新型コロナウイルス感染症拡大以降、人々の消費活動が急激に変化しています。それに伴い、デジタルやテクノロジーを活用し、この未曾有の危機に対応した企業とそうでない企業で、このコロナ禍以降の売上の明暗が分かれている…というニュースもよく聞かれます。
そこで今回は、人々の消費活動にどのような変化が起きているのか、また業界各社でどのようにDXを進めているのか、消費動向やEC市場の「今」を把握するデータと各社によるECやデジタル活用の新規取り組み事例をまとめました!
消費動向とEC市場の「今」が分かる6つのデータ
まずは、現在の消費動向やEC市場の「今」が分かるデータを6つご紹介します。
・楽天のショッピングEコマース領域の流通総額は、前年同月比57.5%増に(2020年4月)
楽天が発表した2020年1~3月期決算によると、同社の4月における「楽天市場」や楽天の直販EC事業を合わせたショッピングEコマース領域の流通総額は、前年同月比57.5%増になったそうです。また、同期間の国内EC流通総額は9,271億円で、前年同期比9.8%増を記録しています。
楽天グループの中でも明暗ははっきり分かれており楽天市場や電子書籍が好調な一方、楽天トラベルや楽天チケット、スポーツなどはマイナスの影響を受けています。
・米Amazonの1~3月の売上高は26%増となり、過去最高を記録
米Amazon社が発表した2020年1~3月期決算によると、同社の売上高は前年同期比26%増の754億5200万ドル(約8兆900億円)であり、売上高は1~3月期として過去最高を更新したそうです。こちらはアメリカのデータですが、日本でも同じ傾向があると言えるでしょう。
・ECでもっとも伸びているカテゴリは「ダイエット・健康」で前年同期比4.1倍(2020年4月)
Yahoo!ショッピングのレポートによると、2020年4月1日~5月10日期間で『一番伸びているカテゴリは「ダイエット、健康」で約4.0倍、その次に「本、雑誌、コミック」が約2.0倍、次いで「ゲーム、おもちゃ」が約1.7倍』だそうです。伸びが弱いカテゴリは「CD、音楽ソフト、チケット」「スポーツ」「ファッション」などが挙げられています。
また、各カテゴリにおけるアイテムごとの売上にも特徴があり、「ダイエット・健康」カテゴリでは除菌剤などの衛生用品、「ゲーム・おもちゃ」カテゴリではパズルやブロック、「コスメ・美容・ヘアケア」カテゴリでは詰め替え容器、「食品」カテゴリではその他洋酒など、巣ごもり消費関連アイテムの伸びが顕著であることが分かります。
・EC化の波は高年齢層に顕著
三井住友カードのレポートによると、「ECモール・通販」のシェアにおいて、日常的にECモール・通販を利用しているとされる20~30代よりも、高年齢層における増加幅が大きい結果となったそうです。高年齢層も、コロナを機に実店舗からECへの購買にシフトしていることが分かります。
・コロナ後も、日用品や飲食の宅配、食材などはネット調達継続を希望
株式会社ヴァリュースが行った調査によると、新型コロナウイルスの影響後、インターネットで購入・契約したものは「日用品」11.6%、「食べ物の出前や宅配、持ち帰り」8.3%、「食材〈米・野菜・肉など〉」6.3%がトップ3に入り、外出自粛で買いに行けない生活必需品を、インターネットで購入した人が増えた様子が伺えます。
また、今回新たにインターネットで購入し始めた商品・サービスなどは、収束後もインターネットで購入・契約し続ける傾向が全体的に高くなっています。
・EC出店が加速、BASEのネットショップ開設数は100万を突破(2020年5月)
ECによる購買の需要が高まるに伴い、ネットショップ作成サービス「BASE」において新規ネットショップ開設数が急増。2020年5月にはショップ開設数が100万を突破したそうです。
各業界の「EC化」「デジタル化」取り組み事例
このように、新型コロナウイルス感染症により、人々の消費活動は大きく変化しました。従来、実店舗や対面販売を中心としたビジネスを行ってきた企業も、これからは大きくデジタル化に舵を切ることが必須の状況になっています。
ここからは、各業界における「EC化」や「デジタル化」の取り組み一例をご紹介します。
<飲食業界>
新型コロナによる影響が直撃した飲食業界。実店舗での飲食サービス提供や、実店舗への卸業をメインとしていた企業も、「EC」への取り組みをスタートしています。
・「俺のEC」開設
