用し、毎月定期的に商品が届き、「健康的な主食を美味しく続けられる体験」の提供を目指しています。

ベースフード 商品
ベースフード社が販売する完全栄養の主食、BASE BREAD® プレーン(左)、チョコレート(中央)、BASE PASTA®(右)

ー販売を開始してからどのくらいになりますか?

齋藤氏:2017年の2月から発売しており、現在3年ちょっと経ったところです。

ー今でこそ食品系のスタートアップ企業やD2C企業も増えていますが、ベースフードさんはかなり早い段階で事業を立ち上げており市場のパイオニアという印象があります。

齋藤氏:そうですね。販売を開始した2017年は、ちょうどD2Cという言葉が出てきたくらいの年だと記憶しています。当時は化粧品やアパレルがメインで、サプリメントや健康食品を除けば、食品のD2Cブランドは多くありませんでした。

ーブランドを立ち上げる当初からD2Cを意識していたのでしょうか?

齋藤氏:D2Cをやろうと思ってブランドを立ち上げたわけではありません。
まず弊社には「健康を当たり前にしたい」「健康を簡単にしたい」という想いがあり、その実現のために、主食1つで栄養バランスが取れる食品があれば良いと考えて商品を開発しました。そして、第一弾として実施したクラウドファンディングで、我々のミッションに共感し応援してくれるファンの人と繋がることができたんです。その後、本格的に事業の拡大を意識した時、我々にはお客様と直接つながり販売するビジネスモデルが適しているのではと考えて、D2Cという形を採用しました。

ベースフード 齋藤竜太氏
ベースフード株式会社 CMO 齋藤 竜太氏

ー特にどういった点がD2Cビジネスモデルを採用するポイントになりましたか?

齋藤氏:最初の段階は特に、商品自体がまだ完成形とは言えませんでした。「かんたん、おいしい、からだにいい」という我々のサービスのコンセプトをより早く理想に近づけるために、お客様の声を直接聞き、それを改善に活かせる状態が良いと考えました。

また「30種類の栄養が入っているパスタ」「1食で必要な栄養素が取れるパン」というBASE FOODの特性は、今まで世の中になかった新しいものです。こうした商品の特性を効果的に伝えるためには、コミュニケーションの検証と改善を繰り返すことが必要であり、自分たちで直接お客様に伝える方がスムーズにそれを実施できると考えました。D2Cを選んだというよりは、それ以外に選択肢はなかったというほうが近いかもしれません。

ーちなみに、最初にクラウドファンディングによる販売を実施したのにはどういった目的があったのでしょうか?

齋藤氏:代表の橋本や創業メンバー自身が、「美味しいものを食べて健康になることが難しい」「栄養バランスを取るのが難しい」といった課題を認識しており、同時にこの解決に適した商品がないと考えていました。その点では、ある程度の課題把握はできていたと言えます。クラウドファンディングは、実際にそのニーズがどれくらいあるのか、商品がどういう人に受け入れられるのかの検証を行うための施策という位置付けです。

実施してみると、我々の取り組みをメディアさんに取り上げていただいたこともあり、施策は大変盛り上がりました。また、その後Amazonで先行販売をしたのですが、最初の2週間で食品部門の1位になったんです。
こうした結果から、これほど需要があるのならもっと組織を整えて事業を大きくしていこうと、本格的に事業を拡大するための基盤作りを行いました。

ーいい意味で想定外だったということですね。

齋藤氏:はい。予想以上に世の中の人に求めていただき、事業を大きくしていく手応えを感じました。

「お客様とのつながり」を起点とした「運用型マーケティング」とは

ーありがとうございます。D2Cが自分たちに適しているとお考えになったとのことですが、従来型ブランドとD2Cブランドのマーケティングの違いについてはどう捉えていますか?

齋藤氏:D2C型マーケティングの特徴はまず、お客様との直接的な繋がりが起点となっていることだと思います。
従来型のブランドでは商品を起点にマーケティングファネルに沿ってまず認知を獲得し、購入を促すという縦の流れが強いと考えています。一方、D2Cはお客様との直接的なつながりを活かし、蓄積したデータを元に商品開発から購入、物流、購入後のコミュニケーションまでをPDCAを回して進めます。こうした日々の改善を行いながら顧客体験を進化させる「運用型のマーケティング」がD2Cのマーケティングであり、従来型のブランドのマーケティングとの大きな違いだと認識しています。

ベースフード 齋藤竜太氏
商品を起点として進めていく従来型ブランドのマーケティングに対し、D2Cでは顧客との接点を起点にマーケティングを「運用」して改善を進めていくのが特徴である。