「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」などの飲食店を展開している俺の株式会社は、4月15日に俺のシリーズ初の公式ECサイト「俺のEC」を開設しました。「俺のBakery&Cafe 松屋銀座裏」で大好評な「クロワッサン食パン」を販売しています。
・串カツ田中、オイシックスにて串カツ10本セットの販売を開始
株式会社串カツ田中ホールディングスは、オイシックスの販売サイトにて、同社初となるECによる販売を開始しました。
オイシックスは飲食店のEC化を支援しており、「Oisix おうちレストラン」のページでは、他にも、1日2組限定のイタリアンレストラン「Cucina Giannni」のバスクチーズケーキや、「塚田農場」のしゃぶしゃぶセットを販売しています。
・チョコレートのMinimal EC用商品開発やサイト改善などを実行し、5月売上が昨対比超
“Bean to Bar Chocolate”専門店のMinimalは、2月後半~3月の本来なら繁忙期にコロナにより大打撃を受けるも、3月半ばにはECに注力することを決意。そこから、ECで売れる商品の開発やEC発送オペレーションの最適化、ECサイトの最適化、送料無料対応などさまざまな施策を実行することにより、5月の売上が昨年同月対比を超えたそうです。
・卸業メイン/オリジナルクラフトビール販売の「京都醸造」、3月からECサイトを開始
「95%の売上を卸業として樽販売で成立していた京都醸造は、レストランなどの相次ぐ休業などで大打撃を受け、3月からECサイトをShopifyで立ち上げた」そうです。「今後は自社酒場やビールフェスティバルでのみ提供していたグッズの販売や、サブスクサービスでの販売形式も導入する予定」とのこと。
<食品・日用品業界>
新型コロナにより需要が急増した食品・日用品関連商品。シニア層も含め多くの消費者がネットでの買い物をスタート、各社は対応を急いでいます。
・クックパッド 生鮮食品EC「クックパッドマート」宅配サービスをスタート
クックパッドマートは、従来からの「自宅外の指定場所での受け取り」に加えて、自宅への配送サービスもスタートしました。また、新型コロナウイルス感染症の影響により中止・延期となった食イベントのオンライン開催をサポートする「#おうちで楽しもう」マルシェを、「クックパッドマート」アプリ内にて毎週開催しています。
・Amazon×ライフ 生鮮食品オンライン販売・配送サービスのエリアを拡大
昨年9月より東京の一部で開始し、Amazonプライム会員より好評を得ていた「ライフで取り扱っている生鮮食品や惣菜をオンラインで販売・配送」するAmazon×ライフの取り組み。コロナによる需要の急速な拡大にあわせて4月11日より対象地域を拡大、今後も順次対象地域を拡げていくそうです。
・イオン「新型コロナ後」に備え、オンラインへのシフト加速へ
イオンはコロナを経て、オンラインへのシフトも加速すると想定しています。同社社長は「利用頻度が増えるだけでなく、外出しづらい中でオンラインの便利さを新たに知る人も増えているはずだ。グループでは、オカド(イギリスのネットスーパー)と提携してネットスーパーの強化に取り組んでいるが、それがスタートするまでにもネットスーパーの強化を進めていく」と話しています。
<コスメ・美容業界>
従来、実店舗で美容部員が行ってきた対面販売によるサービスをオンライン化するなど、コスメ・美容業界でもデジタル化が進んでいます。
・オルビス、自社ECサイトでスタッフによる有人チャットサービス開始
オルビスは、自社EC内に有人チャットサービスを導入、ビューティアドバイザーによる「有人チャットサービス」を期間限定でスタートさせました。オンライン上での心地よい買い物体験をテーマに、ビューティーアドバイザーによるアドバイスなどを開始しています。
・コーセー 現役美容部員がSNS上に投稿したメイク画像や商品紹介画像の掲載をスタート
コーセーは、総合美容情報サイト「Maison KOSE(メゾンコーセー)」において、店頭に立つ現役美容部員がソーシャルメディア上に投稿したメイク画像や商品紹介画像の掲載をスタートしました。現役美容部員と顧客との継続的なコミュニケーションが期待されています。
<ファッション・雑貨業界>
実店舗で実際に試してから購入ができないハードルを乗り越えるための工夫や、店舗営業縮小による利便性や売上の減少を新たにECモールに出店することで補おうとする動きが見られます。
・ファッション各社 ライブコマースを通じたオンライン接客・販売を開始。ライブコマースをまとめたサイト+EC連動も。
ファッションアパレル各社が、ライブコマースを通じたオンライン接客・販売に乗り出しています。ビームスやシップス、ベイクルーズは、店舗スタッフによるライブコマースを実施。アダストリアはライブ配信した動画をまとめたサイトを開設しました。
アダストリアが新たに開始したサイト「.st CAHNNEL」では、アダストリアグループの20以上のブランドや、約1,500名のショップスタッフが発信する商品・スタイリング・ライフスタイルなどを紹介する動画をまとめて閲覧できるそう。WEBストアの商品ページと連動しており、動画を見ながら買い物が楽しめるようになっています。
・今治タオルの IKEUCHI ORGANIC、オンラインzoomストアをオープン
今治タオルの IKEUCHI ORGANICでは、休業中の店舗スタッフ(タオルソムリエ)がオンラインで接客、購⼊後のアフターフォローまで全てオンラインで完結するサービスを開始しました。
同社は、「店舗が休業してしまうと店舗スタッフは自宅待機になってしまいますが、店頭でもオンラインでも、お客様の求める商品を会話しながらお選びする事は同じです。接客のあり方もオンラインを取り入れる事で、店頭スタッフの新しい働き方、お客様との新しい関係性の作り方を構築していきます」と述べています。
・「無印良品」Amazon、楽天市場での販売をスタート
これまで、商品の成り立ちや意味、素材の背景を伝えるため、自社店舗と自社ECでの販売をメインにしていた無印良品は、新型コロナウイルスによる店舗の営業時間縮小などを受け、Amazonおよび楽天市場での販売をスタートしました。同社は、これによりお客様への利便性向上を目指したいとしています。
・ライトオン、EC強化のため「ZOZOTOWN」に再出店、三井ショッピングパークの「&mall」にも出店へ
ライトオンは、EC事業の販路を拡大するため、2019年4月に撤退していた「ZOZOTOWN」に2020年4月より再出店、「&mall」にも出店しました。
同社は「実店舗を超える過度なセール訴求」の運用や、低収益性を理由に外部のECモールへの出店を縮小、自社ECを成長戦略の中核と位置付けてきましたが、EC事業を拡大するため、今後はECモールにおける問題点の解消を図りながら再出店を進めていくそうです。
<百貨店業界>
百貨店業界はデジタルへの投資を強化するとともに、リアル店舗の役割を見直す動きが見られます。
・伊勢丹、EC強化に伴い施設の一部をECサイト撮影の「イセタンスタジオ」として稼働、販売員と1to1でつながる仕組みも
三越伊勢丹ホールディングスは2020年春にECサイトを刷新、ECの商品数を約3倍となる20万種類に増やす方針で、旗艦店などで取り扱う化粧品や衣料品など、すべての商品を取り扱えるように整備しています。
また、商品情報の一元化やECサイトの拡充に向け、伊勢丹新宿店に隣接するパークシティイセタンの1、2階を改装し、商品をECサイトに掲載するための撮影、採寸、原稿書き作業用の施設「イセタンスタジオ」として稼働しているとのこと。
2020年5月時点で、イセタンスタジオには約120人のスタッフが常駐し、商品情報の整備に尽力しているそう。
また、自宅にいても、オンラインチャット相談やzoomで販売員と1to1で繋がれる仕組みや、リアル店舗での買い物がより安心・安全に行える「事前接客予約」など、買い物の不安を解消する「シームレスサービス」の提供を開始しています。
<フィットネス・スポーツ業界>
フィットネス・スポーツ業界には、ECやアプリを強化したり、顧客とのデジタル上でのコミュニケーションを重視したりなどの新しい動きが見られます。
・東急スポーツオアシス 通販部門や自社アプリを強化
国内約40か所でスポーツジムを運営する東急スポーツオアシスは、新型コロナウイルスにより店舗での売上が一時的に実質ゼロとなることを余儀なくされる中、通販事業に力を入れ始めました。「東急スポーツオアシスにおける通販部門の売上高は全体の10%程度。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、3月以降は(2020年2月実績と比べ)売り上げが倍になっている」そうです。また、自宅でできるフィットネス方法を指南するアプリ「WEBGYM」を強化、「今後はライブ配信や、自社製品を活用したフィットネス情報の発信を強化」していくそう。