ー「D2C=ダイレクトコマース」という売り方の手段だと捉えられがちですが、事業全体としてお客様との直接的なつながりを活かしているのがD2Cだというお話ですね。

齋藤氏:そうですね。あくまでお客様との直接的な繋がりから何が得られるかというところがポイントです。そのため販売チャネルもダイレクトコマース以外をやらないという話ではないですね。もし条件が揃えば外部のECプラットフォームや小売店舗を利用することは、市場のボリュームをとっていくためには有効だと思っています。

ーD2Cモデルのビジネスを行なっていくうえで、御社が気をつけていることは何でしょうか?

齋藤氏:基本は良い商品・サービスを作ることが大切だと考えています。商品の価値を高めていけるような開発や改善を徹底的に追求していくことで、事業の良い循環をつくることができます。そのうえでマーケティングにおいて大切にしているのは、施策のバランスです。PRや新商品の拡散、他社との協業など、非連続的に大きな成果をあげる施策である「空中戦」と、日々お客様の意見を吸い上げて行う改善により、中長期的にLTVを上げていく「地上戦」のバランスをうまくとっていくことが大切だと思います。

ーPRやバズを狙った施策は一過性のものになりがちな側面があり、それがきっかけでやってきたお客様は長続きしないのでは?と懸念される企業さんも多い印象です。マーケティングの成果という観点では、それぞれの施策の役割の違いについてどう整理されていますか?

齋藤氏:我々の「完全栄養の主食」という商品は新しいものなので、その市場を作っていくことも重要です。その点では、空中戦、地上戦どちらも必要であると思っています。

既存のお客様の満足度を上げていくことで、好意的な口コミが増えますし、市場を拡大していくための土台づくりに繋がります。その上で、他社とのコラボなど大きなスケールの取り組みを行うことで、ベースフードを知らなかった人や知っていたけど試していなかった人が、体験しやすい環境をつくれる、と考えています。

ー「市場作り」という言葉がでましたが、他の成功されているD2C企業さんをみても、自分たちの商品やサービスが市場のどの領域のものであるか、そこで比較対象となりうる商品の定義を的確に行なっている印象があります。このあたりはいかがでしょうか?

齋藤氏:自分たちのサービスが市場のどの領域にあって何と比較されるのかについては、お客様のどんな課題を解決するものなのかをベースに考えています。

日々のユーザーインタビューや口コミを見ていくことで、お客様が抱える課題や現状の対策を知ることができます。それぞれに対して自社サービスが他社より価値を提供できるポイントを考えて、自社サービスの領域を定義しています。

ーやはり、お客様を知ることは大切なんですね。

齋藤氏:はい。特に弊社のサービスは利用のされ方がとても幅広い特徴があります。例えば「タンパク質を手軽に摂るためにサラダチキンを購入していた健康志向の高い方がその代わりに利用する」、「なかなか野菜を食べてくれない小さいお子さんのために忙しいママが利用する」など、お客様の世代や生活環境、購入動機も様々です。こうした多様な購入動機や活用方法の把握にも、実際に利用されているお客様の声は効果的に活用することができます。その把握した内容をもとに、それぞれのお客様の課題に合わせたメッセージを発信することを意識しています。

ー吸い上げた顧客の声をどう活用するかについては、新規なのか、継続促進なのか、目的によって役割も変わってくると思います。この点はどのように工夫されていますか?

齋藤氏:どのフェーズで実施するコミュニケーションであるかを考えて設計しています。具体的には、購入検討中の方へは実際に吸い上げたお客様の購入理由を把握し、そこにどんな価値があるのかを伝えることを心がけています。また継続を促したいお客様へは、こんな工夫をすると続けられる、他の方はこんな理由で継続しているといった点をお伝えするようにしています。お客様がどのフェーズにいるのかを考え、その段階ごとに次のステップへ促すためのアプローチをしています。

ーフェーズごとのお客様の声を吸い上げたり、ユーザーに応じてコミュニケーションの目的を変えたりしているということでしょうか?

齋藤氏:はい。「始めて何ヶ月以内のお客様」など、フェーズごとにお客様をセグメントし、それぞれのフェーズの続けている理由や解約理由などを把握しています。各フェーズに分けてお客様の声を把握することは、適切なコミュニケーション設計においてとても大切だと考えています。

ーこうしたお客様の声は商品開発にも活用されていますか?

齋藤氏:はい。商品開発の時には、お客様の声をもとに、これは既存のお客様の購入食数を増やすためのプロジェクトなのか、新規ユーザーを増やすためのプロジェクトなのかといったように、誰に向けての商品なのかを分けて考えています。

柔軟でブレない組織作りのポイントは、意思決定の中心に「お客様の声」をおくこと

ー商品開発とマーケティングのご担当は別にいらっしゃると思うのですが、どう連携されているのでしょうか?

齋藤氏:商品を開発するときは、マーケティングチームが吸い上げたお客様の声と開発チームからのイノベーションの種を合わせ、試作品を作りながら進めています。
とにかくよい商品を作るのが一番大切だというのが全員の共通認識なので、そこに対して全員がコミットしていくことを心がけています。

ベースフード 齋藤竜太氏

齋藤氏:また、商品開発の時にお客様の声が生かされる一方で、発売後のLTVや新規のCPAなどのマーケティングのKPIについても、商品開発やサプライチェーンの担当をはじめ全員に共有しています。

ーそれは各部もそのKPIに対して責任を負っているということですか?

齋藤氏:責任はマーケティング部が負っています。ただ、例えばLTVは継続期間×1回の利益額で見ていますが、その1回の利益額は商品原価や配送費を抑えることや、おいしい新商品で月間の消費量を増やすことで、上がっていきます。LTVは部門横断的なKPIなので、各部門のKPI改善が積み重なって経営全体のKPIが改善する流れを作り、それぞれの部門が分断しないことが大切だと思います。

ーなるほど。各部が全体の事業計画にあるボトルネックに対して、商品開発や改善を通して解決しにいこうという共通認識をお持ちなんですね。しかしこうした組織作りや施策運用は難易度が高いと思う企業さんも多いかと思います。御社が組織作りで工夫していることはありますか?

齋藤氏:マーケティングの体制の話ですと、我々は新規獲得、お客様サポート、toB事業開発それぞれに担当者を置き、実際の業務は外部のパートナーさんと協力しながら横断的に進めています。この体制は各個人の守備範囲がかなり広くなりますが、その分全体を見ながら各自で意思決定できるので効率的だと考えています。

ー個人の守備範囲が広いことでスピード感がでるんですね。

齋藤氏:そうですね。例えば弊社のマーケティングチームではデジタルマーケとPRの担当者は同じです。CPAの改善を目的とした時、今はデジタルマーケティング施策を止めて、全部をPR予算に振った方がいいといった予算やリソースの配分変更についても、担当者1人で判断でき、柔軟に対応可能です。

ー個人の裁量が増えると全体の方針とのズレが生じることはないのでしょうか?

齋藤氏:取り組むべき「お客様の意見」を中心に置くことでメンバーの意見にズレが生じないようにしています。具体的には、Slackなどを活用してリアルタイムにレビューが届く、週1回お客様の声を振り返って施策の優先順位を決める、定期的な顧客インタビューでズレを修正するといったことに取り組んでいます。施策決定の中心に常にお客様の声がある状態を作り、それぞれの担当者がどの課題解決につながるかを納得して業務が行えるのが理想だと思います。

ーこの個人の責任領域を広く持たせるチーム作りは、仮に御社が今の数倍の規模に拡大しても同じような形で行なっていくイメージをお持ちですか?

齋藤氏:社内の人間は全員プロデューサー的な立ち位置で、外部のパートナーさんに協力してもらうというスタイルは続けていこうと思っています。社外の人を巻き込みながら、社内の人間は意思決定と優先順位づけをとにかく間違えないようにするという体制が、一番機敏性があって良いと考えています。 

ーありがとうございます。ポイントとしては施策の選択肢を制限しないこと、柔軟な決裁権を各個人がもっていること、そして意思決定の中心にお客様の声を置く、ということですね。

齋藤氏:はい。やはり、お客様の声がもつ力はとても強いものです。マーケティング部門ではそうした声をきちんと拾い上げて整理し、各部門に的確に伝えていくことも重要な役割だと思っています。

 

同社では、こうした顧客の声を中心においたマーケティング施策を実施するにあたりUGC(※)の活用施策を実施しています。既に広告LPへの活用施策でCVR1.24倍という成果をあげている、同社のUGC活用方法やその成果については、ぜひ以下をご覧ください。
【CVR1.24倍に向上】BASE FOODが語る、D2C型マーケティングにおけるUGCの価値とは?

(※)UGCとは
UGC(User Generated Contents)とは企業ではなく、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツのことを言います。 最近はInstagramなどSNSに投稿された写真や動画などが UGCとして注目されています。