・YONEX 情報発信型ECサイトをオープン
ヨネックス株式会社は、4月1日より情報発信型ECサイト「YONEX公式ONLINE SHOP」をオープンしました。同社は以前よりスポーツ店やAmazonなどECを通じて販売をしていましたが、今後は自社ECサイトにてより自社の魅力を伝える情報発信をしていくそうです。また、顧客からの意見や要望をキャッチし、今後の製品開発にも活かしていくとのことです。
<旅行・ホテル業界>
新型コロナによる影響が直撃した旅行・ホテル業界もデジタルを活用して新たな岐路を探っています。
・トリップアドバイザーやエイチ・アイ・エスがバーチャル体験ツアーを提供
旅行会社のトリップアドバイザーやエイチ・アイ・エスは、オンラインでのバーチャル体験ツアーを提供しています。
エイチ・アイ・エスは、「いつかまた、自由に旅ができる日まで!HIS #ふたたび美しい世界へ 特別企画」と称し、「行った気になる観光セミナー|世界遺産イグアスフォールズ!」や「オンライン飲み会でNYを楽しもう!バーチャルクラフトビールツアー」など複数のバーチャルツアーを開催中。無料~10ドル程度で参加できるものをメインにさまざまなラインナップを揃えています。
・Airbnb、世界各地のホストが企画するオンライン体験プログラムを提供開始
Airbnbは、世界各地のホストが企画するオンライン体験プログラムの提供をスタートしました。これにより、バーチャル旅行を楽しむことができる機会を提供すると同時に、ホスティングを収入源としていた人たちが継続的な収入を得る機会の提供を目指しています。
「僧侶と一緒に瞑想」、「チェルノブイリに生きる犬たちとのふれあい」、「モロッコ人家族によるクッキング教室」など世界各地のユニークな体験が提供されているほか、日本からも「サステナブル料理人が教える、美味しいお魚の深い世界」「料亭の総料理長と本格的な京料理」などの体験プログラムが提供されています。
<不動産・住宅業界>
不動産業界でも、バーチャルで内見から契約まで完結するサービスや、無人モデルハウスなどが登場しています。
・クラスコ 非対面でお部屋探し、賃貸契約、入居まですべて可能な「非対面賃貸」を開始
不動産会社のクラスコは、賃貸仲介の窓口において、Web接客やバーチャル内見などを用い非対面で契約まですべて可能な「非対面賃貸」のサービスを開始しました。
Webから申し込み、店舗に鍵を取りに行くだけで自分だけで物件の内見に行くことができるセルフ内見「じぶんで内見」や、対面ではなくインターネットを通じて実施する契約前重要事項説明、書類手続きも全てオンライン化することで、完全なデジタル化を実現しているそうです。
・アキュラホーム 無人モデルハウス「ミライモデル」をスタート
木造注文住宅を手掛けるアキュラホームは、AIやIoT、ロボット技術を取り入れたトータルリモートシステムによって運営される無人モデルハウス「ミライモデル」を、4月29日(水)から全国17ヵ所でスタートしました。自宅から専用タブレットにより遠隔操作できる「ゴーカンナ君」を通じてリアルタイムでモデルハウスを自由に見学することができるそうです。
まとめ
新型コロナによる消費活動の急激な変化に伴い、各業界が生き残りをかけて急速にデジタル化を進めています。今回ご紹介した事例はほんの一部ですが、各社とも「自社のあり方」を改めて見つめ直し、今後の変化した世の中で「どうあるべきか」を探っていることが分かります。
アライドアーキテクツが支援している企業様でも、手探りな状況の中、EC化・デジタル化への注力を強める話は多く聞かれます。
自社EC及びAmazonでの販売の注力を行っていくという企業の担当者は、「新しいチャネルで、販売の基礎知識のない状態でスタートしたため、今までのオフラインでの経験があまり通用せず苦労しています。コロナウイルスの影響によって、ブランドとお客様のタッチポイントとしてのECの役割は更に大きくなると同時に各ECモールでの買い場の整備が非常に大切になると考えています。これからもより多くの方に弊社商品に接してもらい、オフラインでもブランドのストーリーを表現し、ファンの獲得を継続していきたいです」とコメントを寄せています。
「アフターコロナにそのままもとの世界に戻ることはない、世界は大きく進化している」-そんな前提を持ち、手探りでも粘り強く新たな方法を探し続けていくことが求められるのではないでしょうか。